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経営の原点としての人事――野村證券の事例から“社員が力を発揮できる仕組み”を考える

  • 古賀 信行氏(野村ホールディングス株式会社 取締役会長/野村證券株式会社 取締役会長)
  • 楠木 建氏(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授)
2016.07.08 掲載
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経営とは、「先を読み、決断し、実行する」ことだと言われる。その際、人材と組織がなければ経営は成立しない。社員が経営に貢献するには、どんな仕組みが必要なのか。人事はそのために、何をすればいいのか――。長年にわたり人事業務に携わってきた野村證券会長の古賀信行氏と、一橋大学大学院教授の楠木建氏が、ディスカッションを行った。

プロフィール
古賀 信行氏( 野村ホールディングス株式会社 取締役会長/野村證券株式会社 取締役会長)
古賀 信行 プロフィール写真

(こが のぶゆき)1974年東京大学法学部卒業後、野村證券株式会社(現、野村ホールディングス株式会社)入社。人事、企画などの業務に従事した後、1995年取締役就任。常務取締役、取締役副社長、野村ホールディングス取締役副社長兼COOを経て、2003年野村ホールディングス取締役社長兼CEO、野村證券取締役社長就任。2008年野村證券会長就任。2011年から現職。2014年より一般社団法人日本経済団体連合会副会長も務める。


楠木 建氏( 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授)
楠木 建 プロフィール写真

(くすのき けん)1964年東京生まれ。専攻は競争戦略とイノベーション。企業が競争優位を構築する論理について研究している。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。1997年から 2000 年まで一橋大学イノベーション研究センター助教授を兼任。1994-1995年と2002年、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授を兼任。著書として『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、『経営センスの論理』(2013、新潮社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください――たった一つの「仕事」の原則』(2015、ダイヤモンド社)などがある。


古賀氏によるプレゼンテーション:企業を強くする人事とは

古賀氏は「人事とは何か」と、参加者に問いかけた。「人が持つ特性をよく理解し、人のことについて考え続けることによって、より鮮明に人がわかるようになります。そういった動作を繰り返し行うことが、人事の仕事です」

続いて古賀氏は「人はなぜ働くのか」と問いかける。ここで紹介されたのは、チョークのメーカーである日本理化学工業の大山泰弘会長の言葉だ。大山会長は、会社近くの養護学校の教諭から、重度の障がい者を数名雇ってほしいと頼まれ、最初は断ったものの、何度も頼まれたので、仕方なく二人を雇うことにした。入社しても二人は仕事がうまくできず、叱られることが多かった。しかし、二人は何度叱られても、毎日会社に出てきたという。

「毎日わざわざ叱られに来なくても、食べるに困らない支援は受けているはず。それでもなぜ毎日会社に来るのだろうかと、大山氏は不思議に思ったそうです。そんなとき、禅の僧侶から『あなたは恵まれているのでわからないかもしれませんが、人間の喜びというのは、そんなに多くはないのです』と言われたそうです。その喜びとは『人に愛されること』『人にほめられること』『人の役に立つこと』『人から必要とされること』の四つでした。仕事をしていれば、『人に愛されること』以外は満たすことが出来る。だからこそ、人は働くのです」

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制度・仕組みがあるだけでは、人はイキイキと働くことができない。古賀氏はその背景にそれぞれの個人をしっかりと見る、見守る風土がビルトインされていないと、無意味になりかねないと語る。「私もよく陥りましたが、会社は優れた人ばかりを高く評価しようとします。しかし、組織全体でいえば、優れた人は放っておいても育ちますので面倒を見なくてもいいと思います。ダメだと言われている人こそ、その人の良いところを探してあげる。すると、不思議なものでダメだとされていた人たちが、ちょっとした気付きをきっかけに頑張るようになります。このような会社の底力を上げる動きが、組織全体に必要だと思います」

次に古賀氏は、人事と時代との関係について語った。時代によって、人事のやるべきことは変わる。高度経済成長期は、人事がやること・やるべきことがはっきりしていた。当時は、量を増やすことが収益へ直結することがわかっていたからである。そのような状況で一番強いのは、日本人・男性・大卒・新卒を採用し、彼らを正規軍と位置付けた金太郎飴型の画一的な人事だった。

「しかし現在は、人事が行わなければいけないことが日々、大きく変わっています。弊社の例でいえば、かつては株式の取扱量が増えると、手数料が増えて、利益につながるという図式でした。しかし今は、手数料が自由化され、ただ株式の取引量を増やす営業を行うことはリスクにつながる時代になりました。顧客のニーズが多様化する現代において、取引量を増やせばいいという考えではやっていけません。このような変化に、人事も対応していかなければならないのです」

古賀氏は、どのような企業が強くなっていくのか、自身の考え方を述べた。「企業は、時代背景にあわせ、単一的な運営から脱し、多様化しなければなりません。他社とは異なる要素を持つことが、企業の競争力の源泉となるのです」

最後に古賀氏は、これから注力すべき三つの分野として、女性、外国人、シニアを挙げた。「この三つの分野に属する人たちを、企業のど真ん中で活用できる会社が、これからの本当に強い企業だと思います」

