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「企業競争力」かつ「会社の魅力度」を高める「働き方改革」への意識変革とアプローチ

  • 森田 英一氏(beyond globalグループPresident & CEO/株式会社シェイク 創業社長・現フェロー )
東京特別講演 [B-5]2018.12.25 掲載
beyond global Japan株式会社講演写真

「働き方改革」という言葉を、今や聞かない日はない。しかし、それゆえに「やらざるを得ないから」と惰性で働き方改革に取り組んでいる企業があることも事実だ。取り組みの先にどのような自社の姿を見据えているかによって、「働き方改革」のアプローチ方法は変わってくる。本講演では、beyond globalグループCEOの森田英一氏が、HRテクノロジーや人事制度といった“ハード面”と経営者・社員の意識を変える“ソフト面”の観点から、働き方改革の具体的アプローチについて解説した。

プロフィール
森田 英一氏( beyond globalグループPresident & CEO/株式会社シェイク 創業社長・現フェロー )
森田 英一 プロフィール写真

(もりた えいいち)大学院卒業後、アクセンチュアで勤務。2000年に(株)シェイク設立、代表取締役社長に就任。企業研修、各種人事コンサルティングなどに従事。その後、beyond global社を日本とシンガポール、タイに設立し、President & CEOに就任。著作『会社を変える組織開発』(PHP新書)など多数。


「働き方改革」で、日本はグローバルに戦えるか

beyond globalグループでは、東南アジアにおける次世代人財育成、人事コンサルティングなどを行っている。世界の人事の潮流を知る森田氏は、講演の冒頭で、「働き方改革が、”How”に振り回されすぎていませんか」と問いかけた。「会議を45分にしよう」「女性の管理職を増やそう」といったように「How」に振り回されすぎていて、「Why」や「ゴールが何か」をしっかりと握れていないケースが散見される、というのが森田氏の問題提起だ。では、働き方改革の「Why=目的」と「ゴール=目標」をどこに置くべきなのだろうか。

本題に入る前に、森田氏は別の切り口を提示する。それは、「働き方改革でグローバル競争に勝てるのか」。働きやすさを優先して、競争力が落ちることも起こりうる。かつて日本は、長時間労働で質の高いものを多く作りだすことで世界に受け入れられてきた。平成元年の世界の時価総額ランキングには、NTTをはじめとした日系企業が名を連ねていた。しかし、今年の同ランキングを見ると、“GAFA”と呼ばれるGoogle・Apple・Facebook・Amazonなどの米国のIT企業、 “BAT”と呼ばれるBaidu・Alibaba・Tencentといった中国の急成長を遂げる企業に、上位の座を受け渡してしまっている。では、GAFA”や“BAT”は、働き方改革のような取り組みを行っているのだろうか

「中国のトップ企業は日本ほどではないにせよ、残業が常態化していることが社会問題になっています。例えばアリババは、夜になっても会社の電気が消えないので、“不夜城”と呼ばれています。仮眠室が充実しているので、なかには3週間も家に帰っていない人がいるそうです。その残業に対して、アリババは全額残業代を払っています。『残業代を全額払ったら、さぼる人が出てくるのではないか』と思われるかもしれませんが、定期的な査定で、残業している割に成果が低い従業員は基本給を下げられる、もしくは解雇されるといったように、残業と成果をかなりシビアに見られます。それでも成果を上げた人には世界トップクラスの給料が保証されているので、やる気のある若者が切磋琢磨しながらチャレンジしています」

ここで中国の急成長企業で働いている若者の声の例として、次のようなコメントが紹介された。どちらも自発的にチャレンジし、勢いのある若者が連想される。

  • みんな、その日のうちには帰りません。自分の成長を感じられますし、何よりいろいろな仕事に好奇心があります。週末は英語とコーディングや財務を勉強しています。それが給与にも反映されます。
  • 次は、我が社のエコシステムの中で全く違う事業に移りたい。私の上司には、私の異動を止める権利はありません。私が行きたい部署の上司に認められれば、異動が叶うのです。そのためには、今の部署で人より早く実績を出さないといけません。
講演写真

