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働き方改革、多様性、AI+IoTの時代に求められる「社内コミュニケーション」とは

  • 武田 雅子氏(カルビー株式会社 執行役員 人事総務本部 本部長)
  • 有沢 正人氏(カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(人事最高責任者))
  • 宮城 まり子氏(キャリア心理学研究所 代表/臨床心理士)
東京パネルセッション [F]2019.01.08 掲載
株式会社アイ・キュー講演写真

人材の多様化やフリーアドレス、リモートワークの進展などにより、近年人々の働き方は大きく変化した。その結果、社内のコミュニケーションにどのような変化があり、どんな工夫が求められているのか。日本の人事リーダーを代表するカルビー・武田氏とカゴメ・有沢氏、キャリアカウンセリングの第一人者である宮城氏が議論した。

プロフィール
武田 雅子氏( カルビー株式会社 執行役員 人事総務本部 本部長)
武田 雅子 プロフィール写真

(たけだ まさこ)1968年東京生まれ。89年に株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターで店舗責任者を経験後、営業推進部トレーニング課にて現場の教育指導を手掛ける。その後戦略人事部にて人材開発などを手掛け、2014年人事担当取締役に就任。2016年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。2018年5月より現職、全員が活躍する組織の実現に向けて施策を推進中。


有沢 正人氏( カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(人事最高責任者))
有沢 正人 プロフィール写真

(ありさわ まさと)1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行。 銀行派遣により米国でMBAを取得後、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。全世界共通の職務等級制度や評価制度の導入を行う。また委員会設置会社として指名委員会、報酬委員会の事務局長も兼任。グローバルサクセッションプランの導入などを通じて事業部の枠を超えたグローバルな人事制度を構築する。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2012年10月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの人事最高責任者となる。


宮城 まり子氏( キャリア心理学研究所 代表/臨床心理士)
宮城 まり子 プロフィール写真

(みやぎ まりこ)慶応義塾大学文学部心理学科卒業、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。臨床心理士として病院臨床(精神科、小児科)などを経て、産能大学経営情報学部助教授となる。1997年よりカリフォルニア州立大学大学院キャリアカウンセリングコースに研究留学。立正大学心理学部教授、法政大学キャリアデザイン学部教授を経て、2018 年4 月から現職。専門は臨床心理学(産業臨床、メンタルヘルス)、生涯発達心理学、キャリア開発・キャリアカウンセリング。他方、講演活動や企業のキャリア研修などの講師、キャリアカウンセリングのスーパーバイザーとしても精力的に活躍している。著書に、『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)、『産業心理学』(培風館)、『7つの心理学』(生産性出版)、『「聴く技術」が人間関係を決める』(永岡書店)などがある。


宮城氏によるプレゼンテーション:ICT時代のコミュニケーションとは

まず、宮城氏によるプレゼンテーションが行われた。コミュニケーションはどの企業にとっても共通の課題。情報通信技術が発達してきているが、改めて職場、人間関係、コミュニケーションを切り口に私たちのあり方をいろいろな角度から見直していきたい、と宮城氏はいう。

「働き方の多様化、働き方改革の進展、さまざまなツールの利用が進むなか、血が通った人事制度の運用ができているでしょうか。また、私たちは本当に心の通ったコミュニケーションができているのでしょうか。私は臨床心理士として、いろいろなご相談をお受けします。その中に、『上司とはネットではつながっていても、心がつながっていない』と訴える方がいました。効率化、利便性を優先するなかで心のつながりがなくなり、人間関係が非常に希薄になっているのではないかと考えさせられました。そこで、私は今こそフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションを見直すことを提案したいのです」

コミュニケーションには言葉による部分と言葉以外の部分がある。実は大きなウェートを占めているのは後者だ。すなわち、話し方や声のトーンや話す際の表情などが重要になってくる。しかし、ネットでのやりとりは言葉に依存しがちなため、相手のニュアンスが理解できない。だからこそ、お互いの顔を見ながら相互理解を図るべきだと宮城氏は説き、三つのポイントを挙げた。

