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イノベーションを起こすリーダーに求められるものとは――キッザニアと旭山動物園の成功から考える

  • 住谷 栄之資氏(KCJ GROUP 株式会社 代表取締役社長兼CEO)
  • 小菅 正夫氏(旭川市旭山動物園 前園長/北海道大学客員教授)
  • 米倉 誠一郎氏(一橋大学 イノベーション研究センター 教授)
2016.01.04 掲載
講演写真

グローバル化が進み、経営環境が激しく変化する時代を生き抜いていくため、企業にとってイノベーションは不可欠である。では、イノベーションを起こす時にリーダーに求められるものは何か。斬新なエデュテインメント施設「キッザニア」を日本で立ち上げたKCJ GROUP株式会社の住谷栄之資氏、新しいアイデアとスタイルで「旭山動物園」を復活させた旭川市旭山動物園前園長の小菅正夫氏という二人のイノベーションの旗手を招き、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎氏が、リーダーとしてのあり方、考え方、行動に迫った。

プロフィール
住谷 栄之資氏( KCJ GROUP 株式会社 代表取締役社長兼CEO)
住谷 栄之資 プロフィール写真

(すみたに えいのすけ)1943年和歌山県生まれ、大阪府出身。1965年慶應義塾大学商学部卒業と同時に藤田観光(株)に入社。新規事業開発部でホテルレストラン事業に携わる。1969年に(株)WDIの創業と同時に入社、取締役外食担当に就任。2000年代表取締役社長に就任。2003年に同社を退職後、2004年(株)キッズシティージャパン(現:KCJ GROUP(株))を設立。2006年10月東京・豊洲に『キッザニア東京』をオープンし、2009年3月には兵庫・甲子園に『キッザニア甲子園』をオープン。2012年4月千葉県柏市に食と農の複合施設『オークビレッジ柏の葉』をオープン


小菅 正夫氏( 旭川市旭山動物園 前園長/北海道大学客員教授)
小菅 正夫 プロフィール写真

(こすげ まさお)1948年札幌市生まれ。1973年、北海道大学獣医学部獣医学科を卒業し、獣医師として旭川市旭山動物園に就職。飼育係長、副園長を経て、1995年に園長に就任。2009年には名誉園長となり、2010年に旭川市を退職、現在は北海道大学客員教授を務める。中央環境審議会自然環境部会委員、(社)日本動物園水族館協会会友、環境省希少野生動植物保存推進員などの公職も歴任。著書は『動物が教えてくれた人生で大切なこと。』(河出書房新社)、『もしもあの動物と暮らしたら!?』(新星出版社)など多数。


米倉 誠一郎氏( 一橋大学 イノベーション研究センター 教授)
米倉 誠一郎 プロフィール写真

(よねくら せいいちろう)1981年、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了後、ハーバード大学にてPh.D.(歴史学)を取得。1997 年より一橋大学イノベーション研究センター教授。1999年~2001年、2008年~2012年3月同センター長。2012年3月よりプレトリア大学ビジネススクール (GIBS) 日本研究センター所長を兼務。イノベーションを中心とした経営戦略と組織の史的研究を主たる研究領域としている。
(写真:御厨慎一郎)


コンセプト、コンテンツはどう生まれたのか

米倉:お二人の偉業には、今我々が学ぶべきことが凝縮されていると思います。コンセプト、コンテンツでここまでの変革を起こされたという素晴らしいリーダーシップについて、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。まずは住谷さんから、自己紹介と、これまでの経緯をお話しください。

住谷:私は大学卒業後に藤田観光に入社して、2年間は箱根の小涌園でハードな仕事を経験しました。朝6時から夜中までほとんど休みなく、ちゃんと座って食事した記憶がありません。掃除や風呂磨き、布団を敷いたり宴会場で料理を出したり、あらゆる仕事を経験しました。その後、瀬戸内海の直島に赴任。自分で事業を考えることになりました。キャンプ場、海の家、レストラン、バーベキュー、英会話教室などをゼロから始めました。50年前のことです。全く経験がないことばかりですし教えてくれる上司もいません。大変でしたが、今思えばとてもいい勉強になりました。その後、学生時代の先輩に誘われて、WDIという会社を一緒に立ち上げ、いろいろな事業を試してみたのですが、落ち着いたのが外食事業です。