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ディスカッション:一丸になれると同時に、違いも許容する組織へ

楠木:以前の野村證券には、非常にアグレッシブな人材が多いイメージがありました。それが競争力の源泉だったと思います。でも今は、昭和の頃のイメージとはずいぶん違っているように感じています。

古賀:昭和の時代の野村證券は、一丸になるという要素が非常に強い会社でした。また、それを是としていたので、皆が同じ行動・言動を取ろうとしていました。しかし、違う要素を許容しようという姿勢も少しはあったと思います。猪突猛進の人材ばかりではなく、人に会うことが好きではない、まったく違うタイプの人も役員にいました。現在はさらに多様化が進んでいますから、もっと個人の特性を引き出さなければいけない。最近は「草食系」が増えて、ガツガツした人は減ったと言われますが、これについて憂いていても仕方がありません。そこでどんな工夫をするかが重要になってきます。私が思う多様性とは、「軸はあるけれども、それとは違う要素も許容する」ということです。そういった風土は以前から野村にありますが、さらに強くなっていけばいいと思っています。多様性から新たなベクトルが生まれると、会社はもっと面白くなります。

楠木:一丸になるのは、組織にとって大変よいことですね。例えば駅にいる人たちを見ると、若者、シニア、外国人と多様ですが、その人たちで会社を作ってもうまくいきそうにありません。極端な例ですが、ここに多様性の落とし穴があると思います。先ほど古賀さんがおっしゃった、女性や外国人、シニア。その人たちがそもそも持っている良い部分が、十分に活用されなければならない。未利用な資源として隠れているものを引き出すことに、意味があるわけです。

もともと一人ひとりは違ったものを持っているわけですから、それを引き出していけば、いくらでも多様性というのは確保できるわけです。しかし、「女性の比率を何%にしなければいけない」「組織に多様性を組み込まなければいけない」という考え方は、「組織とは一様なものだから、多様性を組み込まなければいけない」ということが前提になっています。そこに大きな間違いがあると思います。先ほどの話に戻りますが、野村證券では時代が変わっても、一人ひとりから違ったものを引き出し続けてきたのではないでしょうか。

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古賀:女性、外国人、シニアがほどよい比率になれば、いい会社になるということではないと思います。むしろ、そういう人材をど真ん中に置いたら、企業は変わるかもしれない、ということです。だから、やる価値があるのです。例えば、シニア人材の中には「もっと働ける」という人が大勢いますが、その全員を希望にあわせて登用していると企業は老齢化するばかりで、次の世代にバトンを渡すことができない。ここにジレンマが生まれます。そうではない形で活躍の余地を広げ、企業の根幹にかかわる部分をシニア人材に支えてもらうことができたら、今までにない企業が生まれるはずです。多様化では、いろいろな考え方や主張を受容する部分と、そこを広げる努力が必要だと思います。

ディスカッション:今後求められるのは、人間の本質を捉える人事

楠木:組織の中での多様性ばかりが問題にされがちですが、企業の多様性はどうでしょうか。これは私の「好み」の話になりますが、現在の成熟した日本では「一人ひとりの生活を大切に」と言っている企業もあれば、ブラック企業までいくと問題ですが、「うちはガンガン行くよ」という企業があってもいいのではないかと思います。もっといろいろな企業があったほうが、ダイナミズムがあります。特に証券業界は、グローバルスタンダードが強く働いていますが、そういう中にあって、野村證券はどのような方向に進むべきだとお考えですか。

古賀:ある程度きついことをしなければ、企業も個人もハードルを越えることができません。厳しさを知ることをビルトインしていない企業が伸びる余地は、正直少ないと思います。

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楠木:会社側が社員を理解する、認める、力を引き出す。そういうことが必要だとしても、会社はあらゆる人を受け入れる必要はないわけで、「ターゲット従業員」といったものを持つべきだと思います。昔の野村證券は、そのターゲットがはっきりしていたと思いますが、今のターゲットはどんなところにありますか。

古賀:ターゲットではないですが、人は企業に勤めることで、その企業に染まり、ありようが変わると考えています。やはり、その企業にいることで鍛錬されていく部分があると思います。会社が社員へ与える影響は強いということを、人事は常に考えておかなければいけません。

楠木:人というのは、一番可変的な資源だと思いますね。人を活かす経営をしていれば、その人の価値は5倍にも10倍にもなる。これが人事の根幹にあると思います。古賀さんご自身のキャリアの中で、働き方が大きく変わったと感じたことはありましたか。

古賀:自分が良いことをしたと思っても、実際に成果が出ていないと、「よくやった」とは言われません。その仕事の価値も、仕事の途中ではなかなか気付いてもらえない。だから、自分は頑張ったけど成功しなかった時に、その過程を評価してくれる人がいれば、モチベーションが上がります。私にとっては、そんな評価を受けたときの経験が大変有効でした。

楠木:今日の古賀さんのお話にあったように、人事の皆さまには、これからは人間の本質を捉えた人事制度を設計していただきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

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