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仕事と介護の両立支援のいま~介護離職0に向けて、企業ができる事前対策とは~

  • 継枝 綾子氏(株式会社パソナ 育児・介護支援プロジェクト事務局(厚生労働省委託事業)/中央介護プランナー)
東京特別講演 [J-5]2018.12.25 掲載
株式会社パソナ 育児・介護支援プロジェクト事務局(厚生労働省委託事業)講演写真

近年、従業員が「介護」を理由に離職するケースが増加し、企業にとって大きな課題となっている。従業員に仕事と介護を両立しながら安心して働いてもらうためには、両立のための雇用環境を整備し、従業員の状況に応じた支援に取り組んでいくことが欠かせない。本講演では、これまで12年間ケアマネージャーの経験があり数多くの高齢者のケアプランを作成し、仕事と介護の両立支援に携わってきた継枝氏が、個々の実情に応じた「介護支援プラン」の策定方法とポイントについて解説した。

プロフィール
継枝 綾子氏( 株式会社パソナ 育児・介護支援プロジェクト事務局(厚生労働省委託事業)/中央介護プランナー)
継枝 綾子 プロフィール写真

(ツグエダ アヤコ)2000年から12年間、介護支援専門員・主任介護支援専門員として多くの高齢者のケアプランを作成。現在は、官公庁より介護関連の研修や就労支援研修を受託し介護講師として従事。その他、仕事と介護の両立支援サービスの新規事業にも関わり、企業向け仕事と介護の両立セミナーの講師や介護相談デスクの窓口も兼務。


従業員が仕事と介護を支援するために企業は何をすればいいのか

株式会社パソナでは、『中小企業のための育児・介護支援プラン導入支援事業』を展開している。本講演では、同社育児・介護支援プロジェクト事務局・中央介護プランナーの継枝氏が登壇した。

講演の冒頭では、参加者同士で「従業員から仕事と介護の相談を受けたことがあるか」「そのとき、どのような対応をしたか」をテーマに、ロールプレイグを実施。介護問題は人事にとって重要なテーマとなっていることもあり、参加者間での活発な議論が行われた。

継枝氏は「介護問題への対応に正解はありませんが、真摯に向き合う姿勢を大切にしてください」と述べ、企業の中で仕事と介護を両立するためのポイントを解説した。まずは、「相談者の悩みに耳を傾けること。特に、初回面談時には傾聴の姿勢が大切であること」を強調する。

「ただし会社では、介護についてアドバイスするのに限界があります。具体的な対応は、地域包括相談センターに行くように相談者の背中を押し、仕事と介護の両立が可能となるケアプランを立ててもらうこと。その後、そのケアプランを持って上司と面談を行うようにすることです」

次に継枝氏は、家族の介護をしている介護者に対して「ケアハラスメント」をしないことが大事だと言う。

「日頃から従業員と向き合い、コミュニケーションを取ることを意識しましょう。そのときに『私も乗り越えたのだから、あなたも乗り越えられるはず』『残業や出張は無理ですね』などと決めつけたりせず、相談者と一緒になって考える姿勢を持つこと。そして、『一人で抱え込まないように』といった共感の気持ちを示し、介護をはじめとする個人の事情を『お互いさま』としていくことを心がけます」

会社の役割で重要なのは「介護保険サービスの活用促進」「管理職のマネジメント、働き方の工夫・見直し」「社内制度の有効活用」の三つであり、これらのバランスをうまく取ることだと継枝氏は言う。そのためにも、「介護保険サービス」を最大限活用するよう促していく中で、会社での働き方を見直したり、社内制度をうまく活用したりすることが大切である。その観点から継枝氏は、「介護保険サービス」を利用する際の流れを説明した。「介護保険サービス」を利用する際には、大きく六つのステップがある。

「一つ目は、要介護認定(要支援認定)の申請。家族の介護が必要になったら、市区町村の介護保険課、または地域包括支援センターで申請手続きを行います。二つ目が、認定調査と主治医意見書の作成。申請後、約2週間の間に認定調査員が自宅または入院先に訪問し、70項目以上に及ぶ調査を行います。併せて、主治医が医療情報(意見書)を役所に提出します。三つ目が、要介護度の審査判定。コンピュータによる一次判定の後、主治医意見書に基づき要介護の判定が行われます(二次判定)。認定結果は主治医の意見書に左右されるので、主治医に対して介護の状態を詳しく伝えていく必要があります。そのためにも認定調査員が調査を行う際には、有給休暇や介護休暇を使って同席すること。また、主治医に状況を詳しく伝えるために、通院する際には同行することです。このようして意見書に状態を正しく記載してもらい、認定結果に反映してもらうようにします。四つ目が、介護度の認定の結果通知。申請をしてから約30日後、認定通知書が自宅に届きます。五つ目が、ケアプランの作成。ケアマネージャーと契約を交わし、ケアプランの作成を行います。そして六つ目が、介護保険サービスの利用開始。介護保険サービス事業所と契約を結び、ケアプランに基づきサービスの利用を開始する、という一連の流れになります」

「介護保険サービス」について分からないことがあれば、「地域包括支援センター」に相談すると、保健師、社会福祉士、主任ケアマネージャーなどさまざまな専門家が丁寧に相談に乗ってくれる。「地域包括支援センター」は全国に4600ヵ所以上あり、おおよそ中学校の学区ごとに設置されているという。

講演写真

キーパーソンとしての「ケアマネージャー」

「介護におけるキーパーソンはケアマネージャー」と継枝氏は強調する。ケアマネージャーの仕事は、高齢者のニーズや家族の状況などを把握し、介護アービスを効果的に受けられるよう、利用者の同意を得て「ケアプラン」を作成し、サービス事業者や市区町村と調整すること。さらには、実施後の評価や計画の見直しも行う。まさに、介護のコーディネーター役なのだ。

