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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2017-秋-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [L] 「産官学」それぞれの視点から考える“ワークスタイル変革”

「産官学」それぞれの視点から考える“ワークスタイル変革”

  • 福田 仁氏(カルビー株式会社 人事総務本部 人事総務部 部長 兼 人財・組織開発部 部長)
  • 福家 智氏(日本航空株式会社 人財本部 人財戦略部 部長)
  • 伊藤 禎則氏(経済産業省 産業人材政策室 参事官)
  • 武石 恵美子氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
東京パネルセッション [L]2018.01.22 掲載
講演写真

働き方改革は、労働時間の削減だけが問題なのではない。その最終目標は生産性の向上、社員のエンゲージメント・モチベーションの向上であり、企業には自社に合ったワークスタイルの策定が求められる。では、何を基準にワークスタイルを変えていけばいいのか。カルビー、日本航空の先進事例をもとに、人事が行うべき変革について産官学の視点で議論を行った。

プロフィール
福田 仁氏( カルビー株式会社 人事総務本部 人事総務部 部長 兼 人財・組織開発部 部長)
福田 仁 プロフィール写真

(ふくだ ひとし)大学卒業後カルビー株式会社に入社し、工場人事、営業、マーケティング、経営企画などの職務を経験。2003年より人事の職務につき、人事制度企画・運営、労務問題、採用、人財育成など人事全般を経験、2014年より3年間西日本地区人事担当後、現職に。戦略パートナーとしての人事を志向し活動中。


福家 智氏( 日本航空株式会社 人財本部 人財戦略部 部長)
福家 智 プロフィール写真

(ふけ さとし)北海道札幌市出身。1990年、日本航空入社。整備本部羽田整備工場に配属。機体整備・運航整備の現場業務や、整備計画・企画部門や整備部門内の総務・業務部門、品質保証等の現業サポート業務を経験。2016年4月から、人財本部にてダイバーシティ推進を担当し、2017年4月より現職。多様な人財、挑戦する組織、生産性を高める環境づくりのため、働き方改革やダイバーシティ推進、人事・福利厚生関連制度などの整備に取り組んでいる。


伊藤 禎則氏( 経済産業省 産業人材政策室 参事官)
伊藤 禎則 プロフィール写真

(いとう さだのり)1994年 東京大学法学部卒業、入省。米国コロンビア大学ロースクール修士号、NY州弁護士資格取得。筑波大学客員教授、経産大臣秘書官などを経て、2015年より現職。経産省の人材政策の責任者。政府「働き方改革実行計画」の策定にかかわる。副業・複業、フリーランス、テレワークなど「多様で柔軟な働き方」の環境整備に取り組む。また人材投資、経営リーダー人材育成指針策定、HRテクノロジーの普及促進などを担当。


武石 恵美子氏( 法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
武石 恵美子 プロフィール写真

(たけいし えみこ)専門は、人的資源管理論、女性労働論。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(社会科学)。労働省(現 厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2006年4月より法政大学。著書に、『雇用システムと女性のキャリア』(勁草書房)、『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』(編著、ミネルヴァ書房)、『ダイバーシティ経営と人材活用』(共編著、東京大学出版会)、『キャリア開発論』(中央経済社)など多数。厚生労働省「中央最低賃金審議会」「労働政策審議会 障害者雇用分科会」「労働政策審議会 雇用均等分科会」等の公職や民間企業の社外役員を務める。


伊藤氏によるプレゼンテーション:
「生産性向上に向けた働き方改革第2章」

最初に伊藤氏が登壇し、働き方改革の本質について解説した。今、働き方を変える必要性が高まっている要因は二つある。

「一つ目の要因は、人口減少および人生100年時代。二つ目はAI×データ時代といった、産業構造の変化です。これらによって、日本型雇用システムそのものが大きく変わろうとしています。そのため、長時間労働を是正し、多様な働き手の労働参加を実現しなければなりません。そして、企業内外で成長分野への労働移動の円滑化を図り、人材の最適活用を行う。人材育成・人材投資の強化、エンゲージメント、モチベーションアップの方策も必要です」

いま働き方改革といえば、労働時間の削減ばかりがクローズアップされる。しかし、それは本来狙うべき最終目標ではない、と伊藤氏は語る。

「最終的に実現すべきことは生産性の向上、また、社員のエンゲージメント、モチベーションの向上です。そのために行うべきポイントが三つあります。一つ目は『何時間働いた』『何年会社にいる』ではなく、“成果”とそれを支える“スキル”で人材を評価すること。二つ目は、働く人のニーズや価値観の多様化に対応すること。育児や介護にも対応できる働き方でなければなりません。三つ目は、人材への投資。これからは『一億総学び』時代になります。政府では2017年9月から『人生100年時代構想会議』を開始しましたが、その中では、リカレント教育、社会人の教育が大きなテーマとして掲げられています。これからは『働くこと』と『学ぶこと』が一体化していきます」

