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中堅企業における「役割給・役割等級」成功のポイント~企業の事例より

  • 浜田 正憲氏(コンピテンシーコンサルティング株式会社 代表取締役社長)
2015.12.24 掲載
コンピテンシーコンサルティング株式会社講演写真

役割等級制度とは、等級ごとに会社が定めた役割を基にして目標を設定し、評価する日本独自の制度だ。ソニーやキヤノン、日立などの大手企業が導入しており、その注目度は高い。役割等級制度に詳しいコンピテンシーコンサルティング社長の浜田正憲氏は「中堅企業こそ使いやすい制度」と言う。どのようにすれば中堅企業がこの制度を使いこなせるのか、浜田氏が導入のポイントを語った。

プロフィール
浜田 正憲氏( コンピテンシーコンサルティング株式会社 代表取締役社長)
浜田 正憲 プロフィール写真

(はまだ まさのり)2011年コンピテンシーコンサルティング株式会社を設立し、社長就任。現職及びIBMで経営コンサルタントを7年。J&JとHPの人事部門で計23年勤務(うち人事部長が9年)。早稲田大学Transnational-HRM研究所招聘研究員。2011年早稲田大学ビジネススクール卒業(首席) 。1995年社会保険労務士登録。1985年神戸大学卒業。


中堅企業は、大企業以上に「理想の人事制度」が作れる

コンピテンシーコンサルティングは2011年に設立され、経営の中に人事の仕組みがしっかり統合されることを目標に活動している。近年注目を集める「役割給・役割等級」制度などを積極的に紹介し、企業と社員が互いによい影響を与えながら成長する環境の整備を、人事面からサポートしている。

講演の始めに浜田氏は、日本企業には長らく人事戦略がなく、どこも同じような人事の仕組みだったと語る。「1954年から始まる高度成長期には電産型賃金(主に年齢・勤続で賃金を決定)が主流でした。1973年から始まる安定成長期に職能資格制度が登場し、1989年ごろにピークを迎え、当時90%の企業が導入します。しかし、現在は50%まで低下しています。変わって出てきたのが、より独自性が打ち出せる役割等級制度です。日立、キヤノンなどの大手も導入し、導入率が約30%まで増加するなど注目されています。今後は、役割等級制度を中心にした自社独自の人事戦略・人事の仕組み・運用努力が重要になります」

浜田氏は、人事戦略において有利なのは大企業ではなく、中堅企業だと語る。「大企業には多くの事業部、職種があり、各々に対応する必要があります。すると焦点が振れ、特徴が出しにくくなります。とがった制度は中堅企業のほうが作りやすい。理由としては、ターゲットになるお客様や自社の製品・サービスがある程度絞られるので人事課題も絞りやすく、課題解決に向けた特長ある人事の仕組みを作りやすいこと。社員とのコミュニケーションが取りやすく、スピーディーに導入できること。社長の号令のもと、組織の隅々まで人事の仕組みを浸透させやすいことが上げられます」

それでは、役割等級制度とはどんな制度なのか。「役割定義書」を基に社員を格付けし、期首に社員の等級にふさわしい目標を定め、期中に日々の業務を通してフィードバックし、期末に成果・行動を評価し、処遇を決める仕組みだ。導入の目的は、「公正な処遇」とする会社が多いが、「育成」にも高い効果を発揮する可能性がある。

「個人目標は役割定義書を基に、自主的に創意工夫を加えながら展開されます。ただし、重要なことは適切なジョブ・サイズ(職責の重さ)であること。また、事実・ 結果に基づくフィードバックを日々行い、育成のポイントを明確にすることです」

浜田氏はここで、役割定義書について詳しく解説する。「各等級の社員に求める職責は、役割定義書の中で、全社共通として使える大まかさで定義されます。職責の構成要素である成果の大きさ・プロセス(業績管理/課題解決/人材育成)・知識などの観点から、網羅的に定義されるのです。」「さらに企業の今後の方向性を示すキーワードを、成果・プロセス・知識の定義の中にしっかり埋め込むことが重要です」

