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事業生産性26%向上をもたらした働き方改革とAI活用-イノベーションを生み、成果を出す働き方-

  • 小柳津 篤氏(日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター エグゼクティブアドバイザー)
  • 輪島 文氏(日本マイクロソフト株式会社 Office マーケティング本部 シニア プロダクト マネージャー)
  • 野田 稔氏(明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授/一般社団法人社会人材学舎 塾長)
2017.06.21 掲載
日本マイクロソフト株式会社講演写真

日本マイクロソフトは、6年前の本社移転を機に本格的な働き方改革に取り組み、事業生産性(社員一人当たり売上)26%アップを達成した。その同社が、次のステップとして現在取り組んでいるアプローチが、働き方をデータ化して見える化し、AIで分析して働き方の「質」を向上させるというものだ。どうすれば、このように成果が出せる働き方改革を実現できるのか。同社の小柳津氏、輪島氏と明治大学専門職大学院教授の野田稔氏がディスカッションを行った。

プロフィール
小柳津 篤氏( 日本マイクロソフト株式会社 マイクロソフトテクノロジーセンター エグゼクティブアドバイザー)
小柳津 篤 プロフィール写真

(おやいづ あつし)1995 年日本マイクロソフト入社。営業/マーケティング部門を経て2002 年より BPA (Business Productivity Advisor) チームを率い、ワークスタイルの 改善/変革に関する100社超のプロジェクトをサポート。2009年からはエグゼクティブアドバイザーとして、働き方変革に関する多くの提言を行っている。2015年、4省(総務/厚労/経産/国交)の主唱により始まったテレワーク普及推進施策の一つである「テレワーク月間」において実行副委員長を務める。


輪島 文氏( 日本マイクロソフト株式会社 Office マーケティング本部 シニア プロダクト マネージャー)
輪島 文 プロフィール写真

(わじま あや)国内大手通信キャリアにて コンサルティングに携わった後、2008 年日本マイクロソフト入社。 Windowsの法人向けマーケティン グ担当を経て、11年より現職。日本企業の働き方改革を支えるICT活用の推進、Office 365 マーケティング戦略策定を担当。


野田 稔氏( 明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授/一般社団法人社会人材学舎 塾長)
野田 稔 プロフィール写真

(のだ みのる)一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。野村総合研究所、リクルート新規事業担当フェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。大学院において学生の指導に当る一方、大手企業の経営コンサルティング実務にも注力。2013年に社会人材学舎を設立、ビジネスパーソンの能力発揮支援に取り組む。専門は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。


コミュニケーションが必要な作業こそ、モバイル環境で行うべき

野田:働き方改革について企業の方々と話す中で、私は、改革にはいくつかのフェーズがあると考えるようになりました。フェーズ1は、マイナスをゼロに戻す段階。つまり、長時間労働時間を減らし、健全な状態に戻す段階です。6~7割の企業は現在、このフェーズにいるのではないでしょうか。先進的な2~3割の企業はすでに、新しいことを生み出す働き方、イノベーティブな働き方を見つける段階である、フェーズ2に入っています。日本マイクロソフトもそういった企業の一つであり、早くから働き方改革に関して熱心でしたね。

小柳津:私たちは1999年から、自社の働き方に関するデータを公表しています。6年前の本社移転を機に、本格的に働き方改革に取り組むようになり、事業生産性(社員一人当たり売上)26%アップを達成しました。私たちは早い時期からモバイルでの働き方に取り組んできましたが、テーマとしたのは「生産性」です。しかし、ほかの企業が当時テーマにしていたのは、「主たるオフィスで働かない場合にはどうすべきか」。対象者を限定して切り出し業務を見つけ、どういう条件下ならできるかを議論していました。これでは、生産性にほとんど影響がありません。

現在私たちは、コラボレーションの仕方について議論すべきだと考えています。もちろん、フェース・トゥ・フェースでやるべき業務は今も昔も変わらず存在しますし、最も重要なコミュニケーション手段だと考えています。しかし、そこまでしなくてよい仕事も数多くある。それなら、モバイルで効率的にやれるのではないか、ということです。例えば会議、根回し、段取り、手続き、報告、連絡、相談といったものは、出社しなければできないとは考えていません。それよりも、効率性や働きやすさを優先させるべきではないか、ということです。

野田:私はそもそもモバイルに合う業務は、事務作業といった頻繁なコミュニケーションを必要としない業務と思っていました。しかし、お話を聞いていると、むしろコミュニケーションが必要な作業こそモバイル環境でやるべき、ということですね。ただ、そこで一つ不安に思うのは、現在の技術できちんとしたコミュニケーションが取れるのか、ということです。それができるためには、何か特殊な能力や前提が必要になるのでは、と思ってしまいます。

