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「働き方改革」成功の条件 -生産性を高めるには-

  • 太田 肇氏(同志社大学 政策学部・同大学院 総合政策科学研究科 教授)
大阪基調講演 [OB]2017.12.26 掲載
講演写真

根本的な理由を見出さないままに働き方改革を進めて、本当に成功できるのか。同志社大学教授の太田氏は「日本特有の構造的なムダを解決しなければ展望はない」と語る。その突破口となれるのは、実は欧米と同環境で改革を進めている日本の中小企業だ。そこにはさまざまなヒントがある。どうすれば働き方改革を成功へと導けるのか。太田氏がそのヒントを語った。

プロフィール
太田 肇氏( 同志社大学 政策学部・同大学院 総合政策科学研究科 教授)
太田 肇 プロフィール写真

(おおた はじめ)1954年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。公務員を経験の後、滋賀大学経済学部教授などを経て2004年より同志社大学教授。専門は組織論、人的資源管理論。経営者、ビジネスマンなどを相手に講演やセミナーを精力的にこなし、マスコミでも広く発言している。著書として『承認欲求』『お金より名誉のモチベ-ション論』(以上、東洋経済新報社)、『日本人ビジネスマン「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『承認とモチベーション』(同文舘出版)、『公務員革命』(ちくま新書)、『最強のモチベーション術 人は何を考え、どう動くのか?』(日本実業出版社)、『組織を強くする人材活用戦略 』(日経文庫)、『がんばると迷惑な人』『個人を幸福にしない日本の組織』『「分化」の組織論』(以上、新潮社)などがある。


なぜ「日本のホワイトカラー」は生産性が低いのか

働き方改革を今のまま進めて果たしてよいのか。このまま進めていくとどうなるのか。太田氏はかなり悲観的な見方をしている。その問題点の一つは生産性だ。

「日本の労働生産性は、決して高いほうではありません。そのため、労働時間を短縮すると生産性も落ちて、競争力も落ちる。また、今進められている働き方改革は、本質的なところにメスが入っていない気がします。ここでのポイントは二つあります。一つは生産性を上げるために、個人の能力と意欲を最大限にあげないといけないこと。つまり、モチベーションの問題です。もう一つは、仕事そのものの効率化。言い換えると、ムダの排除です」

改革の前提として、今の日本人の働き方はどうか。日本人の労働時間は短縮が進み、米国よりも短くなったと言われる。ただし、この中には非正規社員も含まれている。非正規はパートやアルバイトもあり、労働時間が短くて当たり前。日本の場合は4割近くが非正規社員であり、女性の過半数が非正規社員だ。

「これを正社員だけに限定してみると、主要国の中で労働時間は突出して長いのが実情です。ドイツやフランスと比べると、年間で3ヵ月分ほども多く働いている。しかも、この数値はここ20年ほど変わっていません。最近は改革が進んでいますが、ここで構造から変えないと、また元に戻る懸念があります。目の前にある現実を捉えるだけではなく、背後にある仕組みに焦点をあてることが大事です」

また、日本の有給休暇の取得率は、最新のデータによると一人平均48%。これも20年ほど大きく変わっていない。一方、海外では、ほとんどの国で100%近くとなっている。

「国によっては、有給休暇を残すとかなりの高額で会社が買い取らなければいけないところもあります。また、会社が取得する時期を指定して休暇を取らせるところもあります」

次は労働生産性だ。どのデータをみても、日本の生産性は高くない。その原因は何なのか。太田氏はその一因として、職場にムダが多いことをあげる。

「日本特有の、構造的なムダに問題があると私は考えています。その一つは、よく言われる過剰なサービスです。例えば過剰な包装、コンビニの24時間営業、宅配便の再配達が多いこと。また、完璧をもとめる国民性もあると思います。その背景にあるのは、工業社会型の価値観です。その典型がいわゆるカイゼン活動。カイゼンを進めると、現在の延長線上で物事を改善しようと考える。すると、イノベーションの機会を排除する可能性があります。一段上に行こうとすれば、論理的な飛躍が必要です」

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生産性を業種で見ると、製造業や建設業は欧米と比べても遜色がない。ところが金融業、サービス業となると、米国の半分程度しかない。つまり、機械に頼れないホワイトカラーは生産性が低い、ということだ。中でも事務系ホワイトカラーの生産性が低いが、それはなぜなのか。

「一つ目の理由は、日本企業のホワイトカラーは素人集団だということです。能力が十分に活かされていない。採用も配属も専門性は関係がなく、その後も異動が繰り返される。専門性は担保されていない、ということです。いわゆる何でもできるとるゼネラリストは、裏を返すと素人集団に近い。どの世界でも今は専門性が重要視されています。また、社員は自分の専門分野を決められなければ、能力向上への意欲が湧かないこともある。キャリアへのモチベーションも低くなります」

二つ目の理由は、管理職層が分厚いこと。人が大勢いると、生産性は落ちてしまう。また、権限がそこに集まり、委譲がなかなか進まない。

「管理職による部下の管理の負担を、減らすことが重要です。管理職はより攻めの仕事を担うべきであり、細かく部下を管理するマイクロマネジメントはやめるべきです」

ムダが減らない理由は「工業社会」「非効率の目的化」「言い訳づくり」

では、海外の働き方はなぜ効率化を実現できているのか。働き方改革で見本となる国として太田氏があげたのは、ドイツだ。労働時間は日本よりも3ヵ月分も短く、生産性は日本より高い。その特徴は四つある。

