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従業員が幸せになれば、生産性が向上する

  • 矢野 和男氏(株式会社日立製作所 理事 研究開発グループ 技師長 博士(工学))
  • 島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
  • 前野 隆司氏(慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科教授)
東京パネルセッション [E]2018.01.18 掲載
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働き方を考えるうえで課題となる生産性の向上。日立製作所は、身体の振動データと人工知能などを基に「働く人のハピネス(幸福度)が高まれば向上する」ことを実証、生産性向上のためのサービスを開発した。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスは、従業員の幸せな働き方を目指した制度「WAA」を導入し成果を上げている。幸福度と仕事にはどのような関係があるのか。日立製作所の矢野和男氏、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香氏、「幸福学」を提唱する慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏がセッションを行った。

プロフィール
矢野 和男氏( 株式会社日立製作所 理事 研究開発グループ 技師長 博士(工学))
矢野 和男 プロフィール写真

(やの かずお)1984年日立製作所入社。2003年頃からビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引してきた。論文被引用2,500件、特許出願350件。人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。現在、理事 研究開発グループ技師長。著書『データの見えざる手』は2014年のビジネス書ベスト10(Bookvinegar)に選ばれる。工学博士。IEEE フェロー。


島田 由香氏( ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
島田 由香 プロフィール写真

(しまだ ゆか)1996年慶應義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。 2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。中学2年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLPⓇトレーナー。


前野 隆司氏( 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 研究科教授)
前野 隆司 プロフィール写真

(まえの たかし)1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。専門は、幸福学、感動学、イノベーション教育、システムデザイン、ロボティクスなど。『無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)、『実践 ポジティブ心理学』(PHP新書)、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩文庫)など著書多数。


前野氏によるプレゼンテーション:幸せな心の状態を表す四つの因子

企業経営になぜ「幸せ」が必要なのか。はじめに幸福学を研究する前野氏が語った。

「幸せな従業員は不幸せな従業員より創造性が3倍高い、という研究結果があります。これは、従業員が幸せになるとイノベーションが3倍起きる、ということです。幸せな社員はパフォーマンス・生産性が1.3倍高い、というデータもあります。また、幸せは生産性を上げるだけでなく、欠勤率や離職率を下げることにもつながります。さらに、組織を活性化し、人は長寿で利他的になる。従業員の幸福度を高めることは、よりよい経営、人事につながるのです」

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前野氏が提唱している幸福学の基礎として、心の状態を表す幸せの四つの因子がある。一つ目は「自己実現と成長」。リスクがあっても「やってみよう」と挑む気持ちであり、やらされ感とは異なる。二つ目は「つながりと感謝」。上司や部下や顧客に対して「ありがとう」と思う気持ちのことだ。三つ目は「前向きと楽観」。これは「なんとかなる」と事に向き合う気持ちだが、「いい加減」とは異なる。やるべきことをやり尽くした後は元気に前向きにやっていこう、というポジティブな姿勢を指す。四つ目は「独立と自分らしさ」。自分勝手という意味ではなく、会社の中でも自分らしさを生かして、生き生きとしている状態をいう。

「これらの因子を持つ人は幸福度が高い。幸せと聞くと、仕事はあまりせずのんびりしている印象を持つかもしれませんが、それは違います。ただのんびりしているのではなく、やる気があって生き生きして、人への感謝に満ちあふれているイメージです」

ワークライフバランスを考える時も、つらくて厳しい仕事の時間を短くし、ライフを楽しみましょう、との考えになりがちだが、これも違っている。ワーク自体にやりがいを持ち、生き生きと取り組めた上でのライフとのバランスが幸せに通じる、と前野氏は語る。

「従業員満足度(ES)調査も大事ですが、これからは幸福度を多面的に測る時代がやってくると思います。従業員の幸福度を測り、幸福度を上げる活動を取り入れ、再び幸福度を測る。これを繰り返して、いかに従業員を幸せにするかに取り組むのです。健康を体重や血液などで多面的に測るように、幸福度もアンケートやさまざまなデバイスで測れます。幸福度の測定を進めて、健康と同じように、予防医学としても幸せを考えていく時代に変わっていくのではないでしょうか」