それでは、アメリカの働き方はどうだろうか。アメリカでは今、パフォーマンスマネジメントのちょっとした革新が起きているという。

「『No Rating(ノー・レイティング)』という、A・B・C・Dでの評価付けを廃止しようという動きです。ランク付けをすると何が起こるか。Aの人はモチベーションが上がるけれど、B以下の人はモチベーション下がるわけです。Aをもらえるのが10~15%とすると、85%の人のモチベーションを下げることになります。もっとみんなが成長したくなる、チャレンジしたくなる人事制度を目指してイノベーションが起きているわけです」

アメリカで起こっている変革の本質を表しているとして、森田氏は「努力は夢中・熱中に勝てない」という言葉を紹介した。では、「夢中・熱中」を引き出すにはどうしたらよいのだろうか。森田氏から見て「従業員の熱中を引き出す」方法を最も徹底的に取り組んでいるのは、Googleだという。

「Googleは最先端のオフィスで、遊び道具がたくさんあり、仮眠室で昼寝もでき、食事はヘルシーで食べ放題。眠いときは寝ていい、遊びたいときは遊んでリフレッシュすればいい。その代わり、やるときは熱中して高い成果を上げてくれ、というのがGoogleのスタンスです。Googleの働き方について、『最先端だ』と思う人もいれば、『そこまで徹底的にやらせるなんてブラック企業だ』と思う人もいるかもしれません。しかし、世界をけん引するグローバル企業の働き方の潮流はここにあります」。

Googleから学ぶべき点は、もう一つある。「心理的安全性」(Psychological Safety)だ。人と環境の関係性には、コンフォートゾーン、ストレッチゾーン、パニックゾーンの三つの領域がある。人が成長を遂げるためには、チャレンジングな環境、つまりストレッチゾーンに身を置く必要がある。その人が今できることより少しレベルの高い仕事を与えたり、業務の幅を少し広げたり。組織は全従業員をストレッチゾーンに入れることで組織全体の成長につなげることが望ましい。その際に必ずセットになるのが心理的安全性だ。人はリスクある行動をとるとき、「バカにされるのではないか」「失敗したらクビになるのではないか」と心配してしまうもの。しかし、不安な気持ちを抱えたまま任務にあたっていると実施すべきチャレンジができず、ストレッチゴールは達成できない。そのため、ストレッチゴールと心理的安全性は常にセットで考えられるべきだと、森田氏はいう。

優秀な社員のための働き方改革か、その他大勢のための働き方改革か

では、日本企業はどうすればいいのか。目の前にある「働き方改革」を通して、日本に勢いを取り戻せないだろうか。森田氏は、働き方改革には二つの方向性があり、何のための改革なのかをハッキリすべきだという。一つは「成長志向型働き方改革」、もう一つは「成熟志向型働き方改革」だ。

「私は冒頭に『Whyがあいまいで、Howに振り回されていませんか』という話をしました。成長志向型働き方改革の目的は、企業の競争力を高め、優秀な社員に魅力ある会社になること。優秀で成果を上げている人にとって、魅力的な会社であるための構造改革ということです。それを目的にすることで、結果的に企業競争力も高まります。一方で、産業によっては業界的に安定していて、もうイノベーションも起こさなくていい企業もあるでしょう。そういった企業は成熟志向型働き方改革に取り組むべきです。その目的は、社員に働きやすい環境を提供し、長く健康に働いてもらうための人材不足解消施策。どちらが正しいのか、間違っているのかということではありません。それぞれ産業の成熟度合いと企業のフェーズによって異なるはずです」

講演写真

このように、働き方改革には二つ方向性がある。成長志向型働き方改革で大切にすべき指標は「働きがい」や「エンゲージメント」。一方、成熟志向型働き方改革で大切にすべき指標は「働きやすさ」。そこを履き違えると、芯のない働き方改革になってしまうので、経営陣はどちらの働き方改革であるべきかを議論すべきだと森田氏はいう。

