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全員戦力化の時代:働き方改革の本当の目的

  • 守島 基博氏(学習院大学 経済学部経営学科 教授)
東京特大会場 [H]2017.12.26 掲載
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将来的に労働力人口が減り、人材の質が低下すれば、優秀人材にこだわる企業は必要な人材を確保できなくなる。学習院大学教授の守島氏は、この先、企業に残された人材戦略は「社員の全員戦力化しかない」と語る。人事は社員全員を対象としたタレント・マネジメントを進めながら、同時に働き方改革を行うことが要求されるのだ。今、人事に期待される真の意味での働き方改革について、守島氏が語った。

プロフィール
守島 基博氏( 学習院大学 経済学部経営学科 教授)
守島 基博 プロフィール写真

(もりしま もとひろ)人材論・人材マネジメント論専攻。1980年慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会研究科社会学専攻修士課程修了。86年米国イリノイ大学産業 労使関係研究所博士課程修了。組織行動論・人的資源論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年4月より現職。主な著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』『21世紀の“戦略型”人事部』『人事と法の対話』などがある。


労働力の減少に加え、働きがいを感じられない人材が増加

守島氏はまず、日本の人材不足の現状について解説した。

「今、日本は人材不足の時代に入っています。人手不足と人材不足とでは、意味が違います。人手不足は、労働力の数が足りないこと。人材不足は、経営上必要なことをやってくれる人がいないことです。人材の質の側面も入っています。これから先の日本の人事の最大の課題は、人材不足です」

ここで守島氏は、人材不足に関する興味深いデータを紹介した。マンパワーグループの国際比較調査によると、人材不足を経験している日本企業は2015年前半で83%。グローバルの平均は38%しかなく、日本は極端に高い結果となっている。

「なかでも目立つのが、中核的な業務を担う人材の不足です。エンジニアなどの専門性の高い人材、ミドルマネジャーなどのビジネスの根幹部分を回す人材がいないのが日本の現状です」

人材不足の背景にあるのは、少子高齢化だ。特に労働人口が減ってきている。最近「人材倒産」という言葉をよく聞くが、人がいなくなって事業が回らない、ということ。特に中小企業などで目立ってきている。

守島氏は人材の数に加え、人材の質の低下も大きな問題だと語る。もし意欲をなくした人材がいれば、それだけでも戦力低下となってしまう。人材が職場に適応しているかどうかを把握することは、思う以上に重要な問題だ。

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「キャリア採用時にみるべきは、その人の能力が最大限活用されるかどうかです。実は職場への適応のプロセスを現場任せにしている企業は多い。人事は採用者の3年後のパフォーマンスをどこまでフォローしているでしょうか」

2014年のリンクトインによる調査によれば、今の仕事にやりがいを感じている割合は、1位のインド95%に対し、日本は77%で26位だった。4分の1の人はやりがいを感じていないということであり、「これは人事としてちょっと不甲斐ない」と守島氏は言う。

実際、多くの企業で人が育ちにくくなっている。先輩の背中を見て学ぶことは難しくなった。また、OJTが機能する条件も整わなくなってきている。現場は育てているはずだと思っていても、実際は人材が育っていない。

「端的に言うと、日本企業では今、労働力が減少しているだけではなく、働きがいを感じられず、成長感もなく、仕事にコミットできない人材が増えています。単なる量的な人材不足だけではなく、人材の質的毀損による人材不足。だからこそ、これからは人材供給部門としての人事が求められます」

「適所」が先にありきの「適所適材」で人を育てる

人材が足りない時代に人事が考えなければいけないことは何か。守島氏は「全員戦力化」を掲げる。

「全員を相手とする、タレント・マネジメントを行っていくことです。ここしばらくは、タレント・マネジメントというと、選抜層・優秀層に焦点があたっていました。しかし、もはやそんな時代ではありません。貢献してくれる人とそうでない人を分けている余裕もない。組織の基本的な力となるのは、2・6・2の上の8割です。可能な限り、全社員と潜在的な外部人材を対象にしたタレント・マネジメントを行うべきでしょう」

そもそもタレント・マネジメントが成立するためには、最初に戦略があり、そのために必要な人材の要素が明確になり、その条件と供給される人材とをフィットさせることで人が選ばれていく。現在は、社員全体に対してこの作業を行わなければならない、ということだ。また、守島氏は働き方改革2.0が必要と語る。労働時間の削減や仕事の効率化が目的だった1.0から、働く人が働き方を自律的にコントロールし、自己の能力を最大限発揮できる状態となる2.0を目指さなければならない。

では全員戦力化に向けて、これからタレント・マネジメントを行うときに人事が注力すべき点とは何なのか。守島氏は三つのポイントをあげる。

一つ目は「適材適所」でなく、「適所適材」を行うことだ。「所」が先にあり、「何をやらせたいのか」「どういうビジネスを担ってほしいのか」というポジションが先に決められている状態を指す。

「そのポジションに向けて人を育てていこう、という考え方です。日本でよく行われるのは、とにかく優秀な人をまず、たくさん確保しようというやり方。そうではなく、その人に5年後に何をやってほしいかを先に考えていなければなりません」