「介護の場面に直面したら、まずケアマネージャーに働き方について相談し、今どんな悩みを抱えていて、どう乗り越えたいのかを具体的に伝えることです。ケアマネージャーが、働き方を含めて短期計画、中期計画、さらに長期計画(6ヵ月~1年を目標に)のケアプランを立ててくれます。状況が変化したら、また相談して、ケアプランの見直しを行いましょう」

◆「ケアプラン例」(要介護1のケース)

ここまでの説明で参加者は、仕事と介護の両立についてかなり理解を深めることができたようだ。続いて継枝氏は、具体的な「ケアプラン例」(要介護1:身の回りの世話に見守りや手助けが必要。立ち上がり、歩行などで支えが必要)を紹介した。

Aさんは妻、子供二人と母親の五人家族。平日は7時30分から18時まで出勤しているバリバリの営業職だ。同居中の母親は78歳。ところが、昨年から腰と膝が悪くなり、一人での動作が不自由になった。風呂には一人で入っているが、物忘れがひどく、同じ質問を繰り返したり、お金の管理もできなかったりする状態になっている。Aさんが仕事中にも携帯電話に何度も連絡をしてくるなど、仕事に集中できない日が続いている。妻もパート勤めのため、日中独居になることが多く、とても心配だと言う。このような場合、どういう両立策を行えばいいのか。

「これは、介護の初動でよくあるパターン。ポイントは、介護保険を使って1週間の間、バランスよくサービスの提供を受けることです。そして、全ての時間帯で、安否の確認ができる状態を作ることが重要です。またその際、会社の制度をうまく利用し、働き方を見直すようにします」

しかし、長期間の介護に及ぶ場合、介護休業の日数が足りなくなり、従業員は多大なストレスを抱えてしまうこともある。このような事態が起きるのは、「介護休業」の本来の使い方をよく理解していないからだ。

「介護期間が長期に及ぶ場合は、介護休業を分割して取得するようにします(制度上、93日を3回まで分割取得できる)。例えば、1回目は介護の初動で使ってみる。介護を続けていく中で、介護計画を練り直すこともありますので、そういうときに2回目、3回目の介護休業を使うことが効果的です。介護休暇の半日単位の取得やフレックスタイムなどを用いて、柔軟に対応するといいでしょう」

講演写真

会社が従業員を支援するタイミングとは

会社が従業員を支援するタイミングには、「通常期~両立期」において、以下の四つがある。

「第一が、実態把握と制度設計・見直しのときです。従業員が抱えている介護の有無、仕事と介護の両立に必要な自社の介護休業などの制度や、公的な介護保険制度などの理解に関する現状についてアンケート調査を実施します。実態把握は、自社の仕事と介護の両立支援を進める上で出発点となるもの。その結果を踏まえ、自社の両立支援制度を『法定の基準を満たしているか』『従業員に周知されているか』などの観点から点検し、課題があれば見直していくことです」

第二は、介護に直面する前の従業員への支援。従業員が介護に直面してから仕事と介護の両立に必要な基本的な情報を提供するのではなく、従業員が介護に直面する前に、直面しても離職しなくて済む支援策を行うことが大切だという。

「取り組むべき支援としては、『仕事と介護の両立を企業が支援するという方針の周知』『介護に直面しても仕事を続けるという意識の醸成』『企業の仕事と介護の両立支援制度の周知』『介護について話しやすい職場風土の醸成』『介護が必要になった場合に相談すべき地域窓口の周知』『親や家族とコミュニケーションを図っておく必要性のアピール』などを挙げることができます」

第三は、介護に直面した従業員への支援。この場合、自社の両立支援制度や公的な介護保険制度の内容や活用方法についての相談窓口の情報を提供することが基本となる。また、上司や管理職が従業員の支援ニーズにいち早く気づくことができるよう、従業員が相談しやすい体制を整備することも忘れてはならない。

「取り組むべき支援としては、『相談窓口での両立課題の共有』『企業の仕事と介護の両立支援制度の手続き等の周知』『働き方の調整』『職場内の理解の醸成』『上司や人事による継続的な心身の状態の確認』『社内外のネットワーク作り』などが挙げられます」

第四は、既に両立している従業員への支援。有休などを利用して両立しているケースだ。介護の状況が変化した際には、必要に応じて働き方などを見直す。なぜなら、従業員が両立できていると思っていても、実際には介護保険制度などを効果的に利用できていない場合が少なくないからだ。新たに情報を提供した上で、両立計画の再構築をすることが重要になる。

「取り組むべき支援としては、『現在の両立計画を上司や人事と共有」『半年や1年ごと等の適切なタイミングで介護を巡る状況や仕事の状況を確認し、必要があれば両立計画を見直す』『介護が長期にわたることで、要介護者の状況が変わることや、担当業務の変更や異動・転勤等で両立中の従業員の状況が変わった場合は、必要に応じて働き方などを見直す』『介護が長期化した場合やターミナル期(終末期)には、それまでの両立方法とは異なる対応が必要となることもある』などが挙げられます」

最後に、介護プランナーの「役割」について継枝氏は言及し、本講演は終了した。

「介護プランナーとは、企業における仕事と介護の両立を支援できる職場環境の整備を支援する専門家で、全国に45名配置されています。企業を訪問し、従業員の実情を聞いた上で、介護支援プランモデルをもとに、個々の従業員に合った介護支援プランの策定を支援します。行政は、どんなに制度・サービスが充実していても、自ら申請をしないと利用することができません。介護プランナーは無料で利用できますから、従業員の介護問題に直面したとき、ぜひ活用してください」

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