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企業の未来を担うリーダー育成~日立製作所・ヤフー・アイリスオーヤマの取り組み~

  • 迫田 雷蔵氏(株式会社日立総合経営研修所 取締役社長 兼 株式会社日立製作所 人財統括本部 グローバル人財開発部長)
  • 伊藤 羊一氏(ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア 学長)
  • 倉茂 基一氏(アイリスオーヤマ株式会社 人事部 統括マネージャー)
  • 小杉 俊哉氏(慶応義塾大学大学院理工学研究科 特任教授/立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 客員教授)
2017.07.04 掲載
講演写真

次代の経営を担うリーダーの育成が、多くの企業で課題となっている。長い歴史と伝統を持つ株式会社日立製作所・迫田雷蔵氏、歴史は浅いがインターネット業界をけん引するヤフー株式会社・伊藤羊一氏、地方に拠点を置き多角的に事業を展開するアイリスオーヤマ株式会社・倉茂基一氏という、特色の異なる三社のリーダー育成の責任者を迎えてセッションが行われた。司会は、リーダーシップ論を専門とする慶応義塾大学大学院の小杉氏が務めた。

プロフィール
迫田 雷蔵氏( 株式会社日立総合経営研修所 取締役社長 兼 株式会社日立製作所 人財統括本部 グローバル人財開発部長)
迫田 雷蔵 プロフィール写真

(さこだ らいぞう)1983年、日立製作所入社。一貫して人事・総務関係の業務を担当。電力・デジタルメディア・情報部門の人事業務を担当後、2003年から本社で処遇制度改革を推進。以降、Hitachi Data SystemsのHR部門Vice President(在、米国)、人財統括本部グローバルタレントマネジメント部長、中国・アジア人財本部長(在、香港)、人事勤労本部長等を経て、2017年4月より現職。


伊藤 羊一氏( ヤフー株式会社 Yahoo!アカデミア 学長)
伊藤 羊一 プロフィール写真

(いとう よういち)日本興業銀行、プラスを経て2015年ヤフー入社、企業内大学Yahoo!アカデミアの責任者に。グロービス経営大学院にてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、KDDI ∞ Labo, IBM Bluehubなどのアクセラレータープログラムでメンターを務める。


倉茂 基一氏( アイリスオーヤマ株式会社 人事部 統括マネージャー)
倉茂 基一 プロフィール写真

(くらしげ もとかず)早稲田大学商学部卒業。大学卒業後、アパレルメーカーに入社。1991年 アイリスオーヤマに入社。 マーケティング部、販売促進部、社長室、システム部、広報室などを歴任。2008年より人事部統括マネージャーに着任し、採用・教育・評価・人材配置、制度設計など人事業務全般を統括する。日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー(CDA)。


小杉 俊哉氏( 慶応義塾大学大学院理工学研究科 特任教授/立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 客員教授)
小杉 俊哉 プロフィール写真

(こすぎ としや)早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。日本電気株式会社、マッキンゼー・アンド・カンパニー インク、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授を経て現職。専門は、人事・組織、キャリア・リーダーシップ開発。著書に、『職業としてのプロ経営者』、『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ 3.0―カリスマから支援者へ』(祥伝社新書)など。


「リーダー」と「マネジャー」の違い

「マネジャーとリーダーは違うが、そう認識していない管理職は多い」と、司会の小杉氏は冒頭で問題を提起した。

「一般的な定義として、マネジャーとは組織上の役職・役割に基づき、主に管理し維持する人です。リーダーは、個人の名前で影響力を与えて周囲を動かします。『革新する』『開発する』という行為につながるのは後者です。経営学者のピーター・ドラッカーはこのように言いました。『マネジャーは“Doing the things right”、正しく行う。“How”を考え、与えられた役割を遂行する。リーダーは“Doing the right things”、正しいことを行う。正しいか正しくないか、“Why”“What”から考える』」

小杉氏は「日本企業はマネジャーは育成してきたが、リーダーは育成してこなかったのではないか」と語る。そこで今回は、リーダー育成の先進企業である三社が登壇。それぞれの取り組みについて語った。

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日立製作所・迫田氏によるプレゼンテーション:統一プラットフォーム構築とアサインメント提示

最初に、近年急速にグローバル化を加速している日立製作所の迫田氏がリーダー育成についてプレゼンテーションを行った。

「私たちは、社会イノベーション事業のグローバル展開に注力しています。世界各地で現地に根ざした事業を展開するなど、重心を海外に移しつつある中、従来のリーダーでは世界で伍していけません。そこで、マネジメントの転換に取り組んできました」

最初に、人財戦略の仕組み構築に着手。人財部門自体がグローバルに戦える部門にならなければならないと考え、課題をまとめたという。

「課題の一つは、グループ・グローバルに適用可能な人財マネジメントへの転換。日本と海外を分けずに一本化した制度を作りました。グループ・グローバルに共通するデータベースを作り、グレードを決めて統一。その上に国や事業ごとの取り組みがあります」