米倉:外食事業ではどのような店を展開していたのでしょうか。

住谷:「ケンタッキーフライドチキン」やバーベキューリブのレストラン「トニーローマ」、ロックンロールをテーマとしたレストラン「ハードロックカフェ」などの店のフランチャイズの権利を買って展開しました。その後、「カプリチョーザ」などオリジナルの店もフランチャイズで増やしました。WDIは後に上場しましたが、その前に私は60歳で退職しました。レストランビジネスには味、内装、空気感などに対するさまざまな感性が必要で、その感性や体力に限界を感じたからです。

講演写真

米倉:キッザニアを立ち上げたのはその後のことですね。

住谷:たまたま友人が、メキシコで人気を博していたキッザニアのことを教えてくれたんです。キッザニアは、エデュケーションとエンタテインメントを合わせた「エデュテインメント」という、楽しんでいるうちに何かを学べるコンセプトを掲げており、当時小さい孫がいた私は「これはいい」と思いました。写真で説明されても分かりにくいので、実際に見てみたいと思い、二人の孫も連れて、メキシコまで行きました。孫はとても喜んでいましたね。子どもが楽しく職業体験することの意義を実感して、日本に持ち込むことを決意したんです。その後、キッザニアとは別に、食の安全にも興味を持ち、食と農の複合施設「オークビレッジ柏の葉」も始めました。それまではどのような食べ物をお客さんが喜んでくれるかというビジネス視点寄りで外食事業を展開していましたが、今回は新しい視点、つまり安全・安心に留意した“健康的な食の推進”をテーマとするレストランや農園を持つ施設です。そのほか、東日本大震災の後に友人が南相馬で始めた、太陽光発電を利用して野菜を作る「ソーラーアグリパーク」にも資本参加しています。

米倉:観光業界から外食業界を経て今に至ったとは非常に興味深い話です。では、小菅さん、お願いします。

小菅:私は札幌で生まれ、大学で柔道ばかりやっていたので、北海道大学「柔道部」獣医学科卒業です(笑)。卒業後、開園6年目の旭山動物園に就職しました。でも、飼育係の人は職人気質な人が多くて誰も指導してくれないんです。質問しても「自分で考えろ」「目の前にある動物たちが全て与えてくれる。考えて感じ取れ」という返事。それが今考えるといい経験になったと思います。2年目に「飼育研究会」を作ってえさや飼育環境にまつわる経験を職員の間で共有して、動物を科学的に飼育する取り組みもスタートさせました。その結果、動物の繁殖や研究は進みましたが、有料入園者数がどんどん落ちていってしまいました。

米倉:何か手を打ったのでしょうか。

小菅:当時、「東京ディズニーランド」などのアミューズメント施設が流行していたので、動物園にもアミューズメント施設の要素を取り入れようと考え、ジェットスクリューコースターを入れたんです。一時的に有料入園者数は回復しましたが、結局は元に戻ってしまい、そのうちに旭川市が動物園をやめようと考えていることを耳にしました。動物園は旭川市営ですから市長次第なんです。私たち飼育係10人はそこで、「お客さんに必要とされる動物園を目指そう」と考えました。いくら研究して動物をちゃんと飼育していても、お客さんが来なければ動物園は存続できません。「動物園の存続」を目指し、「日本で一番北にある動物園だからこそ、ここにしかない動物園を作れるはず」という理想を胸に、チャレンジが始まりました。

米倉:その中から「行動展示」というコンセプトが生まれたのですか。

小菅:試行錯誤の中から偶然生まれました。「行動展示」とは、それぞれの動物が持つ最も特徴的な動きを見せる展示の仕方です。その動物が最も生き生きとしている様子を見せると、見ている人間も楽しそうに生き生きとしてくるんです。開園30周年に向けて市に提案したこともあり、さまざまな動物舎を大々的に行動展示型へ作り変えていくことができました。「海の中でえさを食べるペンギンが、海の中でオキアミの群れの中に突っ込んでえさを食べるところ」「水に適応した唯一のクマであるホッキョクグマが美しい毛を揺らしながら泳ぐ様子」「チンパンジーが木の上でのびのびと暮らす姿」などが分かるような展示を次々と始めていきました。その結果、2007年度には、上野動物園にも迫る年間307万人ものお客さんが来園してくれるようになったんです。

