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フィードバック入門:耳の痛いことを通知し、部下や職場を立て直す技術

  • 中原 淳氏(東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
東京特大会場 [J]2018.01.19 掲載
講演写真

部下を育成し、チーム力を高めることがマネジャーの役割だが、なかなか思うようにいっていない企業も多いのではないだろうか。どうすれば、マネジャーは効果的な人材育成を行うことができるのか。東京大学 大学総合教育研究センター 准教授の中原 淳氏は「部下育成にはフィードバックが有効である」と言う。なぜ、フィードバックなのか、中原氏が語った。

プロフィール
中原 淳氏( 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
中原 淳 プロフィール写真

(なかはら じゅん)1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、2006年より現職。大阪大学博士(人間科学)。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシッ プについて研究している。専門は経営学習論(Management Learning)。単著に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)、『研修開発入門 会社で「教える」、競争優位を「つくる」』(ダイヤモンド社)、『駆け出しマネジャーの成長論:7つの挑戦課題を科学する』(中央公論新社)など。共編著に『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社)、『プレイフル・ラーニング』(三省堂)など多数。働く大人の学びに関する公開研究会 Learning barを含め、各種のワークショップをプロデュースしている。


フィードバック文化を日本組織に定着させたい

中原氏は、人材開発・人材育成を専門に研究している。近年注力しているのは、フィードバック文化を日本組織に定着させることだ。講演の冒頭で中原氏は、今回の講演の目標・目的を語った。

「2点あります。まずは、フィードバックについて自分なりに説明できるようになること。フィードバックの理解です。次に、実際にフィードバックを体験・実践しヒントをつかむこと。フィードバックは、やってみないと分かりません」

フィードバックの知識は必要だが、頭で理解するだけでなくやってみること。また、自分がフィードバックした相手からフィードバックを受けることが大切であることを、中原氏は強調する。

ここで中原氏は、ある図表を提示した。人材開発や部下育成に関連するキーワードが、近年どれだけ朝日新聞に取り上げられているかを調べたものだ。90年代のバブル以降、一段と増えており、人々の関心が高いことがうかがえる。

「部下育成が難しくなっている理由は、三つ考えられます。一つ目は、耳の痛いことがなかなか言えなくなっていること。何かを言うと、ハラスメントだと言われたり、メンタルがダウンしたりするのではないかと思ってしまう。二つ目は、マネジャーの仕事が難しくなってきたこと。若年層に経験の浅いマネジャーが増えてきているのが要因です。三つ目は、働き方改革の影響。ただでさえ部下育成のための時間が取れないのに、ますます確保しにくくなっています。昔は、場当たりの精神論で戦えましたが、もはやそれは通用しません。部下育成を戦略的に見直し、立て直すためにも、フィードバックというしっかりとしたスキルや武器を身に付けるべきです」

ここで、中原氏はフィードバックの様子を描いた、2本のビデオを上映した。1本目は、自分の意見を言えない若手にフォーカスしたもの。上司から何を言われても、「大丈夫です」とばかり繰り返し、フィードバックを拒絶する社員を描いている。もう1本は、自分の過去の営業スタイルに固執して、職場の方針に従わない元・部長が主役。現在の上司がフィードバックを試みるも、逆にやりこめられてしまう、というストーリーだ。

「耳に痛いことを言うのは簡単に見えますが、実際にやるとなると難しいものです」

講演写真

フィードバックの重要性とは

フィードバックは二つの働きかけから成り立つと、中原氏は言う。

「一つは、情報通知。部下の現在の状況・状態をしっかりと通知することです。部下にとって耳の痛いことであっても、しっかりと伝えなければいけません。もう一つは、立て直し。厳しいことを言って終わりではありません。何が悪かったのか、これから何をやっていけばいいのかなど、部下の成長を立て直してあげること、振り返りを促し、新たな行動を促進することが大切です」

情報通知はティーチング的性格が強く、一方向の情報伝達であるのに対して、立て直しはコーチング的で振り返りを促進している。日本ではコーチングが普及した一方で、ティーチングはまるで仮想敵のようになってしまったが、フィードバックではこれら二つが必ず必要になってくると、中原氏は語る。

さらに中原氏は、フィードバックの3ステップについて説明した。

「第一のステップは、事実通知。観察したSBI情報(シチュエーション=状況、ビヘイビア=行動、インパクト=結果)を提示し、相手の成長のため、耳の痛いことも言うことです。第二のステップは、腹落とし対話。相手の言い分を聞き、話題を具体的にしたり、相互の理解を擦り合わせたりしていくことです。そして第三のステップは、行動計画+期待通知。自己効力感を持たせるために、期待を通知し相手のアクションプランを立ててあげることです。これらは、武道でいえば型のようなものです」

それぞれのステップについて、中原氏はさらに掘り下げていく。まずは、事実通知のステップ。ここでは、SBI情報の通知、成長の鍵になる「事実」を相手に伝えることが重要だ。

