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成果を高めるこれからの働き方
ハピネス、エンゲージ、ダイバーシティをどう考えるか

  • 川上 真史氏(ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授)
2015.07.03 掲載
講演写真

社員の幸福につながる働き方や、職場を楽しくする方策に関しては、これまで多くのアプローチが示されてきた。それらを導入することは社員にとって意味のあることかもしれないが、果たして企業にとって、より高い成果・業績へとつながるものなのだろうか? 本ミーティングでは、これからの働き方の基本となるハピネス、エンゲージ、ダイバーシティに着目し、その本質を理解すると共に、企業の業績向上につなげるためにはどうすればいいのか、川上氏の講演と参加者によるディスカッションを通じて考えた。

プロフィール
川上 真史氏( ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授)
川上 真史 プロフィール写真

(かわかみ しんじ)京都大学 教育学部 教育心理学科卒。産業能率大学 総合研究所 研究員、ヘイ コンサルティング グループ コンサルタント、タワーズワトソン ディレクターを経て現職。主に、人材の採用、評価、育成システムについて、設計から運用、定着までのコンサルティングを担当。また、心理学的な見地からの新しい人材論についての研究、開発を行うことで、次世代の人材についての考え方も世の中に提唱する。2003年~2009年 早稲田大学 文学学術院 心理学教室 非常勤講師。現在、ボンド大学大学院 非常勤准教授、明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 兼任講師(社会心理学担当)、株式会社ヒューマネージ顧問、株式会社タイムズコア代表も兼任。


アプリケーションのインストールから、OSのバージョンアップへ

最初に川上氏が、「成果を高めるこれからの働き方」の具体的な方向性について解説した。「近年、ハピネスやエンゲージ、ダイバーシティについて、信条論(直観的で感情的な判断)で語られることが多いように思います。つまり、「何だか最近はそういう時代になっていて、これまでのような日本的な働き方はあまり好きではない」という発想で考えられていると感じることがあります。しかし、そのようなアプローチで、果たして企業の業績につながるのでしょうか。今日は、信条論ではなく科学的な見地をベースにして、ハピネス、エンゲージ、ダイバーシティを考えていきます」

人材論について考える際は、人を正確に見る目を持つことが必要だと川上氏は言う。人間には自己スキーマ(自分とは絶対にこういう人間であると、根拠なく思いこんでいる部分)と他者スキーマ(あの人は絶対にこういう人間であると、根拠なく思い込んでいる部分)という根拠のない“思い込み”があるからだ。「相手に対する他者スキーマを作らないで耐えられることが、人を見る目の基本です。そして、自分自身への自己スキーマを作らず、実像を見られるかどうかが、自身の能力を最大限に発揮できる基本です」

能力開発を行う際には、アプリケーションのインストール(スキルや知識をさらに学び、習得することで、それを活用する)と、OSのバージョンアップ(能力発揮のベースとなる人の意識を、最新の組織や社会の状況に応じて向上する)の二つの方向性がある。現代のように変化の激しい時代に有効なのは、OSのバージョンアップだ。「では、コアとなるOSとは何でしょうか。下図の左が古いタイプのOSで、右に示したのが新しいタイプのOSです。古いタイプのOSでは、成果・業績を上げることが難しくなっています。そのため、新しいタイプのOSにバージョンアップする必要があるのです」

優秀さ コンピテンシー
気合い・根性 エンゲージ
協調性(人に合わせる) ダイバーシティにおけるチームワーク
論理的思考 創造的思考
忍耐力 コーピング(ストレスマネジメント)
満足度の追求 幸福感(ハピネス)の追求