矢野氏によるプレゼンテーション:人工知能を幸福度の測定に活用

次に、日本の人工知能や幸福度の計測の第一人者である矢野氏が幸福度の計測について紹介した。

「働き方や、人・組織の課題が変化し、多様化しています。このような時代に今までのように『ルールを決めてみんなで守ろう』という姿勢ではダメです。日本はルールを守ることを徹底して成功した国ですが、今はそれが足かせになっている。もっと柔軟にならなければいけません。そのためには、何がアウトカム(目的)なのかをきちんと考えないといけない。それに対して、どのようなアクションをすべきかを柔軟に変えるべきです。そのためにも実験と学習が必要ですが、ビジネスの現場では実験の機会は限られます。そこでコンピューター上で実験を行うことを可能にしたのがAIの本質です」

矢野氏は、人工知能を用いた実験について説明した。人工知能に、人がブランコを揺らすときの振り幅を大きくするアウトカムを与え、膝の動きは自由にさせ、振り幅のデータ数を大量に与えていく。すると人工知能は、最初はブランコをやみくもに漕ぐが、学習し続けるうちにコツをつかみ始め、経験と学習とトライアルから人間のブランコの漕ぎ方に到達する。

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「さらに一つの周期の中で、二回膝を曲げ伸ばしするとより大きく漕げるという、人間が知らない漕ぎ方を見出します。これは、実験と学習の継続がいかに大事かを示しています。人間は一度うまくいくと、それに安心して学習を続けません。人事制度も、そうなってはいないでしょうか」

矢野氏は人間の活動を測るデバイスを作り、自分の左腕にセンサーを付け、11年以上にわたり振動を計測。ほかの人でも同様に計測したところ、人の小さく無意識な動きのパターンが、さまざまなことを表していることがわかった。その後、会社、職場、病院、学校などで大量のデータを集め、人の幸福度が測れるようになったという。

「例えば、コールセンター。『休憩所で雑談が弾んだ』『ある人が声をかけた』といった、ちょっとしたことが幸福度、ひいては受注率に影響を与えていました。気分がハッピーな日は34%も受注率が高くなります。過去のデータから『ある人が優先して声をかけると、みんながハッピーになる』という設定で比較実験したところ、一年の平均受注率の差が27%もあったのです。3割程度は簡単に業績を改善できることがわかりました」

人工知能が人の労働を奪う、という話があるが、人工知能が取って代わるのは労働ではなく、日本を制約してきたルールだ。新しいテクノロジーは、ルールをより柔軟に変える役割を担い、人それぞれが持つ多様な強みを開花させる支援を行える。「だからこそ、アウトカムは何かを考えることに、もっと人はエネルギーを使うべき」と矢野氏は語った。

島田氏によるプレゼンテーション:「幸福度」を向上させるコツ

次に、島田氏が、人事の現場における幸せへの取り組みと成果について語った。

「私の結論は『生産性を上げたければ幸せになりましょう』ということです。幸せでいれば、生産性が30%、営業成績が37%高くなる、というデータもあります。では、どうしたら幸福度を上げられるのか。まず自分がハッピーかどうかを考えてみる。これがポイントです」

同社では、内省を深めるトレーニングを4年前から導入。自分の行動ともに感情を振り返ると、自分を知ることになり、気づきを深めることで「自分は幸せなのか」「どのように幸せなのか」という考えにつながっていくという。

「私たちは働き方の制度として『WAA』(Work from Anywhere and Anytime)を導入しました。従業員が勤務する場所や時間を自由に選ぶことができる制度です。その結果、生産性は30%上昇。68%の社員が『毎日の生活がポジティブ』『毎日の生活が良くなっている』と感じています。幸福度はほとんどの従業員が『今までも幸せだし変わらない』でしたが、33%は『上がった』と回答。労働時間は3割が『減った』と感じ、実際に労働時間は10〜15%減りました」

