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高校生・大学生が習得しつつあるリーダーシップが社会に通用し始めている理由は?

  • 日向野 幹也氏(早稲田大学 大学総合研究センター 教授)
2017.06.27 掲載
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「権限のあるものが、命令・指示を下すことがリーダーシップである」――もうそんな考え方は世界標準ではなくなっている。早稲田大学教授の日向野氏は、「目標設定」「率先垂範」「同僚支援」というリーダーシップ行動に不可欠な最小3要素を習得すれば、誰もが実践できると説く。その取り組みは10年前から立教大学でスタートし、輝かしい成果を挙げてきた。日本全国に新たなリーダーシップ教育が広がれば、企業の新卒採用・人材育成も大きく変わると予想される。本セッションではリーダーシップ教育の一端を体感できるワークショップも交えながら、日向野氏が新しいリーダーシップ論を解き明かしていった。

プロフィール
日向野 幹也氏( 早稲田大学 大学総合研究センター 教授)
日向野 幹也 プロフィール写真

(ひがの みきなり)1978年東京大学経済学部卒業、83年同大学院博士課程修了、経済学博士(東京大学)。同年より2005年まで東京都立大学経済学部勤務。同年立教大学に移籍し。2006年より経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)を主査として立ち上げ発展させ、全学向けプログラム(立教GLP)も立ち上げた。2011年頃よりアクティブ・ラーニングとアクション・ラーニングの両分野で内外の顕彰を受けた(国際アクション・ラーニング機構の年間賞など)。2016年4月からは早稲田大学に移籍して全く新しくリーダーシッププログラム(LDP)を開始する一方で、多数の大学と企業でリーダーシップ開発コンサルティング中。著書に『大学教育アントレプレナーシップ』(ナカニシヤ出版、2013年)、松下佳代編著『ディープ・アクティブラーニング』(勁草書房、2015年)第9章など。


「誰もがリーダーシップを発揮できる」が世界のスタンダード

まず日向野氏が、リーダーシップ教育に関わったきっかけについて語った。

「もともと東京都立大学(現・首都大学東京)で金融論を教えていましたが、2005年に立教大学に移った際、『金融論と並行してリーダーシップ教育も担当してほしい』と打診されました。立教大学の経営学部は後発だったので、特色を出したほうがいいという発想から、リーダーシップ教育を必修科目にしようとしていたのです。当時、学部で必修のリーダーシップ教育は、どの大学にもありませんでした。リーダーシップ教育になじみはなかったのですが、軽い気持ちで本業との兼任を引き受けたところ、気が付けば、すっかりリーダーシップ教育にのめり込んでいました」

経営学部生向けに行っていたリーダーシップ教育は評判を呼び、2011年から連携企業社員のリーダーシップ教育が開始され、2013年度からは全学部を対象とする立教GLPが立ち上がった。

「立教大学でのリーダーシップ教育は大変成功しましたが、学生が変わる様子を見ているうちに、これを立教だけのものにするのはもったいないと考え、日本全国の大学にリーダーシップ教育を広げていくことをゴールに掲げました。2016年からは早稲田大学に移り、ゼロから新しく、リーダーシップ教育に取り組んでいるところです」

では、日向野氏が言う、新しいリーダーシップとは一体何なのか。

「新しいリーダーシップは、もはや先進国では世界標準と言えるものです。ただ、日本人にはこれをリーダーシップと呼ぶことに、まだ抵抗感があるようです。『リーダーシップとは命令の出し方である』といった古い見方の影響が残っているからです。身近な例でご説明しましょう。街で急に人が倒れたとき、人工呼吸をしたり、救急車を呼んだりすることはスムーズにできます。また、雪や台風で電車が遅れて、駅前のタクシー乗り場が長蛇の列になっているとき、相乗りを募る人がいます。しかし、平日の夜、終電後にタクシー乗り場が長い列になっていても、相乗りを募る人はほとんどいません。この違いは何なのでしょうか。その理屈を、世界標準のリーダーシップの考え方ではすっきりと説明できます。しかし『リーダーシップは命令の出し方である』という古い見方では、説明できません」

実際に世界標準のリーダーシップではどう説明されるのか。まず、世界標準のリーダーシップとはどのような考え方なのかが提示された。

「世界標準のリーダシップは、権限や役職・カリスマ性を前提としません。大勢の人が潜在的にリーダーシップを発揮できる、という考え方です。結果としてリーダーシップを共有するので、シェアード・リーダーシップとも言われています。これは、人間が二人いて一緒に何かの目標を目指すのであれば、片方または両方がリーダーシップを取るべきである、という考え方です。同時に、権限も役職もカリスマ性もない人がリーダーシップを発揮するのですから、練習・教育・習得が可能、という前提に立っています」

