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売り手市場採用の若手人材をどう育成するか ~AI時代の採用と育成戦略~

  • 川上 真史氏(ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授)
東京特別セッション [SS-1]2018.02.07 掲載
講演写真

史上最高の売り手市場となった今年度の採用において、若者たちの就業意識は大きく変化している。また、現在採用している人材は、これからのAI時代、さらなるグローバル時代で仕事をしていくことが求められ、今までとは育成方法も大きく変化してくるはずだ。これからの若手を中心とした人材の意識はどうなっていて、どのように育成していけばいいのか、ビジネス・ブレークスルー大学教授の川上真史氏が、そのポイントについて語った。

プロフィール
川上 真史氏( ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授)
川上 真史 プロフィール写真

(かわかみ しんじ)京都大学 教育学部 教育心理学科卒。産業能率大学 総合研究所 研究員、ヘイ コンサルティング グループ コンサルタント、タワーズワトソン ディレクターを経て現職。主に、人材の採用、評価、育成システムについて、設計から運用、定着までのコンサルティングを担当。また、心理学的な見地からの新しい人材論についての研究、開発を行うことで、次世代の人材についての考え方も世の中に提唱する。2003年~2009年 早稲田大学 文学学術院 心理学教室 非常勤講師。現在、ボンド大学大学院 非常勤准教授、明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 兼任講師(社会心理学担当)、株式会社ヒューマネージ顧問、株式会社タイムズコア代表も兼任。


「近年の売り手市場」と「AI時代」についての問題提起

最初に川上氏が「近年の売り手市場」と「AI時代」について、問題提起を行った。

「今、若手社員のことを考えるとき、この二つが大きなキーワードとなっています。特にAIは、人材の能力のあり方を左右するため、今までとは人材戦略を変えていく必要があります。また、定年年齢が伸びる中、これから採用する人たちは50年近くも働くことになります。50年後は間違いなく、世の中が相当変化しているので、そうした点も踏まえて、採用・育成に関する考え方を新たにしていかなければなりません」

川上氏は、史上最高の「売り手市場」となった今年度の採用戦線における、いくつかの変化を挙げた。まず、大企業だけでなく、中小企業や有名ではない企業にも、学生が強い興味・関心を持っていること。就職を決める段階では、大企業や有名企業を選択することが多いが、プレエントリーの段階では、多くの学生が「中小企業や有名ではない企業にも面白い企業があるのでは」と考えている。企業名だけでなく、仕事の中身・内容に対して強い興味・関心を持っているのだ。

次に「ブラック」という言葉に対して、過剰に反応すること。例えば、学生がイメージするブラック企業の特徴は、夜遅くまで残業をしているなど、労働時間が長いこと。就職を考えている企業を夜10時に見に行き、電気がついていたらブラック企業と決めつける。たとえ大企業や有名企業でも、そういう企業は避けたいと考えている。

企業側でいうと、「ゆとり教育」による弊害のイメージが強いせいか、今の学生たちを実際より過小評価している企業が少なくない。しかし川上氏が調査した結果では、2010年の新卒者から「良い傾向」が出ていると言う。以前と比べて、良い人材が増えているのだ。

「良い傾向とは、自分の考えをしっかりと持ち、それを相手に伝えること。そういうことがしっかりとできていて、チームワークもとれる学生が増えています。そういう人たちの比率は55%で、ゆとり教育の影響を感じる人、例えば『指示待ち』『受け身的』『優柔不断』な人は45%という数字がでています。『ゆとり教育の弊害が見られる新入社員ばかりだ』と文句を言う企業がありますが、それはそもそも採用に失敗しているからです」

良い学生は偏差値に関わりなく、いろいろな大学に満遍なく点在しているという。AI時代は、偏差値や大学名に執着すると、採用に失敗することになりかねない。これから求められる人材像を明確にし、今までとは頭を切り替えて採用・教育に当たることが大切である。