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今後働くことと学びはどのような関係になるのか。伊藤氏は「働き方は、キャリアラダー=人生すごろくから、GPS=ポケモンGOのような形になる」と語る。決まった単線型のルートをただ進むのではなく、働き手自らがいろいろな世界に出ていき、自分の「持ち札」を増やしていく。企業はそれに向けた支援を行わなければならない。ただ、伊藤氏は働き方改革を進めるにあたり注意すべき「三つの落とし穴」があると語る。

「一つ目は、生産性を測ることの難しさ。二つ目は、働き方改革の最大の落とし穴である、企業の利害と働き手の利害がトレードオフとなってしまう状況に陥ること。そして三つ目は、生産性を突き詰めたときに、そこになお『働くよろこび』が残るか、ということです」

生産性向上に向けた働き方改革では、企業により一層の工夫が求められている。

福田氏によるプレゼンテーション:
「自立的に成長し、成果を出し続ける人と組織づくり」

次に福田氏が登壇し、カルビーの働き方改革について解説した。カルビーは外部から松本晃会長を招き、2010年より経営改革を進めている。その基本方針は『継続的成長と高収益体質の実現』だ。

「『自立的な実行力』をテーマに、企業の成果と従業員の自立の両立について考えてきました。それを進めるにあたり意識したことは三つ。シンプルに物事を進める『簡素化』、垣根なく情報を共有する『透明化』、積極的に仕事を任せる『分権化』です」

カルビーでは、従業員は会社に対して成果を約束し、それを達成する責任が科されている。コミットメン卜&アカウンタビリティ(C&A)だ。

「社員に対しては結果主義を採用しており、成果を出した人、会社に貢献した人に報いる仕組みをつくりました。加えて管理職にはメンバー育成目標をもたせ、部下の成長を支援します。これらの取り組みの結果として2010年以降、増収増益が続いています」

講演写真

では、結果主義の中でどのような働き方を推進しているのか。同社では成果をあげるために長時間働くのではなく、できるだけ効率よく、できるだけ短い時間でアウトプットすることを推進している。

「ワークライフバランスにおいては、個人の生活が充実すれば、仕事にも反映され、能力もあがります。そこで『ワークもライフも両方取る』をコンセプトとしています。そして、ここでも結果主義として、時間を短く、効率よく仕事をして成果を出している人を評価するようにしています」

社員の人間的成長と結果主義は一見、相いれないようなものに見える。しかし、会社の成長には個人の成長が欠かせない。経営陣は「両方を実現させよう」と繰り返しメッセージしている。社員もそのことを徐々に自覚しているところだ。

また、オフィスに縛られない働き方改革も推進。本社・地域事業本部では座席を固定しないフリーアドレスを導入した。毎日ダーツ(座席を毎日ランダムに決めるシステム)で座席が決められる。そして、営業職は直行直帰が基本。テレワークも推進し、2014年度に在宅勤務制度としてスタートさせ、2017年度にはモバイルワーク制度にモデルチェンジしたところだという。

福家氏によるプレゼンテーション:
「社員一人ひとりにあわせた新しい働き方へ」

次に福家氏が登壇。日本航空の働き方改革について解説した。日本航空は2010年に経営破たんし、翌年から毎年テーマを決めて改革に取り組んでいる。2011年にはグループ出身会社を超えた人材登用、2012年にはグローバルでの人材登用を開始、2014年には経営戦略としてダイバーシティを宣言、女性活躍を推進した。

「これらを進めるうえでネックになってきたのが、働き方の問題でした。長時間労働など日本的な慣習が残っていると、海外出身スタッフや時間に制約のある日本人スタッフにとって働きづらい環境となります。そのため、2015年にワークスタイル変革に着手しました」

社長は社員が目指すべき姿をあげ、メッセージとして発信した。内容は「全社員が、生産性高く、やりがいをもって働き成長する」「生み出された時間を社員一人ひとりが自身の時間の充実にあて、さまざまな経験を通じて成長する」「これらの社員が生み出す、より付加価値の高い仕事の成果により会社も成長する」の三点だ。

働き方改革は、意識改革と五つの柱を元に推し進められた。五つの柱とは「ペーパレス」「フリーアドレス」「勤務管理」「ITインフラ」「制度(フレックス/テレワーク)」だ。

「働き方改革のゴールは三つ。一つ目は帰宅の申告時刻と実時刻の差をゼロに近づけること。二つ目は全員の年間の総労働時間を1850時間(年休20日取得、残業月4時間程度)に近付けること。三つ目は全員がテレワークを経験し、そのスタイルを定着させることです」

進め方としては、部門ごとに責任をもって取り組むスタイルとし、まずは、調達部門を特区に指定。働き方改革や残業削減に先行で取り組んでもらい、そこから他の部門に広げていく方法で実施した。それと並行して、JALグループの全間接部門約4000名を対象とした「意識改革」ワークショップが行われた。

「アレンジは人事部主体で行いましたが、講師役は改革が進んでいる職場の人にも務めてもらうようにして、同じ目線からの浸透を図りました」

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テレワーク制度は「小さく産んで、大きく育てる」というやり方で進めている。

