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いま改めて考える、従業員のモチベーションを向上させる人事戦略

  • 島田 由香氏(ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
  • 有沢 正人氏(カゴメ株式会社 執行役員経営企画本部 人事部長)
  • 大竹 文雄氏(大阪大学 社会経済研究所 教授)
2016.07.05 掲載
講演写真

経営環境が目まぐるしく変わっている昨今、会社の業績を向上させるために、従業員のモチベーションを高めることが非常に重要なテーマとなってきている。モチベーションを高めるには、どのような人事戦略を考えていけば良いのだろうか。ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの島田由香氏とカゴメの有沢正人氏の両氏が、人事責任者としての現場経験を基に、大阪大学の大竹文雄氏が、行動経済学の立場から議論を展開させた。

プロフィール
島田 由香氏( ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長)
島田 由香 プロフィール写真

(しまだ ゆか)1996年慶応義塾大学卒業後、日系人材ベンチャーに入社。2000年コロンビア大学大学院留学。2002年組織心理学修士取得、米系大手複合企業入社。2008年ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て2013年4月取締役人事本部長就任。その後2014年4月取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。小学6年生の息子を持つ一児の母親。米国NLP協会マスタープラクティショナー。


有沢 正人氏( カゴメ株式会社 執行役員経営企画本部 人事部長)
有沢 正人 プロフィール写真

(ありさわ まさと)1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグ ループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任 グローバルサクセッションプランの導入等を通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員とし て入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。


大竹 文雄氏( 大阪大学 社会経済研究所 教授)
大竹 文雄 プロフィール写真

(おおたけ ふみお)1983年京都大学経済学部卒業後、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。大阪府立大学経済学部講師などを経て、2001年より現職。2013年~2015年大阪大学理事・副学長。専門は労働経済学・行動経済学。博士(経済学)。2008年『日本の不平等』(日本経済新聞社)で日本学士院賞受賞。主な著書に『経済学のセンスを磨く』日本経済新聞出版社、『最低賃金改革 日本の働き方をいかに変えるか』(日本評論社、川口大司・鶴光太郎との共編著)、『競争と公平感』(中公新書)など。


モチベーションは上がるもの、国による差はない

最初に、大竹氏から「もともとモチベーションに非常に関心があったという島田さんには、モチベーションを向上させていくノウハウについて聞きたい」と投げかけがあり、ディスカッションが始まった。

島田:モチベーションについての持論は二つあります。一つは「上げるものではなくて、上がるものであること」、二つ目は「上がるための作用は自分にしかできず、ほかの人には上げられないこと」です。ポイントとしては、モチベーションとは内側からわき出てくるものであって、そのときの感覚は本人が何かしら覚えているでしょうから、それが何かを見つけていくことだと思っています。重要なのは「好きなものは何か」「ワクワクするものは何か」です。

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大竹:次に、全世界共通の人事制度の構築に尽力された有沢さんには、その難しさと克服法について伺いたいです。

有沢:「国ごとにモチベーションの向上策は違うのですか」という質問を時々受けますが、経験上、違わないと思います。違うとしたら、経営層と従業員のモチベーションの上げ方です。経営層に対しては、現地のローカルをトップにすること。そのためには現地の人材を引き上げる仕組みをきちんと提示してあげることが大事です。従業員に対しては、とにかく、日本から実際に会いに行くこと。「日本本社の人事部はちゃんと我々を見てくれているんだ」と分かってもらうことで大きな効果があります。それから、全世界共通の評価制度を作ることも必要だと考えます。

大竹:モチベーションはわき出てくるものであって、他人が引き出すものではないから、という意味で、島田さんは「好きなもの」「ワクワクするもの」というキーワードを挙げられたのでしょうか。

島田:引き出すものでないと言うと、少し語弊があるかもしれません。本人の中に必ず本気になる種があると私は信じていて、それが仕事の中で感じられるかどうかを人事やマネジャーはきちんと見ていくべきです。その時、モチベーションが下がらないように心掛けるとか、その人がどんなことでスイッチが入って上がるのかを知る、という意味で、他人が引き出すという視点も大事だと思っています。

