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人材育成は、スキルから「根本知」へ
全人格で発想するイノベーション人材をつくる

  • 嶋本 達嗣氏(株式会社博報堂 執行役員/博報堂生活者アカデミー主宰)
2017.06.21 掲載
博報堂生活者アカデミー講演写真

博報堂グループには広告会社として、人・社会・マーケットを洞察する中で長年培われてきた知恵と、そこから未来を創造していくノウハウがある。これらをグループ内にとどめておかずにビジネスパーソンに広く提供できないか。そのような考えのもとに2015年に開校されたのが博報堂生活者アカデミーだ。イノベーションの重要性が叫ばれる今、イノベーション人材を育成する教育機関として注目されている。博報堂執行役員であり、博報堂生活者アカデミー主宰の嶋本達嗣氏が、同校の概要、講座内容などについて語った。

プロフィール
嶋本 達嗣氏( 株式会社博報堂 執行役員/博報堂生活者アカデミー主宰)
嶋本 達嗣 プロフィール写真

(しまもと たつし)1983年 東京工業大学 電気電子工学科卒業。同年、株式会社博報堂に入社。マーケティング・プランナーとして、得意先企業の商品開発業務、店舗開発業務等を担当。その後、研究開発職を経て、2006 年より博報堂生活総合研究所所長を務める。2015 年より現職にて、イノベーションのための発想教育活動を統括。


経営者からも求められる「根本知」

開校3年目となる博報堂生活者アカデミーでは、「根本知」を軸とする独創的な教育学習プログラムを実施している。基幹講座である「発想体質を、つくる。5DAYSキャンプ」の受講対象者は、次世代幹部候補、開発系マネージャー、成長戦略プロジェクトの牽引者などだ。少人数を徹底体感トレーニングするスタイルで、多様な企業・組織からの受講者が集まる。まずは「根本知」というキーワードについて嶋本氏が説明した。

「変化のスピードが速い“繁忙の中の翻弄の時代”には、働き手が対症療法的に物事を片付けがちです。しかし実際は、未来の社会はどういう方向にあるべきかきちんと深く考えていく底力が必要、というのが『根本知』の考え方です。イノベーションも、目先の成果や業績の追求を超越したところから生まれます」

嶋本氏が昨年行った36社の経営層へのヒアリングにより、目先の数字に追われてしまう現場の状況を、経営者も実感していることが明らかになった。さらに、経営層が抱えている人材への問題意識と期待がキーワード化されている。

「たとえば、『業界慣習の安住』という問題がありますが、歴史ある大企業でも新たなビジネスモデルを展開していかなければなりません。すると『生業を再定義』できる人材が期待されます。『ぬるま湯の環境は社員の同質化』という問題を生み、『強い個になり大胆に』発言することが望まれます。『縦割りの中で視野が狭窄(きょうさく)』していく傾向がある中では、『横串力を持ち、多様性を吸収』して欲しいと考えます。また、今は検索すると何でも情報が出てきますが、『検索結果=答え』ではなく『自分の頭で考える力』を持って欲しいという点は、半数以上の経営層の方が語っていました。経営者の方々は、受動的な適応人材よりも、主体的な創発人材育成を求めていると感じました」

講演写真

「生活者発想」という考え方の三本柱

博報堂生活者アカデミーの学習基盤は「生活者発想」だ。暮らしの中で感受した「こういう世の中になって欲しい」「こういう幸せを顧客に届けたい」という思いを新しい社会理想、ビジョンとして描き出し、実現していく方法論であり、人間起点の未来学と言える。授業や研修では、生活者発想を体験しながら、イノベーティブな体質づくりの場が提供されている。

「『生活者発想』は、人材育成方針である三本の柱から成ります。一つ目は、全人格で発想する構えをつくる。人間はいろいろな側面を持っています。私自身も、職業人、父親、マンションの理事、角打ち仲間、週末料理人、ロックファン、介護人、消費者など、いろんな側面に分解できます。イノベーションを起こせと言われたら、普通は職業人として考えるでしょうが、全人格発想の考え方は違います。父親や趣味人や生活者として、イノベーションを起こすのです」

具体例として、INGRESSというゲームアプリを嶋本氏は紹介した。ポケモンGOの前身となった、外を歩き回り陣地を取る多人数参加のフィールドワーク型ゲームだ。全世界で1400万回以上ダウンロードされ、日本でも文化庁メディア芸術祭で部門大賞を受賞。その技術は外食産業のプロモーションにも活用され、成果を上げている。また、その最大の成果は人類を1億5000万キロメートル歩かせたことであり、ゲームアプリのイノベーションだと言われている。

「開発者がこのゲームを考えたきっかけは、息子の引きこもりでした。自分の部屋でパソコンゲームばかりしている息子をどうすれば太陽の下に連れ出せるか、と。職業人としてではなく、父親として考えたわけです。他に、スーツを着てサーフィンができるという超即乾性の水陸両用ビジネススーツもそうです。朝サーフィンをしてから会社に行きたいが、サーフスーツからスーツに着替える時間がないからと、サーファー視点で考えたのです。このように自分が欲しいものを自分の企業で作るという考え方が、イノベーションを起こすのです」

