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HRカンファレンストップ > イベントレポート一覧 > 日本の人事部「HRカンファレンス2017-秋-」  > 特別セッション [SS-2] 人材不足を乗り切る「これからの中小企業経営」

人材不足を乗り切る「これからの中小企業経営」

  • 安藤 至大氏(日本大学総合科学研究所 准教授)
東京特別セッション [SS-2]2018.01.26 掲載
講演写真

有効求人倍率が上昇し、中小企業の人材不足が深刻化している。その影響は大きく、商品・サービスの品質低下や売上減少など、さまざまな問題が浮上している。このような状況下、将来に対して強い危機感を感じている経営者、人事担当者は多い。そこで本セッションでは、雇用問題の専門家である日本大学・安藤至大氏が登壇。人材不足の背景や今後の展望について解説した上で、参加者との質疑応答・ディスカッションを通して、今後の中小企業が取るべき対策について考えた。

プロフィール
安藤 至大氏( 日本大学総合科学研究所 准教授)
安藤 至大 プロフィール写真

(あんどう むねとも)1998年法政大学経済学部卒業。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授などを経て、現在は日本大学総合科学研究所准教授。専門は、契約理論、労働経済学、法と経済学。新聞・雑誌への寄稿(日本経済新聞「経済教室」欄など)のほか、著書には『ミクロ経済学の第一歩』(有斐閣・2013年)『働き方の教科書』(ちくま新書・2015年)がある。また、NHK(Eテレ)の経済学番組「オイコノミア」の講師として活躍するなど、雇用問題に関する分かりやすい解説には定評がある。


日本的雇用慣行とは

日本的雇用慣行の特徴として、J・アベグレンは『日本の雇用』(1958年)の中で、「定年までの長期雇用慣行」「年功賃金」「企業別労働組合」の三つを挙げている。これらが成立した歴史的背景には、「長期的な経済成長による人手不足」と「労働者が対応できる程度の技術進歩」があったという事実から、安藤氏は論点を進めた。

「日本的雇用は、高度経済成長期における大変な人手不足に起因しています。当時“金の卵”と呼ばれた、地方の中学卒・高校卒の人たちを、東京など仕事の多くある大都市圏に大勢連れてきました。まっさらの状態のままで連れてくるので、採用後は社内で教育訓練を施し、配置・異動を行ったのです。このように内部労働市場を通じた“適材適所”の実現が、人材育成の一つのルートとして出来上がっていきました。

せっかく採用した人材を同業他社に引き抜かれたり、辞められたりすると、企業にとって大きな損失になります。そこで、年功賃金などによる人材の引き止め策を行う必要がありました。年功賃金には、賃金の後払いの要素があります。労働者は途中で辞めてしまうと、会社に預けておいたものを返してもらえないことになるので、明らかな損失。そのため、年功賃金が人材の引き止め策として大きく機能しました。退職金制度も同様です」

このような状況を受け、長期的な雇用慣行、年功賃金、企業別労働組合が誕生した。外部労働市場が発達することなく、企業特殊的な人的資本が蓄積されていくなど、図1が示すように、日本企業の雇用のあり方や制度は相互に依存し合いながら、全てが有機的に絡み合っていたのである。

図1:日本型雇用の相互依存関係

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このような日本的雇用慣行は、1980年代までは非常に評判が良かった。「ジャパン・アズ・ナンバー1」ともてはやされ、海外でも多くの企業が日本企業のやり方をまねた。しかし、バブル経済が崩壊してから、状況は一転。ただし、日本的雇用慣行が全くダメ、ということではない。今でもベンチャー企業などは、規模が大きくなると新卒採用を始め、年功的な賃金を導入している。一定の合理性があるからこそ、日本的雇用慣行は続いてきたのだ。では、再び人手不足となってきた2010年代後半、これまでのような日本的雇用慣行は通用するのだろうか。安藤氏は、「いいとこ取りはできない」と強調する

「良いところもあれば、悪いところもあります。例えば、日本では今、長時間労働が問題となっています。この状況に対して、日本企業はとても悪い働き方をしている、という意見もあります。しかし、そこには誤解があります。解雇が抑制的で雇用保障が強いことと長時間労働は、ワンセットとなっているからです」

