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AI時代の“採用”と“育成”を考える―ソニーの取り組みから、これからの人材戦略へ

  • 川上 真史氏(ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授)
  • 北島 久嗣氏(ソニー株式会社 人事センター・人事1部 統括部長 兼 採用部 統括部長)
  • 橋本 征義氏(ソニー株式会社 人事センター HR Tech推進室 室長)
  • 山口 真貴子氏(株式会社ヒューマネージ 『HUMANAGE REPORT』編集長)
東京特別講演 [B-5]2018.06.29 掲載
株式会社ヒューマネージ講演写真

ソニーは2019卒から、新卒採用にAIを導入。AI導入の目的はエントリー促進、書類選考の正確な意思決定のサポート、辞退率の改善だ。今まさに採用活動の最中にあるが、どんな成果が見えつつあるのか。また、そこにはどんな課題があるのか。ソニー人事センターの北島氏と橋本氏、川上教授が、AIが実現するこれからの人材戦略について語りあった。

プロフィール
川上 真史氏( ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授)
川上 真史 プロフィール写真

(かわかみ しんじ)京都大学 教育学部 教育心理学科卒。産業能率大学 総合研究所 研究員、ヘイ コンサルティング グループ コンサルタント、タワーズワトソン ディレクターを経て現職。主に、人材の採用、評価、育成システムについて、設計から運用、定着までのコンサルティングを担当。また、心理学的な見地からの新しい人材論についての研究、開発を行うことで、次世代の人材についての考え方も世の中に提唱する。2003年~2009年 早稲田大学 文学学術院 心理学教室 非常勤講師、2013年~2017年 明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 兼任講師(社会心理学担当)。現在、株式会社ヒューマネージ顧問、株式会社タイムズコア代表も兼任。


北島 久嗣氏( ソニー株式会社 人事センター・人事1部 統括部長 兼 採用部 統括部長)
北島 久嗣 プロフィール写真

(きたじま ひさつぐ)ソニー株式会社入社後、労務、人事、研修、採用、事業部人事、海外事業所人事を担当。2015年3月より本社組織の人事に着任。2016年2月より採用部に兼務し、リソースマネジメントを担当。現在にいたる。


橋本 征義氏( ソニー株式会社 人事センター HR Tech推進室 室長)
橋本 征義 プロフィール写真

(はしもと まさよし)ソニー株式会社入社後、PC事業や携帯電話事業において国内外の組織をHRビジネスパートナーとして担当。米系IT企業を経て2016年10月にソニーに戻り、HRテクノロジーも含む新規領域の立ち上げを担当。


山口 真貴子氏( 株式会社ヒューマネージ 『HUMANAGE REPORT』編集長)
山口 真貴子 プロフィール写真

(やまぐち まきこ)2001年入社。2007年より、ヒューマネージのオピニオン誌『HUMANAGE REPORT』編集長。業界シェア第1位の採用管理システム『i-web』、同第3位の適性アセスメントツールの膨大なデータにもとづく採用動向を発信している。


ヒューマネージ 山口氏:AIが創造する次世代の採用管理

ヒューマネージは「企業の採用活動を支援する採用ソリューション」「適性検査の開発・提供を行うアセスメントソリューション」「従業員のメンタルヘルスを支援するEAP」という三事業を通じて、企業における人材の採用から定着までの課題解決を行うソリューションサービスを提供する。まず同社の山口氏が、採用ソリューション領域の主力商品である採用管理システム「i-web」を紹介した。

講演写真

「採用管理システム『i-web』は、多くの企業にご利用いただき、おかげさまで10年連続シェア第1位となりました。リクナビ、キャリタス就活、OfferBoxとリアルタイムに連動し、シェア第3位のヒューマネージの適性検査に加えてシェア第1位のSPI3ともリアルタイムに連動するという、利便性の高さを誇っています。2017年には業界初となる、AIエンジンを搭載した次世代の新卒採用向け採用管理システム『i-web AI』をリリース。応募者の志望度、マッチング度をAIが判定します。単なる合否判定に使うのではなく、応募者の志望度合、理解度合に合わせてどのように効果的にアプローチするかを考えるマーケティングツールとして利用できる点に強みがあります」