嶋本氏自身も、マンションの管理組合の理事としての考え方や、親の介護人としての体験が、仕事に役立った経験があるという。理事としての自分や介護人としての自分は、職業人としての自分と別のものではなく、つながっているのだ。

「二つ目は、クリエイティブ・タフネスを養う、です。新しいアイデアを発想する際は、必ず発想の資源となる手がかりがなければなりません。データやメディアの情報だけでなく、日常の光景も必要です。マクロ統計にも、人々の声にも、家族からのメールにも、アイデアのヒントがあります。辞書も発想の宝庫です。ビジネスパーソンは視点が縦割りになりがちですが、手がかりは多いほうがいい」

ここで嶋本氏は、ソースニュートラルというフレーズを取り上げる。これは、さまざまな情報を全て自分の事業に関係があると思って見よう、という独自の考え方だ。例えば、マクロ統計と市場販売データと朝のニュースは、別々の情報に見えても全く関係がないことはなく、何かでつながっている。そこをきちんと見て、数あるデータの中からそこにあるシグナルを発見しようとするのだ。そのためには、お店の行列や商品の売れ行きという事実の奥にある意味を発見しなければならないし、時代の潮流を読解していく必要がある。

「これらを思考のトラックと呼んでいます。このトラックを回ることで、これからの生活やビジネスにフォーカスされていく。思考のトラックを何周したかが、ビジネスのアイデア、イノベーションの高度を決めます。ですから、タフネス、粘着性は大切なのです」

講演写真

三つ目は、根本知を持って個別解へと向かう、という柱だ。講座の最後には必ず「これからの生活」シートを各自が作る。例えば“○○な未来の生活”というテーマを掲げ、発想が生まれたプロセス、背景にある社会課題などを書き、その生活が始まったら、衣食住や学び、働き方がどう変わっていくのかと、暮らしの中に必要な物やサービス、仕組み、場づくりなどのアイデアを展開させていく。それに対して講師たちが講評を行う。担務という普段の職域を越えて、個別解の前にまず根本知をきちんと描くという考え方に基づいたシートとなっている。

「私は、企業の活動を一本の木のモデルで考えています。プロダクトサイクルが終わると葉が散って、また新しい葉が世の中を飾っていくわけですが、根のない木に葉は茂りません。要するに、ライフモデルがあってビジネスモデルがあるのです。なぜなら、全ての商品は暮らしの中で消費されているからです。『根本知』という根があるから、豊かな『個別解』が生まれてくる。これが各社が成長していく上でいちばん土台になる考え方です。根にあるのは人の生活で、その上に事業のポテンシャル、製品やサービスの位置付け、不要なモノや足りないモノは何かを考えるのです。暮らしの創造が利益の創造を生みます」

サラダボウル・ラーニングの効果

「発想体質を、つくる。5DAYSキャンプ」は、1ヵ月の集中講座だ。毎週一回集まり、課題が出され、フェイスブックでは受講生の間で意見交換も行われる。生活世界を五感で捉え直すフィールドワークや、生活者が撮った写真を素材にこれからの幸せをマップ化する作業、世相や現象を手がかりにした未来の欲求あぶり出しなど、ユニークなプログラムが用意されている。

「これまでに受講された方は数百名。さまざまな業種から参加され、素晴らしい化学反応が起こって各自の引き出しも広がるので『サラダボウル・ラーニング』と呼んでいます。これは、いろんな民族が各自の民族性を通すのではなくて、自分の持ち味を活かしながら一つのサラダとして美味しい味を作り上げる、という感覚です。

受講生のアンケートでは、『仕事をしている自分でしか発想の切り口がなかったが、いろんな自分から考えていいとわかった』『発想は天才の仕事だと思っていたが、普段の生活をどれだけ見たかがビジネスアイデアの高さを決めることがわかった』『今まではどうすべきか、とばかり考えてきたが、自分がどうしたいかを考えるようになった』『仕事で達成したいことと人生で達成したいことは別と思っていたが、人生で達成したいことを自社でやればいいと思い直した』といった声をいただいています」

最後に嶋本氏は、事業目的と事業手段に関するアインシュタインの言葉を紹介した。

「彼は『手段は全て揃っているが、目的は混乱している。それが現代の大きな問題に思える』という言葉を残しています。今、会社の中で事業目的が置き去りになっていて、何のため、誰のための幸せや豊かさなのかがかすんでいます。いかに速く安く、いかにミスしないかと、手段の競争ばかり。我々が目指しているのは究極的には、事業目的を取り戻そうという、事業目的のルネッサンスです。あと10年も20年も経つと、事業手段の運用はAIやポストヒューマンが担うようになりますが、それらの使い方を決めるのは人間です。今から事業目的である新しい豊かさと幸せ、根本知を創造できる人材を育てておかなければなりません。それは、未来の社会に『人間の居場所』を作ることでもあるのです。そのためにも、この講座をぜひ、ご活用いただきたいと考えています」

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