IT・AIの進展で、求められる仕事内容が大きく変わってきた

これから求められる人材を提示する前に、まず川上氏は図1のように仕事の分類を行った。その上で、ITやAIが進展している近年、どのような変化が起きているのかを考察した。まず、作業的業務は、1980年代以降、オフィスオートメーションが一気に進んだことにより、その多くが機械化されている。続く情報伝達業務は、インターネットの出現によって、不要になる傾向がある。これらの仕事では、いわゆる人の「優秀さ」が重要ではなくなっている。

図1:仕事の分類とITの進化
仕事の分類 具体的な職種・仕事内容 ITによる進化
作業的業務 オペレーターなど OAなどのオートメーションにより既に多くが機械化
情報伝達業務 販売・営業など インターネットにより不要傾向に
分析・判断業務 マーケティング、管理業務など AIにより急速に人間が担当する領域ではなくなりつつある
創造的業務 研究、デザイン、クリエイティブ等 あと10年~20年くらいは人間が担当
インターパーソナル業務 カウンセリング、コンサルティング(高度な)など ずっと人間担当領域

「これまでの優秀さとは、知識・情報を持っていることであり、偏差値の高い大学を出ている、ということでした。実際、そうした優秀さが仕事の成果につながっていましたが、現在はインターネットが出現したことで、あまり重要ではなくなっています。人の中に蓄積された知識・情報は、インターネットの中にある知識・情報と比べて、桁違いに少ない。それよりも、インターネットなどを効果的に使いこなす力を持っている人の方が、成果を生み出しやすくなっています」

分析・判断業務は、優秀な人たちが組織の中で担当している仕事だ。しかし、人間の大脳にコンピュータが優る時代がすぐそこに来ている。AIの方がより速く分析し、判断するようになれば、人間が担当する領域は急速に少なくなっていく。採用などでも、分析・判断・予測(入社後活躍)に優れるAIが取って替わることになるだろう。

講演写真

では、AIが進化している中で、創造的業務はどうなっていくのか。川上氏は、あと10年~20年くらいは人間が担当するのではないか、と予想する。AIにビッグデータがどんどん入って、自ら学習し、創造的な思考ができるようになったとき、人間が行う仕事として最後に残るのがインターパーソナル業務だ。

「素晴らしいパーソナリティを持った人が、高度なカウンセリング、コンサルティングなどを業務に組み込むことで成果・効果を出してくことになるでしょう」

現在は、分析・判断業務に焦点を当て、採用しているケースが多い。しかし、今後は職種を問わず、創造的業務やパーソナル業務が人間に求められるようになるのは間違いない。

「この二つができる人を採用し、育成していくことが肝心です。ただ、悩ましいのは、採用を担当する人が創造的業務やパーソナル業務に長けていないケースが多いこと。管理職層には分析・判断業務に長けた人が多くいますが、この人たちが出世してきたのも、分析・判断業務ができたからにほかなりません」

AI進化による採用・教育業務の焦点が変化

川上氏は、AI進化による業務の焦点変化の必要性を説いた。

「先に挙げた仕事を、Input業務、Throughput業務(処理業務)、Output業務と分けると、多くの人がThroughput業務に大変な労力を割いていることがわかります。それで仕事をやった気になり、肝心のInput業務とOutput業務はおろそかになっている。これが働き方改革に取り組まなければならない、最大の理由と言えます。これからはInput業務とOutput業務にもっと労力をかけ、Throughput業務は機械化していく、という逆転の発想が必要です」

例えば、採用業務における業務の焦点変化を考えてみよう。どのテストのどんな項目の点数が高ければ、どういった成果が出やすいのかを特定し、Inputしていくこと。つまり、採用後の高業績者の特徴把握とデータの蓄積が欠かせない。次の段階がThroughputである、テストや面接など。例えばテストならAIに過去のデータを学ばせて、判断を任せた方がいい。面接の判断も、これからはAIでできるようになり、省力化がどんどん進んでいく。その上で、最後のOutputに関しては、内定後のリテンションや採用後の育成に人をあてがい、より力を入れていくことが大切だ。