「一つ目は、コンセプト、枠組みの重視です。仕事の前になぜ行うのかをきちんと説明している。そのため、大きくぶれることがなく、やり直しも少ない。二つ目は、コスト・パフォーマンスに照らした仕事の仕分け。コストに見合ったリターンがあるかと考え、それで仕事を選別している。企業としても高利益を求める体質となっています。日本と比べると仕事にいい加減な面もあるのですが、大事なところはきちんと外さない。だから問題がないのです」

三つ目は、IoTなど積極的な技術革新の導入だ。日本以上にインターネットを積極的に取り入れている。そのうえで、人は人にしかできない仕事を担当している。四つ目は、「プライベート重視」と効率化、モチベーションの向上だ。労働時間が短く、残業もほぼないため、仕事と同じくらいプライベートを重視している。この点は日本と大きく異なる。プライベートを重視しようとすると、限られた時間の中で働こうとするために効率はあがる。また、だらだら働かないことでモチベーションも向上する。

では、なぜ日本ではムダがなくならないのか。太田氏は三つの原因をあげる。

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「一つ目は、その根底にあるのは先ほども言いましたが、工業社会の成功体験が改革の足かせになっていることです。工業社会グセがついている。二つ目は、非効率の自己目的化です。早く仕事を終えると、他の人の仕事を手伝わないといけない。要領が悪くて残業が増えると、手当が増える。また、要領が悪くて人が忙しくしている部署は人が増え、効率化しているところは減らされてしまう。管理職層では、職場をサロン化しているケースも見られる。まさに非効率が自己目的化してしまっているのです」

三つ目は、コンプライアンス強化と「言い訳」づくりだ。近年、コンプライアンスが叫ばれているが、それが仕事を忙しくしていると言われる。コンプライアンスは必要だが、実はまだその手法ははっきりとわかっていない。そのため、網羅的に行われていることが増えている。もっと目的を絞って行うべきだ、と太田氏は言う。

「エクスキューズのために仕事をしている。やった、ということが目的になっている。今後は、網羅的なコンプライアンスはやめて、問題が起きそうなところに重点的に力をいれるような、一種のリスクアプローチが必要になります。さらに、どうしても不備を起こせないところは、AIやロボットなども活用すればいいと思います」

「欧米と同環境」で頑張る日本の中小企業に学べ

では効率化のカギとは何か。なぜ日本では効率化が進まないのか。その原因がどこにあるのかを考えると、プレッシャーという要因が大きいことがわかる。

「そこには内圧と外圧があります。例えば内圧では、香港では残業が多いところには優秀人材が集まらなくなっています。それにより、仕事の効率化が進められている。一方、競争圧力という外圧があると、仕事で勝つための効率化が進みます。内圧もあるので、ギリギリのところまで効率化を進めるようになる。この点が日本とは大きく違います」

最近は日本でも、宅配便の配達時間を狭めて集中させたり、コンビニの24時間営業をやめたりしている。労働市場からのプレッシャーによるものだ。プレッシャーがなければ、なかなか変わっていかない。太田氏は、ある意味でそうした外圧を積極的に利用することが、一つの戦略になると語る。

「例えば、ダイバーシティ。働き方の異なる人が集まると、職場で無駄なことが排除されていきます。ある企業では、海外の進出先にさまざまな民族の人がいて、食習慣や宗教の戒律が違うため、日本式の『みんな一緒に』というやり方が通用しなかった。そこで皆が一緒にやらないといけないことを抽出し、あとは一人ひとりに委ねるやり方をした。すると、なんとなく続いていた慣習もなくなり、生産性も上がったそうです。これも外圧あるいは異分子の導入による効率化の効果ですね。また、新規事業に進出するときも、今までのやり方が通用しなくなります。そこで無駄を排除することができる。このように意識的に環境を変えていくこと、また、外圧のあるところに入っていくことが現実的な効率化の方法の一つではないかと考えます」

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日本にも、そのような効率化の例はないのだろうか。太田氏はここで、中小企業の先進例をあげた。実は、日本の中小企業は驚くほど欧米の環境と似たところにいる、というのだ。

「共通点は共働きが多いこと、地域に根を下ろして働いていること、企業間の競争が激しいこと、労働力がなかなか集まらないこと。実は中小企業は、海外とそんなに変わらない立場にあるのです。実際、日本の中小企業は効率化のためにさまざまな取り組みを行っています」

東京のIT関連会社は、組織のフラット化を進め、最初は22人いた管理職を翌年には9人まで減らし、その後はついにゼロにした例がある。また、京都の製造会社では仕事を効率化し、現場の作業はすべてロボット化して、人間は創造的な仕事に特化。オフィスの形も八角形にし、仕事に集中できる環境を整えた。福岡にあるコンサルタント会社では、コンサルタントが専門の仕事に専念できるよう、周辺業務は別のグループに集約している。

「中小企業には、私たちが考えつくようなことをそのまま実践して、成果をあげているところが多くあります。これまでは組織にしても人事制度にしても、大企業がモデルとなって、中小企業はそれをまねしていましたが、これからは、中小企業が試みてうまくいった方策を大企業が取り入れる、という逆の流れが起きるかもしれません」

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