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社員の力を引き出す経営者のリーダーシップ――GEとスマイルズの事例から考える

  • 安渕 聖司氏(日本GE株式会社 代表取締役 GEキャピタル社長兼CEO)
  • 遠山 正道氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)
  • 内田 和成氏(早稲田大学ビジネススクール 教授)
2016.01.05 掲載
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躍進する企業の差は人材の活性度にあると言われる。企業トップはどのように社員の力を把握し、引き出しているのか。世界的な人材輩出企業として知られるGEの日本法人代表取締役でGEキャピタルの社長兼CEOを務める安渕氏と、「スープストックトーキョー」をはじめ新しい事業を次々と立ち上げるスマイルズの代表取締役社長の遠山氏という二人の経営者に、リーダーシップ論を専門とする内田教授が話を聞いた。

プロフィール
安渕 聖司氏( 日本GE株式会社 代表取締役 GEキャピタル社長兼CEO)
安渕 聖司 プロフィール写真

(やすぶち せいじ)1979年、早稲田大学政治経済学部卒、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールMBA修了。99年、米投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。01年、UBS証券会社入社。投資銀行本部の運輸および民営化責任者として、多くの大型案件を手がける。06年、GEコマーシャル・ファイナンスにアジア地域事業開発担当副社長として入社。07年、GEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEOに就任。09年、GEキャピタル社長兼CEOに就任し、日本の金融サービス事業全般を統括、現在に至る。


遠山 正道氏( 株式会社スマイルズ 代表取締役社長)
遠山 正道 プロフィール写真

(とおやま まさみち)1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」のほか、「giraffe(ジラフ)」、「PASS THE BATON(パスザバトン)」「100本のスプーン」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。


内田 和成氏( 早稲田大学ビジネススクール 教授)
内田 和成 プロフィール写真

(うちだ かずなり)東京大学工学部卒、慶應義塾大学経営学修士(MBA)。日本航空株式会社を経て、1985年ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。2000年6月から2004年12月まで日本代表。2009年12月までシニア・アドバイザーを務める。BCG時代は幅広い業界で、全社戦略、事業戦略、マーケティング戦略、IT、新規事業戦略など多岐にわたる分野のコンサルティングを行う。2006年4月より現職。競争戦略論やリーダーシップ論を教えるほか、エグゼクティブプログラムでの講義や企業のリーダーシップトレーニングを実施。三井倉庫社外取締役、キユーピー社外取締役など。著書に『ゲームチェンジャーの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『論点思考』(東洋経済新報社)、『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『スパークする思考』(角川書店)、『仮説思考』(東洋経済新報社)など多数。


「良質の修羅場」と「自分事」で社員は伸びる

内田:早速お二人にお聞きします。お二人は経営者としてどのように社員の力を引き出していますか。

安渕:皆にどうストレッチをしてもらうかを常に考えています。どうスキルを上げていくか。仕事ができる人ほど高い目標、難しい仕事にチャレンジしてもらいます。徐々に大きなチームを持ってもらったり、事業横断的な仕事に取り組んでもらったり。私たちはよく「良質の修羅場」と言いますが、大きな問題が起きたときには優秀な人をそこにあてて問題を解決させて伸びてもらう。私たちのコアバリューの一つが「変化」ですから、自ら変化を起こしてドライブしてもらうということをやっています。

内田:GEのストレッチは有名ですね。日本人だと前回100%だったのを102%にするとか、簡単に達成できそうな目標を立てがちですが、GEでは100%を110%、120%にするという目標を立てたら、その時点で評価されるという話を聞きました。

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安渕:社員間の能力の差はどうしてもあります。でも常に上を目指すことで持っている能力をフルに出してもらう。市場環境も見ながら、目標が保守的にならないように上を目指す。達成不可能にならないように、一人ひとりの目標設定をきめ細かく見ています。ここは工夫が必要だと思います。私を含め、GEでは「人」に時間をかけています。採用、育成、評価など、私の時間の25~30%は人関連に使っています。なぜなら、私たちにとって一番大事な時間だからです。

内田:遠山さんはいかがですか。

遠山:私たちが重視するのは「理念」と「自分事」です。当社の理念は「生活価値の拡充」。また、スマイルズの「五感」という言葉があります。「低投資高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」です。よく私は「スマイルズさん」と呼ぶように、ブランドを人に例えますが、そのような「価値観」はすごく重要で、企業理念に共感した人が集まってくれていますね。私は最初、Soup Stock Tokyoをつくるときに企画書を書いてスタートしましたが、そこには「一言で言うと共感」と書いてあります。その点を今後も間違えないようにしたいです。