役割等級は職能資格と比べると等級数は少なくなる。なぜなら等級間の差を言葉で明確に説明できることが必要となるからだ。「等級が細かすぎると各々の違いがなくなり、言葉でのアドバイスもしにくくなります。等級の数は非管理職で3~4等級、役員前までの管理職で3~4等級程度です」

もう一つ、役割等級制度では等級ごとのジョブ・サイズを図ることも重要だ。主要Position(一人の社員が担う仕事の固まり)のジョブ・サイズ(職責の重さ)を測定することで、その等級への格付けが適切かを確認することが多い。「現場では、外部環境・内部制約条件に対応するため、柔軟に仕事を分担し個人のPositionを決めます。そのため、役割定義書だけでは、その等級の求める職責を満たしているか判断に迷うこともあります。他方、あいまいな運用をすると年功的運用となり、等級が高止まりすることになる。それを防ぐには等級の判断の難しいPositionのジョブ・サイズを評価すること、さらに評価項目ごとにどのようなレベルなら何点を与えるのかという具体的な評価基準を社内でしっかり共通言語化することです」

役割等級での評価は、成果だけでなくプロセスも見る

講演写真

次に浜田氏は役割等級制度の評価について語った。「数字を中心とした成果だけで評価すべき」という声が聞かれるが、「それでは人が評価しなくてもいいことになります」と言う。

「そもそも数字を上げるには、お客様の満足を上げるための施策、社内プロセスの改善策、メンバーのレベルアップが先に必要です。そのような業務プロセスを評価することは非常に重要です。さらに、成果の追及は利己的な行動につながりやすいので、行動評価によってバランスを取ることも重要です。最近は、バリュー行動として評価する会社も増えています」

成果を把握するためには、「目標管理制度」がよく利用される。メリットは社員の自主性を引き出せる点にあり、課題を自ら設定する仕事や業務プロセスが固定的ではない仕事では、状況に合わせて柔軟な運用ができるからである。「ただし、定型的な仕事が中心なのに、全社員に目標管理制度を無理に使っている企業もあります。その点は注意が必要です」

次は処遇について。浜田氏は、月例給は役割給に一本化し、等級ごとの範囲給としているところが多いと語る。外部公平性を中心に、各等級の「ポリシーライン(標準的な値段)」を設定。ポリシーラインに基づき±10~25%の範囲で給与レンジを設定する。「等級間の位置付けは、重複型が一般的です。賞与は評価結果に応じて、従来よりもメリハリをつけることが多いですね。また、昇降給ロジックでは、昇給率は評価に応じてメリハリをつけ、低い評価を取れば降給させる会社が増えています」

最後は育成について。浜田氏は、役割定義書や個人の目標管理を基に、日々の実務でフィードバックすることを重視する企業も多くなっていると語る。「期末には本人の強み・弱みを棚卸しして、今後のキャリアを考える機会を設けることも重要です。役割定義書を基に、等級ごとの研修プログラムを整理する会社もあります」

公正な処遇に加え、人材育成も担える役割等級制度

ここまで話を聞いて、外資系を中心に導入されている職務等級制度と役割等級制度の違いは何かと考える人も多いかもしれない。浜田氏もこの二つの違いをよく聞かれるという。「日本以外の諸外国は職務等級制度を基本にしています。この制度では、上司は組織目標の達成のために必要な組織構造とPositionを設計し、そこに社員を配置します。主なPositionには、その仕事の固まりをほぼカバーする職務記述書(Job Description、以下JD)が用意されます。JDは、等級・職種ごとに、仕事内容・責任をある程度一般化してまとめたもので、JDのジョブ・サイズを測って等級を決めます」

ではこれを踏まえ、役割等級と職務等級の違いは何なのか。浜田氏は違いとして職種横断的な等級定義書の有無を上げる。「職務等級制度には職務記述書がありますが、全社共通で等級を定義するものはありません。それに対し、役割等級制度には、職種の違いを超えて、各等級に求める職責をまとめた役割定義書があります。役割定義書があれば、会社がそれぞれの等級の社員に何を求めているのかをはっきり示すことができます。社員に自分の等級を意識させ、自主的なチャレンジを引き出すこともできます。また、今後のキャリアを考えるヒントを与えることもできます。社員が求める全社的な透明性、公平性も保つことができます。さらに、職種が違っても同じ等級であれば、社内の人間にお互いに何を期待していいのかが明確になります。職務等級で必要なJD作成などにかかる時間も大幅に削減できます」