米倉:日本最低気温記録のある寒い旭川に、しかも冬にも人が集まるなんて本当にすごいことです。コンテンツの力を改めて感じます。

賛同者、資金を集めるアイデアと工夫

講演写真

米倉:いくらコンセプトが素晴らしくても、資金がついてくるとは限りませんよね。ご苦労があったのではないでしょうか。

小菅:予算がまったくつかない時もありました。だから私は友人がいる動物園に行って動物をもらってきたり、自分でペンキを塗ったり柵を作ったりもしました。私が園長になってから、新しく就任した旭川市長に呼ばれたある日、延々と2時間動物園について語ったことがありました。これが契機になったようで、市長がその後飼育係たちの話を聞きにやってきたんです。飼育研究会でずっと一緒にみんなで考えてきましたから、全員熱く語るわけです。そんな現場にも触れて市長の考え方が変わっていきました。また、私は予算要求の企画書についてもひとひねりしました。絵を描いたり、映像を撮ったりして見せたんです。全国の動物園に行ってペンギンが遊泳しているシーンやホッキョクグマが飛び込むシーンなどを撮って3分間のビデオに編集して「行動展示」について語りました。すると皆さん、「こんなことができるのか!」と反応してくれて、予算がつくようになっていったんです。

米倉:手を変え、品を変えて伝えたのですね。キッザニアの場合、出展するスポンサーがいなければ成り立ちませんよね。

住谷:はい。コンセプトを理解してくださるスポンサーの協力が大前提です。どこも最初は「いいコンセプトだ」と好意的に聞いてくれます。けれども「話は分かった」だけで終わってしまうんです。そこで、キーとなる企業が契約してくれれば他社もスポンサーになってくれるに違いないという信念のもと、キーとなる企業に密に通ったんです。この企業の了承を得てから「○○さんにもご検討いただいています」と他社でも伝えるようにしました。日本企業のトップは、二つの言葉を知っていれば仕事が務まるという話があります。「前例があるのか」と「同業がやっているのか」です(笑)。キッザニアのスポンサー候補も代表的な日本企業が多いので、同じようなメンタリティーがあるだろうと考えて応用してみたわけです。会社によって違うと思いますが、これは日本の文化の一つですからね。ほかには、たまたまある雑誌がキッザニアを取り上げてくださったことも後押しとなりました。メディアの力は大きいので、取り上げられたあとは話が早くなります。

米倉:お二人とも相手の心理を読んで巧みにアプローチをされたのですね。

リーダーシップに不可欠な「伝えるべきこと」

米倉:予算がついても、人がついてこなかったらリーダー失格ですよね。人がついてくるために大事なのはやはりコンセプトでしょうか。

小菅:そうですね。ただ、「動物園が追求する目的」と「お客さんが求めること」とは相反する面があります。実際、自然環境の保護や研究、教育を前面に打ち出した動物園は、世界的に見てもお客さんが減り続けています。面白くないからです。楽しくて役に立つことを目指さなければ成立しません。そのために、「どうしたら面白く伝えられるのか」と考えるくせを飼育係全員に徹底させてきました。そうして全員で挑戦し続けた中から「行動展示」が生まれたんです。

講演写真

米倉:キッザニアは、どういうふうにチームが形成されたのですか。

住谷:最初は私一人です。「こういうことをやりたいんだ」という基本的なコンセプトを話しているうちに、前職のOBやたまたま知り合った若者など、仲間が少しずつ増えていきました。個人で始めてお金もないので、正直に「でも給料払えないよ。いいの?」とも伝えました。当時は「日本はこのままでいいのか」という雰囲気が特に色濃い時代だったこともありましたが、キッザニアのコンセプトは響くものがあったのだと思います。子どもたちに何かプラスになることを提供したい、学校の勉強だけでいいのか、と。そんな思いが皆の琴線に触れたのかもしれません。私はがむしゃらに伝えていただけです。

米倉:小菅さんは、ご自分のリーダーシップをどう振り返りますか。

小菅:究極には地球上の全ての動物が絶滅しないようにするのが、我々の目的であり、プライドでもあります。そのために動物園だからこそできる活動は何なのか、ということをまずは職員にしっかり伝えました。入園者数が300万人を超えても目的にはまだ程遠いわけですから、これからもずっと続けていこうと取り組んでいます。私にリーダーシップがあったとは思えませんが、とにかく遠い未来に夢を描き、それを道標にみんなで一歩ずつ弛まずに歩き続けようと、がむしゃらに前へ進んできたと思います。

米倉:子どもの教育も動物保護も、科学技術だけでは絶対に成しえません。人間の「リーダーシップ」が必要です。お二人のお話を聞いて、改めて、イノベーションを起こすためには「リーダーが、コンセプトを固め、良質なコンテンツ、アイデアを駆使し、フォロワーに伝えるべきことをしっかり伝える」ことが大事なのだと思いました。本日はありがとうございました。

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