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優れた経営者の条件

  • 楠木 建氏(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授)
東京特大会場 [I]2017.12.26 掲載
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なぜ成功する経営者と失敗する経営者がいるのか。優れた経営者はどのような点が優れているのか。だれもがぼんやりと感じてきた疑問だが、そこには確かに答えがあった。一橋大学大学院教授の楠木氏は、その答えとしてセンスの問題をあげる。センスはスキルと違い、育てられないからこそ、これまで語られてこなかったのだ。楠木氏が「他者と違いをつくること」の大切さとともに、優れた経営者の条件を語った。

プロフィール
楠木 建氏( 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授)
楠木 建 プロフィール写真

(くすのき けん)1964年東京生まれ。専攻は競争戦略とイノベーション。企業が競争優位を構築する論理について研究している。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。1997年から 2000 年まで一橋大学イノベーション研究センター助教授を兼任。1994-1995年と2002年、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授を兼任。著書として『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、『経営センスの論理』(2013、新潮社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください――たった一つの「仕事」の原 則』(2015、ダイヤモンド社)などがある。


「スキル」は育てられても「センス」は育てられない

楠木氏は、経営者と担当者の違いから話し始めた。

「ここで言う経営者とは、商売全体を丸ごと動かし、成果を出す人のことです。当たり前ですが、担当者がいないのが経営という仕事。担当者と経営者との違いは何なのか。私は、スキルとセンスの違いではないかと思っています。担当者の仕事で重要なのは、任された仕事分野のスキル。ところが商売丸ごとを任される経営者は、センスとしか言えないものがモノを言います」

例えば、「国語、算数、理科、社会」はスキル。それに対して、異性にモテることはセンスの問題。モテない人は何らかのスキルが欠けているからモテないのではない。「センスがないだけ」と楠木氏は語る。

しかし、自分が持つセンスとは何かと問われても、簡単には示せない。また、スキルは育てる方法が必ずあるが、センスは育てられない。そこが厄介なのだ。

「スキルを育てる場合は、やればいいだけ。必ず前よりもうまくなります。センスが厄介なのは、ない人が頑張るとますますひどくなること。人事の世界では、採用でも育成でもスキルのほうに視点が行きがちです。なぜそうなるのかというと、スキルは扱いが容易だからです。スキルには必ずうまくなる方法があるし、指導もできる。しかし、スキルを磨いてもどうにもならないのがセンス。経営とは、スキルを超越した仕事だということです」

しかし、スキルがいらないわけではないと楠木氏は言う。「経営者のセンス×担当者のスキル=商売の成果」という式は成り立つのであり、人事はこの二つをきちんと別々に扱ってほしい、ということだ。

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グローバル化という事業展開においてもセンスは問われる。楠木氏はグローバル化に三つの壁があると語る。一つ目は英語。二つ目は多様性のマネジメント。これら二つはどちらもスキルだ。そして三つ目の壁となるのが、経営人材だ。

「グローバル人材というとすぐスキルの話になりますが、現実的にもっとも重要なのは、商売を丸ごと動かせるセンス。やはり海外で最初にビジネスを立ち上げられるのは、センスのある人です。そのあとでスキル部隊が力を発揮する、というわけです。ただ、センスというのはつかみどころがない。だからいつの間にか、スキルの話に戻されてしまうのです」

「どちらがベターか」ではなく「何をしないか」を考える差別化

では、具体的に経営者にセンスがあるとはどういうことか。現実にはあくまでも千差万別だが、楠木氏はあえて、優れた経営者の条件を具体的にあげていった。

一つ目の特徴は「分析よりも綜合」。経営という仕事は、事前に定義された担当の枠を必ずはみ出していく。綜合で見られる人でないと経営はできない。しかし担当者は、すぐ分析・調査に走ってしまう。

「そもそも『これから創ろうとするもの』は、分析できないはず。だから、センスのある人はこう考えます。分析・調査は後回し。まずは『こうしたらもうかるかな』と、ストーリーを創っていく。どうしてもわからないことがあれば、後で取りに行けばいい、と」

優れた経営者の条件の二つ目は、「何をしないかを決断できる」だ。ここで楠木氏は、米国の経営学者、マイケル・ポーターが提唱した「ポジショニング」の論理を紹介した。これは「違いがあるから選ばれる」という考え方だ。