適所を優先するうえで、もう一つ重要になるのは育成スパンを短くすることだ。戦略はどんどん変わる。その中で長期的な育成をしても追いつかない。人事がビジネスのスピードにどれだけついていこうと考えているかは重要だ。

「今の日本の育成スピードは遅すぎます。一人前になるための時間をもっと短くできないか。そうでないと適所適材はできません。もちろん短くとはいっても、そもそも採用はリスキーなものですから、育成を疎かにはできません」

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二つ目のポイントは、丁寧な人材把握を行うことだ。現場からは一人の人材について多くの情報を上げることができる。それをどこまで行うのか。

「ノーレイティングもこれに近い作業です。これまで人事が人をランク分けすることが評価でした。ノーレイティングは現場で評価を回すことによって、現場にあるリッチな情報を使い、人事管理を行おうとするものです。流行している1on1も同様です。現場からあがってくる情報を重視している。このような場面で活用できるのがHR テクノロジーです。詳細なデータ収集と現場での活用が可能。それと同時に、質的な情報は足で集めることも大切です」

三つ目のポイントは人事評価の改革だ。現場からあがる情報を、人材を区別するための評価に使うのではなく、人材の個別貢献や成長を評価し、組織として認める仕組みづくりに反映させていくことが、これからは求められる。

「自分で働き方を決めている」と思えることが働き方改革の理想形

全員戦力化を進めるうえで重要なことは、働き方改革2.0のさらなる推進だ。しかし、守島氏は「今進められる働き方改革がそれに値するものなのかは疑問」と語る。

「今、働き方改革に関する議論が盛んですが、私は本当にこれが働き方改革なのかと疑っています。その多くは『人の使い方改革』つまり『働かせ方改革』ではないのか。働く人の制限を柔軟化するもので、基本は企業側の働かせ方の話ではないのか。本来の働き方改革とは、働く人一人ひとりが可能な限り、自らの能力とニーズに合った働き方が選べて、その結果して働き手が自分の仕事と人生を主体的に創り込んでいくようになり、それが最終的に企業のためになっていくものではないでしょうか」

守島氏は、働く人たちが、自分の働き方を変えていいんだという認識を持たなければ、本当の意味での働き方改革にはなっていかないと語る。

「私は、働く人が『自分で働き方をコントロールしているんだ』という状態が、働くことの理想形だと思っています。例えば職人や大学の教員は、自分で働き方をコントロールしています。このように『自分で決めるのだ』という状態に持っていかないと、働き方改革は成立しないのではないかと思います」

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その大前提にあるのは、自律した従業員だ。ただし、これまで日本の企業が本気で働く人の自律を認めてきたかというと、そうとも言い切れない。もしかすると人事は、自律した従業員に怖さを感じるかもしれない。しかし、それでも働き方改革の第一歩は、社員を自律させることだと守島氏は語る。

そのうえで全員戦力化時代に人事がやるべきことが四つある。一つ目は、個の尊重だ。個の尊重とは、一人ひとりのニーズを受け止め、それを尊重し、可能な限りの対応をすることだ。

「これから重要になるのは、多様な働き方、そして多様なキャリアです。多様な働き方を認めることは当然重要で、既に行われ始めています。大胆な時間と場所の柔軟化を進めている企業も多い。今後必要なのは、多様なキャリアを可能にする仕組みづくりです。例えば、いったん辞めてまた戻る、といった出戻り社員を率先して認めていくことは必要だと思います」

二つ目は、人事評価の改革だ。一人ひとりに焦点あてた貢献の評価が求められる。隠れた貢献者にいかに光を当てていくかも重要。

「例えば、同僚に感謝を伝えるサンクスカードというものがあります。社内における『見られている感』をいかに演出するか。それは全員戦力化においても重要だと思います」

三つ目は仕事改革だ。特に“暗黙知化”された仕事を改革していくことは、大変重要になる。

「仕事改革の本当の主戦場は、このような当たり前の部分をいかに変えるかだと思います。暗黙知を改革していかなければいけません」

四つ目は、中間管理職の支援だ。働き方改革が本当に成功するためには、現場のマネジャーの協力がどこまで得られるかにかかっている。

「現場のマネジャーが実は一番困っているし、悩んでいます。そのため、現場のマネジャーのサポートを、もっとも考えなければなりません。彼らは改革の反対者ではないけれど、まだ推進者になっていないところがある。その点は変えていくべきです」

守島氏は、働き方改革の次のステップは、個人を大切にすることにつきる、と語る。個人とは働く人たちであり、一人ひとりの貢献やニーズを細かく見ることが重要になる。

「いずれにしても働き方改革は、全員戦力化という目的に対しての方法論でしかありません。時間短縮やリモートワークは手段であり、目的ではない。今は働きやすさだけを提供するというタイプの働き方改革になっているように思います。しかし、それではダメで、一人ひとりが会社に貢献している自覚が持てる状態をつくることで、働きがいにつながないと働き方改革は長続きしません。人事の皆さんには、全員戦力化を目指してぜひトライしてほしいと思います」

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