「まず一つ目は、共感性。相手の気持ちや感情を共にする力です。残念ながら、今のビジネスパースンはコミュニケーションをネットだけで済ませてしまっているので、共感する力がおとろえています」

その改善策として宮城氏は、相手と気持ちや感情を共有することを勧める。また、相手は何をどのように捉えているのかを理解するために、話を最後までじっくり聞くことが重要だと強調した。

「二つ目は、待つ力。自律性を育てるには、本人が回答を見つけるまでじっくりと待って、話を最後まで聴くことが大切です。人は心のなかを言語化することで初めて気付きを得られて、変化することができるのです。

三つ目は、コミュニケーションのプロセスを大切にすること。具体的には、職場の人たちに関心を持つ、よく観察する、自分から積極的に声をかける、相手が話す、自分は聴く側に回るという五つのプロセスです。ネット社会だからこそ、フェース・トゥ・フェースを大切にしてほしいと思います」

講演写真

武田氏によるプレゼンテーション:カルビーが求める社内コミュニケーション

続いて、武田氏がプレゼンテーションを行った。

「カルビーの働き方改革は、2010年の丸の内トラストタワー本館へのオフィス移転&統合を機にスタートしたのですが、その際に経営陣は社内外コラボレーションの活性化を図りました。新しいオフィスはイノベーションを生み出すフィールドであると位置づけ、すべてをフリーアドレスにしました」

イノベーションのための新ワークスタイルとして、取り組んだのが以下の四点だ。一つ目は「感じ取る」。会社の動きやお互いの業務、知識を感じ取る取るために、執務スペースの中央にミニイベントが可能なホールを設けた。二つ目は「混ざり合う」。異なる人が自然と出会い、干渉しあえるよう、社内で座る席がいくつか提示され、選択できる仕組みになっている。三つ目は「結びつく」。お互いの刺激からアイデアを出し合うよう、社内ミーティングは基本的にオープンにしている。四つ目は「生み出す」。必要なメンバーが集まって成果を出せるよう、各種ワークショップを実施している。

他にも、コミュニケーション活動でいえば部門横断型のプロジェクトが多数稼動し、「みちのく未来基金」「スナックスクール」などのCSR活動、お客さまの声をモニタリングするA.A.O活動など、社員が集う場はかなり多いという。

併せて、今年7月に本社勤務者にモバイルワークを推奨した際のアンケート結果も提示された。

「83%は業務効率が向上、96%はライフワークバランスが向上したと回答しています。また、コミュニケーションの量は4割が減少、質は2割が低下したと回答しています。時間や空間の制約を解き放つことで個人のメリット、ライフワークバランスはとても良くなりましたが、コミュニケーションの質の向上、特に深いレベルでの関係の質のさらなる良化については、課題が多いと感じています。

コミュニケーションというと、どうしても仲良くなるために共通点を探しがちですが、私たちが目指していきたいのは、違いを活かしてさらに成果を大きくしていくコミュニケーションです」

講演写真

有沢氏によるプレゼンテーション:会社と従業員との新しい関係構築のあり方

続いて、有沢氏が働き方改革の視点から強いカゴメを創るための“コミュニケーション改革”について語った。

「カゴメの働き方改革は、あくまでも会社の論理です。つまり、従業員の労働生産性向上に向けた考え方が働き方改革であって、インプットである時間が少なくなるか、アウトプットであるパフォーマンスが上がれば、その分、労働生産性は高まります。
ただ、これを進めたからといって、事業部におけるコミュニケーションは何も変わらないので、キャリア志向を入れたり、リモートワークを稼働させたりしました。それ以上に私たちが重視しているのは、『暮らし方』改革、『生き方』改革の推進です。個人のQOL向上に力を注いでいます。
カゴメが考えるコミュニケーション改革は職場だけではありません。会社で使い過ぎていた時間を生活者としての時間、家族との時間に振り向けるようにしています。言い換えれば、生き方改革そのものであるといえます」