大竹:島田さんがおっしゃったようなことは、どの国でも同じなのでしょうか。

有沢:基本的には変わらないと思います。モチベーションに影響するものとしては、金銭的なインセンティブがありますが、もう一つ、非金銭的なインセンティブのほうが大事だと考えています。例えば、キャリアパスに対する考え方をより引き出せば、よりモチベーションは上がります。その考え方や仕組みは、日本と海外では同じです。ただし、職階によってモチベーションの上げ方が違うということは、これまでの経験から感じていますね。

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大竹:有沢さんが最初に「実際に会いにいくのが大事」とおっしゃったことは、わき出てくるモチベーションと関係があるように思いますが、島田さん、いかがでしょうか。

島田:とても大事だと思います。従業員の表情やたたずまいからも日々の変化が分かりますし、それをどう感じ取れるのかは重要です。また、行動からその人のモチベーションの高低が推し量れます。行動の裏には感情があり、感情の裏にはニーズがあるという、この三層を心に留めておくと行動の捉え方が変わります。例えば、ワーッと反論してきた人がいたなら、その裏にあるのは怒りかもしれないし落胆かもしれません。ですから、会って、行動・感情・ニーズをひも解いていくといいと思っています。

非金銭的インセンティブと金銭的インセンティブ

非金銭的なインセンティブは、最近の行動経済学で非常に重視されているという。非金銭的なインセンティブについて話を進める前に、大竹氏は金銭的インセンティブが持つ三つの代表的な問題点を紹介した。

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大竹:一つは、成果と金銭の関係を強くしすぎると、自分以外の要因で成果が変動したときに、給料のリスクが大きいのでやる気が下がってしまうことです。二つ目は、全ての成果が数値化できないと、数値化できない仕事には手を抜いてしまうこと。三つ目は、前期比という成果の指標を採ると、成果を多く上げられるときでもわざと力をセーブしてしまうことです。このような問題に対してどう対処していますか。

有沢:最近、中途入社の採用面接をしていてよく感じるのは、応募者に希望条件を聞いた時に「私にはこのような仕事を求められていますが、次はどういうことを望まれますか」と報酬面以外の質問をされることです。これは、非金銭的なインセンティブであるキャリアパスが金銭的インセンティブよりも重視されていることの表れだと思います。ですから、キャリアパスを本人が選べるようにするのは一つの方法です。私は銀行員時代に、基本的に処遇が変わらないようにして、ゼネラリストかスペシャリストかを選べる制度に変えました。非金銭的インセンティブの中で一番分かりやすいのがキャリアパスですから、そのためのテーラーメード型の仕組み作りは非常に有効だと思います。

島田:同感です。社員に簡単なリサーチをしたところ、モチベーションが上がる時はいつかと聞くと、「好きなことをやっているとき」「ワクワクするとき」「自分の強みが生かせているとき」「結果が出ているとき」「感謝されるとき」「認められるとき」「何かを作り出しているとき」といった回答でした。これはさきほど申し上げたニーズになると思います。一方、やる気が削がれるときを聞くと、それらの逆でした。ニーズが満たされない時にモチベーションが下がるということです。自分の仕事の意義や、仕事が会社や社会にもたらす効果が腹落ちしてきている人には、モチベーションの高い人が多いですね。

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大竹:自分の仕事の意味、会社での意味、社会的な意味の認識がモチベーションを引き起こすというのはおっしゃる通りで、行動経済学でも複数の実験があります。例えば、データ入力の仕事を頼むときに仕事の重要性を伝えた場合と、伝えなかった場合では、前者のほうが生産性が高いという結果が出ました。ところが、非金銭的インセンティブで十分に頑張っている人に、さらに金銭的インセンティブを加えても生産性は上がりませんでした。従って、頑張っている人を手当やボーナスで優遇する制度は、逆効果になるのではないかという実験結果となりました。お二人はどう思われますか。