実際、日本の高度経済成長期は、景気が右肩上がりでも、波があった。景気の良い時に人をたくさん採用すると、景気が悪くなった時に解雇せざるを得ない。そこで、景気が一番悪い時に多くの人が8時間労働になるように設定しておき、景気が良くなったら残業で対処する。そうすることで、景気が悪くなっても雇用を守ることができる。日本では、このようなことが慣行として行われてきた。

「長時間労働も解雇も嫌だ、というのは無理な話です。アメリカや欧州に行くと、契約によって労働時間は決まっていますが、仕事がなくなった場合は解雇されます。日本では、景気のアップダウンに人数の増減ではなく、労働時間の増減で対応してきました。このように雇用慣行や人事制度には、正と負の両方の側面があることに留意しながら、今日の議論を進めていきたいと思います」

日本的雇用が直面している課題

これまでの日本的な働き方は大きな問題を抱えている、という意見があるが、その理由として「不安定な非正規社員の増加」を挙げる人は多い。ただし、「非正規社員の人たち全員がかわいそうと考えるのは誤解である」と、安藤氏は言う。政府の調査によると、不本意型の労働者、つまり本当は正社員の仕事があれば就きたいが仕事が見つからないなどの理由で、不本意ながら非正規社員で働いている人は、約18%。ちなみに、昨年から5年計画で始まった非正規社員の待遇改善、正社員化の公約の中では、今後の5年間で不本意型の非正規社員の割合を10%まで減らす、としている。

「安定した仕事が欲しいと願う人たちに対応することは、政府にとって大事な取り組みです。しかし、正社員だったら幸せなのかというと、必ずしもそうとは限りません。このことが、雇用に関する問題を難しくしています」

雇用が安定している大企業の正社員を想定した場合、多くは働き方の自由度が低い。辞令によって別の仕事に就かなくてはならないことや、別の支店や事業所へ異動しなくてはならないこともある。また、就業規則により、原則として労働者は残業の要求を断れないのが一般的だ。また、中小企業の場合は正社員といっても、雇用保障は大企業ほど強くない。このような実態を考えると、正社員だから幸せ、とは必ずしも言えない。

「正社員と非正規社員の両方に問題がある、という現状を踏まえて、これからの働き方を考えなくてはいけません」

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「少子高齢化による人口減少」と「技術進歩による技術的失業」が課題

安藤氏は、これからの雇用環境の変化の要因について、「少子高齢化による人口減少」と「技術進歩による技術的失業」の二つを挙げる。

「日本では少子高齢化がどんどんと進んでいて、総人口は2009年をピークに減少に転じています。直近の2015年に行われた国勢調査によると、日本の総人口は1億2709万人。政府の外郭団体である国立社会保障・人口問題研究所の中位推移を見ると、2053年には1億人を割り、2065年には8808万人にまで減少します」

特に問題視されているのは、15歳から64歳の「生産年齢人口」の割合が大幅に減少すること。その結果、深刻な労働力不足が起きる可能性が非常に高いからだ。また、人口減少は地域によって異なる。例えば、関東圏を見た場合、湾岸地域など利便性の高い地域は人口が増えるが、山間部などでは人口が減っていく。今まで以上に、地理的な選択と集中が起こることが予測されるのだ。

「人口減少によって、会社や店舗をどこに構えるか、働く人はどこに住めば便利なのか、といったことも大きく変わっていくでしょう。このような変化をよく理解した上で、今後のビジネスを考えていかなければなりません」

変化の要因の二つ目は、技術進歩による技術的失業だ。もちろん、これまでも技術進歩はいろいろとあった。古くは印刷機や自動織機、自動車、自動券売機、自動改札、最近ではスマートフォンなどだ。

「これまでは変化のスピードが穏やかだったので、人々には時間的な余裕があり、問題は少なかったのです。経験者は従来の仕事を続け、若者が新しい仕事に取り組むことも可能でした。しかし、最近の技術進歩はスピードが速く、特定の仕事が短期間で失われることが増えています。そして今後は、自動運転自動車や自動翻訳、AIによる判断支援などが大きな影響を与えるでしょう。このような技術進歩によって、ドライバーや通訳、外国語の教員などの仕事が減少していくことが予想されます」