次にソニーとキヤノンの導入事例が紹介された。ソニーは2000年より役割等級制度を導入するが、等級間の人員構成がアンバランスとなり社員の貢献と報酬にかい離が発生。2015年に新制度に改め、等級ごとに成果の大きさ、課題解決のレベルを再定義した。毎年7月には等級の定期的な見直しも行っている。キヤノンは2001年、管理職に役割と成果で賃金が決まる人事制度を導入。2~3年おきに職務評価を行うなど、地道な運営を続け、2002年には非管理職に拡大。2005年に非管理職の目標管理をやめ役割シートとして、2013年、全管理職に評価者研修、被評価者研修を再度実施している。浜田氏はここで運用の大事さ、難しさについて触れた。「人事の仕組みはすぐに年功化してしまうので、これを避けることが人事の戦いといわれます。役割等級制度も同様で、運用がすべてです。そこに人事の努力が必要となります」

最後に浜田氏は、役割等級制度を成功させるポイントを場面ごとに解説した。最初は「制度設計」だ。三つポイントがある。「一つ目は、いかに独自のキーワードを役割定義に入れ込み、社員を変えるかです。例えば、自社のビジョン、自社の課題に対処する言葉を見つけること。これをメッセージとして各社が入れることが成功の秘訣だと思います。二つ目は、目標管理をする社員を限定すること。実は目標を立てることが大変難しい。私も導入に失敗した苦い経験があります。例えば、非管理職では職務チェックリスト(課業別遂行度評価表)を使うことで十分かもしれません。そして三つ目は、行動評価あるいはバリュー評価の項目を効果が高いものに絞り込むことです。日立ではバリュー評価の項目を三つに絞っています」

次は「制度導入」だ。ポイントは四つある。一つ目は、既存社員の再格付け(ジョブ・サイズの測定)を行うこと。二つ目は降級・降給させる社員に積極的にチャンスを与える。復活の道筋を作っておくことは重要だ。三つ目は、現場主導で運用スキル(目標管理、成果評価、行動評価、フィードバック)の蓄積。四つ目は、人事主導で管理職・社員に新しい制度の狙いと運用を啓蒙することだ。

最後は「定期運用」だ。ポイントは二つある。一つ目は、定期的・必要な時にジョブ・サイズを測ること。浜田氏はこれを行わないとすぐに弊害が出ると語る。二つ目は人事担当者を育成することだ。「ジョブ・サイズ測定のスキル、目標管理シートの書き方の指導などは教育も必要です。日立では新制度導入時に人事のビジネスパートナーの機能を強調し、積極的に人事スタッフの教育を行いました」

浜田氏は最後に講演のまとめとして、来場者にこう語りかけた。「大切な点は、役割等級制度の目的が公正な処遇だけでなく、社員の育成・成長の促進でもあることを社員にしっかり伝えることです。人事自身も努力し、制度の中に独自のメッセージを入れ込んでいくこと、運用を重ねて精度を高めることが求められています」

講演写真
本講演企業

社名:コンピテンシーコンサルティング株式会社 設立:2011年6月8日 資本金:300万円 本社所在地:東京都新宿区西早稲田1-22-3 早稲田大学 インキュベーションセンター役員:代表取締役社長 浜田 正憲代表取締役副社長 佐藤 豪 アドバイザリー:白木三秀(早稲田大学政治経済学部教授、専門:人的資源管理)柳孝一(早稲田大学ビジネススクール元教授、日本ベンチャー学会理事)

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社名:コンピテンシーコンサルティング株式会社 設立:2011年6月8日 資本金:300万円 本社所在地:東京都新宿区西早稲田1-22-3 早稲田大学 インキュベーションセンター役員:代表取締役社長 浜田 正憲代表取締役副社長 佐藤 豪 アドバイザリー:白木三秀(早稲田大学政治経済学部教授、専門:人的資源管理)柳孝一(早稲田大学ビジネススクール元教授、日本ベンチャー学会理事)

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