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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2017-秋-」講演レポート・動画 >  大ホール [TH-1] 戦略人事・タレントマネジメントをどのように推進すればいいのか ~…

戦略人事・タレントマネジメントをどのように推進すればいいのか
~グローバル企業のテクノロジー活用事例~

<協賛:ワークデイ株式会社>
  • 藤間 美樹氏(武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBPコーポレートヘッド)
  • 杉原 章郎氏(楽天株式会社 常務執行役員 人事・総務担当役員)
  • 守島 基博氏(学習院大学 経済学部経営学科 教授)
Technology大ホール [TH-1]2017.12.26 掲載
ワークデイ株式会社講演写真

武田薬品工業と楽天では、グローバル化を急速に進める上で、経営戦略と連動した戦略人事、特にタレントマネジメントに取り組んでいる。本セッションでは、その旗振り役を務める、武田薬品工業の藤間氏と楽天の杉原氏が登壇。人材マネジメント論の第一人者である、学習院大学・守島氏の司会で、どのような考えの下、戦略人事やタレントマネジメントに取り組んでいるのか、そのなかでどのようにテクノロジーを活用しているのかについてディスカッションが行われた。

プロフィール
藤間 美樹氏( 武田薬品工業株式会社 グローバルHR グローバルHRBPコーポレートヘッド)
藤間 美樹 プロフィール写真

(ふじま みき)1961年大阪生まれ。神戸大学農学部卒業。1985年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)に入社、営業、労働組合、人事、事業企画を経験。人事部では米国駐在を含め主に海外人事を担当。2005年にバイエルメディカルに人事総務部長として入社、2007年に武田薬品工業に入社。海外人事を中心にCMC HRビジネスパートナー部長などを歴任し、現在は本社部門の戦略的人事ビジネスパートナーをグローバルに統括するグローバルHRBPコーポレートヘッドの任務に従事。M&Aは米国と欧州の海外案件を中心に10件以上経験し、米国駐在は3回、計6年となる。武田薬品工業のグローバル化の流れを日米欧の3大拠点で経験し、グローバルに通用する人材像とその育成を探求。人と組織の活性化研究会「APO研」メンバー。


杉原 章郎氏( 楽天株式会社 常務執行役員 人事・総務担当役員)
杉原 章郎 プロフィール写真

(すぎはら あきお)1969年生まれ。96年に慶応義塾大学大学院・政策メディア研究科修士課程修了時にITベンチャー会社設立。 97年に楽天の創業メンバーとして参画し、「楽天市場」の出店営業部門を担当。その後、楽天市場以外の事業を複数立ち上げる。取締役新規事業開発部長、楽天オークション部長、楽天ブックス社長、システム開発部門担当役員などを経て、現在は、人事・総務部門担当役員。


守島 基博氏( 学習院大学 経済学部経営学科 教授)
守島 基博 プロフィール写真

(もりしま もとひろ)人材論・人材マネジメント論専攻。1980年慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会研究科社会学専攻修士課程修了。86年米国イリノイ大学産業 労使関係研究所博士課程修了。組織行動論・人的資源論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授、2001年一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年4月より現職。主な著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』『21世紀の“戦略型”人事部』『人事と法の対話』などがある。


守島氏によるイントロダクション:
戦略人事とは何か。なぜタレントマネジメントに関心が集まるのか

講演写真

「HR Technologyカンファレンス2017」の幕開けとなった本セッション。口火を切ったのはセッションの司会を務めた守島氏で、まず「戦略人事」の定義づけが行われた。

「戦略人事とは、ビジネスの変化に合わせて必要な人材像を明らかにし、企業の内部・外部から求める人材を探し出し、人材と仕事とをマッチングし、人材の成長を支援するとともにリテンションしながら、経営目的を達成する人材を供給すること。経営目的が達成されてはじめて、人事の仕事が完成したことになります」

戦略人事に求められる業務は、どんどん複雑化しているという。

「グローバル化や新たな成長戦略、M&A、働き方改革など、さまざまな変化が同時並行で起こっています。人材もビジネスも多様化し、時間的な余裕もない。その中で、人事は仕事の高度化を求められている。そこで役に立つのがテクノロジーです」

テクノロジーを活用すれば膨大なビッグデータを効率的に処理することができる。その結果、これまではわかりにくかった現象や関係の把握・予測が可能になるのだ。守島氏は、「可能になる」ものとして「離職危機にある人材の把握」「職務経験の質と人材の成長との関係性の分析」「コミュニケーションの活性化と満足度把握によるエンゲージメントの向上」「人材の配置・エンゲージメントと部門業績の関係の分析」「採用面接の質と採用者の質との関係性の把握」などを挙げた。

また、テクノロジーは、経営への貢献が見えにくかった人事の存在感を高め、これまで勘や経験に頼ってきた人事に関する議論を、科学的な根拠を伴うものにする効果があると言う。