ソニー 北島氏:
意思決定は、必ず人間がおこなう。AIは、サポートツール。

次にソニーの北島氏が登壇。ソニーは長年にわたりヒューマネージの採用管理システム「i-web」と適性検査を利用しており、2019年卒新卒採用から新たに「i-webAI」を導入。本セッションでは、その途中経過について語った。

「今年から新卒採用にAIを導入しました。ソニーではAIに合否を判断させるという使い方はしていません。あくまでもサポートツールとしての活用です。導入の主な用途はエントリー促進、書類選考の正確な意思決定のサポート、辞退率の改善の3点です」

同社では、グループイベントやナビ媒体を通じてエントリーを募集。AIは応募者の志望度の可視化をサポートしている。

「AIが志望度を予測することにより、当社への志望度がまだ高まっていない学生に対してメッセージを送るなど、応募のきっかけづくりを進め、エントリーしてもらえるように促します。これまでは、応募があった時点で、学生それぞれの志望度合を予測することは不可能でした。このように、早期から学生一人ひとりに合わせて、きめ細かい対応ができる。これがAI導入のメリットだと考えています」

講演写真

技術系においては電気、メカ、ソフトなどの領域で72のコースを設定。専門の面接官としてのべ1000人を動員するなど、巨大オペレーションを展開している。面談にあたってはAIをサポートツールとして活用し、書類の読み込みを行っている。その際、昨年の新卒採用での実績データが教師データとして活用されている。

「ソニーでは新卒の書類選考にあたり、現場の担当者と人事のあわせて3~4名が、すべての資料を読み込んでいます。これまでも判断にバラツキが出ないようにさまざまな工夫をしてきましたが、やはり、経験の差やコンディションなどは反映します。今年度はAIを使って、このプロセスにメスを入れました」

エントリーシートだけでなく、適性検査などを含めると、一人あたり1000単位の情報がある。昨年までは短期間ですべての項目に目を通し、総合的に比較することは不可能だったが、AIのサポートにより、効率的な運用ができるようになったそうだ。あわせて、辞退率の低下でも効果が期待されているという。

「電話や面談など、学生と接する際には、AI分析が示唆するサゼッションを参考にしながら話します。次のステップに進んでほしいと思っているのに、伝える側と受けとめる側の間で誤解があることや、情報不足などの理由で結果的に辞退されてしまうことは、採用成果を阻害する最大の要因だと認識しています。AIを活用することで、お互いの理解が深まれば、大いに助かります。現時点では、それなりに効果的な採用選考ができると感じています」

パネルディスカッション:採用へのAI導入では何が障害になるか

北島氏のプレゼンテーションを受けて、ディスカッションが行われた。

川上:AI導入に際しては、かなりご苦労もあったかと思います。どんな点が難しかったのでしょうか。

橋本:大きく三つあります。一つ目は、各データを使いやすいようにきちんと整備することです。選考に関するデータは採用管理システム『i-web』に揃っていましたが、別で管理しているデータのなかにも分析に使いたいものがあり、RPA(ロボットによる業務自動化)のツールも使って、問題がないようにデータを整えました。二つ目は、社内外の専門家を巻き込んでの対処です。人事にはAIのノウハウがありませんから、社内でIT情報系の部門やAIをすでに使っている部門、外部ではAIに詳しい企業などに相談し、多くのヒントをもらいました。三つ目は、個人情報保護・セキュリティの問題です。社内外の専門家を巻き込む際に、セキュリティ上、データ使用に問題ないかどうかは法務と確認しながら進めました。