「最初は申請が面倒でしたが、徐々に簡単で手軽にやれるように変更。使い勝手のいい制度への見直しを行い、利用者を大幅に増やすことができました。テレワークが拡大できたポイントは、福利厚生の一環ではなく生産性向上が目的であったこと、取得理由を問わないこと、利用者の声をその都度反映させたことだと思います」

同社は現在、業務プロセス改革を推進しており、業務の棚卸やロボット化などによる効率化を行っているという。

武石氏によるプレゼンテーション:
「経営課題からロジックで考えていく働き方改革」

三名のプレゼンテーションを受けて武石氏が、働き方改革に関する情報の整理を行った。

「働き方改革は誰がやるのか。従業員一人ひとりが取り組むことで、それが集合体となって会社の働き方改革が進むことになります。そこで肝心なのは、働き方改革の必要性を最初にきちんと確認することです」

働き方改革の手順は、まず何らかの経営課題があり、そこから経営戦略、人事戦略に落とし込まれる。そして、働き方の現状を確認し、そこにある課題を認識。そこから求める働き方を考えることで、働き方改革の方向性が明確になっていく。このロジックをしっかりつくらずに一部分を取り上げて行っても、改革は進んでいかない、と武石氏は言う。

ここで実践すべきことは、経営課題から計画を見直すことだ。働き方の視点から、経営計画、予算管理、要員管理を見直すことが重要になる。そして、計画の中に働き方改革をきちんと組み込んでいく。トップはそのことをしっかりコミットメントして、改革を浸透させる。働き方改革は組織変革につながるものであることから、簡単には進まない。経営者は継続的にコミットすることが不可欠だ。

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「最近注目するのは、ヤマト運輸の改革例です。経営課題からドライバーの働き方を考え直し、結果、採算の悪い事業を切って、値上げを実施。その意味で痛みを伴う改革を進めています。大事なことは経営課題に応じた改革が進められるか、という点です。働き方改革には個人の意識変革も重要で、ここに人事のサポートが期待されます」

働き方改革を行おうとすると、評価や異動、育成などすべてが絡んでくる。だからこそ、トータルで考えなければならない。トータルで改革することこそが、働き方改革なのだ。

「目指す働き方をどのように考えるのかが重要です。柔軟で効率的に働くことで生産性を高めるという意味では、これからは個人の自律的な働き方が求められます」

ディスカッション:「ストーリーをつくって、一歩ずつ前進」

武石:福田さんにお聞きします。松本会長がいらっしゃって改革が進んだということですが、どのような点が変わりましたか。

福田:変化は大きく、「別の会社になったようだ」とよく言われます。もっとも影響が大きかったのは「結果を出すことが一番大事」という、結果主義だと思います。業績も伸びているので、社員も達成感を持てています。経営陣からは「社員がイキイキと働けるように意識改革をしてほしい」と繰り返し言われています。

武石:結果主義に反発する社員もいたと思いますが、その点はどうでしたか。

福田:経営改革のメッセージは、経営陣が全国各地の現場を回って、タウンホールミーティングで伝えていきました。毎年繰り返しメッセージを発信し、徐々に浸透していったと思います。人事としては最初不安もありましたが、結果につながったので、やって良かったと思っています。

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武石:福家さんにお聞きします。残業削減では最初に調達部門を特区にされたそうですが、そのような手法を採用した理由は何でしょうか。

福家:残業削減は最初みんなで行いましたが、すぐ息切れしてしまいました。そこで、先進事例をつくらないといけないと考え、自ら手を挙げた調達部門に先行してやってもらうことにしたのです。すると、その取り組みの様子は隣の部署からも見えていて、「うちでもやろう」という声があがり、社内に広がっていきました。結果、調達部門では残業時間が大幅に削減され、社員の満足度調査でも大きな改善効果が見られました。

武石:総労働時間の数値目標を設定されていますが、どのように管理したのですか。

福家:目標設定を行ったのは今年からで、それまでは設定していませんでした。管理の方法は四半期に1回、全部門長と役員で勤務実績報告会を開き、そこで実績確認と情報交換を行っています。ここでは、他部門ではどのように取り組んでいるかといった具体的な方法についての情報交換も詳細に行っています。

武石:次に伊藤さんにお聞きします。このような企業の取り組みを聞かれて、どのようにお感じになりましたか。

伊藤:両社の取り組みは、大変素晴らしいと思います。そこで私からは、企業で働き方改革に取り組まれるときに注意していただきたい点を三つ申し上げたいと思います。一つ目は、労働時間の削減だけが改革ではない、ということです。長時間労働の是正がクローズアップされていますが、働き方改革はあくまでも企業の生産性および競争力の向上を図ることが目標となります。

二つ目は、制度や仕組みの見直しも同時進行で行っていただきたい、ということです。政府ではそれに役立てていただくため、近くテレワークのガイドラインを改定する予定です。三つ目は、社員の生涯を通じたキャリアアップ、スキルアップの支援をお願いしたい、ということです。社会人になった後も、教育の機会を提供してほしいと思います。国としても、学びの手段を積極的に支援していきたいと考えています。

武石:働き方改革に、正解はありません。それぞれの会社で課題を発見し、ストーリーをつくって、一歩ずつ前に進めていってほしいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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