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若手人材育成に関わる“4つの要素”について考える

  • 高橋 俊介氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
2015.06.25 掲載
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職場環境や事業環境が急激に変化する時代、そして若者自身の行動や思考の傾向も変化している昨今、「自分がこのように育成・指導してきてもらったから」と同じ方法を踏襲しても、若手を育成できるわけではない。「育成」という言葉を聞くと、特に日本では「人が人を育てるもの」「上司が部下を育てるもの」と考えがちだが、若手を育成するのは上司や先輩だけに限らない。慶應義塾大学大学院の高橋俊介氏が、若い世代の人材を育成するにあたって忘れてはならない4要素について、企業調査や社会心理学などを背景に語った。

プロフィール
高橋 俊介氏( 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
高橋 俊介 プロフィール写真

(たかはし しゅんすけ)1954年生まれ。東京大学工学部卒業、米国プリンストン大学工学部修士課程修了。日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、89年にワイアット(現タワーズワトソン)に入社、93年に同社代表取締役社長に就任する。97 年に独立し、ピープルファクターコンサルティングを設立。2000年には慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任、11年より特任教授となる。主な著書に『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)、『人が育つ会社をつくる』(日本経済新聞出版社)、『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)、『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)、『ホワイト企業』(PHP新書)など多数。


人が人を育てる〜「教え合う場」という風土づくり

社会に出た後、学び直すために再び大学や大学院に入る人の割合は、ヨーロッパ、アメリカで20%、韓国で10%、日本では2%というデータがある。日本企業はこれまで、研修や自己啓発、学び直しを極端に軽視してきたと、高橋氏は指摘する。これは、会社内で上司や先輩が若手や後輩に教えるという「タテ型OJTの連鎖」が続いてきたことに起因するという。

「タテ型OJTの連鎖は、日本企業の強みでもありました。しかし、変化の激しい時代においては問題だと言えます。『あなたは誰に育てられたと思いますか』という質問をした時に、人の名前が全く出ることなく、プロジェクトや顧客の名前ばかりが次々と挙がるケースも少なくありません。これは、部下を育てるのは上司だけでないことを示しています。要は、ビジネスモデルがどんどん変わっていて、上司自身が現場にいた時代と状況が違っているため、上司が具体的な答えを教えられなくなっているのです。それにも増して、そもそも正しい答えは存在せず、答えを考える仕事が中心となってきているという実情があります」

上司に求められるのは「教えることよりも教える場を作ること」であると、高橋氏は言う。上司と部下の関係に限定せずに、同僚、異なる部署の先輩など、お互いが興味を持って声を掛け合う風土を作っていくことが、今の時代には重要なのだ。

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「安心社会」化した日本企業の傾向に警鐘

「頭に入れておいてほしいのが、社会心理学の〈内部取引費用か外部機会か〉という視点です。日本は、内向きの強い絆の集団に属していることで安心を得る〈安心社会〉の傾向が非常に強いと言われています。この傾向にある組織では、系列取引や資本関係を重視して付き合うことによる〈内部取引費用〉の軽減というメリットがもたらされます。また、誰が信頼できるのか考えなくて済むネットワークの中で信頼できる会社としか付き合わず、技術も価格も非常に優れていたとしても新しい企業とは付き合わないため、だまされる確率が低いと言えます」

一方、〈安心社会〉の最大のデメリットとなるのが〈外部機会〉の損失である。つまり、コスト削減などのメリットがあっても実績のない企業とは付き合わないからである。さらに、言語が異なり長年の付き合いのある企業が存在しない海外では、新しいマーケットがなかなか取れない。実際に、海外に日本企業が進出しても日本人ネットワーク内で取引をするため、ネットワークの外にいる最先端のプレイヤーと組むビジネスに弱いという。

「〈安心社会〉の逆は〈信頼社会〉です。欧米社会がこれに該当していて、こちらは外向きにどんどん出ますからだまされる可能性が高い。ですから、初めて会った人たちと短時間の間に信頼関係をうまく築けるかどうかがキーになります。つまり、『信頼できる人間か否か』を見抜いたり、『私はあなたを信頼しています』と相手にアピールしたり、『私は信頼できる人間だ』と相手に伝える、という能力が磨かれます。この能力を〈人間性感知機能〉と呼びますが、〈安心社会〉で育った日本人はこの能力が劣っているのが現状です」

しかし、グローバル化の中では、〈信頼社会〉において〈外部機会〉を自分の手でつかんでいかなければならない。要するに、〈内部取引費用〉軽減というメリットだけでは海外市場では太刀打ちできないので、〈外部機会〉損失とのバランスを取るために〈人間性感知機能〉を身に付けていかなければ、今後を生き抜くことは難しい。従って、従来通りの『安心社会』で機能していたタテ型OJT的に重心の置かれた育成方法は見直す必要があると、高橋氏は強調する。

仕事が人を育てる〜「外部と関わる場」の体験

「『仕事が人を育てる』とよく言われますが、仕事上の試練が極めて重要だということはリーダー育成研究の世界で通説になっています。大変革を成し遂げた日本の経営者は、ルートを外れたような場所でひと皮むける厳しい体験を経た人が多いのです。内部に同化し過ぎず〈外部機会〉に敏感になって変革創造を引き起こすリーダーを育てるためには、外部と関わる経験が不可欠と言えます。『顧客が人を育てる』という言葉も外部という意味で近い意味を持ちます。『ある取引先の厳しい課長に自分は随分育てられた』というケースです。特に、先端的でディマンディングであるリーディングエッジカスタマーとの接点は貴重な財産になります」