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「違いをつくる方法は二つあって、一つ目はどちらがベターか、という違いです。ここには比較する物差しが存在します。二つ目は戦略的につくる違い。英語でいうDifferent。比較対象がないだけに物差しがありません。ポジショニングの論理では『Differentになることを考えろ』と言っています。よそよりベターであったとしても、それは戦略ではないということです」

例えば、パソコン販売で成長したDELLは、「先端的な技術を追わない」「見込み生産はしない」「基本モデルの種類を増やさない」「組立工程でアウトソーシングをしない」と、何をしないかを決めた。これがポジショニングを決めるということだ。

「つまり、一方を追求すれば他方を選択できないという『トレードオフ』の構図をつくることこそが戦略の本質です。これによって違いがはっきりする。これは『何をしないか』を決めることなので、意思決定の問題になります。こういうことを、スキルを勉強してできるようになるでしょうか。『何をしないか』という判断は、決して現場からは出てきません。現場の人がこんなことを言うと、「楽しようとしている」と言われてしまう。だからこそ、現場とは別にリーダーが必要なのです。経営者は何をやらないかに責任を持っている、ということです」

センスがある人は千差万別。だが、センスがない人はみな同じ

優れた経営者の条件の三つ目は「思考が直列」だ。戦略とは「組み合わせ」ではない。そこには時間軸があり、物事に奥行きと広がりがある。楠木氏は、順番こそが大事だという。

「センスのない人はすぐ『相乗効果を梃子にして』とか『シナジーを発揮して』と言います。しかし、そこには順序がない。50歳まで現役を続けた元中日の山本昌投手は、なぜそこまで続けられたのか。決して速い球が投げられたわけではありません。『速く見える球』を投げられたからです。遅い球との順番を考え、速く見せていた、ということです。なぜこんなことをするかというと、野球には消える魔球という飛び道具がないから。商売もこれと同じで、現実として飛び道具はありません。だからこそ戦略なのです」

条件の四つ目は、「抽象と具体の往復運動」だ。具体的現実を抽象化することで論理を獲得し、その論理をまた現実へと適用していく。この往復運動だ。

「結果というものは具体的でしかあり得ませんし、具体的でないと指示にならない。問題も常に具体的に発生します。ところが、センスのある人は、どんな具体に直面しても、必ず一段上へと抽象化して、『ようするにこういうこと』という論理を引き出す。それを頭の中の引き出しに入れておく。この引き出しの中身がやたらと充実しているのが、センスがある人ではないかと思います」

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優れた経営者の条件の五つ目は「インサイドアウト」だ。これは、最初に自分の内面を変化させ、それによって自分の外側に影響を与えることを意味する。楠木氏は、ここでトルストイの『アンナ・カレーニナ』の言葉を紹介した。「幸福な家庭はどれも同じように幸せだが、不幸な家庭はみなそれぞれに不幸である」。センスがない人は、これの逆での表現できるのではないか。「センスがある人は千差万別だが、センスがない人はみな同じようにセンスがない」。

「センスのない人は、自分の外側のどこかに、正解が落ちているのではないかとすぐキョロキョロ探してしまう。それをひとまず大量に集めることで、結果が決まると思っている。要するにこれは『アウトサイドイン』の考え方であり、順番が間違っています。例えば、『2030年はこうなっている』といった予言めいた将来像から今を考えようとする。そもそも戦略とは、自分から未来に対する意志の表明。経営者は『我々はこうしてもうけていきます』と示さないといけません」

楠木氏はもう一つ、センスがない例として「生き残りのために、わが社もグローバル化せざるを得ない」をいう言葉をあげた。

「こんな言葉を聞くと私は必ずこう言っています。『ざるを得ない?誰も頼んでないですよ』と。そもそも商売の大原則は自由意志。これでは商売を商売として直視しないことになってしまう。こうなると誰もが担当者になってしまい、経営者がいなくなる。社長も『代表取締役担当者』になってしまう。この先、日本の人口が増えないなかではビジネスの拡大は非常に困難です。だからこそ今は、企業の経営者の意思表明が重要なのです」

最後に楠木氏は、優れた経営者の六つ目の条件として「話が面白い」ことをあげた。これはプレゼンテーションスキルではなく、話そのものが面白い、ということだ。

「経営者自身が、いちばん商売を面白がっているからこそ面白い話ができます。まさに戦略の原点にして頂点は、『「思わず人に話したくなる話をする』ということだと思います」

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