人手不足の分野に仕事を失った人が移動すればいいのではないか、とも考えられるが、考慮しなければならないのが、ミスマッチの問題だ。まず、スキルのミスマッチがある。「このような仕事をしたい」「こんな仕事ならできる」という労働者がいる一方、技術的進歩が格段と進んだ現在、企業との間で、求められるスキルが一致しないこともあるのだ。また、働く場所など、地域のミスマッチの問題もある。

「つまり、働く人のさまざまな希望と合わなければ、人は採れないのです。この辺りの問題が政府の中でも共通認識となってきたため、働き方改革の議論が急浮上してきたのです」と、政府の雇用労働分野で委員などを努める安藤氏は、働き方改革推進の背景を語った。

最近の「働き方改革」の動き

続いて安藤氏は、「働き方改革」に関する動向と課題を語った。周知のように、2017年3月に「働き方改革実行計画」の11項目が示された。数多く挙げられた課題について、安藤氏はそのポイントを図2のように整理する。

「この中で『同一労働同一賃金』だけ、毛色が違います。そもそもの目的は、非正規労働者の処遇改善です。これまで正社員への優遇措置が取られてきましたが、最近は非正規労働者が家計を支える労働者であるケースが増えてきました。それによる格差問題を解消するには、非正規労働者の処遇改善が必要です。一方で、『労働時間の上限規制』は、生産年齢人口が減っていく中で、健康被害で貴重な人材を使いつぶすことのないようにするための対策と言えます。また、『柔軟な働き方、女性・若者の活躍支援、病気と仕事の両立』は、人口減少を前提として、働ける人の母集団を増やそうとするためのもの。『賃上げと生産性向上』は、これからは少ない人材で商品・サービスを作らなくてはならない時代にあって、一人当たりの生産性を上げていく必要があるからです。そして、『転職再就職支援、教育環境整備』は、社会的な適材適所を実現し、人材育成のために、転職や再就職の支援、教育訓練などが必要となることが背景にあります」

図2:「実行計画」11項目を整理

  • 同一労働同一賃金 → 非正規の処遇改善
  • 労働時間の上限規制 → 働き手を減らさない
  • 柔軟な働き方、女性・若者の活躍支援、病気と仕事の両立 → 働き手を増やす
  • 賃上げと生産性向上 → 一人当たりの生産性向上
  • 転職再就職支援、教育環境整備 → 適材適所の実現と人材育成

これらの実行計画は、「同一賃金同一労働」を除くと、前述した人手不足、技術的失業に向けての対策だ。方向性は間違ってはいないものの、これで十分とは言えないだろう。多くの労働者が抱えているさまざまな不安を解消する内容にはなっていないからだ。

例えば、これからは労働移動が活発になる。仕事内容を変える、会社を変える、地域を変えるなど、いろいろな変化が待ち受けている。その中には前向きな労働移動もあるし、後ろ向きの労働移動もあるだろう。また、働き方改革が進むと、これまで日本的雇用の特徴だった人に賃金が付く職能給的な働き方から、仕事内容が明確に定義され賃金が決まるグローバルスタンダードの職務給的な働き方が増えていくことになる。

「そうすると、未経験者や以前の仕事を辞めて新たな仕事に就こうとする中途採用者を、企業が主体的に育てて行くことが難しくなります。働く人にとっては、これからどこで仕事を覚えていけばいいのか、という新たな課題が生じます」

このような労働者側の不安がある中、必要な取り組みとは何だろうか。社会全体の視点から言うと、労使のマッチングを実現・支援することが求められる。例えば、企業による直接的な採用への投資だけでなく、雇用仲介業者の活用などが考えられる。また今後、労働者には主体的に自分のキャリアを考え、取り組むことも求められるだろう。しかし、多くの人にとってはハードルが高いので、公的機関や人材ビジネス、大学、労働組合などによるサポートが重要だ。

