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経営に資するため、人事に求められるものとは何か
――“人で勝つ”組織について考える

  • 守島 基博氏(一橋大学大学院 商学研究科 教授)
  • 八木 洋介氏(株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当)
2016.01.08 掲載
講演写真

日本で“戦略人事”という言葉が聞かれるようになって久しい。しかし、企業内でその本来の目的が果たされているかどうかを考えると、理想にはまだほど遠い状況にあると言えるだろう。人事が経営戦略に活かされ、“人で勝つ”状況をつくるには、具体的に何をすればいいのか。一橋大学大学院教授 守島基博氏と、株式会社LIXILグループ 八木洋介氏が語り合った。

プロフィール
守島 基博氏( 一橋大学大学院 商学研究科 教授)
守島 基博 プロフィール写真

(もりしま もとひろ)人材論・人材マネジメント論専攻。1980年慶応義塾大学文学部卒業、同大学院社会研究科社会学専攻修士課程修了。86年米国イリノイ大学産業労使関係研 究所博士課程修了。組織行動論・労使関係論・人的資源論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授を経て、2001年より現職。主な著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』『21世紀の“戦略型”人事』『人事と法の対話』などがある。


八木 洋介氏( 株式会社LIXILグループ 執行役副社長 人事総務担当)
八木 洋介 プロフィール写真

(やぎ ようすけ)1955年京都府生まれ。京都大学経済学部卒業後、1980年日本鋼管株式会社に入社。1992年マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で修士号を取得。1999年から2012年3月までGEにおいて複数のビジネスで日本およびアジアの人事責任者を歴任。2012年4月より株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任し、人事総務を担当。日本における旧主要5社の統合に加え、M&A によりグループ入りした海外の複数のビジネスを人事面から統合。全世代を対象としたリーダーシップ研修の立ち上げ、女性が活躍できる環境の整備や活動の支援などを推進している。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書・ 共著)がある。


八木洋介氏によるプレゼンテーション:
人で勝つ、活力で勝つ

八木氏は「人で勝つ」とは、人事が人と組織を活用して会社を勝ちに導くことだと語る。ここで示されたのが人事のフレームワークの図だ。三角形のそれぞれの角に「HRマネジメント(人事管理)」「ビジネス・パートナー(企業、事業戦略の実践)」「ピープル・チャンピオン(人と組織の人と組織の活性化)」が配置され、その中央に「チェンジ・エージェント(変革機関)」が置かれている。

「人事はともすれば、すぐに制度を作りますが、制度を作ってもなかなか組織は変わりません。現在は新しいことに挑戦しないと企業も勝てない時代です。だから私は、人事の真ん中に『チェンジ・エージェント』を置いています」

八木氏は、組織の最高のパフォーマンスは人の活力によって実現すると語る。「人事は人のプロであり、人を引っ張っていくピープル・チャンピオンになれる存在です。その力で“人事は管理”から“人事は活力”に変えていかなければなりません」

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戦略的人事に必要なこととして、八木氏は四つを挙げた。一つ目は、人を活かすこと。ストレッチや適所適材を行い、ダイバーシティや機会均など、実力主義を推進することで、人材育成から未来の社長を育てていく。二つ目は、人をモチベートすること。社員にやりたいことをやらせてモチベーションを高め、報酬も差をつけていく。三つ目は、最適組織を作ること。広いスパンと少ない階層で組織を設計し、オペレーションを考える。四つ目は、人を一つの方向に向け、やる気をもって臨める環境をつくること。そのためには勝ちの意識を与え、企業のビジョンやミッション、戦略を社員に知らしめることが必要だ。また、そこには心に響くストーリーも求められる。

「戦略やビジョンは、数字やロジックになりがちです。しかし、私は人が動くのはハートからだと思っています。人事には戦略をストーリー化し、人がわくわくするようなコミュニケーションを起こす役目があります」

LIXILではどのように実践しているのかというと、活力の醸成に向けて行っているのは実力主義の推進だ。社員の実力はパフォーマンス(実績)とバリュー(将来に向けたリーダーシップ)の2軸で測られ、その比率は50:50。そこにGEで用いられてきた9ブロックを取りいれている。

「大事なのは、人事が評価を行うのではなく、ラインが自ら行う点にあります。上長と部下が9ブロックを見て、どこに問題があり、どこにギャップがあり、どこに可能性があるかを見つける。そこで育成のターゲットが決まれば、人事のプロである私たちの出番となるわけです」

また、LIXILの特徴的な点として、リーダー育成がまさに社長を育てる意気込みで行われている点が上げられる。20代からすべての世代でリーダーシップトレーニングが行われ、そのプログラムは3ヵ月~1年以上と長期にわたる。

「よく社員に『一生懸命の先に社長なし。経験だけでは人は育たず。研修だけでは人は育たず』と言っています。要は社員に、自分で努力しないとリーダーにはなれないと伝えているわけです」

最後に八木氏は、戦略人事において人事が持つべき姿勢について述べた。「社員は、ごく普通の人たちです。普通の人は正しいことが大好きであり、理不尽なことは大嫌いです。ですから人事は、正しいことは正しく、当たり前は当たり前に行わないといけない。これが戦略人事において、人事が持つべき基本姿勢と考えます」

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守島基博氏によるプレゼンテーション:
今、経営に資する人事になるために