「ただ、人事自体が古い世界でやってきたこともあり、導入までの障壁や抵抗も大きいことでしょう。このセッションでは藤間さん、杉原さんのお二人から、HRテクノロジーによってどう戦略人事が可能になったのか、それまでにはどんな苦労があったのか、この二点をお聞きしたいと思います」

細かい機能についてではなく、「HRテクノロジーは人事をどう変えるか」をテーマとすることを確認して、セッションは各社のプレゼンテーションへと移った。

藤間氏によるプレゼンテーション:
武田薬品工業のテクノロジー活用事例・経営に資する戦略人事がすべきこと

講演写真

藤間氏がまず語ったのは、武田薬品工業がテクノロジーを必要とした背景だった。

「当社は、世界70ヵ国でビジネスを展開しています。海外進出を開始したのは1962年ですが、ビジネスの方向性が大きく変わったのは2008年。グローバル市場で本格的に勝負していくために、海外でのM&Aを積極的に手がけはじめたのです。当然、グローバルなビジネスに携わることができる人材が必要になり、そのために人事も変化を求められました」

同社の2016年度の売上は、国内4816億円に対して米国5162億円。また、欧州やその他地域も急速に伸びており、全世界に占める日本市場のシェアは3割以下だ。フランス人のクリストフ・ウェバー社長を筆頭に、14人いるエグゼクティブチーム(経営陣)のうち日本人は3人のみとなっている。

「グローバルHRオフィサーもイギリス人です。毎年、世界中のHRのリーダー約100人が集まって会議を行いますが、そこでも日本人は15人ほど。日本企業の人事というよりグローバル企業のHRといっていいと思います。意思決定のスピードも、従来の日本の当社で行っていた人事よりも5倍は速くなっています」

同社のグローバルHRは、評価、報酬、人材開発、採用などを手がけるコア部分と各事業部門のビジネスパートナーになる部分に分かれている。コアの主な役割は「人材」だ。そして、世界中の人材を把握するタレントマネジメントでは、ツールとしてクラウド型人事ソリューションの「ワークデイ」を導入している。2018年からは、採用分野もワークデイで統一される予定だ。

「当社が今、最も力を入れているのは将来の経営を担うリーダーの発掘・育成。その目的のためにテクノロジーを活用しています。具体的には世界70ヵ国の組織でデータベースを統一し、そこから人材を発掘し育成しています」

藤間氏はここでグローバルの全従業員を三層に分け、その中からタレントマネジメントシステムを使ってリーダー候補を抽出している現状を説明した。

「リーダー研修で強調しているのは『風土』です。なぜなら、企業の風土はビジネス成果の3~4割を決め、その風土にリーダーシップは7割影響すると言われているからです」

新しい技術やツールを導入しても、それを活用できる組織風土がなければ、ツールは機能しない。その例として藤間氏が挙げたエピソードは、非常に興味深いものだった。それはまさに、この日のテーマでもあるタレントマネジメントシステムに関するものだったからだ。

「弊社ではワークデイへの経歴やスキルなどの入力は従業員が自分で行い、全社に公開しリンクトインのように活用しています。データが多くなればなるほど、現場のマネジャーが欲しい人材をすぐ見つけることができるようになり、同時に、個人としても目指すポジションやキャリアを意識して自分でデータを発信できます。その際に、海外の人は自分を売り込むのが当然であるため、積極的に入力しますが、日本人は『おこがましい』という感覚があるのか、入力する人が少ない。そこに大きな意識の差を感じます」

経営に貢献する人事をテーマにテクノロジーを導入しても、それを使いこなせるかどうかは人と風土にかかっている。とりわけ日本と海外では大きな差がある。それを意識して埋めなくてはならない。藤間氏はそうまとめてプレゼンテーションを締めくくった。

杉原氏によるプレゼンテーション:
楽天の戦略を支えるグローバルでのタレントマネジメント強化

講演写真

1997年に創業した楽天は、20年間で流通総額10兆円以上、従業員数約1万5000人の大きな組織に成長した。もともとはEコマースのプラットホームとしてスタートしたが、金融やコンテンツビジネスにも事業を拡張し、現在はシェアリングエコノミー分野への展開も視野に入れている。次々と新しい分野に取り組む同社のキーワードは「イノベーション」だ。

「現代は一つの事業で企業を支えられる期間、いわゆるビジネスの寿命がどんどん短くなっています。そのため、当社では社内にイノベーションを起こす人材を増やし、『グローバル・イノベーション・カンパニー』になることを経営戦略として掲げています」

社内でイノベーションを可能にする人材を杉原氏は「イントラプレナー」と呼んでいる。アントレプレナーの社内版という意味だ。

「人事の仕事は、そのような人材が楽しく働き、成長を実感できる環境をつくること。それはコラボレーションしやすい環境であり、同時にリラックスできる環境でもあります。社内だけでなく社外とつながりやすいことも不可欠です。会社の内外というボーダーラインは重要ではありません。転職も出戻りもあっていい。イノベーションのために必要なことはすべて行う、という考えが基盤になっています」