「人手不足が深刻化する時代にあって、自社に必要な人材を採用することができるのか。長期雇用を約束できない時代の中で、労働者をどのようにしてつなぎとめるのか。今後は法改正が進み、多様な労働者を抱えることになるだけに、人事管理はより複雑・煩雑となっていくことを企業は認識しなければなりません」

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過去には、長く「買い手市場」の時代が続き、能力も意欲も高い人材を採用することができた。しかし、これからは「売り手市場」の時代が続く。ここでは、多様な雇用形態の労働者で仕事をこなすことが求められる。

「職務限定、勤務地限定、残業不可・上限ありなど、さまざまなタイプの働き手を自社組織に抱え、働きやすい職場、納得感のある職場を実現していかなければなりません」

働きやすい環境を実現するために求められる取り組みとして、例えばICTの活用が挙げられる。オフィス内だけでなく、労働者の都合や状況に応じて、どこでも仕事ができるような環境を実現するのだ。その延長線上で、テレワークを実施すれば、通勤時間が不要となり、遠隔地の人材も活用できる。育児や介護による離職を防ぎ、現場とのコミュニケーションを維持することが可能だろう。

「そのためには、社内文化の改革が不可欠です。それができないと、働きやすい環境はなかなか実現できません。例えば、男性社員の育児休暇取得に対して、懸念を示す上司がいる職場は問題です。これから上司は、多様な部下を適切にマネジメントしていかなくてはなりません。多様な部下に対して、納得感のある評価と処遇を行う必要があります。それが許容できなければ、優秀な人材がどんどん辞めてしまうことになります。多様な働き方を許容できない上司には、ラインから外れてもらう必要性も出てくるのではないでしょうか」

中小企業における採用と離職抑制のあり方とは

ここまでは、全ての企業に共通する話だったが、ここからは中小企業に的を絞って話が進められた。

「まずは、中小企業における人材獲得の問題。人手不足が深刻化する中、著名企業や大企業でも、人材獲得のための取り組みを積極的に進めています。一方、新卒採用、中途採用の両面で、中小企業は不利な側面があります。なぜなら、中小企業は待遇面、また企業の存続可能性の面で、労働者から選ばれにくい存在だからです。採用したい人材を獲得できない、在籍者の離職抑制ができず優秀な人から転職してしまう、という現実があります。さらに近年は後継者不足で廃業に迫られる中小企業が増えており、人材不足が非常に深刻な問題となっています」

では、どうすれば中小企業が人材を獲得できるようになるのか。まず、「職場としての中小企業の“特性”を考えること」と、安藤氏は断言する。例えば、大企業よりも働き方の自由度を売りにすることなどは、十分に可能だろう。こうした自社独自となる“売り”を考えていくことが大切だと、安藤氏は言う。

「日本の大企業は男性社員を中心に、どんな仕事でもやる、どこでも勤務する、何時まででも働く、という労働者が数多く存在します。一方、中小企業の場合、例えば事業所が1ヵ所なら転勤する必要はありません。また、仕事内容もある程度までは明確化できるでしょう。大企業と処遇面で直接勝負して勝てない中小企業でも、対抗するための手段はあるのです」

では具体的に、中小企業ができることとは何か。それは、多様な働き方への理解と対応だ。それらをできるところから前倒しにして、進めていく必要があるだろう。例えば、モチベーションを維持するため、どのように金銭的報酬、非金銭的報酬(現物支給、賞賛など)を与えるか。特に、賃金や処遇のルールについては、見直しが必要だ。2017年9月に公表された「パートタイム労働者総合実態調査」(厚生労働省/2016年)によると、職務が正社員と同じパートがいる事業所は15.7%、かつ人事異動の有無や範囲も同じである事業所は3.2%となっている。また、このような状況下、業務内容および責任の程度が同じで正社員よりも賃金が低いことに納得していないパートタイマーは、33.8%存在している。それにもかかわらず、今後もパートで働きたい、という人が72.0%にも達している。