ここで高橋氏は、「人にとって仕事とは何なのか」という調査による三つの仕事観に言及。一つ目の内因的仕事観は「仕事とは自分にとって心理的報酬である」という、やりがいや成長や認知を含む。二つ目の功利的仕事観は、仕事そのものではなく収入や地位など、結果的に得られるものが目的という考え方。「仕事は自分のためじゃではなく人のため」というのが三つ目の規範的仕事観。社会や国や地域の発展のため、誰の人のために何か価値を生み出し助ける、役に立つという姿勢である。

「内因的仕事観に偏る社会は非常に危険で、規範的仕事観とのバランスが必要です。規範的仕事観を持っている人のきっかけをリサーチしてみると、圧倒的に社外の刺激が多く、読書や大学の恩師など外からの刺激を受けている人ほど強い傾向がありました。ですから、外部と接することは、人を育てるという意味でも、健全な仕事観を醸成するためにも非常に大切だと思います。しかし、悩ましいのは、若手に外向きのチャレンジングな課題が与えにくい現状です。『失敗しても私が責任を取ろう』と若手に任せられないのが最近の実態。ですから、意図的に若手に試練を与えられる仕組みをつくること、『外向きのひと皮むけるミニ体験』をさせることが求められています」

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深く学ぶ習慣〜応用力と普遍性の高い学び

マニュアルでは対応できない新しい状況が次々と起き、個別性の高い仕事が増えている昨今、「応用力」は欠かせない。事業の撤退や変革によって蓄積した経験が不要となり、学び直しが必要になるという不本意なキャリアチェンジを数回経験するケースも珍しくはなくなった。そういったキャリアショックがあると一旦成長曲線は落ち込むことになるが、落ち込んだ後に成長曲線の角度をいかに上げられるかが大事だと、高橋氏は語る。

「普段から深く学んでいるかどうかが、角度に差をつけます。例えば何でそうやるのか、疑問を持たずに表面的な部分だけを学んでいると、状況が変わった時に全く判断ができなくなり、応用力には結びつきません。応用力をつけるためには、理解型ではなく納得型で学ぶことです。そうすると、他の分野に直面した時でも直感的理解が得やすくなります。つまり、普段から『なぜそうするのか』が普遍化できるように、背景も含めて自分で腹落ちし納得する形で仕事に取り組むよう心掛けるのです。このような納得型の人は、自分の専門分野外であっても、ある程度の情報を聞くだけで本質がつかめるのです」

背伸びして人を巻き込むという仕事の仕方が、普遍性の高い能力の獲得につながることも調査結果には表れているという。同じように、経営目線、顧客目線の視線を上げた成果を求めることも学びの普遍性を高める。また、基礎理論や歴史的背景の学びも応用力につながっていく。

「自分の背骨になる専門性やテーマをずっと持っておくと、キャリアはそこに収束してくるものです。背骨となるのは、例えば自分の興味ですが、それが分からない人には、昔読んだ本を読み直したり、そこにコメントを書き込んでみることをお勧めします。何年か後に見てみると、そこに表れている興味の一貫性に気づくことがあると思います。注意したいのは、経験からの学びの質です。仮説なしの精神主義や過度な一般化などの浅い学びは逆効果になります。学んだつもりになって少数の具体的経験を過度に一般化し、ゆがんだ持論を作ってしまうからです。事例や実体験なしの普遍性の高い本からの学びも要注意。抽象的な文章を我田引水して解釈してしまう危険があります」

チャンクアップ・チャンクダウンなどのファシリテーションのスキルの活用も効果的であると、高橋氏は言う。「これはどういうことか」と抽象性を上げたり、「それはどういうことか」と具体的な場面に落としたり、行ったり来たりすることで「こういうことだ」と実例を伴った深い学びが可能になる。職場の議論の場でも、チャンクアップ・チャンクダウンが日常的に生じるような形を促すようにすれば、自然に学びを深めることができる。

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キャリア自律風土〜風土がもたらす若者の変化

「忘れて欲しくないのは、キャリア自律風土がなければ、何も意味をなさないということです。キャリアと人生の管理可能性を会社に全面的に委ね、その見返りに生涯の予見可能性を会社から与えられた時代は完全に終わっていることを、まず考えていただきたいと思います。ただ、普段から仕事や人間関係やスキルアップにどんな行動で臨んでいるかという思考行動の習慣が、キャリアを作るために好ましいものであれば、結果的に自分にとって満足度の高いキャリアになる確率は上げられるという有名な理論は、心に留めておいてほしいと思います」

キャリア自律行動や風土のより高い会社への若年期の転職が思考行動特性に変化をもたらすことは、実際に観察もされており見逃せない。つまり、誰かが育てるのではなく、自律的な環境の中に身を置くと、風土が、本人を感化し、仕事観に影響を与え、キャリア自律行動をとるよう成長させる効果を持つことを示しているからである。

「キャリアを切り開くいくつかの視点としては、『流れを見据えて流れに賭ける、乗る、先物キャリア』『どう見られているかの前にどう見られたいか、自己ブランドの確立、普遍性の高い勝負能力に気づく』『人に教えることで納得する。学び合いは互酬性』『二番目に得意なことを仕事にする、結果的にできた複数の専門性をつなげることがキャリアの個性になる』『多様な人からの刺激がキャリアの選択肢の広がりへの気づきになる』『キャリアはフェーズで使い分ける。ワークライフなどの常に良いバランスを維持するのは無理、フェーズの変わり目、人生の節目こそデザインが重要』が挙げられます。こういったキャリアを作っていく上での知恵や主体性のようなものが、キャリア自律を育むのです」

若手の人材育成を考える際には、四つの要素一つひとつでいいので、常に意識して考えていくようにしてみてほしいと、高橋氏は最後にアドバイスを加えた。

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