リーダーシップ行動を牽引する三つの要素

具体的にどのような行動を取ればいいのか。ここで日向野氏は、リーダーシップ行動の最小3要素を提示した。

「ジェームズ・M・クーゼスとバリー・Z・ポズナーが2014年に、『リーダーシップ・チャレンジ』という書籍を発表しました。本書では五つの準則が取り上げられているのですが、初歩的なレベル向けには次の三つに短縮できます。まずは『目標設定』。皆でゴールを目指す、ということです。次に『率先垂範』。設定された目標を達成するために、必要なことを自分から進んで行うこと、やってみせることです。そしてもう一つは『同僚支援』です。人にはそれぞれ、動きたくても動きづらい事情があります。そのときに動きやすくなるよう、手伝ってあげるのです。この三つが揃っていないと、リーダーシップは始まりません」

「目標設定」は、長期の目標・短期の目標、To doリスト、時間の配分まですべてが含まれる。「そうなったらいいね」という状態を周囲に納得してもらうために、必要なものだ。三つのなかでは、一番難しい。途中で目標を見失ってしまったり、ずれてしまったりして、仕切り直すようなことが多々起こるからだ。「率先垂範」に関しては、命令権がない状態なら率先することでコミットメントを示し、それが範となることが期待される。命令権限がある場合でも、これを行うことでより効果を引き出せる。三つの要素の中では最もイメージしやすいものだが、かなりの練習が必要だと言える。最後は「同僚支援」。多くの場合、周囲にはそれぞれ事情があるので、すぐには動きづらい。その事情を軽減する手伝いをすることが「同僚支援」だ。感情的なものから物理的なものまで含まれる。一般的に「俺についてこい」型のリーダーには不足しがちだが、女性は概して同僚支援が得意である。

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これらの3要素を使うと、先ほどの「平時のタクシー乗り場」でなぜ難易度があがるのかがクリアに理解できる、と日向野氏は言う。

「雪の日や台風の日は、目標がスムーズに共有されます。誰もが早く家に帰りたいからです。率先垂範してくれる人がいればできますし、『後の人、お願いします』と言えば、それだけで同僚支援になります。しかし平時だと、どうしても別の目標が出てきてしまいます。、『こんなことを言ったら、どう思われるだろうか』と考えてしまう。すると、皆で目標を共有することが難しくなります」

真のコミュニケーション力がなぜ必要なのか

ここで、グループごとにディスカッションが行われた。学生時代から現在までで、「任命されたわけではないのにリーダーシップを発揮する人がいて、思わぬ成果が上がった経験がないか」がテーマだ。また、「その人がリーダーシップの最小3要素をクリアしていたかどうか」についても話しあった。その内容は、代表者によって参加者全員に共有された。

A:学生時代に、さまざまな大学の団体・サークルの代表と集う機会がありました。最近、何人かで会ったところ「久しぶりにまた、皆で会おうよ」という声が上がり、集まることになりました。どういう目的で行うのか、いつ開くのか、誰をどう集めるかなど、自分でいろいろと考えました。同僚支援で言うと、お互いに役割分担をするようにしました。

B:今日、この場で起きたことです。目標は明確で、10分以内にワークショップを終わらせること。今回はYさんに率先垂範していただき、会話の口火を切ってもらいました。同僚支援としては、お互いにお見合いをして見落としがちなところをフォローするように気遣いました。

C:今年4月、会社に新入社員が300名ほど入って来ました。六つのクラスに分けたのですが、宴会部長的な存在がいるかいないかで、目標であった社員交流やチームビルディングにかなりの差が出ることがわかりました。誰かが「ラインのグループを作ろう」と呼びかけたクラスは速かったですね。しかも、グループが設定されるとお互いに切磋琢磨しあうので、めざましい成果を発揮していました。同僚支援という面でも役立っていました。

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そのほかにもさまざまな経験が披露されたが、日向野氏は以下のケースで最小3要素が効果を発揮しやすいと解説した。

「最も良くあてはまるのは、権限がなく、比較的均質な労働を大量に動員したい場合です。行列もそうですし、砂浜の掃除や、レンガを積んで塀を作るといったケースもそうです。また、高校や大学の集団行動、イベント、グループワークなどで初歩的なリーダーシップの成功体験を積むのにも3要素が当てはまります。小さな成功を若いうちに積むと、将来的にとても良い効果があります。もちろんリーダーシップそのものは、権限のない人もある人も発揮する必要があります。結果として、シェアード・リーダーシップになります」

では、複数の人がリーダーシップを取れる状況では、どう行動すればいいのだろうか。

「権限者が部下と同じスキルセットを持っている場合は、率先垂範が可能です。しかし、環境が変わっていて、以前やっていたことが通用しない場合もあります。また、権限者が最初から部下の業務の詳細を知らないと、率先垂範のしようがありません。目標共有・設定に際しては、もっと上位から降りてくることや、そこに管理者がプラスすることもあります。同僚支援としては、部下のリーダシップを奨励し、成果をあげられるように支援することが大きな役割となります。もう一つ、権限者として注意しておきたいのは、権限を自分自身のために使わないことです。部下の士気に悪影響が出てきてしまいますから。自分がどんな権限をもっているのか、どう使ったのかを部下に明確に伝えていく必要があります」

