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人と組織を成長させる「ポジティブ心理学」
~明・暗の両面を知るからこそ、人は真価を発揮できる~

  • 金井 壽宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
大阪基調講演 [OD]2018.01.23 掲載
講演写真

「ポジティブ心理学」は、ポジティブ面ばかりを考える学問ではない。ネガティブ研究も踏まえつつ、両面を把握することが人の真の成長を促す、という姿勢も必要である。人事は、スポーツにたとえると、社員にとってコーチ役であると同時に、審判役でもある。そのため後者の面からは、必要性もあって、しばしばネガティブなアプローチに偏りがちなところもある。その点に注意を喚起しつつ、人と組織を健全に成長させるには、人の明・暗の両面をどのよう捉えるべきか。神戸大学大学院教授の金井氏がそのポイントを語った。

プロフィール
金井 壽宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
金井 壽宏 プロフィール写真

(かない としひろ)1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エスノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。


「コーチと審判」という矛盾する役割を持つ人事

金井氏は、ポジティブ心理学についての誤解から話を始めた。

「ポジティブ心理学の一番の弱点は、人間の深い部分にネガティブな思いがドロドロしているのを見ずに、ついつい、ハッピーな部分だけを研究していることです。私はポジティブ心理学の中では、ネガティブな状況からの回復を目指す、ポジティブな側面に関心を抱かせるようなテーマが、望ましいと思ってきました。そういうテーマ候補のひとつとして、ぜひ人事の皆さんに関心を持っていただきたいのは、『落ち込むことがあっても、そこから持ち直す力』です。最近よく聞くようになった、リジリエンス(回復力)と言ってもよいでしょう。ピンチでも折れない、しなやかさのことです。一旦はピンチに陥っても、そこであきらめずに、『この先、どのようにして持ち直していけるのか』という視点が気持ちを引き上げ、元気を回復していく。元の状態に立て直すだけでなく、さらに超えて行く方向を模索して、いっそうの進展を実現するのです。このようなレベルになると、リジリエンスに対して、リデンプション(超回復)という用語を使用する研究者や実践家もいます。リーダーなら、仮に落ち込むことがあっても、そこから回復、さらに超回復する力を育んでほしいものです。

ポジティブとネガティブは裏表のように共に存在するものだ、と金井氏は語る。

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「困ったときなど、人はネガティブになって、近くの人に質問したりします。一方、質問された人は自分がその人のために何か貢献できると思ったら、ポジティブになる。このように、ポジティブとネガティブは裏表の関係にあるんですね。自分でも、一日ごとに調子の良し悪しをプラスマイナスで付けて、1週間、2週間と記録していくと、その両面の気持ちが起きていることがわかります。ライフ・ラインとも言われますし、イキイキ度合いのアップダウンを表すことになるので、『イキイキチャート』と呼ぶ人たちもいます。1週間、10日のスパンで記録してみると、さえない日、まあまあ順調な日、やる気も成果も高い日など、いろいろとあります。自分一人で記録するものいいですが、仲間やメンター、上司などと、シェアして話し合うのもいいでしょう。どんなときにやる気が失せて、どんなときにテンションがあがって打ち込めるのかがわかります」

ポジティブ心理学でもっとも重要な問いかけは、「落ち込んだときにどんなことをすれば、もう一度エネルギーをアップできるか」だと、金井氏は強調する。

「私が尊敬する経営者やリーダーたちは、ここぞというときに先に述べたような持ち直す力を持っていると思います。どんなに普段明るい人でも、ときには落ち込むときがある。そこから持ち直していることの強さがすごいと思うのです。

『落ち込んだときにどんなことをすれば、もう一度エネルギーをアップできるか』とたずねると、いろいろな答えがあります。なかでも、一番よくうかがう回答は『誰かに会いに行く』です。これは助けを求めているようで、実は、自らが助けを求めにいくという主体的な動きでもあるので、間違いなくポジティブです。何よりも受け身でないのは、いま直面している問題であれば誰に会うべきかを考えている点ですね。人は明・暗の両面を知るからこそ、真価を発揮できる。ネガティブが裏にあるおかげで、いい振り返りができるのです」

「モチベーションの落差」があるから、人はより強くなれる

金井氏はここで「ネガティブ、ポジティブどちらが大事だと思いますか」と会場に問いかけた。

「大事なことが全てネガティブにあるわけではありません。一旦落ち込んでも、そこから持ち直す『レジリエンス』があれば、次はより高く登れます。ただ戻すだけでなくて、もっと上に行ける、ということです。前よりももっとしなやかになって、より高い視点から見られるようになるのです。落ち込むことがあっても、また、ポジティブに立ち上がる。生きているということは、アップダウンがあるものだと自覚し、落ち込むことがあっても、また元気は回復する、逆に、いまは快調と思っていても、また谷に遭遇することもあります」