ハピネス~満足感から、幸福感を高めるために必要なこと

最初のテーマは「ハピネス(幸福感)」。現代の心理学は、ネガティブ心理学からポジティブ心理学へと変遷し、幸福感の追求がメインテーマとなっている。過去の幸福論のパラダイムは、努力や苦労の積み重ねによって成功を獲得し、幸福感を得るというものだが、いくらネガティブ側面の除去に注力しても、必ずしも幸福にはつながらない。それに対してポジティブ心理学は、そもそも幸福であると感じている人が成功確率を上昇させ、さらに幸福を感じていく(苦労を感じない)という、ポジティブなサイクルに入っていくものである。例えば、幸福度の高い従業員の生産性は平均で31%、売り上げは37%、創造性は3倍高いといった研究結果がある。また、幸福度が高い従業員は顧客から高評価を得られる可能性が高いなど、幸福度は業績と密接に関連するというデータも示されている。

「日本では、〈満足感〉と〈幸福感〉が混乱して捉えられているようです。報酬や職場環境など、満足感は与えられたものに対する感情であるのに対し、幸福感は自分で創り上げたものに対する感情なのです。また、満足感と幸福感の関係を見ていくと、満足度のパーセンタイル値(計測値を小さい方から順番に並べ、何パーセント目に当たるかを示すもの)が30くらいまでは、幸福度は満足度と明確に相関しています。しかし、満足度のパーセンタイル値が30を超えると、あまり関係がなくなり始めます。さらに、満足度のパーセンタイル値が55付近からは、満足度と幸福度の関係性が急激に低下します。つまり、平均より少し上の満足感を得ると、そこからは幸福感を感じなくなるということです。そこから先は、『もっと高い満足感を求めるようになる』『その満足感を維持しようとする』『ある程度の満足感を得られたので後は自分で何か創造的なことをしようとする』の三つの方向に分かれていきます」

企業の中で社員を幸福にするのは、満足感を高めることだと考えがちだが、実はそうではないということだ。企業の中で従業員満足度を高める取り組みは必要だが、それは55パーセンタイルまで。しかし、ある程度満足度が高まったら、そこから先は自分で何かを創り上げている実感をもたせる幸福度への取り組みに切り替える必要がある。そして、そういう幸福感を実現できた人こそが、成果を上げていくことができる。

「人間の幸福感と相関が特定できない項目として、収入、知能・学歴、職歴・ポジション、友人の多さ、身体的な魅力(容姿)、健康などが挙げられます。これらは他から与えられたもので、自分で創り上げたものではありません。ただし、最低限のレベルが維持されていないと、幸福感にはつながりません」

講演写真

では、幸福感の高い人材とはどういう人材なのか。勇気(まずは自分から行動を起こす習慣付け)、正義(やましいと思うことはしない、持たない)、創造性(常識にこだわらず、自分で最適を考え続ける)、節制(モノより思い出、適度な満足度)、関係性(他者と深く関わり、協働する)、人間性(人間としての魅力)という六つの項目が特定されている。これらの項目はすべて、自分で創り上げていくもの。そして、これらの項目が高いレベルにある人は、高い成果を上げることができるのだ。

続いて、「人事として、社員の幸福感を高めるためにはどうすればいいか」というテーマで、参加者同士によるディスカッションが行われた。参加者からは「意外に難しい」との声が多かったが、川上氏は、その理由を「今の企業には社員の満足感を高める取り組み(社員食堂など)はあっても、幸福感を高める取り組みがあまりないから」と説明した。

社員の幸福感を高めるためには、現行の人事制度・施策をマイナーチェンジするべきだと川上氏は言う。例えば、目標管理制度。多くの企業に導入されているが、これを幸福感の方向に振るためには、上から与えられた目標ではなく、自分で興味関心を持ちながら目標を作り、それを自分で達成していくという実感を持てる仕組みに変えていかなければならない。また、報酬制度も、その金額をただ高くし与えていくのではなく、社員が少しでも自分で報酬プランを選べ、自分で組み立てられるような仕組みにすることで、自分が作り出した報酬であると思えることで、幸福感へとつながる。このような変更は、制度そのものを変えなくても、運用方法や社員への説明方法を変えることだけでも、幸福感を高めることにつなげられる。ただし「結局、人材論は全てアナログの世界なのです。こうすれば誰もが100%幸せになるという施策はありません。でも今よりも10%でも20%でも幸福感が高まれば、社員は前よりも仕事が面白くなったと実感するはずです」