プロジェクトを立ち上げたのは2011年。2012年にデータベース、グローバルリーダーの育成プログラムが完成。全世界の5万に及ぶポジションを格付けし、全世界で従業員サーベイが実施され、パフォーマンスマネジメントもグローバルで共通化。2015年には、新しいラーニングマネジメントシステムも構築され、世界中で同じ教育が行われている。

「課題は、グローバルリーダーが圧倒的に不足していることでした。そこで、必要な時に必要な人数を適正なコストで提供できるよう、2012年から新プログラムを導入。リーダーを作り込む発想に転換しました。具体的なポジションを決めて、そのポジションに求められる要件を明確にし、候補者を選抜します。アセスメントを行いながら個別にアサインメントを与え、経過も見つつ育成。これにより、若手の社長も出てきました」

経営層向け研修では、グループ・グローバルで共通したものを提供。新任マネジャー研修では、13ヵ国語で教育を提供している。上の階層は選抜研修と階層別研修に分け、基本的に日本人も外国人も一緒に、英語による研修を受講している。

「大きな変化を認識し、手を打つことが大事な時代ですから、外での経験は大きいと思います。社会イノベーションにターゲットを絞ったのは、当時の会長の川村、グローバルに大きく事業を振ったのは現会長の中西。外での経験豊富なリーダーがターゲットを決めて勝ち抜いてきたことからも、これは明らかです」

経験が必要であると考え、若手1000人を海外に1〜3ヵ月ほど送り込む取り組みも実施。その後にアサインメントを与えている、と迫田氏は解説を加えた。

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ヤフー・伊藤氏によるプレゼンテーション:Yahoo!アカデミアでマインドを鍛錬

次に、ヤフーの伊藤氏が企業内大学のYahoo!アカデミアについてプレゼンテーションを行った。

「次世代リーダーを輩出する企業内大学として、2014年にスタートしました。昔、インターネットの世界は市場が伸びていたので、リーダー育成をさほど重視する必要がありませんでしたが、最近では市場の伸びが鈍化する中、競合も増加し、必要性が増しており、Yahoo!アカデミアが誕生したのです」

現在は、選抜プログラムとオープンプログラムの2種類があり、選抜プログラムは職位別の4クラスとCFOクラスに分かれている。本部長クラスは年限を定めていないが、それ以外は基本的に1年制で、在籍者は計130人。各クラスに執行役員がメンターに就任して、塾生の成長を見守っている。

「オープンプログラムは30〜40人のクラスで、テーマはロジカルシンキングやシステム思考など。ストリーミング配信とチャットを使って、地方拠点からも参加できます。選抜プログラムに備える役割も持たせています」

選抜とオープンプログラムの2種類を設けたのは、スキルとマインドを鍛え、それを行動や成果に結びつけていく、という成長サイクルを回していくことがリーダー育成には不可欠であり、オープンプログラムで基本行動を身につけたうえで、選抜プログラムに臨んでほしい、と考えているからだ。

「スキル系プログラムは、『ビジネススキルトレーニング』『事業横断トレーニング』で、前者の内容はロジカルシンキング、プロブレムソルビング、デザイン思考などの基本的スキル。後者では、カンパニー長が講師を務め、全事業のビジネスモデル、戦略を包括的に学びます。マインド系プログラムは、講演者著作の読書会を行った上で臨む『リーダーシップ講演』と、『Lead the self』というトレーニング。人をリードする前に自分をリードできることが大事で、そのために自分を見つめる合宿を年に2回ほど行っています」

これらには、三つの特色がある。一つ目は「インタラクション重視」。考えて対話することが成長につながるからだ。二つ目は「All Yahoo! Japan体制」。CEO以下全執行役員が随時参加している。三つ目は「マインド>スキル」。マインドを鍛えることが重要という考えに基づく。

「目指しているのは自立。自分で自分の人生をコントロールできる人財の育成です。ヤフーという枠組みにとらわれず、インターネットに関わる全ての人の才能と情熱を解き放つ、学び舎にしていきたいと考えています」

ここで、自分のことを律せない人はリーダーになれるはずがないという話について、小杉氏が解説を求めた。

「リーダーというと、人々や組織を巻き込んでゴールに向かって動かしていくことを連想されると思います。そのためには、自分が心から熱狂して自分を導けなければ人を巻き込めるはずがない、ということです」

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アイリスオーヤマ・倉茂氏によるプレゼンテーション:「軸は公開コミュニケーション」