島田:弊社では成果に対して賞与で報いることを明言していますので、それが励みとなり頑張っている人もいますが、「会社が成長しているのを見ることが喜びだ」「そこに向かって一丸となってやることに誇りを感じる」という人もいます。ですから、両タイプあると思います。頑張っているという表現で注意したいのは、やる気があるだけではダメだということです。会社側が求めたり、期待している結果につなげる力がある人なのか、きちんと見ていく仕組み作りも大事です。

有沢:伝統的な日本企業も外資企業も、基本的には短期の業績については賞与で報いる考え方だと思います。弊社では、頑張った人は上位の職務に移れるといった職務等級制度においてもインセンティブが働いています。上位に移ると給料も上がりますが、それよりも難しい仕事を任せてもらえるという自己実現性の方が大きいと感じています。ですから、お金だけではなくて職位や職務でも報いるようにして、次のステップも用意しておく仕組みが、モチベーションには重要だと思います。

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大竹:要するに、うまくやれば非金銭的なインセンティブと金銭的なインセンティブが代替的にならないということだと思います。最近の有名な実験で、報酬をそのままお金で渡したチームと折り紙で包んでお金を渡したチームを比較すると、折り紙に包んで渡したほうが、努力水準が高まったという結果があります。雇う側が感謝の気持ちをうまく伝えるとモチベーションが高まるというわけです。この実験結果と今の有沢さんのお話は似ていますね。

「損失回避」を人事の現場に生かす方法

大竹氏は次に、「行動経済学で知られている『損失回避』を活用して、従業員のモチベーションを上げることができるのか、『損失回避』を現場で活用することができるのか」を島田氏と有沢氏に問いかけ、議論を進めていった。

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大竹:最後に、行動経済学でよく知られている損失回避についてご意見を伺いたいと思います。損失回避とは、人間が得をしたときと損をしたときのうれしさと悲しさを考えると、損をした悲しさのほうが大きく残るという現象です。頑張ったら1万円あげるのと、先に1万円をあげて成績が下がったら没収するのでは、後者のほうが辛いので、それを避けようとしてモチベーションが高まるという研究結果もあります。これは現場で使えるでしょうか。

島田:使えますね。一つ上の役職に挑戦させたいけど、もう一歩という従業員がいたときに、その人に対して一度、責任・役職・給与・ボーナスを上げて、もしダメだったら元に戻すようにしたらいいと思いました。

有沢:私も同じですね。職務等級制度も基本的に同じ考えで、職務等級を上げることにはその人への期待度もあるわけです。その職務が全うできなかった場合、職務等級が降格しますが、チャンスがなくなるわけではありません。降格や昇格がフレキシブルに運用できることを大前提にすれば、損失回避という考え方はとても面白いと思います。ワークプレイスラーニングという考えも同じだと思います。働く場というチャンスを与えて、本人につかみ取ってもらおうというものですからね。

島田:従業員にチャンスを提供しないのは「チャンスを生かせないのではないか」と心配しているからで、チャンスを提供するときには「チャンスを生かせる」と信頼しているからです。その判断は、人事やマネジャーの心掛け一つでできます。従業員側から見ると「信頼されているから頑張ろう」というモチベーションにもつながるはずです。

大竹:なるほど。経済学者は損失回避と言いますが、「チャレンジさせる」「信頼している」という言葉にすると現場でも十分に使えますね。経済学も、現場の言葉にうまく変えていくと実践的なものになると感じました。終わりに、今日の感想をお願いします。

有沢:仕組みの裏には必ず運用があります。仕組みを作っても運用できなければ意味がありません。ですから、モチベーションを上げるためには、人事による上手な運用が大事です。さらに、人事が従業員に対して仕組みを運用するのに加え、人事部門の中でもしっかり運用していくことが、社員にも伝わりますから、人事の皆さんの覚悟が必要だと思います。

島田:行動経済学の実験の話は非常に面白かったです。現場の人事業務にも使える理論が多いと思いました。最初に申し上げたように、その人のニーズを見ることが、人事としては一番できるところです。そして、人事自身がモチベーション高くあるとうまくいくのではないかと思っています。

大竹:今日はどうもありがとうございました。

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