これは育成業務においても、同様だ。Inputでは、まず状況ごとの高業績事例の把握とデータ蓄積を行う。その結果から、例えばThroughputでは効率的なeラーニングやSNSなどを活用し、効果の期待できない集合教育研修には労力を割かない。Outputとしては、高い効果の見込める個別コーチングやカウンセリングにもっと力を入れていく、といったことが考えられる。

AI時代に求められる能力は、まずInputとしての「科学的能力」である。いいかげんなデータを勝手にAIに入れてしまうと、AIは適切な分析・判断ができなくなってしまう。大切なのは、正しいデータ・情報を収集し、検索すること。そして、そこから新たな論理を構築していく力である。

その上で、どのようにOutputする能力が必要となるのか。第一に、「創造的思考力」。つまり「どうするのか」を考える力である。そして、「人間力」。信頼感と魅力あるパーソナリティである。

「しかし、科学的能力、創造的思考力、人間力が完璧な人はなかなかいません。少しでもそれらを感じられる人がいれば、ぜひとも採用し、その能力を育成していくことが必要です。

いろいろなことを知っていて、根性もあり、論理的に物事を考え、話すことができる。協調性があって、周囲に合わせていくこともできる。そういう人材は、以前なら絶対に採用していました。しかし、現在はそれだけで採用してはいけません。AI時代に適用できなくなり、その後が大変です」

AI時代に求められる能力として、Outputにおける「人間力」は非常に重要だが、人間力には二つのポイントがある。ダイバーシティ(多様性、異質性)の受容・適応と、安定したパーソナリティ(幅広い興味関心、ポジティブさなど)である。この二つは、業績や部下のモチベーションなど、いろいろな事項と相関が出ているので、かなり重要だ。

「ダイバーシティへの適応で一番重要なのは、異質性へのポジティブマインドセットです。皆さんは、相手に異質性を感じたとき、どのような感情が出るでしょうか。何を考えているのか分からない。うっとうしい、とならないでしょうか。というのも日本人は、同質性をもってよしとするという教育を長い間受けてきたため、少しでも相手に異質性を感じると、ネガティブな感情が出ることが多いからです。これから人を採用するなら、『自分と違うところを持っていて面白い』といったように、ポジティブマインドセットが形成されている人を採ることです。これは、創造的思考などと比べて、育成するのが難しい。もともと、そういう感情が出るようにマインドセットされているからです。ですから育成するよりも、採用の段階で見極めることが必要です」

講演写真

「パーソナリティ」を確認する際には「安定・不安定」に重きを置く

「パーソナリティ」に関して、心理学では以下のBig5理論が規定されている。その際、これらの要素が高い・低い、強い・弱いは問題ではない。なぜなら、「個性」に属することだからだ。ポイントは、これらの要素が安定しているのか、不安定なのか、ということ。採用する場合でも、安定している人を採用した方が、より人間力の部分が高いと判断できる。というのも安定とは、そのパーソナリティ傾向が出るときに、楽しさなどポジティブで前向きな感情が伴うから。それに対して不安定は、そのパーソナリティ傾向が出る時に、不安や怒りなどネガティブな感情や極度なこだわりを伴う。また、パーソナリティは変容することは非常に難しい。それよりも、TPOに応じた新しいパーソナリティを最初は演技でいいので、付け加えていくことが現実的である。

図2:パーソナリティにおけるBig5理論
外向性 周囲の状況に関心を持ち、外向きに活動しようとする傾向
誠実性 自身の行動に責任を持ち、公平、公正であろうとする傾向
調和性 他者に関心を持ち、他者と融合しようとする傾向
開放性 新しいことに興味・関心を持ち、受け入れようとする傾向
情緒安定性 感情的になることなく、情緒が常に安定した状態でいようとする傾向

「これまでの基準で採用し、育成していくことは、AI時代が本格化していく今後、難しいと思います。ここまで述べたような視点で、これからの若手社員の採用・育成を考え直してみてください。その際、採用・育成する立場の人も、古い考えた方の下で行っているケースが多いので、人事の皆さん自身が最新のバージョンにアップすると、よりやりやすくなるはずです」と、これからのAI時代における人事のスタンスを強調し、川上氏は講演を締めくくった。

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