「自分事」とは、仕事を自分の事として考えようよ、ということです。私が三菱商事に入社して2年目のころ、先輩がガムをかんでいたのを見て「会社でガムをかんでいいんですか」と聞いたら、「それは自分で考えろ」と言われました。規則に書いてないから自分で判断しろと。私は、そのように一人ひとりが自分で判断できるような環境を整えることが大事だと思います。上司にやれと言われてやるのは仕事ではなくて作業。自分でやることを考えるのが仕事。部下の主体性に任せることがいいと思いますね。

内田:「自分事」とは興味深いですね。社員に自発的にやってもらう、と。今日来場されている皆さまの会社の中にもいろいろな立場の人を雇う職場も多いかと思います。そこでオペレーションをしっかりやろうとすると、マニュアルや教育が必要になるはずですよね。スープストックトーキョーのように店舗が多くある業態で、うまくオペレーションが回るコツは何でしょうか。「自発的」にも限界がありますよね。

遠山:マニュアルは当然あります。でも、仕事の中でマニュアルで動く部分はごく一部でしかありません。例えば店でポスターが斜めに貼られていて、その職場を自分の作品と思っていれば、我慢できず、自然と直しますよね。それはマニュアルにはない。どれだけ自分事にできるかです。ただし、上から指示を出すこともあります。例を挙げると、10年ほど前、ある雑誌で社員の笑顔の写真を載せたいと言われ、写真を探すと笑顔の写真がなかったんですね。私は表情まで教えるものではないと思っていましたが、それはただの放置だったかと思い直しました。それで私が嫌いだった笑顔の練習をさせたのです。最初は慣れなくて引きつり顔の社員も多かったのですが、その表情も一つの風景かと考えて、実践しました。

現場が率先して「変えていく文化」をつくる

内田:「自分事」に似たワードはGEにもありますね。

安渕:GE流に言い直すと「自分事」は「リーダーシップ」ですね。気がついたら自分でやると。もう一つは「オーナーシップ」。自分の会社、仕事だから、自分からやろう、とどこまで思えるか。私たちもすごく大事にしています。自分のこととして考える文化を作ることにエネルギーを使っています。私たちにもマニュアルはありますが、これは「気付きがあればいつでも変えていい」というのが基本なんですね。どんどん変わることが良いことだと思っています。

遠山:私たちはビジネスそのものも自分事でやろうと言っています。何でも市場環境や法律など周囲のせいにしたり、外に理由があると考えるときりがない。今の環境の中で、自分で考えてビジネスに取り組むクセを付けたいですね。

内田:スマイルズは理念にマッチする人を採用しているんですね。GEは世界中に展開しているので、一つのカルチャーで採用するというより、優秀な人を採用して、採用された人が自分で考えてGE流の仕事をするようになっていくのかもしれません。すでにある文化にフィットした人を採るスマイルズとは、文化的に違いがあるようにも思いますね。

遠山:ただ、私も社内を自分の世界観に染めようとは思っていません。事業をいくつも作っていますが、自分流ばかりではつまらない。これまでの事業は私が言い出しっぺであることが多かったので、今はあえて社員から新規事業を募ったり、外部に積極的に投資するなど、カルチャーを広げることを率先して行っています。

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内田:採用と育成では、採用にウエートを置いていますか。

遠山:そうですね。当社の採用担当はとても頑張っていて、応募者に「共感」を求めるのは当たり前という感じです。ただ、当社に入社してくれた人の多くは、最終面接までにどこかで泣いているんです。今まで何をしてきたか、これから何をしたいのか、とこちらが徹底的に聞いていくと、聞かれる側は「私には何もない」と悲観的になってつい泣いてしまう。でもすぐに、もう一度自分を見つめ直して、チャレンジをしたいと言ってくれるんです。

安渕:私たちの会社では、M&Aも結構あります。ある日突然社員が1000人増えることもあるわけです。そこでは、私たちが何を大事にしているかを、短時間で覚えてもらうことになる。文化や制度を理解して入ってもらうようにしています。採用時だけでカバーはできないので、入社後に教育します。そのため、採用時から新しいことを学んで変われるような人は大事だと思っています。

リーダーは一人ではない。全員がリーダー

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内田:もう少し詳しく、GEの人材育成について聞かせていただけますか。

安渕:GEでは、リーダーは次のリーダーを育てることが仕事と言われます。しかも、特定の人だけがリーダーになるのではありません。全社員にリーダーシップをもってもらいたいのです。大事なことは「自覚」です。得意不得意を個々で理解することが大事です。なぜ大事かというと、私たちはチームで仕事をするので、リーダーが自分のことをよくわかっていないと、自分と同じタイプが優秀と思い、同じタイプの人ばかり集めてしまうんですね。それではダメで、さまざまな能力を持った人が集まったチームが理想なわけです。

