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社員の“本気”を引き出す効果的手法とは~目標に強くコミットさせるために~

  • 野田 稔氏(明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 教授/一般社団法人社会人材学舎 塾長)
  • 中竹 竜二氏((公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター/U20日本代表ヘッドコーチ/株式会社TEAM BOX 代表取締役)
2016.01.05 掲載
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組織行動には、メンバーが目標に強くコミットすることが求められる。日々の活動の中で、リーダーはメンバーにいかに目標を意識させればいいのか。また、一体感を得るためには何をすればいいのか。明治大学大学院教授の野田稔氏と、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏が、社員を本気へと導く効果的な手法について熱く語りあった。

プロフィール
野田 稔氏( 明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 教授/一般社団法人社会人材学舎 塾長)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。大学院で学生の指導に当る一方、企業の組織開発分野を中心にコンサルティング実務にも注力。2013年に社会人材学舎を設立、ビジネスパーソンの能力発揮支援に取り組む。専門は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。著書に中竹氏にもご登場いただいた『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)をはじめ、『組織論再入門』、『中堅崩壊』(ともにダイヤモンド社)、『あなたは、今の仕事をするためだけに生まれてきたのですか』(共著:日本経済新聞出版社)、『当たり前の経営』(ダイヤモンド社)など。


中竹 竜二氏( (公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター/U20日本代表ヘッドコーチ/株式会社TEAM BOX 代表取締役)
中竹 竜二 プロフィール写真

(なかたけ りゅうじ)1973年、福岡県生まれ。早稲田大学入学後ラグビー蹴球部に入部。4年次には主将を務め全国大学選手権準優勝。卒業後渡英し、レスタ―大学大学院社会学 部修了。01年株式会社三菱総合研究所入社。06年早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、07年度から2年連続で全国大学選手権を制覇。10 年4月より日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任。現在、ラグビーU20日本代表ヘッドコーチを兼任。日本における「フォロワーシップ論」の提唱者のひとりとして、次世代リーダーの育成・教育や組織力強化、成人向けの学びの環境づくりに貢献。企業コンサルタントとしても活躍中。主な著書 に『自分で動ける部下の育て方—期待マネジメント入門』(ディスカヴァー新書)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP)など。


中竹竜二氏によるプレゼンテーション:メンバーを本気にさせる操縦術

中竹氏は日本ラグビーフットボール協会で、コーチを育成する「コーチングディレクター」を務める。プレゼンテーションは、2015年のラグビーワールドカップで、なぜ日本代表チームは好成績を収められたのかという話から始まった。

「『どうして勝てたのですか』という質問に対して、選手たちはみんな、ハードワークをあげていました。どれほどきつい練習をしたかというと、この4年間は、1日に4回もの練習をしたことが何度もあった。これは今のスポーツ科学からすると、ありえない回数です。しかし、ヘッドコーチのエディー・ジョーンズは実践させました」

エディー氏は「南アフリカに勝つ」という目標を掲げ、国際舞台で戦うためのマインドセットである「Japan Way」という指針を示した。最初はA4用紙8ページほどから始まったこの指針だが、最終的には戦略戦術を入れて150ページ近くになったという。「代表チームは、これをプレイブックとして大事に持っていました。目標というのは単なる数字や勝ち負けだけでなく、哲学や理念が大事なのだと思います」

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中竹氏は、4年間指導で行動を共にしたエディー氏が、何度も怒鳴るシーンを見てきた。それは「日本人はなぜ本気になれないのか」ということだった。「彼は何度も『本気じゃないことに気付いていない』と言いました。日本人はずっと働く、ずっとトレーニングする。それを良いことと思っていますが、彼は『本気だったら、長くできるはずはないだろう』と言うのです」

また、エディー氏は「勤勉性もいいが、今はそれに満足しているだけ。目の前のことに集中していない」とも語ったという。そしてもう一点、選手たちが暗黙の了解に甘え、言葉をきちんと使っていないことも欠点としてあげたそうだ。

「気持ちがあるのなら、きちんと言おうということです。そこでエディー氏は、悪しき習慣を良き習慣に変えようとしました。『多くの悪しき習慣は、無意識のうちに行われている。時間を守らないのもそうだ』と。練習が時間通りに始まっても、終わるのがバラバラではコンディションを崩します。これを良き習慣に変えることもトレーニングの一つです」

中竹氏は、「本気の定義とは何か」という問いに対して、エディー氏が大変よいことを言ってくれたと語る。「要するに正しい知識と正しい行動。それを信じることだと。人が言うから信じるのではなく、お前が信じられるものを考えろと。信じ切れるまで考え抜いたら、それは正しい知識に基づいた行動になるというのです」

最後に中竹氏は、リーダーがメンバーに目標を立てさせる5ヵ条について語った。それは、目標が「具体的であるか」「チャレンジングであるか」「ワクワク感があるか」「期限があるか」「そこに本人が決めたと言える主語があるか」だ。

「最終的に目標に共感できないと、本気を出せません。では、どうすればいいのか。目標共感は対話でしかできませんから、双方向で話をし、できるだけ言葉をシンプルにしていく。そしてワードを決めても、1回では伝わらないから何度でも伝えていく。そうすれば本気になることができます」

野田稔氏によるプレゼンテーション:社員の「本気」を削ぐ現状を変えよ

野田氏は始めに「私は、やる気という問題があまりにも軽く扱われ過ぎていると思います」と語った。多くの人が「モチベーションが高い」という状態は、実はテンションが高くなっているだけではないか。本気の“やる気”を引き出すには、自信や誇り、自己確信、自己信頼といった、いわゆる「腹落ち」をしっかり科学しなければならないと言う。