今まで、多くの企業ではES(従業員満足度)やCS(顧客満足度)を高めていく考え方、取り組みが主流だった。もちろんこれらを、標準レベル以上にまで高めていくことは重要である。ただし、これからはそれに加えて、EH(従業員幸福度) をいかに高めていくかが大変重要になる。そのための施策を考えることが人事の役割である。そして、CH(顧客幸福度)を高めていくこと(顧客も自分のっ力で何かを創り出していると実感してもらう)。これらEH、CHが高いレベルで実現されることが、会社の業績向上へとつながっていくのだ。

エンゲージ~仕事に内的報酬を感じながらのめり込んでいる状態

二つ目のテーマは「エンゲージ」。いま、なぜエンゲージが重要になっているのか。それは、動機づけの考え方が、根本からパラダイム転換を起こしているからだ。

川上氏は、動機づけ理論で有名なマズローの「欲求5段階説」が、間違って理解されていると言う。マズローの「欲求5段階説」は、「生理的欲求→安全と安定の欲求→社会性の欲求→承認と尊敬の欲求→自己実現の欲求」というように、人間は低次の欲求から、より高次の欲求を欲していくという理論である。「しかし、この通りに欲求は進んでいきません。これは、マズロー自身も言っていることで、あくまで欠乏動機(生理的欲求、安全と安定の欲求、社会性の欲求、承認と尊敬の欲求)と成長動機(自己実現の欲求)の違いをマズローは説明しようとしたのです。欠乏動機とは、要はハングリー精神のこと。動物と違って、人間は欠乏動機が満たされていてもそこにとどまらない、ということを証明しようとしたのです。人間は欠乏の如何にかかわらず、自分をもっと高いレベルに持って行きたいという成長への欲求がある。それを自己実現の欲求としたのです」

川上氏の指摘にもあるように、今、日本社会の中で、動機づけの考え方が大きく変わってきている。若い人たちを中心に、欠乏動機が急速に減少しているのだ。「今まで欠乏だと思い込んでいたものを獲得したからと言って、幸せになれるとは限らない」と考える人が増えてきたからだ。その典型例が、会社におけるポジションとお金である。

では、この問題を解決するためにはどうすればいいのか。従来は、外的報酬を中心とした動機づけが主流だった。頑張れば、会社が欠乏を報酬で埋めてくれるという期待感に基づく自己動機づけである。しかし、これからは内的報酬も加えた動機づけが必要となってくる。「今、担当している仕事そのものが興味深く、自分の成長につながっているのだと実感することによる自己動機づけです。一定レベルの外的報酬に加え、内的報酬をいかに組み込んでいくかが、これからはとても重要です」

講演写真

内的報酬の方向性について言えば、「関係(特に上位者)に関する内的報酬」と「仕事そのものに関する内的報酬」がある。「関係(特に上位者)に関する内的報酬」は、自分の上司、同僚、後輩、顧客など一緒に働くことが、自分にとってのプライドや刺激となり、内的報酬を感じることになるというもの。一方の「仕事そのものに関する内的報酬」は、自分にアサインされた仕事、自分で創り上げた仕事の目的や取り組みプロセスに内的報酬を感じるというもので、人事考課結果への納得度と非常に強い相関関係があることが特徴である。

ちなみに、部下から見て内的報酬を感じられない上位者の特徴として、「論理的だが、その論理を押し付ける」「勢いはあるが、具体的な方針や目標は何も示さない」「一人で成果を出せるが、組織を効果的に活用できない」「経験豊富だが、過去のやり方にこだわり、変化を拒む」「能力は高いが、感情が不安定でキレやすい」などが挙げられる。そして、内的報酬を感じる上位者であるための条件として最も大切なのは、「この人の言っていることは正当だと思ってもらうこと」で、人を動かしていく「正当パワー」である。