「どういう状況で、どんな行動をして、どのような結果をもたらしたのかを具体的に伝えることが重要です。三つのステップのなかでは、一番難しいかもしれません。多くの人はSBI情報を持たずにフィードバックしていますが、それでは曖昧なフィードバックになります。大切な点は三つ。第一に、決めつけないこと。第二に、SBIを行動レベルではっきり述べること。第三に、最後に問いを投げかけることです。最大のポイントは、SBIの情報を収集するために、観察することです」

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次は、腹落とし対話のステップだ。当然ながら、相手がすべてを聞き入れてくれるわけではない。どうしても認識の違いが生じるものだ。例えばマネジャーからすると、SaidとHeard、HeardとUnderstood、UnderstoodとActedのどれもがイコールであったとしても、部下の立場からすれば、すべてがイコールではないこともある。その違いをあえてあぶりだし、すり合わせていかなければならない。

「フランスの哲学者、物理学者であるパスカルの遺著『パンセ』にこんな一文があります。『人を効果的にたしなめ、その人の誤っていることを教えるには、その人がどの方向から物事を見ているのかをしっかりと見極める必要がある。部下の側からすれば、自分の持っている思いは正しい。上司は一旦、それを認めてあげなければならない。そのうえで、上司の側から見て誤っていることを発見させてあげる。そうしなければ、人は変わらない』。腹落とし対話につながる、含蓄のある言葉です」

最後のステップは、行動計画+期待通知。フィードバックを始めると、どんどん耳の痛いことを言われるので、瞬く間に感情はマイナスになってしまう。ただ、下がりっ放しでは困る。改善してもらわなければいけない。そこで、何をいつまでにどうやるか、という具体的な行動計画を立てさせること、また、やればできる感覚(自己効力感)を持たせることが必要である。それらが実行力を高めてくれるからだ。

三つのステップを理解したところで、またフィードバックのビデオが上映された。登場したのは、先ほどの自分の意見を言えない若手だ。最初に上映したビデオでは、「すみません」としか言わない部下に対して、上司が激高し叱責してしまったが、今回は違う。うまくフィードバックすることができた。果たして何が良かったのだろうか。中原氏は、ポイントを三つ挙げた。

「一つ目は、行動レベルにもっていくために、話題をなるべく具体的にしたこと。二つ目は、『それについてはどう思う?』といった質問をするなど、成長のための鏡を提供したこと。三つ目は、ファーストハードをなるべく低くしたこと。言いたいことを言うだけでなく、最後はサポートすることが重要です」

フィードバックのロールプレイングを体験

フィードバックの3ステップを理解したところで、中原氏は参加者に演習として7分間のロールプレイングを課した。事例は上司用と部下用でシナリオが分かれている。参加者が二人一組で、どちらかの役割を演じるという試みだ。テーマは、入社6年目の女性社員にいかに奮起を促すか。ワーキングマザーが仕事と家庭の両立がうまくいっていない、という設定だ。上司役は部下に状況を伝えることで、いかに立て直しを図るか。部下役は、精一杯頑張っていることを伝えるとともに、どう現状を変えていくかが論点となってくる。

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「とにかく、やってみなければどこが難しいのか、課題が何なのかが分かりません。併せて、気を付けてほしいことがあります。面談の場面では、腕を組むのをやめましょう。また、下を向きがちなので相手の目を見て話してください」

演習後、中原氏はフィードバックonフィードバックの重要性について触れた。フィードバックはフィードバックされ、振り返ることで上達する。そこで、参加者に実際にフィードバックonフィードバックを体験してもった。

「上司役の方は、フィードバックをやってみた感想を話してみましょう。部下役の方は、フィードバックを受けて、どのようなことを感じたのかを話してください。良かったこと、違和感があったこと、フィードバックを受け入れられそうであるかなど、いろいろとあると思います。最後に、どうしたらもっと良いフィードバックになるかを話し合ってみましょう」

この日は講演時間が限られていたためにできなかったが、本来は上司役・部下役が交替したり、ハードルを上げたりするという。

「今日はあくまでも予行演習です。観察すること、フィードバックを行う前に脳内で予行練習をすること、そしてたとえ嫌われたとしても、部下に言うべきことを言うこと。それがマネジャーの仕事として大切であることを、理解してください」

中原氏は、フィードバックは学習が最も困難な領域だと言う。「ブラックボックス化」されているからだ。実際、多くの人々は見よう見まねでやっているか、自分がこれまでに受けたフィードバックを再生産しているに過ぎない。

「マネジャーになる人には、しっかりとフィードバックを学ぶ機会を設けるべきです。これから、仕事人生は長期化していきます。また、人手不足もあって、多様な人々に働いてもらわなくてはならない。そうしたなかで、フィードバックは絶対に必要なスキルなのです」

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