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実例から伝える事業企画のつくり方-成功と失敗を分ける5つのポイント-

  • 狩野 尚史氏(株式会社HRインスティテュート 取締役/シニアコンサルタント)
東京特別講演 [G-1]2018.06.25 掲載
株式会社HRインスティテュート講演写真

「新規ビジネスの起案の質がなかなか高まらない」という悩みを持つ企業は多い。企業のコンサルティングを行うHRインスティテュートには、「打ち手にばかり視点が集まり、目的を忘れたアイデアばかりになっている」という声が多く寄せられている。どうすれば、優れた事業企画をつくることができるのか。これまで多くの新規ビジネス創出を支援してきた狩野氏が、実例を交えながら「ビジネスプラン策定5フェーズ」の成功と失敗のポイントについて解説した。

プロフィール
狩野 尚史氏( 株式会社HRインスティテュート 取締役/シニアコンサルタント)
狩野 尚史 プロフィール写真

(かの なおし)東京工業大学大学院 社会理工学研究科 社会工学専攻 博士課程単位取得退学
金沢工業大学大学院 工学研究科 知的創造システム専攻 修士課程修了
工学修士号(経営管理 知的創造システム領域:ビジネスアーキテクト&IT)。新規ビジネスプランニング支援、ビジネスモデル構築&戦略構築支援に従事。


Howばかりを考え、WhyとWhatが生まれにくい現状

HRインスティテュートは、ビジネスコンサルティング&研修プログラムの企画・開発・実施を行っている。「主体性を挽き出す」をミッションとし、事業成長に向けて「自社らしい事業を創る“人”を創る」ことを大切にしている。
狩野氏は、ビジネス起案において「問いを立てる」ことの重要性から話を始めた。

「事業企画はWhyに始まりWhat、Howと構築されます。しかし、打ち手であるHowにばかり注目が集まり、問題を提起するWhyとアイデアを出すWhatが生まれにくい、という相談がよくあります。この思考のパラダイムを変えるには、それなりのトレーニングが必要です」

狩野氏はここで経営学者であるミンツバーグの「経営3視点」を紹介した。「アート=組織の創造性を後押しし、ワクワクするビジョンを創る」「サイエンス=体系的な分析や評価で現実性を付加」「クラフト=経験則やこれまでの知識を元に実行力を付加」の3視点だ。

「一般にサイエンスとクラフトの言説化には説得力があり、『なんかいいよね』といった言説化しづらいアートの領域が置き去りになりがちです。しかし、創造性には感性を豊かにして、現状に対して何かしらの違和感に問いを立てることが必要です」

次にビジネス創造に必要なプロセスとして、これまでのPDCAとは異なるOODA ループ(「Observe=観察、Orient=情勢判断、Decide=意思決定、Act=行動」)を例に出し、
特に観察と情勢判断が肝となると伝え、いつもと違う気付きを得るには「みるちから」を鍛える必要があるとつなげた。

ここで狩野氏はアート作品の写真を会場に見せて、これは何かと聞いた。

「これはレディ・ガガも愛用した、アーティスト舘鼻則孝氏が創り上げたヒールのない靴です。東洋の高下駄に西洋のパンプスの組み合わせ、歴史と現代の組み合わせで新しい形を創りあげています。」「アートが持つ表現力をじっくりみることで、探求心が向上します。」

もう一つ、FedExのマークを見せて、ここに隠されているものは何かと聞いた。

「実は、オレンジのEXの中に右向きの矢印が隠れています。これまでと違う見方をしなければ見えてこないものがある、ということです。心理学者である佐伯胖氏は著書『学びの構造』の中で、『真理は苦労することによって得られるのではなく、問うことによって得られる』と述べています。それほどWhyは重要です」

ビジネスプラン策定5フェーズ:
1)事業コンセプト、2)情報収集&仮説検証

ここで狩野氏は、ビジネスプラン策定シナリオとして「1)事業コンセプト 2)情報収集&仮説検証 3)事業ビジョン 4)事業推進のための戦略体系 5)事業収支~リスクマネジメント」の5フェーズを紹介した。

一つ目のフェーズは「事業コンセプト」で、新しい顧客体験(NUX)を創るASDETフィルターが紹介された。「目的を創る」「手段を創る」と「心へのアプローチ」「アタマと身体へのアプローチ」をマトリックスで考えると、「art領域、science領域、design領域、engineering&technology領域」という四つの領域が生まれるこのフィルターを使うことで、新たな体験を生み出すことができる。

講演写真

「個人から生まれたアイデアをコンセプトとして練り上げるには、想いを市場背景の事実で押さえていく、一貫したストーリーが必要です」

ここで狩野氏は実例をあげた。ベイクルーズから誕生した、女性の生理週間を軸にした新ブランド「エミリーウィーク」だ。これは新規事業提案コンテスト「スタートアップ キャンプ」から生まれている。「自分と同じ悩みを持つ人をどうしても助けたい」という女性社員の強い思いから誕生したという。イノベーションは一人の「熱い想いと問を立てる力」から生まれるのだ。

「誰の『不』を解消したいのかを明確に定める必要があります。リアルに助けたいターゲット層をイメージできるペルソナ(仮想の人物)をつくり、本当にそんな人がいるかどうかを考えながら、そこに自社の強みを活かせないかと考えていきます」

狩野氏は事業コンセプトの良し悪しを見分ける方法として「原体験からの自分事で湧き出るリアリティーがあるか」「自分の主観を、一般化出来る客観に展開できるか」「助けたい人、解決したい事象が超具体的であるか」「事業が与えるベネフィットが一発でわかるか」をあげる。

