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“組織文化の見える化”から始まる「生産性向上」

  • 加藤 明拓氏(株式会社フォワード 代表取締役)
東京特別講演 [A-5]2018.06.25 掲載
株式会社フォワード講演写真

組織文化は社員の生産性に大きく影響するが、その変革は困難だと言われる。理由の一つは、文化の見えにくさだ。組織・風土改革コンサルティングを行うフォワード代表の加藤氏は、可視化ができれば変革は圧倒的に進めやすくなると語る。どうすれば「見える化」できるのか、また、変革に導くステップとは――。加藤氏が多くの実例から導かれたノウハウについて語った。

プロフィール
加藤 明拓氏( 株式会社フォワード 代表取締役)
加藤 明拓 プロフィール写真

(かとう あきひろ)株式会社リンクアンドモチベーションにて組織人事領域のコンサルティング業務に従事後、スポーツコンサルティング事業部の立ち上げ、ブランドマネジメント事業部長を経て、2013年に株式会社フォワードを設立。国内大手企業やプロスポーツチームを対象に、ブランド戦略策定~組織変革、研修講師などに豊富な実績を持つ。


変革のBefore→Afterを描けないから「文化」は扱いが難しい

株式会社フォワードは、企業のブランディングやマーケティングのコンサルティング事業、組織・風土改革コンサルティング事業、スポーツクラブの経営コンサルティングを行うスポーツ事業などを展開。取引先にはユナイテッドアローズ、ルミネ、東急不動産、イトーキなど大手企業が並ぶ。カンボジアンタイガーFC(カンボジア)、イガンムFC(ナイジェリア)といった、海外のサッカーチームのオーナーでもある。

そもそも組織文化とは何なのか。加藤氏は米国の心理学者エドガー・シャインの定義を紹介した。

「組織文化とは、ある特定の集団が外部への適応や内部統合の問題に対処する際に学習した集団自身によって創られ、発見され、また発展させられた基本的仮定のパターンであり、それはよく機能して有効と認められ、したがって新しい成員にそうした問題に関しての知覚、指向、感覚の正しい方法として教えこまれるもの」

これを読むと、組織文化はまさに組織ごとに違うからこそ難しいと思わされる。加藤氏は来場者にこう問いかけた。

「上司から『新しい商品のアイデアを10個考えてくれ』という依頼があったとします。『じっくり考えて質の高いアイデアを3日後に出す』『とりあえず思いついたアイデアを翌日に出す』、皆さんの会社ではどちらが評価されるでしょうか」

加藤氏は、この回答こそが各々の組織文化だと語る。組織文化とは、絶対的な答えがないものに対して、過去のさまざまな状況や問題に対処する中で作られ、発展してきたものだからだ。

「組織文化とは明確に言語化されていない価値観であり、行動に対して暗黙の前提となっているものです。ここで大切なことは“文化は社員の行動を規定する”という認識。伝統企業が新たな戦略に挑戦しようとするとき、減点主義や失敗を許さない組織文化であれば、アイデアが生まれてこないこともあります。戦略が正しくても、企業の遂行力がそこにマッチしていなければ生産性は上がりません」

講演写真

企業において組織文化の重要度が高い理由は三点ある。一つ目は「文化は判断・行動を強く規定する」。戦略が文化にマッチしなければ機能しない。二つ目は「文化は社員の生産性に影響する」。例えば、あ・うんの呼吸があれば仕事も速くなる。三つ目は「採用活動にも影響する」。特に学生は企業の中の人よりも、その集団の文化を見ているものだ。

組織文化をより自由に変えたいと思っても、現実には難しい。その原因は文化が持つ三つの性質にある。

「一つ目は『目に見えないこと』。目に見えないのでそもそも言語化しづらく、そこに絶対的な解はないからです。優良企業の文化や施策が他社でも機能するとは限りません。二つ目は『当たり前すぎること』。当たり前すぎて気付かれにくい。また、社歴が長い人ほど自社の文化について明確に認識していないことが多いものです。三つ目は『上位者の影響力が強いこと』。ボトムアップで変えようとしても、上位者の振る舞いや態度が変革を妨げていることがよくあります。ここで大きな問題となるのは、三つの性質によって変革の『Before→After』を明確に描くことが難しくなっている点にあります」

強い企業は「変化し続ける」「向上心がある」「成果にこだわる」の特徴を持つ

では、変革を進めやすくするにはどうすればいいのか。加藤氏は、文化の変革のファーストステップでは、現状の組織文化を可視化することが重要だと語る。文化にマッチしない人がいると生産性を下げてしまう。だからこそ、文化の中身を把握する必要がある。

ここで加藤氏は、ある企業の組織文化調査表を提示した。そこには「会社に対する満足度」「組織文化に対する好意度」「現状の組織文化の認識」「理想的な組織文化と現状のギャップ」「会社施策への重要度と実現度のギャップ」といった項目があり、数値やマトリクス図が書かれている。

「例えば『現状の組織文化の認識』では、『保守的な』『協調性のある』『頭が固い』など64個のキーワードを提示し、当てはまるものを選んでもらいます。上位10個ほどを見ると、その会社の文化が見えてきます。『理想的な組織文化と現状のギャップ』では、キーワードごとに理想と現状で選んだ比率の差を見ることでギャップが見えます。比率の数値で“現状マイナス理想”と計算し、プラスになれば魅力ですが、マイナスになれば重視されていないといえます。また、『組織風土への好意度』について聞くと一般には『好き3割、普通4割、嫌い3割』が平均です。この割合と差があるのなら、それが特徴であるといえます」