野田氏は「大変面白い本に出会った」と一冊の本を紹介した。ルイス・デビッド・マルケ著『Turn the Ship Around!』。米海軍の潜水艦艦長だったマルケ氏が、戦力外と言われた全米海軍でビリの成績の潜水艦乗りたちを、1年でトップチームへと変貌させた物語だ。

「まさにリーダーシップの変革でした。米海軍のリーダーシップは基本的に上意下達。それが、彼には非常に不愉快だったというのです。命令されればされるほど、自分のやることが誇りに思えなかった。自分で選び取っていないから、本気になれなかったと。そこで彼は『自分がそうだから、部下もそうなんじゃないか』と、現場への権限移譲を徹底的に行ったのです」

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最初は部下もとまどったようだが、野田氏はここに現在の私たちの関係性を見る。「私たちも、上に任せておけば安心と無責任になっていないでしょうか。責任を感じず、本気にもならない。ぬるいワークスタイルを取っていませんか」

野田氏が本書で一番特徴的だと感じたのは、自発性のあるモノの言い方を部下に指示したこと。上司から「○○をやれ」と言われる前に、自分がやることを宣言するクセを付けさせたのだ。「『艦長、これから私は○○をしようと思います。なぜなら〇〇と思うからです』と、行動内容とその理由も言わせるのです。艦長は『よし』とだけ言えばいい。あくまでも行動の主体者は部下本人であることを徹底的に刷り込んでいきました」

さらに、マルケ氏は組織としての腹落ちも重要との考えから「思ったことは全て口に出せ」と部下に指示した。例えば、舵取りする上官を見て「そろそろ右に舵を切った方がいいのに」と思っても、普通は口に出せない。でも、それを口に出せという。

「お互いに信頼関係があり、内容が正しければ『そうか』と気付いて右に舵を切るでしょう。そうでなければ『こういう意図があるから舵を切らないんだ』と言えばいい。たったこれだけのことなんですが、口に出すようにしたことで現場に自主自発が徹底されていきました」

これらの行動はリーダーの責任において始まる。メンバーを信じて覚悟をもって任せ、権限が移譲され、部下に「自分が決めるんだ」ということを徹底する。すると、任された部下に変化が起きる。

「任されたことで、『もしかしたら自分にできるかもしれない』と可能性が自覚されるのです。自分の可能性を信じることができた人だけが、誇りを持ち、自発的な努力を継続できるようになります」

野田氏は「任される内容がすなわち目標と言っていい」と語る。しかも可能性を感じられる目標。それを本人が周りから期待されることで信じられるようになり、自覚の中で自身の可能性が高まっていく。それが自発的な努力の継続につながる。「このような連鎖が、リーダーとメンバーの間に生まれない限り、本気を引き出すことは難しいのではないでしょうか。まさに『Turn the Ship Around!(船の向きを変えよ!)』。リーダーは今こそ、メンバーの自発性をいかに引っ張り出すかに心血を注ぐべきです」

ディスカッション:人の本気とは「好き嫌い」の中にある

野田:成果がでないとき、リーダーはどのようにやる気を維持すればよいと思いますか。

中竹:自分の行動目標や、これだけはやるということを決めるのがいいと思います。ラグビーの試合もそうで、自分がトライを奪うのではなく、とにかく動き出しを速くする、最初の3歩だけは頑張るとか、そんな行動目標を掲げていれば必ず達成できる。メンバーに自信がないときは、そんな目標をたくさん示すことが大事ですね。

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野田:なるほど。五郎丸選手はルーティン化を徹底してやっていますね。

中竹:あれはどんな緊張状態でも、ゴールを決めるとは思わないようにしているわけです。無心になってルーティンに集中することが、結果的にパフォーマンスにつながる。最近はルーティンの研究も進んでいます。主流はフォーカスオンナウ、今に集中することです。これは全てに通じると思います。だから皆さんも、職場でメンバーに数字のことばかり言っていると、パフォーマンスは落ちます。プレッシャーが邪魔するんですね。

野田:私は今、中高年にセカンドキャリアをつくるお手伝いをしていますが、そこでは自分は何かを示すときに、「Can=できること」をすごく大切にしています。「原点のCan」と呼んでいますが、若いときに没頭したこと、好きだったことの要素が仕事の中にあるといいんです。

中竹:まさにそうですね。しかし、今は企業であれ組織であれ、物事についての好き嫌いを語りません。私も選手を指導するときに「このプレーは好きなのか」と聞きます。「僕は当たるのが好きなんです」と言えば、「じゃあ、世界でも通用するような当たり方を覚えよう」となるんです。ここで火をつけない限り、おそらく本気は出ないと思います。なぜ好き嫌いが組織で語られなくなっているのかというと、全ての組織がそうですが、好き嫌いで決めたことは説明がつかないんですね。論理性がないから。それに議論もしない。僕はリーダートレーニングでよく覚悟の話をしますが、反対されても「自分が決めた」と言い切ったときの気持ちは、本当に貫けるものになっています。これが本当の覚悟だと思います。実は好き嫌いで物事を決めた方が、ビジネスでは圧倒的にうまくいくと思いますね。

野田:本気の問題を、本気で考えて行きたいですね。今日の話で、人事の皆さんの本気も引き出すことができたらいいなと思います。今日はありがとうございました。

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