「コンセプトに『新たな顧客価値を創る!』といった抽象的な言葉、ビッグワードが入っていたら要注意です。誰の何を解決するのかを具体的に伝えられるかをチェックしながら、言葉を言い換えてみることをお勧めします」

二つ目のフェーズは「情報収集&仮説検証」だ。狩野氏はリサーチ実施時のポイントとして「常に『仮説⇒検証』を意識する」「1000の烏合の衆より1の先行者」「利用シーンを重視する」「顧客のベネフィット(得られる価値)を重視する」「リサーチのためのリサーチにしない」をあげる。

「手法としてアナロジー(類推)も活用します。一つ目はベンチマーキング。目指すべきビジネスモデルと現状のギャップを、競合や参考企業との比較により探るプロセスです。二つ目はベストプラクティス。『最適なる実践』であり、他社のいいところを自社に取り込むことで理想のビジネスモデルを築くプロセスです」

ここで狩野氏は、飲食店の行列を防ぐ施策が誕生した事例を紹介した。ある店舗で、店前の長蛇の列に対するクレームが多く発生していることが判明。そこで、銀行や郵便局で使われている番号札をヒントに、店舗に行って順番待ちの番号を入手すれば、番号が近づくとアプリが知らせてくれるという簡単なプロトタイプをつくり、他店舗にヒアリングを行った。

「『導入したい』との声が多かったので、サービスを立ち上げようとした矢先に新たな声を聴きます。『順番を待っている間に、他の飲食店で軽くお茶でも飲みながらケーキを食べてしまったら、注文単価が下がるのではないか』という不安の声でした。そこで実地調査に乗り出したところ、店での注文単価には差がないことが判明しました。現場を実際に見ることでわかることはたくさんあります」

狩野氏は、情報収集&仮説検証の良し悪しを見分ける方法として「仮説を基に情報収集しているか」「ターゲットの本音を聴きだせているか」「実際に足を運んで自らの新しい発見をしているか」「都合の悪いデータも受け入れ乗り越えるか」をあげる。

「アンケート結果の『いいね!』だけを強調し始めたら要注意です。最小のスペックでヒアリングし、ターゲットの『いらない』という声を聞きだす。なぜいらないのか、本音を聞くことが新たな発見につながります」

講演写真

ビジネスプラン策定5フェーズ:
3)事業ビジョン、4)事業推進のための戦略体系、
5)事業収支~リスクマネジメント

三つ目のフェーズは「事業ビジョン」だ。ビジョン設定には三つの必要な要素がある。

「一つ目はビジネス理念。高い志や叶えるべき夢・希望が表現されたものです。二つ目は定量目標。売上はトータル金額だけでなく、分類が極めて重要。その構成分布こそが戦略であり、勝つための明確な特徴づけにつながります。三つ目は定性目標。ビジネスをどう展開するかを考え、生き残るためのビジネスの広がりや方向性を示す領域を明確にします」

ここで実例が紹介された。ブラックドレスの新ブランド「HARDY NOIR(アルディー ノアール)」だ。女性に意見を聞くと「普段着として使えるブラックドレス特化のブランドがない」「ブラックドレスを冠婚葬祭以外でも美しく着たい」という声が多かった。そこで「BLACKで女性は美しくなる」をコンセプトに事業企画を開始した。

「これは過去のデータではなく、未来の市場を創ることに注力した例です。既存のブラックドレス市場からのリプレイスではなく、全ドレス&ワンピース市場へのブラック文化創出に捉えなおし、事業ドメインを切り替えました。既存マーケットがないところに事業を立ち上げるとき、自らの新しい事業創造が必要になります」

狩野氏は、既存の市場規模から「これくらいならいけるはず」と仮定を言い出したら要注意だと語る。既存数字の積み上げロジックは重要だが、それに加えて市場を創るという意思がなければウォンツは創れない。

四つ目のフェーズは「事業推進のための戦略体系」だ。戦略とは、常に勝つための明確なる特徴づけといえる。

「特徴を辞書で調べると『他と比べたときの明確なる違い』とあります。ここでは、他社にまねが簡単にできないビジネスを展開すること。そして、強みをさらに強くすることが求められます」

ここで狩野氏は、大手化粧品メーカーにおける男性化粧品事業の立ち上げの実例をあげた。化粧品といっても幅広く、基礎化粧品からメイクまで、何を象徴的な商品として戦略化していくかを絞り込めていなかった。そこで、市場におけるポジショニングとして「初」に注力し、基礎化粧品ではなく「メイクアップ」に絞り込む。それによりコンセプトがより際立ち、ターゲット戦略、ブランド戦略のイメージも固まった。

「これをやって、あれをやってとバラバラとやるべきことが並べられたら要注意です。 何を本質的な特徴として尖らすのか。やらないことを決めて、ムダをそぎ落とさないと戦略たりえません」

講演写真

最後の五つ目のフェーズは「事業収支~リスクマネジメント」だ。事業収支のシナリオ化における評価軸は三つある。一つ目は、リアリティー。顧客(現場)に密着した視点で考えられているかどうか。二つ目は、コア・コンピタンス。自社らしさ、特徴が明確かどうか。三つ目は、スケール感。未来への大きな成長・トレンドを生み出せるかどうかだ。

「この場面では『やってみないとわからない』という言葉が出たら要注意です。やってみないのは確かにそうなのですが、数字の構造をしっかり考えているかが重要です。売上方程式と集客方程式を明確にイメージできなければいけません。利益構造の仮説があってこそ、スタート後に軌道修正もできます」

最後に狩野氏は人材育成への思いを語り、講演を締め括った。

「私たちは単発の研修や実践的教育ではなく、教育的実践の場として当事者を育てることを常に意識しています。その中で、事業を創るという習慣を創ることが大事なのだと思います」

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