前者の「成長志向型働き方改革」のために必要な「エンゲージメント」。これは言い換えると、会社への信頼と自発的な組織貢献意欲。つまり、「言われていないのにやってしまう」という自発性だ。

「しかし、エンゲージメントが高いだけではいけません。彼らを活かす“場”が必要です。こんなことをやりたい、こんなプロジェクトに挑戦してみたい、従業員にそう言われたときに活躍できる環境を提供できるかどうか。日本人は世界的に見てエンゲージメントが低いといわれますが、日本企業は今まさに“エンゲージメント革命”を起こすタイミングにあると思います」

エンゲージメントを考える上で大事なのは、「なぜここで働くのか」という問いだ。たまたまご縁があったから、お金のためなど、現実的な回答もあるだろう。しかし、エンゲージメントの高い従業員なら、次のような回答になる。「私がここで働いているのは会社が目指しているビジョンに共感して、夢中になってワクワクしながら大きな仕事が出来るから」。森田氏は、「努力は夢中・熱中に勝てない」という。エンゲージメントの高い従業員ほど、夢中になっているものだ。

働き方改革と経営戦略が明確につながっていることが重要

では、なぜアメリカや中国のようなエンゲージメントの高さを、日本企業は再現できないのだろうか。そこには、今の日本企業が抱えている本質的課題が潜んでいる。一つは「経営陣の逃げ切りマインド」。自分が任期の間にリスクを冒さないようにすれば、退職金をもらって逃げ切ることができる。そのため、長期を見据えたチャレンジングな施策を打てる経営者が少ない。また、組織ピラミッドのいびつ化や、あいまいな人事評価制度による、ぬるま湯のような運用が若い世代を腐らせる構造になってしまっている。

「日本の場合、管理職の延長線上で経営者になることが多いのですが、経営を勉強しないまま経営者になる弊害は大きい。管理職として優秀な人と経営者として優秀な人は違います。そして、あいまいな人事制度の根幹的な考え方として、『会社を辞められてはいけない』という思い込みから従業員を飼い殺してしまう。これでは、がんばる人がバカを見ることになる。人事は離職率が上がることを過度に恐れいているように思います。健全な新陳代謝であれば、いいんです。優秀な従業員ばかりが辞めてしまう環境は問題ですが、愚痴を言いながら成果も上げない従業員はむしろ出ていってくれた方がハッピーかもしれません。誰のための働き方改革なのか、経営陣が共通認識を持たなければならないのです」

成長志向型か成熟志向型かをきちんと言語化しないままでは、働き方改革の認識が経営陣によって全く異なることも考えられる。「法律ができたから適当にやっておこう」「社員が働きやすい制度にしよう」などと、考え方がずれてしまっているようでは、経営戦略とビジョンと働き方改革が一枚岩になった施策を進めることはできない。働き方改革が経営戦略と明確につながることが重要だ。

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「今や、『幸せな会社=長く働ける会社』というのは、幻想でしょう。クビにならないように本音が言えず、好きでもない仕事に従業員がぶら下がっているような会社が、幸せな会社と言えるでしょうか。エンゲージメント改革を行うとき、肝となるのは人事評価です。これまで日本企業は年功序列などの仕組みにより、人事評価を重視してきませんでした。しかし今は、やる気のある人に振り向いてもらうために、外部公平性と内部公平性が重要です」

外部公平性とは、外部と自社とを比較したマーケットバリュー。また、内部公平性は内部のスタッフと比較した際の評価の妥当性。納得感のある評価制度を作り、きちんと運用していくことがエンゲージメントの向上につながる。

「大切なのは、昭和型マネジメントから脱却することです。昭和の時代には良かったことが、今は通用しません。平成から新しい年号に変わろうとしているにもかかわらず、まだ昭和型マネジメントを行っている企業は少なくない。これでは若手社員や世界には通用しないという危機感を持って、働き方改革に対する意識改革を行うべきだと思います」

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