また、4人中3人が「生産性が上がった」と感じているが、生産性はそもそも数量や質や時間などで測るのではなく、感覚値だけで測る。そのためにも幸福度は大きな意味を持つ。「今が幸せだ」「これをやっている時はハッピー」という自らの感覚を知ることが、生産性を測る肝となるためだ。KPIで測って、ロジックやファクトで示すような生産性とは全く異なる。

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「私たちは、働き方改革とは一人ひとりが生き方を決めること、と定義しています。長時間労働や残業を気にするのではなく、仕事に夢中になりワクワクしていることが大事なのです。私たちは先に、生き方を決める、こういう人生を送ってほしい、というビジョンを作りました。WAAは手段の一つであり、目的ではないのです」

島田氏は、生産性を上げる四つのキーワードを挙げた。一つ目は、当たり前を疑うこと。例えば、通勤ラッシュの時間帯になぜ出勤するかと疑えば、働く時間や場所を変えようと考えるようになる。二番目は、仕事を「must do」「no need to do 」「nice to do」に分け、最後の「できればやったほうがいいこと」はやらないようにして、やるべきことにフォーカスする。三番目はエネルギーマネジメントだ。どういう時に自分がエネルギーに満ちているかを感じること。四番目はマインドフルネスだ。

「幸せになるための四つのアクションを紹介します。『(1)前野先生のワークショップに参加する』。体験学習は効果的です。『(2)ワクワクすることをやる』。どんな時にワクワクするかをメモしてみましょう。『(3)自分らしくある』。ありのままでいる時はパワフルになれます。『(4)マインドフルネス』。これを行うとハッピーを保て、ハッピーな気持ちに切り替えができます」

「生産性」ではなくて「幸性(しあわせ~)」を高めようと、島田氏は声を上げる。「幸性」を上げれば、自然に生産性は上がるのだという。

ディスカッション:幸福度と生産性の関係

最後に三人でディスカッションが行われた。

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矢野:私は人事担当者ではないので、別の観点で幸福度の向上の試みを普及させていこうと思っています。スマホで幸福度を測れるようになったので、従業員の幸福度を企業が開示する動きを促して、社外からも普及させていきたいと考えています。

島田:マネジメントや人事の立場では、お金や時間をインプットと捉えて評価するだけでなく、モチベーションやハッピー、健康などもインプットの要素だと意識すべきだと思います。

前野:エンジニアと人事。立場が違うお二人でしたが、「細かいルールにとらわれるのではなく大きな視点から考える」など、共通したお話がいくつもあったのが印象的でした。

矢野:幸福度に加えて、職場にある「ムード」もとても大事で、幸福度にも関係します。例えば、コールセンターの場合、集団のパフォーマンスは個人の足し算ではなくて、「この人がいる日といない日では、全体のパフォーマンスが全然違ってくる」という人物がいるのです。でも、その人自身はスーパーパフォーマーではなく、ごく普通の人。おそらく周りのムードをよくするのが上手で、会社に貢献しているのですが、この人は、人事上は評価されない。このような人が皆さんの職場にも必ずいます。そんなことも気にしてほしいと思います。

前野:矢野さんにお聞きします。幸福度を無料で測るという、2018年1月から始まる「ハピネスプラネット」について教えてください。これは会社単位で参加するのですか。

矢野:10〜20人のチームを予定していて、100チーム以上の参加を期待しています。職場対抗の幸福度の運動会のイメージです。幸福度を上げるアクションをそれぞれが登録。それを実施し、2週間計測します。うまくいったアクションや、そうでないアクションをデータ分析してフィードバックします。みなさんの会社からもご参加いただければと思います。

前野:最後に一言ずつメッセージをお願いします。

矢野:経営者、投資家、監査法人などさまざまな方が、会社の幸福度を上げることに真剣に取り組み始めています。いよいよ人事の人たちも、真剣に取り組むべき時期が来たのかなと思います。

島田:私たち人事は、最も人を幸せにできる部署であり、仕事だと思っています。だからこそ、人事自身が幸せを感じることは大切です。ぜひ皆さんも一緒に、もっともっと幸せになりましょう。

前野:今日の学びをもとに、自分が幸せになるにはどうすればいいか、会社の皆さんが幸せになるにはどうすればいいか、をぜひ考えていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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