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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2017-秋-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [C] 人事プロフェッショナルの条件 ~経営に資する人事について考える~

人事プロフェッショナルの条件 ~経営に資する人事について考える~

  • 有沢 正人氏(カゴメ株式会社 執行役員 CHO(最高人事責任者))
  • 藤間 美樹氏(武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBPコーポレートヘッド)
  • 野田 稔氏(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
東京パネルセッション [C]2017.12.27 掲載
ワークデイ株式会社講演写真

経営環境が変化するにつれて、人事の位置付けや役割が変化。「戦略人事」は今や、重要なキーワードになっている。経営に資する人事は何が違うのか。経営に対して、現場に対して、それぞれどんな接し方が求められるのか。日本を代表する人事プロフェッショナルである、カゴメの有沢正人氏、武田薬品工業の藤間美樹氏に、明治大学専門職大学院の野田稔氏が聞いた。

プロフィール
有沢 正人氏( カゴメ株式会社 執行役員 CHO(最高人事責任者))
有沢 正人 プロフィール写真

(ありさわ まさと)1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。


藤間 美樹氏( 武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBPコーポレートヘッド)
藤間 美樹 プロフィール写真

(ふじま みき)1961年大阪生まれ。神戸大学農学部卒業。1985年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社、2007年に武田薬品工業に入社。海外人事を中心にCMC HRビジネスパートナー部長などを歴任し、現在は本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドの任務に従事。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。武田薬品工業のグローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する人材像とその育成を探求。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。


野田 稔氏( 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。大学院において学生の指導に当る一方、大手企業の経営コンサルティング実務にも注力。2013年に社会人材学舎を設立、ビジネスパーソンの能力発揮支援に取り組む。専門は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。


野田氏によるプレゼンテーション:
「戦略、変革」の人事へと役割が変化

まず野田氏が、歴史を振り返りながら、人事の役割の変遷と現状について語った。

「かつて人事の役割は労務管理、人事管理でした。労働者は代替可能な部品と考え、一人ひとりの顔は見ません。業務が標準化されて、部品としての人間が当て込められていく。労働者一人ひとりへの投資は最小限に抑えることが重要でした。この考え方が変わったのは1980年代。戦略的人事の萌芽が出てきます。ミッション・経営戦略を実行するために、組織構造、ヒューマンリソースマネジメントがある、というモデルです」

「個人の幸福・組織の効果・社会のつながり」という長期的結果を最終的に生み出す――。そうしたHRMを考えることを目的に、戦略的人事が提唱されるようになった。

「戦略的人事マネジメントの定義を三つにまとめると、(1)同じ人件費を使いながら、最大限のやる気を社員から引き出せるような制度・仕組み・文化・組織を構築し、現場での運用を支援する。(2)企業の戦略に合わせて、その戦略を遂行するのにふさわしい能力・スキル・マインドセットを持った社員を当該現場に供給する。(3)これらを実行するために、人材資源管理の立場から、企業戦略の立案・実行に資するアドバイスを行う、となります」

講演写真

人事は少し前までは「管理のエキスパート」的存在だったが、現在は三つの方向に役割が拡大しようとしていると、野田氏は言う。

「一つ目が『戦略パートナー』。将来的な組織の機能・能力を先取りし実行する経営トップのビジネスパートナーです。二つ目は『変革のエージェント』。経営企画などと共に組織開発を担うため、多様性を許容し、学習する組織文化をつくります。三つ目は『従業員のサポーター』。従業員のキャリアづくりを手伝います。一方、従来からの管理業務はアウトソーシングやAIによる省力化が必要です。では、これらを担うのはどういう人材なのでしょうか。パネリストのお二人にお話いただきましょう」

藤間氏によるプレゼンテーション:
グローバルにはなかなか通用しない日本の人事

会社が何をやろうとしているのか、何を狙っているのか。それによって人事のあり方も変わってくる。藤間氏はまず、武田薬品工業が今、何を目指しているのかを紹介した。

「弊社には236年の歴史があり、70ヵ国以上で事業を展開しています。従業員は3万人。欧州や新興国では売上がまだ伸びていないので、日本と米国で引っ張っている、過渡的状況にあります。経営陣は14人いますが、社長はフランス人で日本人は3名だけ。また、弊社ではグローバルHRが人事部にあたる組織で、英国人のHRオフィサーのもと、シニアリーダー15名のうち日本人は3名。HRの大きな会議に集まる人員100名のうち、日本人は15名です。まさにグローバル企業のHRという体制になっていますが、この仕組みは合理的にビジネスをドライブするのによくできたやり方だと考えています」

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日本企業のグローバル人事への展開を長年にわたって見てきた、藤間氏。これまで、日本の人事制度や人事に関する考え方はグローバルに通用しない、と痛感してきたという。

「例えば、新しく何かに取り組み始めると、初期の成果は上昇に向かいますが、100%になる手前で伸びは鈍化します。この時、100%を目指して最後の詰めを粘るか、途中でやめて次に着手するか。すなわち、最後の詰めに価値があると考えるか、ロスになると考えるかが問われます。外国人エグゼクティブから『早く次のことに移れば、大きな成果が出るかもしれない』と言われて、私はグローバルと日本の違いを痛感しました」

同社ではノー・レイティング(年次評価の廃止)の導入を部門ごとの判断に任せている。合うところは導入し、合わないところは導入しない。全社一律にしなくても、従業員をモチベートして成長させ、業績を伸ばすことはできるのだ。