組織の中の人間構造を考えるときも、明るい面と暗い面の両方を考えることが大事になる。やはりここでも、一見、ポジティブでもネガティブをはらんでいて、一見ネガティブでもポジティブをはらんでいるのだ。その両面の存在をいかに自分で把握していくかが問われる。

「組織を研究してきて、いつも思ってきたのは、ネガティブなものも人を動かすし、ポジティブなものも人を動かす、ということです。人は気持ちが一色になると別の方向を探そうとする面がある。だからこそ、組織においても、ネガティブとポジティブのブレンド具合を大事に考えていくべきだと思います」

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ここで金井氏は、モチベーションのワークショップを紹介した。

「最近1週間を振り返ってもらって、その週に起きた良かったこと、悪かったことを思い出して話してもらう。そのときの気持ちの持続具合はどうだったか。できれば良い経験でも悪い経験でも、そこから何か教訓が見出せるのであれば話してもらう。すると、ときに気持ちが落ちることがあってもOKなんだ、とか、そこから跳ね返す力があればいいのかと気付けます」

続いて金井氏は、元ラグビー日本代表監督の平尾誠二氏と話したときのエピソードを語った。平尾氏は指導するとき、自分に軸を持ったほうがいい、持論を持った方がいい、と語った。ラグビーは複数の人間が流動的に動くスポーツであり、一人がリーダーになるのはよくない。平尾氏は、最低三人のリーダーが必要だ、という興味深い持論を持っていたという。

「一人目は、チームリーダー。この人が主将だと皆の心が離れない、団結ができる、という人です。二人目は、ゲームリーダー。試合で負けないための作戦やシナリオを一生懸命につくるリーダーです。でもこの二人だけだと息が詰まるので、三人目となるイメージリーダーが必要と言われました。その人は面白い秘策を考えたりして、発想を広げてくれる、皆をイキイキとさせてくれるリーダーです。人の気持ちの動きがよくわかる話ですね」

人事は「ネガティブなアプローチへの偏り」に注意すべき

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金井氏は最後に改めて、なぜ今日ポジティブ心理学の話をしたのか、その理由について語った。

「今日、ポジティブ心理学について話したのは、人事もネガティブな面に偏りがちな面がある、と思ったからです。心理学者は放っておくと、医者が病気を診るのと同様に、心がどう壊れるかといったことを見る方向になりがちです。他方で人間には、あきらめないとか、希望を持つとか、友情を持つとか、愛情を持つとか、ポジティブな面も多くあります。ですが、残念ながら従来の心理学は、どちらかと言うと、人間の攻撃性や、不安、恐怖心、神経症の話など、ネガティブな側面が十八番だったとも言えます。一方、ポジティブな分野での研究は少ない。

ポジティブ心理学はもともと無力感を研究していたマーティン・セリグマンが『自分は無力感などネガティブなテーマを研究してきたが、これからは幸せやリジリエンスなどを代表とする、ポジティブなテーマも同じくらい大事だ』と言い始めてできました。ネガティブを知り尽くして貢献してきたセリグマンが提唱者である、新たな実践的学問分野なだけに、人間の前向きな面も見ていこうとする根本姿勢には迫力があるように思います。皆さんが人事の世界で考えてほしいのは、人にねじを巻くときにネガティブなストロークがよいなという場面でも、どれだけ適切な比率でポジティブなストロークが混ぜられるかが問われる、ということです」

金井氏は、自分自身に少し元気がないなと思うときは、周囲の誰もポジティブ・ストロークをしてくれないなら、自分で自分をほめること、自分で自分を元気づけることが大事になるという。寝る前に少しだけでも自分が誇れることを紙に書いてみるだけでも、気持ちを落ち着かせることができる。

「今日いやだったことを、いくつか思い出して眠りにつくよりも、今日よかったこと、うれしかったこと、つらいと思ったが乗り越えられたことなど、ポジティブに自分を元気づける、勇気づけられることを思い出してから眠るほうがいい。自分がすごく元気がいいときを10として、今日はどの程度の元気さなのか。そんなことを日々つけておくと、自分の気持ち、イキイキ度のアップダウンが見やすくなるので、元気回復を自ら管理できるようになると思います。人事の皆さんも、ネガティブなアプローチだけでなく、ポジティブな関わり方をいい形でブレンドすることをぜひ、考えていただきたい。気持ちの明暗の両面を知ることで、人が真価を発揮できることがよくわかると思います」

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