「エンゲージとは、仕事に内的報酬を感じながらのめり込んでいる状態のことです。ところが、『仕事は面白くないが、イベントなどが楽しい』『仕事がきつくても、我慢すればよいことがあるから、取り組み続けている』『楽しく、和気あいあいと仕事に取り組んでいる』というようなことをエンゲージと誤解している企業が見受けらます。楽しい雰囲気で仕事をするのではなく(感情的なのめり込み)、興味・関心を持って仕事をする(思考的なのめり込み)ことが、エンゲージの本質なのです。楽しいという感情は比較的すぐに消えてしまいますが、興味関心であれば、極端な場合、何十年でも続けることができます。ちなみに、日本人は感情的なのめり込みをする人が多く、エンゲージが苦手なようです」

社員にエンゲージさせるためのやり方として、「取り組む仕事の中に明確な意義を見出させる、適度な難易度を持った課題を認知させてチャレンジさせる、自分の強みを客観的に認知させて活用させる」といったアプローチが有効だと川上氏は言う。

ダイバーシティ~異質性に対してポジティブなマインドセットを行う

そして三つ目のテーマが「ダイバーシティ」。ダイバーシティで重要なのは、異質の相手と協働していく時に、成果を発揮できるコンピテンシーを持っているかということに加えて、そのコンピテンシーをどんな状況でも安定的に発揮することができるかどうか、ということである。

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「コンピテンシーのホメオスタシス(恒常性の維持)です。日本人は自国で仕事をしている時には、いくらでも効果的な行動発揮できるのに、グローバルという異質な環境になった途端、そのようなコンピテンシー発揮が止まってしまい、安定的に成果を出せないという人が少なくありません。逆に、環境が変化しても身体の動きに変化が起こらない人は、コンピテンシーのホメオスタシスが保たれていると考えられます。このようなホメオスタシスを保つためには、異質性に対するポジティブなマインドセットが重要なカギとなってきます」

人間は、何か事象を経験した時に、その事象の中に異質性を感じると、情動が生まれる。何か落ち着かない状態となって、心が揺れ動く。そこで、何か誘因が生じると、その誘因に引っ張られて情動が感情へと変化していく。感情は方向性を持ったもので、嬉しい、悲しいなど、自分の気持ちがある特定の方向に向かったものである。それに対して情動は、方向性を持たない。ただ、揺れているだけである。この揺れている状態の時に、何か誘因が出てくると、それに引っ張られて感情へと発展していくのである。

「このサイクルを繰り返していると、ある特定の事象を経験した瞬間に、『情動の発生→誘因』という途中のプロセスを飛ばして、特定の感情を持つことになります。これがマインドセットのメカニズムです。そこで出る感情がポジティブなものである場合、その事象に対してポジティブなマインドセットが形成されていると言います。だから、ある特定の事象を経験した時に、ネガティブな感情ではなく、ポジティブな感情が出るようにすればいいのです」

しかし、日本人は同質的な環境の中で育ってきているので、異質性に対してネガティブな感情が出てしまう人が多い。その結果、異質性に対して最初からおかしいという前提で捉えてしまう。異質性がある状況に対して逃げる、避ける、無関心という対応を取ってしまう。異質性を感じると、感情をコントロールできなくなるといったような、問題が表出してくる。「異質性に対してポジティブなマインドセットを持つためにも、異質性を感じたときに、即座にそれを否定するのではなく、なぜ違っているのか、その違いの有効性は何かなどのポイントを調べたり、考えたりすることで、『面白い』と思えるようなポイントを見出し、それをポジティブなマインドセット形成の誘因とすることが大切です」と川上氏はダイバーシティで取るべき対応について解説し、講演を締めくくった。

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