守島氏はまず、経営に資する人事部の三つの姿を上げた。一つ目はビジネス・パートナー、二つ目は組織開発者、三つ目は従業員チャンピオンだ。これらの言葉が聞かれるようになって久しいが、守島氏は、今はまだWhat(何か)の認識しかなく、How(どのように行うか)の段階に至っていないという。三つの役目を果たすためには、具体的に何をすべきなのだろうか。

まずは「ビジネス・パートナーとしての人事」。人事に求められるのは、経営の問題を人事の側面からいかに解決するかを考えること。例えば、新商品を売りたいとき、それを任せられる人材がいないのなら、戦略の一環として人材を手配することになる。「事業責任者や現場リーダーの直面する人材の問題を解決し、リーダーの戦略達成を支援するのが人事の仕事です。なかでも重要なのは、戦略達成のための人材確保。一定の戦略やビジネスモデルのもと、それに携わる人材がどのような能力を持ち、どういう成果が期待されているかまで落とし込んで、その確保を目指します」

二つ目は「組織開発者としての人事」。組織開発(組織育成)とは、組織力向上を目指した組織内プロセスへの介入であり、何らかのコミュニケーションや人と人のつながりを生む。「例えば、個人への勇気づけや組織への巻き込みを行ったり、コミュニケーションを起点に協働やチームワークを培ったり、ビジョンの共有によって組織内のベクトルを合わせたり、といったことを行います」

三つ目は「従業員のチャンピオンとしての人事」。最近特に問題になっているのは、ダイバーシティ対応だろう。「ダイバーシティの問題は2種類あります。一つ目は『表層のダイバーシティ』。性別、国籍などわかりやすいものです。企業にとって重要なのは二つ目の『深層のダイバーシティ』で、価値観や考え方、意見などに関するものです。企業の成果に結びつけるには、コミュニケーションは当然ですが、異なる働きがいに応える必要があります。ここでは、個別の人材マネジメントをどのレベルまで行うかが問われます」

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加えて、守島氏は人事が経営に資するために必要なことを二点上げた。一点はデリバラブル志向(思考)だ。制度や仕組み作りからではなく、各ステークホールダーに提供する価値から考えていく手法のことである。「働く人が安心し、高い意欲をもって、仕事に打ち込めるように支援する。『そのために人事は何ができるのか』から発想していきます。まだ日本の人事は制度志向にありますが、そこから離れるべきだと思います」

もう一点は情報力の強化だ。守島氏は、企業において人事だけが全体最適を狙える部署であり、そのためには情報力が欠かせないと語る。「例えば、ある特定の人材を異動させることが、企業全体にとってどれだけ重要かを判断できるのは人事です。そのためには情報がなければ判断できません。現場はほっておくと部門最適ばかり考えてしまいます」

そのために必要なことは、サイエンスとアートだと守島氏は語る。サイエンスとは、ITなどを使った、コード化できる情報の収集と管理であり、具体的にはデータベースの構築など。アートとは、質的要素を含んだ言語化しにくい情報の収集と活用であり、具体的には人事による現場からの聞き取り活動などだ。

最後に守島氏は、いま「戦略人事とは何か」を考えているようでは遅いと語った。「具体的に自社で解決したい問題は何かを考え、そこに落とし込んだ形で戦略人事を具体的に行わなければ間に合いません」とプレゼンテーションを締め括った。

ディスカッション:
人事は守られた領域から出ていくべき

守島:最近、LIXILではどのような戦略人事を行われていますか。

八木:一例をあげると、海外企業のM&Aを行う中で、信頼できる現地のリーダーたちをフェアに扱い、一緒に経営していく仕組みやプロセスづくりを行っています。

守島:「フェアに」と言われましたが、日本の人事はこの言葉が好きですね。でも八木さんがおっしゃるフェアは、少し意味合いが違うように思います。

八木:フェアとは、リーダーを選ぶときにはフィルターを外して見て、真に優秀で的確な人を使うということです。最初にLIXILのあるべき姿を議論し、それに同意してくれる人であれば、バックグランドは問いません。そして、意思決定のプロセスには、その人たちをきちんと入れていくことが重要です。できる限りディスカッションで物事を決めていきます。

守島:先ほど「人事はチェンジ・エージェントである」とおっしゃっていましたが、どんなイメージで活動すればよいと思われますか。

八木:人事は保守的になりがちです。しかし現在、経営にはどう考えても変革が必要です。だから私は、人事の役割の真ん中にチェンジ・エージェントを置きました。人事にとって、もっとも苦手な領域だからです。

守島:変わることができる企業とは、社員に好感情を持たれていて、ある程度のエンゲージメントとコミットメントがある企業です。だからこそ信頼できている。その状況をつくる上で、人事の役割は大変重要だと思います。ところで、私が日本の人事が置かれている状況で残念なのは、現場のリーダーたちが人材の観点であまり思考を巡らせてくれないことです。私は現場リーダーの人材マネジメント面での教育が優先事項だと思っています。彼らがもっと興味を持ってくれれば、人事の仕事も楽になるかもしれませんね。

八木:その考えには大賛成です。私は人事をビジネス現場にできるだけばらまきたいと考えていて、社内である程度の規模を持つリーダーには人事を張り付けています。社長、副社長、部長などの横に人事を付けていると、一緒に人事のことを考えてくれるようになる。人事もラインも、より人のことを考える状況を作るべきですね。

守島:最後になりますが、私は人事の皆さんには、守られた領域から出ていきましょうとお伝えしたい。今こそ人事は変わらないといけない。そうでなければ、人事が経営に貢献できない時代に入ったと思います。本日はありがとうございました。

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