また、「一般職女性の意識とコース別雇用管理の課題に関する調査研究」(21世紀職業財団/2017年度)を見ると、一般職が総合職の人から重要性の高い仕事を引き継いでいる、または引き継いだことがあるが46.3%と半数近く存在する。しかし、職務の範囲が明確に分かれていないが64.2%と三人に二人近くに達している。この結果を見ると、一般職女性の不満がかなり溜まっていることが分かる。中小企業ではこの人たちを、いかにつなぎとめていくかを考えなければいけない。

「雇用形態の多様化が進む中、近年、賃金や処遇のバランスが取れていないため、裁判に持ち込まれるケースが急増しています。さらに、同一労働同一賃金の問題がこれから問われることになります。この法律案が成立すれば、さらに訴訟が増えていくことになるでしょう。」

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安藤氏は、法改正の動向を以下のようにまとめた。

「要は、均等・均衡待遇と正規と非正規の待遇格差に対する説明責任が企業に求められる、ということです。正規労働者と非正規労働者の格差がなければ問題ありません。格差がある場合、合理的なものであれば問題ありませんが、説明責任が生じます。一方、合理的な理由がない場合は、均等・均衡待遇が求められることになります。また、今回の同一賃金同一労働の場合、求められているのは労働条件決定の合理化と明確化であり、それに対する説明と納得が必要であることが、大きなポイントです」

では実際、人手不足に直面した時に、企業や人事には何ができるのか。

「好条件を提示して、経験者を雇うことができればそれに越したことありません。しかし、それが難しい場合は、未経験者を育てる、女性や高齢者を活用する、仕事の一部を機械に任せる、仕事の一部を外国人労働者に任せるなど、さまざまな取り組みが必要です」

その他で重要な視点となるのが、先回りして人材の確保に取り組むこと。人材不足が表面化してからでは、有効な手立てを打てないからだ。例えば、教育訓練によって既存社員を異なる分野で活用する、といったことが必要となる。

「その際、モチベーションの維持を図り、一人当たりの生産性を上げることが肝心です。また、辞められたら困る人に対しては、リテンション策を検討することです。場合によっては、労働者の多い地域への移動も検討することを視野に入れたほうがいいかもしれません」

労働者確保の「未来像」を考える

ここで安藤氏は、口コミによる採用の効果を謳った論文を紹介した。求人サイトやヘッドハンティングなど、いろいろな入職経路を比較したとき、どういう形で入社した人が最も長く働き、頑張って働いているかを見たものである。分かったのは、社員からの紹介が一番パフォーマンスが良く、口コミ(コネ)による採用がベストである、という事実だ。紹介する側・される側とも、相手の事情・立場・面子などをよく考えた上で採用(就職)しているため、当然のことだろう。

「口コミ採用の効果・効用を考えると、これからの人手不足の時代は、主婦や高齢者の活用を進めていくべきではないでしょうか。良い人材の採用には口コミとネットワークが必要なので、カギを握る人を見つけて、友人や知人に声をかけてもらうのです。特に中小企業にとっては、大事なポイントと言えそうです。というのも、優秀な人を先におさえた企業が、その周囲の人材も手に入れることができるからです。また、キーパーソンとなる主婦や高齢者に、トレーニング役を担ってもらうことも可能でしょう」

労働者の要求や不満を汲み取ることも忘れてはならない。要求や不満を言ってくれるうちは、まだいい。要求や文句を言わなくなったら、既に退職を決めていることが多いからだ。また、組織のマネジメントを司る中間管理職の問題も見逃せない。「自分の時代はこうだった」と、自分のやり方を押し通す管理職には、これからはラインからは外れてもらうことも必要になる。これから人事には、部下をつぶすダメな上司を見抜く眼力も求められるだろう。

今後は社内はもちろん、業界やインターネット上の評判をいかに良好に維持するか、も大きなカギとなる。あの会社はブラック企業だと思われたら、人を採用できなくなるからだ。

「人手不足と技術的失業が共存する時代に、中小企業に必要なものは何でしょうか。採用と離職抑制がカギを握ること。そして、そのための自社に合った具体的な施策を考えることが、今、中小企業の経営者と人事部に求められています」