「人事プロフェッショナルの条件は五つあります。一つ目は『ビジネスのトレンド』を理解できること。ビジネス環境を理解できなければ、経営のサポートはできません。二つ目は『戦略を実現できる風土の改革』を実行できること。そのためには、三つ目である『人と組織を活性化できるリーダー育成』に取り組まなければなりません。四つ目の『決断力』は、海外の人事と比べて弱いと感じますが、若手のうちに権限委譲して決断する訓練を行えばいいと思います。そして五つ目は『アジャイル』(俊敏)で、今の時代に欠かせません」

有沢氏によるプレゼンテーション:
経営や従業員のニーズを先回りするマーケティング的思考

先の二人の話をかみくだきながら、人事パーソンに求められる資質と知識・能力のポイントを有沢氏がまとめた。

「まず、人事パーソンに必要なのは『顧客志向』です。人事にとってのお客様は、従業員だけでありません。エンドユーザーも含みます。そこまで考えた上での取り組みが大切です。判断に迷ったら、『誰のためにこの仕事をしているのか』に立ち戻ってください。次に、『経営と現場の橋渡し』。経営と現場の両方の視点を忘れてはなりません。『トップに対する影響力』を持つのは難しいことですが、改革はトップから始めてこそ説得力を持ちます。役員から変えていくことが肝心です。そして、最後までやり切る『覚悟と意思』があるかどうか。何かを始める時に困難、忍耐は当たり前です」

カゴメは以前グローバルのかけらもなかった、と有沢氏は語る。しかし、人事パーソンはそんな時でも、日本型人事の常識は世界の非常識だと知らなければならない。情報収集の視点をどこに置くかが重要で、日本での人事関連の動きだけ知っていればよいわけではない。世界の出来事やトレンドを知っておくべきだと、有沢氏は言う。そうすると、自社のグローバルレベルも把握できるからだ。レベルに応じた施策を実施すれば、齟齬を生む心配もない。

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「人事に求めたい能力の一つは、マーケティング力です。4P・3Cのフレームワークは人事でも応用できます。さらに、センスをプラスできるか。経営や従業員のニーズを先回りして、それに合わせた仕組みや構造を作っていく力や、お客様にサプライズを与える力も重要です。そのためにはやはり、マーケティング的思考が求められます」

フィードバックに欠かせないコミュニケーション力、筋道立てて考え語る論理的思考、組織成果を出すためのチームワーク、年齢や役職に関係のないリーダーシップ。これらはビジネスパーソンに必須の要素だが、戦略パートナーと位置付ける人事パーソンにとって、重要性は一段と高い。

「何事もWhyと思うことが大事です。経営から言われたことを鵜呑みにしていたら、従業員の信頼もエンドユーザーの信頼もなくしてしまいます。納得できるまで自分で調べ、自分で聞き、経営と議論するスタンスが不可欠です」

ディスカッション:
戦略人事に必要な「発信し続ける能力」「腹をくくる勇気」

野田:変革を先導する人材とは、どのような人材でしょうか。

藤間:経営の視点を持っていて、ビジネスサイドの人とよく話をする人ですね。ちなみに弊社の外国人たちは当然のように、人事にビジネスパートナーであることを期待して接してきますので、その点では大変鍛えられます。

有沢:先ほどお話したように、経営に対してきちんとものが言えることが人事パーソンに最も求められることだと思います。あとは、修羅場経験です。覚悟や勇気の強さが変わります。

野田:純粋培養した人事プロというのはありうるでしょうか。

有沢:戦略経営と結びついた動きが取れるか、そのためにトップとの距離を縮めることができるかがキーになりますから、純粋培養かどうかは関係ないと思います。

藤間:日本と海外の若手を両方見ていると、純粋培養でもいいと思います。ただ、人事として修羅場をくぐる経験、HRビジネスパートナーとしてしっかりビジネスに入りこんで揉まれる経験は大事だと思います。

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野田:戦略人事パーソンの適性には、どのようなものがあるでしょうか。

有沢:発信し続ける能力です。制度を作って終わりではなく、その後の運用のために現場を回ったり、会議に出て話したりする必要があります。

藤間:腹をくくる勇気ですね。経営に対してモノを言えなくてはなりませんし、うなずいているだけでは会社のためになりません。

野田:経営者と近くなるために、どんなきっかけを作り、どのようなコミュニケーションをとっていますか。

有沢:私は、社長や会長に説明する時に必ずメンバーを連れていきます。私が説明した後に「どうかな」と聞き、何かを言わせると社長たちとのコミュニケーションが生まれます。とにかく多くの機会をつくっています。

藤間:私も同じで、任せたことは当人に発表させています。若手の場合は役員に一言伝えて、地ならしをしておくようにしています。

野田:では、最後に一言ずつお願いいたします。

藤間:弊社では今の変革期に求められるリーダー像を作って浸透させています。経営陣が過去数年をかけ、頭を悩ませ、難しい判断を下した多くの事例を吸い上げて作ったものなのでブレもありません。

有沢:私がトップへの影響力を実感できた瞬間がありました。上から変えないと意味がないと、役員評価制度・報酬制度を作って、最後に取締役会に付議した時のことです。私が説明しようと思ったら、社長が「これを否決するのなら、我々三人を解任してください」と言ってくれた。皆さんにも人事としてそういう体験を少しでもしてほしいと思います。

野田:人事パーソンは、自分の頭で考え続けることが必要だと思います。考えると発信したくなり、発信を続けていくと自然に受身の人事から攻めの人事へ変わる。ぜひ、皆さんも第二の藤間さん、第二の有沢さんを目指していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

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