また、「会社施策への重要度と実現度のギャップ」では、縦軸に「重要度」、横軸に「実現度」を取ってマトリクスをつくると、項目ごとに重要度と実現度のポジションがわかる。変革時にはそこから調整を図っていく。例えば、「変化適応」では重要度が高く実現度が低ければ、実現度を高めることで企業の強みに変えていく。また、優先しない項目の重要度を下げることで、より大事にすべき項目を明確にさせるといった手法もある。

次に加藤氏が組織文化の変革を支援するうえで、よく見られる問題文化のパターンをあげた。「“ぬるま湯”型」「“体育会”型」「“がむしゃら”型」「“顧客価値喪失”型」「“他責”型」だ。

「一つ目は“ぬるま湯”型。社内の雰囲気は良いが数字が上がらず、苦境に陥った時に踏ん張りが効かない。そして、たいして行動はせずに、理想やできない理由を語りがちになります。二つ目は“体育会”型。目標達成への強い執着はあるが、詰めのコミュニケーションが多すぎ。目標達成に向けた具体的なアドバイスが不足し、根性論になりがちです。三つ目は“がむしゃら”型。みんな一生懸命やっていて雰囲気も悪くない。ただし、ナレッジ共有などがなく非効率。長時間労働が絶対基準になりがちです。四つ目は“顧客価値喪失”型。顧客価値よりも、自分たちの利益や数字への執着のみになってしまっている。排他的な雰囲気やコンプラ意識が低くなりがちです。五つ目は“他責”型。失敗に厳しい企業や減点方式の評価の組織に多い。達成できない原因を、商品や人員不足など環境に求めがちです」

講演写真

加藤氏は、組織文化は変えにくいものだが、企業には取り巻く環境の変化があることで組織文化も変えていかなければならないと語る。

「変化が必要な理由の一つは、外部環境変化への適応です。背景に国内市場の飽和、既存技術のコモディティ化・IT領域の技術革新、企業活動のグローバル化があります。もう一つの理由は内部環境変化への対応です。働き方改革などで今までのやり方を変える必要が生じ、人材獲得の難化でダイバーシティの推進も求められています。激しい環境変化に対応できる組織文化を創っていくことが、企業の基礎体力を高めていきます」

では、良い組織文化をつくる企業にはどのような特徴があるのか。加藤氏は、継続性のある会社、苦境に陥ったときに強い会社には、「変化し続ける」「向上心がある」「成果にこだわる」の共通点があると語る。

「プロサッカーチームでも選手にサーベイを行いますが、長く活躍できる選手と短命な選手ではこの3点に違いがあります。それはビジネスと同じです。また、企業は成長ステージごとに求められる文化が変化します。企業が拡大しているときはスピード感や合理・効率。事業が多角化しているときにはボトムアップや多様性。事業の転換期には変化・挑戦や革新性。ステージに合わせた文化づくりが必要です」

企業には共通して求められる組織文化に加え、企業ごとに成長や事業段階に違いがあることによる、各企業に適切な「あるべき組織文化」が存在する。「成長ステージ」によって求められる組織文化や、「事業モデル」によって求められる組織文化などだ。その企業の今に合ったものを探さなければならない。

変革時に心がけることは「人の心を一度は溶かし、形を変えて再成型する」

では具体的に、組織文化の変革におけるステップをどう設定していけばよいのか。加藤氏は、エドガー・シャイン氏が示したステップを紹介した。第一段階は「思考・行動様式の言語化、価値観の提示」。意識的な方向づけを行う。第二段階は「思考・行動様式の徹底、価値観に基づいた行動」。意識レベルでの定着を目指す。最終段階は「企業・組織文化への定着、価値観の定着」。最後は無意識レベルでの定着を目指していく。

「このような変革に向けてどんなアクションプランを行うべきか。例えば、課題に当事者意識の弱さ、変化適応の弱さがあれば、プロアスリートにも提供している環境適応研修を行ったり、あるべき文化に近い行動指針への修正を行ったりします。組織文化の変革で注意すべきことは、文化を変えるときには辛さも伴う、ということです。そのようなときにストイックにやり過ぎると人は嫌になってしまいます。楽しくポジティブにやれるよう、成功へのステップを実感できるポイントを多く設定するなど盛り上げ策も重要です。また、会社が正念場にあるなら、危機感を持たせることも必要でしょう」

変革推進時にはビジョンによる動機付けが効果的だ。ここでは行動指針の中身がカギとなる。抽象度が高くなると浸透しないため、階層別にチャレンジ内容を具体的に示す。皆で指針の具体例について話しながらイメージを膨らませていく。行動指針を浸透させるときに行うべき手順には「緩和→変化→定着」がある。

「例えて言えば、四角い氷から丸い氷へと行動を変えようというときには、一度氷を溶かし、丸い容器に入れ直して再度凍らせる必要があります。人の心は一度解凍されないとなかなか変われません。私たちも新たに理念やビジョンを提案した際には、社員たちが温度感を共有できる場を必ずつくっています。そこで視界や時間感などをすり合わせるのです。また、チャレンジの文化を育てるには社内広報もポイントとなります。エピソードムービーやストーリーブックの作成や評価・表彰制度の整備が有効です」

講演写真

最後に加藤氏は、企業からよく聞かれる質問への回答を示した。質問は「組織文化はどれくらいの期間で変われるか」だ。そこには三つの決定要素がある。

「一つ目は、会社の成功体験の期間です。長ければ長いほど、成功からの脱却に時間がかかります。二つ目は、企業規模。やはり大きいほど時間がかかります。三つ目は、変化の度合いです。堅実な企業が革新を目指すとなると時間がかかります。私たちの感覚では、組織文化の変革は1年行ってようやく変化が認識され、3年あればかなり変わることができる。また、変革は経営層の後押しも大事ですから、人事はサーベイなども活用しながら、うまく経営層にアピールすることが求められます」

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