講演写真

川上:最終的に採用は人が判断するとのことですが、AIはどこまでの範囲で活用しているのでしょうか。

北島:エントリーシートの書類選考では、複数のスタッフが分担して書類を見ていたのですが、意思決定に多少のバラツキがありました。一方、AIは膨大なデータを全て加味した形で、感情に左右されず判断します。そいわゆる“科学的な”判断を参考にしながら、意思決定を行いました。AIの判断は、昨年や一昨年など、我々が過去に意思決定した判断に基づいて分析します。その意味で、私たちはよく「AIは写し鏡」と言っています。AIの判断の元となる教師データは、これまでの自分たちが行った書類選考のデータです。我々が“これまでなんとなくそう思っていた”ことが、AIによって「見える化」された、というのが実感です。

講演写真

橋本:今回、AIを使ってみて、人事がデータを持っていることがいかに重要かを実感しました。データさえあれば、AIで活用することができます。データを保有することのパワーをひしひしと感じました。

川上:人材育成の場面でも、AIを使われているのでしょうか。

北島:まず採用の部分から着手しており、人材育成はまだこれから、というところです。しかし早晩、育成の場面でも活用は広がると思います。データによる「見える化」にもとづいて、その人の可能性を探り、足りていない経験を選んで体験を提供し、スキルや能力を伸ばすことにつなげたいと考えています。

橋本:将来活躍するような人材を見分けられれば、採用時でも判断に活かすことができます。ソニーのタレントデータは過去にさかのぼって多く存在しますので、今の経営陣の過去の活動データはどうだったかなど、今後研究できるのではないかと考えています。ある人に対して、経営人材、イノベ―ター、スーパーエンジニアなどいろいろな仮説を立て、キャリアを伸ばすポイントをAIが見つけられれば、「研修ではこのメニューを受けるといい」などとレコメンデーションもできるかもしれません。

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川上氏による総括:「人事におけるAI活用の本質とは」

最後に川上氏がAI、人工知能の本質について解説した。

「AI=非常に難しいもの、と思っていらっしゃる方は多いですが、AIは、そもそも人間の知的能力を人工的にコンピュータ上で実現する技術の総称です。先ほど、北島様、橋本様のお話にも“教師データ”という言葉が出てきましたが、採用に関して言えば、過去に人間が行った評価や判断のデータがあってはじめてAIが活用できるようになります。AIは、それのみで活用できるものではなく、まず人間の知的活動が前提になければいけない点をおさえておいてください。

では、AIを活用する利点はどこにあるのか? AIは人間の知的活動が前提になりますが、人が行う評価や判断にはどうしてもゆがみが生じます。例えば、印象だけで「この学生は採用すべきだ」と思うと、採用すべき理由にのみ着目して、採用しないほうがいいかもしれない点は無視してしまうことがあります。その点、AIは何の感情にも左右されず、採用すべきかどうかに関するすべての論理軸を組み込んで偏りなく判断してくれます。

また、最近はディープラーニングの技術が進化して、膨大なデータからどこに着目するとよりよい結果が導き出せるのかをAI自身が学習し、人間からの指示に頼らずに自動的にその学習を深めていくことができるようになっています。ディープラーニングにより、人が“なんとなく”下していた判断から、自分自身では意識できていない重要な判断基軸が見出され、それを新たな基準として取り入れることで、人間の判断がさらに正確に精緻になっていくことも期待できます。このように、AIに任せたほうが適している領域はAIに任せ、その結果をもとに、最終的に採用するかどうかの意思決定は人間が責任をもって行う。これが、AI活用の基本スタンスと言えると思います。

また、どのような人材が活躍しているのか、どのような能力要件を大切にしているのかは、それぞれの企業・組織によって異なります。その企業や組織ならではの判断軸、AIの活用法があると思います。これからAIの活用に取り組まれる人事の皆さまは、ぜひ、ご自身の組織における活用の領域や方法を考えてみてください。そのチャレンジこそが、本当の意味でAIを活用することにつながるのではないかと思います。」

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