権限とリーダーシップの教育上の順序には、決まりがあるのだろうか。

「リーダーシップを取れる人が、後から権限を付与されるのが理想的な順番です。ただ、権限がない状態でもリーダーシップを取ることはできます。できれば、早く始めたほうがいいでしょう。高校・大学で習得すべき意義はここにあります。というのも、率先垂範はやりづらく、なかなか勇気が要るからです。しかし、学生の頃に結果が良くなることを経験していると、できるようになります」

ここまでリーダーシップの説明が続いたが、コミュニケーション力とどう違うのか。

「真のコミュニケーション力は、世界標準のリーダーシップの一部です。真のコミュニケーション力とは何かというと、マイケル・A・ロベルトが『関係性を維持したまま、反対意見を言える能力』だと定義しています。最近は新卒採用でも、コミュニケーション力の重要性が言われていますが、ここで求められているのは、ほとんど上司の考えていることを先回りして行動できる『接待力』に過ぎません。では、真のコミュニケーション力がなぜ必要かというと、リーダーシップの成果目標の共有、同僚支援のためです。いずれも反対意見を言える人がいないと、ズルズルといってしまう可能性があります」

リーダーシップ習得の王道とは?

では、新しいリーダーシップをどのように学んでいけばいいのか。習得の王道はあるのだろうか。

「リーダーシップ習得の王道は、リーダーシップ行動を実際に取ってみることです。初学者の場合には、リーダーシップを取らないと始まらない環境を作ってあげる必要があります。行動を取った後に周囲の人にフィードバックしてもらうと、さらに効果的です。というのも、リーダーシップは態度の問題なので、自分がどういうつもりだったのか以上に、周囲の人にどう見えたかが大事だからです。次は、そのフィードバックを参考に改善すべき点を自覚して改善計画を立て、できれば『次はこうする』と宣言する。有言実行で、再度リーダーシップ行動を取ってみるのです。それを繰り返していると、リーダーシップがらせん状にうまくなっていきます。言ってみれば、リーダーシップ教育のPDCAです。」

リーダーシップ行動にはフィードバックが有効とのことだが、評価とはどう違うのだろうか。

「この二つは、くれぐれも混同しないように注意してください。職場全体に360度フィードバックの文化があれば円滑なのですが、それが査定に使われていないでしょうか。それでは、フィードバックとは言えません。本気で360度フィードバックを行うなら、同僚の間でフィードバック交換を始めることをお勧めします。さらに、上司が率先して部下のフィードバックを受け入れると、フィードバックの土壌ができやすくなります」

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ここで再び、ワークショップが開催された。講師は日向野氏の教え子で、大学と企業とのリーダーシップ教育の連携を推進するベンチャー企業であるイノベスト代表の松岡氏。リーダーシップを発揮する上で必要な、質問力を体感するためのゲームが行われた。ルールは、いたってシンプルだ。グループの代表1名にだけ漢字を提示し、残りのメンバーが代表に質問することで、その漢字が何なのかをあてるというものだ。終了後に、なぜ質問力にフォーカスしたワークを行ったのかが説明された。

「質問には、クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンの2種類があります。実は、この使い分けがリーダーシップ行動の最小3要素と非常に近い関係性があるのです。例えば、目標設定にあたって『いま、何を目指していますか』『このワークにはどういう意味があるのですか』という質問をすると、相手の真意に一歩踏み込みやすくなります。また同僚支援でいうと、うまく行動が取れない人がいたら『何が障害になっているのですか』という質問が有効です。そのため、高校生や大学生などの初学者に対して経験学習を進める際は、『どんどん質問していきましょう』と呼びかけています」

全国に広がるリーダーシップ教育。企業との連携により新たなステージへ

ここで再び、日向野氏が登場。リーダーシップ教育を大学ではどのように捉えているのか、また、2006年度からの立教大学での取り組みの成果と現状が報告された。

「立教大学経営学部では、これまで11年間にわたりリーダーシップ教育を推進してきました。この間、偏差値や学部教育への満足度、就職率などは格段に向上しているほか、中退率も下がりました。学生がリーダーシップを発揮して教員に提案する習慣が定着し、結果的に授業も改善されるという、良いサイクルを実現しています。私は学生に『不満を苦情として伝えるのは消費者。不満を提案に変えていくのがリーダーシップ』であると説いています。その教えを、学生が真摯に実践してくれていることがうれしくてたまりません。今やリーダーシップ教育は立教大学だけでなく、他大学にも、そして都立高校にも広がりつつあります。まさに、2017年は普及への元年として位置づけられるでしょう」

新卒採用にあたって、リーダー重視を謳う企業も増加傾向にある。

「特に環境変化の激しい業界の企業や、イノベーションが必要な企業での取り組みが活発化しています。ただ、本気でリーダーシップを重視するなら、採用方法を変えていかなければなりません。なぜなら、面接だけではリーダーシップを測れないからです。学生時代の実績や長期のインターンシップなどを通じて、徹底的に調べていくべきです」

最後に参加者からの質問に対して日向野氏が回答し、特別セッションは終了。講演+ワークショップという形式により、参加者はリーダーシップについてより深く考えることができたようだ。

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