「変化している世界の中で、生き残れるのは変化できるものである」。こうした発想によって組み立てられた楽天の人事施策の数々が紹介された。では、こうした同社のダイナミックな人事を可能にしているHR テクノロジーは、どのようなものなのか。杉原氏は、「外部に公表するのはおそらく初めて」という楽天グループのシステムの導入状況を発表した。

「国内35社、南北アメリカ21社、EUおよびアジア43社のグループが世界に展開しています。現在はリージョンごとの統合を進めている段階。採用に関してはグローバルで一つのプラットホームがようやく動き出したところです。アメリカでエントリーされた人材のデータを、日本でもアジアでも閲覧することができる。必要なら採用することも可能です。次は、コア業務に関してもワークデイに切り替えていきます」

ワークデイの選定から導入までは1年以上かけたという。現在はUSリージョンのみで立ち上げていて、順次世界中の組織に展開していく予定だ。タレントマネジメントをはじめとするコア業務は統一するが、逆に給与のように国によって法令・制度が異なる部分は、それぞれローカルで対応していく。

「会社が新しいステージに入っていくためには、とにかくグループ全体から最適人材を集めることが不可欠。個人の強さと組織の強さ、どちらも伸ばしていかなくてはなりません。そのためには統合されたシステムが必要で、さまざまなすり合わせを苦労して行っているところです」

そう語った杉原氏は、会場に集まった参加者に対して「皆さんの会社と同じ課題に一歩、いや半歩だけ早くぶつかっているところ」と話した。HRテクノロジーの導入の必要性とそのための地道な取り組みの重要性が、多くの参加者に伝わったようだった。

ディスカッション:
HRテクノロジーで人事はどう変わるか

終盤は三者によるパネルセッションが行われた。守島氏が質問役になり、藤間氏、杉原氏がそれぞれ自社の事例を踏まえながら回答する形式で進められた。

講演写真

守島:昔は人事部長が全社員のデータを頭に入れている、といった企業も多かったように思います。それが今後はデータベースに置き換わることになるのですが、抵抗はありませんでしたか。

藤間:新たなプロジェクトに必要な人材をどのように調達するかという問題は、人事が集まって話し合っても対応できない領域に入っています。もうシステム的に管理するしかないのです。データを個人が自ら入力し、発信する。そのほうが人事が集めたデータよりも新しく、タイムリーです。同じ課題は、日本だけでなく各国の人事も抱えていました。そのため、グローバルでデータベースを統合するという話が進んでいるともいえます。

杉原:やはり抵抗する人はいました。しかし、戦略人事が重要なので、事業がわかる人(現場のマネジャー)が人材マネジメントも行う、という考え方を理解してもらう方向に持っていきました。

守島:HRテクノロジー導入後の人事のあり方をどう考えていますか。

藤間:これまで人が細かくやっていた部分をテクノロジーに置き換えて、手が空いた人事は戦略ありきで動くようになります。

杉原:テクノロジーを導入していくと、究極的には人事の仕事がなくなっていくように思います。そのため、人事は人でしかできない仕事に注力していかなくてはなりません。システムを導入しても、人が介在しないとうまく回りません。システム自体も進化しているが、人が加わることでさらに良いサービスができる部分もあります。

守島:テクノロジー活用に当たって注意すべき点があれば、教えてください。

藤間:データをとにかくたくさん入力すること。タレントマネジメントもAIと同じで、データがたくさん入ってないとうまく動きません。

杉原:システム導入自体が目的ではない、ということです。導入は通過点で、その先に「何をしたいのか」が必ずあるはず。われわれも、節目ごとに何が目的だったかを再確認しながら進めています。

守島:ありがとうございました。本日の議論をまとめた上で、さらに私の意見を付け加えると、三点に集約されます。一つは、現場のマネジャーが意思決定を可能にする状況をつくることが、戦略人事の第一歩であるということ。その実現こそがHR テクノロジー導入の目的である、ということです。二つ目は、まず多くのデータを集めることが重要。その際には、絞り込まずに「何でもいい」くらいの感覚で集めたほうがよいということです。三つ目は、現場のマネジャーがビジネスを回して経営目標を達成していく、それをサポートするのが人事の仕事で、人事はサポートファンクションだということです。

HRテクノロジーを使えば、人事はエビデンス(データ)に基づいた議論ができるようになります。それは人事の力が向上するということであり、経営から「人事のおかげでいい意思決定ができるようになった」と喜ばれるようになるべきです。それを可能にするツールが目の前に現れてきた時代なのです。

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本講演企業

未来にあるべき企業人事の姿を見据え、クラウド化による恩恵をユーザー企業が最大限享受できるよう開発されたクラウド型人事ソリューションWorkdayHCM(ヒューマン キャピタルマネジメント)」を提供しています。 日産自動車や日立製作所、東京エレクトロンなど日本を代表するグローバル企業への導入も進んでいます。

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