ただ、現状のカゴメではダイバーシティ推進にあたり、いくつかの課題があるという。まず、コミュニケーションを図りやすい風土を作るための職場での相互理解や信頼関係の醸成。社員のマインド改革に向けては、マネジメント層がキャリアについて自律的に考える意識の醸成、仕組み・制度改革としては働きやすい制度の導入やBP(ビジネスパートナー)制度を活用したスキル・能力開発の支援、さらには、完全フリーアドレスや会議室の撤去、コーチング研修などによる環境整備も行っているという。

「コミュニケーション改革が進むと、個人が自分の価値観に応じた多様な働き方が選択できるようになり、一人ひとりが自分のキャリアを自分で決められるようになります。個人が活躍できる環境をいかに整備するかは、人事の最も大きな責務です。会社と個人がフェアで対等な関係になるために、会社の仕組みや制度をどう運用できるかを考えることが人事の役割ではないでしょうか。運用のなかでぜひ働き方改革、生き方改革に取り組んでください」

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ディスカッション:テレワークを活用したコミュニケーションのコツとは

セッション後半では、三者によるディスカッションが行われた。

宮城:テレワークを導入するにあたって、コミュニケーションの取り方で何かコツがありますか。

武田:カルビーの社員はテレワークの活用には抵抗がありません。次のステップは仕事の成果や信頼関係の質です。やはり、役職者からの声掛けが大切です。そうしたなかで、小さな成功事例を作り、風土に落とし込んでいきたいと思います。

宮城:そもそも信頼関係がないとテレワークも成立しない、ということですね。

武田:今、HRテクノロジーの一例として、社員同士が「ありがとう」という気持ちを送り合える仕組みがありますが、そういったものの導入を考えています。「コミュニケーションを取りましょう」というより、「ありがとう」を言い合うなかから信頼関係が生まれていくように思います。

宮城:声かけはとても大切です。誰でも、関心を持たれると嬉しいものですから。無関心からは何も生まれません。日頃から声をかけあう風土、「ありがとう」といえる風土を作らずに、急にテレワークやリモートワークを導入することは難しいでしょう。

有沢:カゴメではテレワークを試行中です。まだ利用していない社員に「なぜ使っていないのか」と聞いてみたところ、「フェース・トゥ・フェースの方が、コミュニケーションが進みやすいから」だといいます。システムと仕組みは作ってあげてコミュニケーションがとりやすいようにする。一方で、アナログ的なところをあえて残す。この二点が大事だと思います。

宮城:働き方改革、女性活躍推進、グローバル化などいろいろなテーマがあるなかで、改めてコミュニケーションで何が大切なのかをお聞かせください。

武田:相手をリスペクトし、毎回フレッシュな気持ちで向き合うことです。1+1が2以上になるときもあります。一方通行ではなく、また全員が違っていても良いと思えるようになると、そこに心理的な安全の場ができて、コラボレーションが生まれ、人数以上の成果が生まれます。結果、メンバーがハッピーになり、会社も成長できると思います。

有沢:私たちは会社と個人がフェアな関係になるよう真面目に取り組んでいます。会社は働く人に場を提供する。人事は、どうやって気持ち良く働いてもらうか、個人の生産性をどのようにうまく発揮してもらうかを考える。1+1が2ではなく乗数効果を引き出すのが、コミュニケーション改革のその先にあると言いたいですね。また、ダイバーシティをもっと広く捉えてほしいと思います。その上で、コミュニケーションとダイバーシティのバランスを考え、いかに運用のなかで個人のQOLを高めるかが人事にとって重要です。

講演写真

宮城:良いコミュニケーションをとるには、信頼関係が欠かせません。そのためには、個を大事にすることからスタートすることが重要です。QOLを大事にしながら、充実した働き方ができるよう、お互いに理解してリスペクトする。それがベースとなって初めて、テレワーク、リモートワークも回っていくでしょう。本日はありがとうございました。

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