私の下に本部長クラスの部下が13人います。年2回、その13人と個別に振り返りを行っています。私と部下のほか、人事本部長と担当人事にも入ってもらって、その部門にどのような人がいて、誰が伸びているのかを把握し、ポジションごとの育成プラン、後継者計画、選抜トレーニングの人選やプランなどを毎回確認しています。そのように社員のリーダーシップを育んでいるのです。

内田:選抜には敗者復活もありますか。

安渕:敗者復活は当然ありますし、後継者計画には一度辞めた人の名前が載ることもあります。

内田:人材プールから選抜するといったエリート型のやり方なのでしょうか。

安渕:全体としてはそのようにしていますが本人には言いません。ただ仕事が達成されると、より難しい仕事が振られるので、どんどん難しくなっていくというのが期待の証です。また、事業部制をとっていますが、人材の行き来は自由に行っています。

いかに覚悟をもって、若手にチャンスを与えるか

内田:お二人の話をうかがって、大きな意味で「会社の哲学」を非常に大事にされているように感じました。働く環境の整備において、工夫されていることはありますか。

遠山:中途入社の社員が驚くのは、当社ではほとんど数字の話が出てこないことです。五感に「作品性」という言葉がありますが、現場では「これは作品性としてどうだろう」などという言葉が普通に聞かれます。アルバイトの人からも「うちらしくない」という言葉が出る。そんなことが当たり前の環境になっている気がします。また、ベンチャーとはいっても社員はベンチャー的な働き方をしたい人ばかりではないので、そこは家族的な目で見ることも大事だと思っています。

内田:環境整備もされているが、カルチャーの共有がしっかりあって、それに照らし合わせることが重要なのですね。GEはいかがですか。

安渕:GEに来て驚いたのは、細かく「ほめる」文化があるんですね。社員が成果を出すと、すかさずほめる。以前のCEO、ジャック・ウェルチのころからの伝統だそうです。

内田:次に「ダイバーシティ」についてお聞きしたいと思います。私は「ダイバーシティ」は「目的」を達成するための手段だと思っていますが、現実的には、仕方なく取り組む「コスト」のような捉え方をされているケースが多い気がします。お二人はどのような意見をお持ちでしょうか。

安渕:おっしゃる通り、ダイバーシティは目的が大事であり、私たちの目的は「競争力」「イノベーション」です。私たちが戦うマーケットにいる人たちと同じような人たちに、GEで働きたいと思ってもらわないといけない。私たちは、人種、性別、宗教など何の条件も付けることなく、能力だけで人の雇用を判断しています。それが競争力の源泉にもなっています。また、日本企業には、何歳になればこうするなど、結構年齢差別があります。GEで驚いたのは、人事からの提案書にも、一切データに年齢の記載はありません。もちろん私も知る必要を感じませんので、私も部下の年齢を知らないんです。このようにさまざまな人がいることで、いろいろな角度からの意見が出ることでイノベーションが生まれ、競争力がつくんです。

内田:遠山さんはいかがですか。

遠山:実はスープストックトーキョーを2月に分社化するのですが、そこで初めて女性役員が誕生します。アルバイトで入った社員です。今のスマイルズの規模だと少し難しくなってしまうので、このように会社のサイズを小さくすると、多様な人材が活躍しやすくなると思います。

内田:若い人にチャンスを与えるために、会社を小さくするのはすごく大事だと思いますね。私も大企業の方に「30代のうちに系列会社の社長を経験させると人は育つ」と勧めています。一度トップを経験すると、そのようなポジションの好き嫌い、向き不向きもわかるし、早いうちに経験するのはいいですね。

安渕:私たちも、いろんなプロジェクトのリーダーを若手に任せることを実践しています。これを経験すると自分で意思決定できますし、事業全体を考える良い経験になる。責任も生じるので人は育ちます。

内田:若手に経験を積ませることを制度化する企業もありますね。でも実は、若手に任せる側の覚悟のほうが、数倍大事なのではないでしょうか。若手の頑張りを見守り、手を差し伸べるのをぎりぎりまで耐えて、人を育てるという覚悟こそ必要だと思います。

最後にまとめの一言を申し上げると、今の日本には、「イノベーション」が必要だと思うんです。イノベーションを起こすという目的を果たすために、どのような人事の仕組み、採用、育成、評価の仕組みが必要なのか。「公平」「公正」などはいったん横に置いておいて、どうしたらイノベーティブになれるか、という視点で考えると、GEやスマイルズのような会社がつくれるかもしれない、と思いました。本日はどうもありがとうございました。

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