講演後は、参加者との質疑応答やディスカッションが行われた。ここでは、その内容の一部を紹介する。

Q:地方の中小企業で、優秀な人材の採用に成功している事例にはどのようなものがありますか。

例えば中部地方に、小型建設機械を世界中に輸出しているトップ企業があります。当初は、採用に大変苦しんでいました。県内に大学が少ないため、優秀な人材が流出してしまっていたのです。そこで、まず高齢者を対象に雇用契約を継続してもらうため、多様な働き方を許容することにしました。「週1日勤務」でも働き続けてもらうのです。それを見ている他の社員が「会社は、社員をとても大切にしてくれている」と感じたたら、辞めにくくなるでしょう。また学校へと出向き、人を大切にする社風を紹介し、若い人に直接声をかけました。このように地道な活動を行うことで、採用と人材の維持に成功しています。

一般的に地方はメーカーよりも、サービス業のほうが採用に苦労することが多いようです。そこで大切なのは、教育用のマニュアルを丁寧に作成すること。OJTと称して、先輩社員が怒鳴るような職場には、人は居つきません。とにかく、教育訓練を丁寧に行うことが大事です。その結果、人材教育に熱心な会社という評判が立ち、採用に好影響を与えた、というケースをよく聞きます。

Q:中小企業には大企業のような地名度がなく、広報活動も十分ではありません。どうやって優秀な応募者を増やせばいいのでしょうか。

中小企業が、大企業のようにお金をかけて宣伝・広告を打つのはあまり効果的ではありません。それよりもFace to Faceの場を効果的に使うほうがいいでしょう。まず、直接声を掛けて説明会に来てもらうこと。そして、「当社では何年間で何ができるようになる」「どのくらいの処遇を得ることができる」など、具体的なキャリアパスを示すこと。このような活動を地道に行うことで、応募者が納得感を得て「ここで働きたい」と思ってもらえるようにするのです。まさに中小企業だからこそできることをアピールし、応募者を増やしていくことが大切です。

Q:同一賃金同一労働が当てはまる業種・職種とそうでないところがあります。このような法的規制は今後、どうなっていくのでしょうか。

行政の流れが、実態と合っていない部分は確かにあります。そもそも日本の労働法は、工場労働者向けに作られたもの。そのため、労働時間の把握を考えると、工場労働者と研究開発や企画部門を司るホワイトカラーとでは、かなり違ったものになっています。とはいえ、過去の経緯なども踏まえ、労働法には一定の合理性があります。それをいかに現実に合致したものとしていくかが、これからの行政の課題と言えます。

例えば、働き方のルールについても、方向性は少し変わってきています。これまでのやり方ではうまくいかないことが、各種データなどで明らかとなってきたからです。そこで数年前から、政府も方針を変えていくことになりました。正規雇用・非正規雇用、有期雇用・無期雇用、派遣・パートタイム・短時間勤務など、働き方によってどのような問題があるのかを個別的に検証し、それぞれに合った形のものを実現できる方向へと舵を切っています。ま現時点ではまだ不満もあると思いますが、企業側の意見をどんどんと行政に上げていくことで、より良い形になっていくのではないでしょうか。

Q:契約社員に関して、これからどのような形での雇用形態が主流となっていくのでしょうか。

契約社員を単に無期転換するのではなく、無限定に働く正社員にする、という流れもありますが、それには労働者との合意が必要です。法改正により、契約社員から正規雇用の正社員になるといっても、職務内容や勤務時間・勤務地を限定するが無期雇用であるといった、いわゆる「限定正社員」のような形になっていくケースが多いと思います。

Q:技術革新によって、雇用にどの程度の影響が出るのでしょうか。

AIによる影響が喧伝されていますが、当面はそれほど大きく人の仕事がなくなることはない、と思います。それよりも人手不足の方が深刻な問題です。もちろん、ICTの発達によって失われていく仕事もありますが、一方でコンピュータや機械を活用する側の人の仕事は増えていきます。またコンピュータや機械が代替できない労働、例えば感情労働などが新たに創出され、そうした仕事を担う人へのニーズは増えていくでしょう。

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