引き続き、宮城県に本社を構え、多角化を進めるアイリスオーヤマの倉茂氏がプレゼンテーションを行った。

「私たちはリーダー人材を三つに定義付けしています。一つ目は『明確なビジョンを示す』。トップの言葉を自分の言葉で言い換える力を指します。二つ目は『メンバーをエンパワーし、目標の達成を支援する』。三つ目は『自ら学び、共に教えあうチーム作り』。リーダーシップはコミュニケーション力に言い換えられます。ビジョンをメンバーに伝えるのも、メンバーのやる気を引き出し、動機付けるのも、根源はコミュニケーションにあるからです」

コミュニケーション力を高めるために同社ではまず、机の上にパソコンを置かないようにしたという。パソコン作業よりもディスカッションなどに時間を使うためで、パソコンは別の場所にまとめて置いてある。次に、スタンディングミーティング。問題発生時や情報を共有すべき時にいち早く集まり、ディスカッションを終えたら即解散、という素早い情報伝達を意図した取り組みである。また、全社員が毎日、その日の仕事について250文字以内で報告する「ICジャーナル」を全社で共有。上司の考え方や決断背景も読み取れるという。

「リーダー人材を発掘するために、毎年リーダー層のアセスメント研修を行っています。対象者530人が論文を書き、社長を含めた役員全員の前でプレゼンを行います。人事評価委員会では、役員、各部門長約10人が集まり、20日間ほどかけて議論。部署を超えて個々の能力や実績をアセスメントします。360度評価も導入し、リーダー特性が見出せるように評価項目を工夫しています」

経験こそがリーダーを育てる、と倉茂氏は考えている。そこで、新入社員研修では一人ひとりにリーダー経験をさせている。海外法人に32歳の責任者がいるように、若手も昇格できる人事制度がある。さらに、「プチ経営者」も増やしている。例えば、ネット通販の50店舗の店長に20代社員を任命。損益を出して個々のパフォーマンスを明確化し、昇格につなげている。

「毎週行う商品開発のプレゼンテーション会議には、社長や役員約40人が参加します。販売計画や原価に関してなど、社長がいくつか質問してから判断が下されるため、間近で体験しながら経営判断の目線が養えます。こういったさまざまな経験によって、リーダーが育成される土壌があります」

リーダー育成の土壌があっても、オーナー企業の場合は育成が難しい傾向がある。その点について小杉氏が聞いた。

「社長が世代交代を意識し、何かと変わりつつあります。人事にも権限を委譲しつつある段階だと思います」

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ディスカッション:現在の課題およびリーダーの選抜について

後半のディスカッションでは、まず、小杉氏が同じ質問を三者に投げかけた。

小杉:それぞれの成功事例をお話しいただきましたが、それでも「思うように進まない」「うまくいかない」と思うことがあるのではないですか。

迫田:各事業のトップが、リーダーを見つけても目の前のプロジェクトに充てがちで、経験させたいことをさせられない、という状況になることがあります。また、外国人の発掘が遅れていて、まだ日本人が現地法人のリーダーに就いていることが多いのも課題の一つです。

伊藤:Yahoo!アカデミアと職場の温度差です。マインドが鍛えられても、職場に行くとKPIが重視される。そこで私たちは、現場の上長に直接「こんなことをやってます」「こんな変容が見られます」と報告をしています。職場が理解するには、時間がかかると考えています。

倉茂:一つは、少数精鋭組織なので、育成のためにさまざまな経験をさせようとすると現場の負担が大きくなること。もう一つは、事業部長などをやらせても、短期的成果が強く求められるので、半年で交代になるケースがあることです。そのためのフォローに心を砕いています。

小杉:次に「リーダーは選抜すべきか否か」という議論がよくありますが、皆さまはどうお考えですか。

迫田:選抜して経験させることが必要です。この点は、圧倒的に日本は海外より遅れている。40代でCEOとして修羅場を経てきた社外役員を見ると、そのことを痛感します。

伊藤:執行役員以下の層の場合、本人のやる気次第で数年かければ育成できます。ただ、育成スピードを上げるには、「経験」と「自分を見つめて気づくこと」が必要です。

倉茂:30代前半で選抜し、事業部長や執行役員の候補として多様な経験をさせることが重要です。誰もがリーダーになれる可能性があり、その場を用意するのが人事だと思っています。

最後に一言ずつ、会場の聴衆にメッセージが送られて、セッションは終了した。

伊藤:事業部門はまずは足元の収益を追うもの。一方で、人事部門などが中心となって中長期的にリーダーを育成することが日本企業には絶対に必要だと思っています。

倉茂:リーダーになるために必要なものは、先天的なものではなくて後天的なもの。環境がリーダーを育てると私は考えています。

迫田:リーダーは自然には生まれず、何らかの意図・企みが必要だと思います。その役割を担うのが人事部門だと思います。

小杉:リーダー育成は、将来に対する投資。会社側がどんな覚悟を持って育てようとするかにかかっています。三社の事例から多くのことを学び取ることができました。本日はありがとうございました。

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