講演写真

小柳津:以前は、そういう質問を多く受けました。しかし、ここ数年は多くの方がスマホやクラウドサービスを使っていて、そのイメージで仕事も考えるようになりました。誰にでも、モバイルを使ったコミュニケーションは可能です。

野田:もう一つ不安なのは、モバイルによって、むしろ仕事時間が長時間化したりしないか、ということです。

小柳津:私たちがモバイル環境を進めていく際に時間がかかったのは、作業ができる環境をつくることではなく、リスクコントロールをしっかり行うことでした。利便性と安心・安全の両方にバランスが取れていないと、満足のいく仕事ができる環境にはなりません。現実を考えると、部下がさぼっていないか、働き過ぎないか、サイバー攻撃の標的にならないか、といった問題が次々出てきます。これらの問題の解決は決して簡単ではないのですが、ポリシーや手続き、IT、社員教育や罰則規約、監視体制といったものをしっかり組み上げることで、現実社会でも十分コントロール可能、というのが私たちの回答です。

野田:ところで、日本マイクロソフトでは事業生産性26%アップを達成されたそうですが、その要因は何だったのでしょうか。

小柳津:私の事業部は提案を行う部署ですが、以前と比べて提案数が2000本から3000本へと1.5倍に増えました。それでも、メンバーの総労働時間は下がっています。事業部によって生産性アップの要因は異なりますが、総じて言えるのは、待ち時間の短縮が大きなインパクトになったこと。仕事では何人もの人が関わることで、多くの待ち時間が発生してしまいます。しかし、モバイルで仕事をすれば人が関わり合う時間が短くなり、全体のリードタイムが短縮されるのです。

講演写真

日々たまっていく「働き方のビッグデータ」が仕事を変える

次に輪島氏が登壇。日本マイクロソフトにおける働き方改革の具体的な取り組みについて解説した。輪島氏は、日本マイクロソフトでは「働き方改革を目指そうとしていないことに特徴がある」と語る。

「私たちは在宅勤務や福利厚生の充実といった、制度の設計そのものを目的にしていません。あくまでもビジネスを成長させ、売り上げを拡大し続けるために、働き方改革そのものが必要だった、ということです。社員一人ひとりがビジネスで活躍するには何が必要かを考え、生産性の向上につなげました」

同社が現在取り組んでいる働き方改革の目的は、残業規制ではなく、働き方の根本的な改革、改善である。その取り組み手法は実にシンプルだ。

「働き方を見える化し、振り返ってムダなことにかけている時間をなくす。それによって削減された時間を、より付加価値の高い業務に回す。こういうシンプルな考え方が、成果につながっているのだと思います」

ここで輪島氏は、具体的な取り組みを紹介した。その一つは「部門や場所を超えたコラボレーション」だ。輪島氏はITのサポートにより、常に人とつながっている状態が重要だと語る。人とつながっていると、何ができるようになるのか。

「私たちは、クラウドサービス『Office 365』を使い、作業やコミュニケーションをクラウドで一括して行っています。現在、このクラウドに私たちの働き方の情報が蓄積されています。それを分析する機能が付属の『MyAnalytics』です。これにより、働き方が見える化され、AIがデータを解析し、おすすめの働き方を提案してくれます」

講演写真

社員がサービスを使うことで、クラウド上にはビッグデータが蓄積される。このデータを分析することで、よりよい働き方に向けた気付きを得ることができる。

「例えば、ムダな会議の削減。会議時間や定期的な会議の量を見ながら、効率化を図ることができます。また、集中して考えるフォーカス時間をいかに確保するか。雑務や会議を減らすことで、時間を振り替えることも可能になります」

会議の進め方も、これまでとは異なる。会議では宿題を持ち帰らず、できる限り、その場で意思決定ができるように環境を整えていく。

「資料は紙ではなく、クラウド上にあるリアルタイムデータを使い、必要があればSkype for Businessで現場の社員を呼び出して、詳細な話を聞くこともあります。即断即決できるような環境をつくるのです」

このサービスでは、人とのコラボレーションの状況も把握できる。自分が誰とよく共同作業をしているのかがわかるのだ。

「マイクロソフトには、自分の部門以外の人とより多くコラボレーションした人が活躍している、というデータがあります。データを見れば、他部門の人との接触時間もすぐにわかります」

コミュニケーション手段の適性化にも役立つという。データからは、自分のメールがいつ、どこで、どれだけ読まれていたかがわかる。これにより、不要なメールは止めて不特定多数の人への情報共有が目的の場合は社内SNS、Yammerを使うなど、コミュニケーションを適性な方向へと導くことができるのだ。

同社では2016年12月~2017年4月に、サービスの見える化機能を使って、業務改善プロジェクトを行った。人事、ファイナンス、マーケティング、営業の4部門で4ヵ月にわたって検証している。

「すぐに効果があったのは、会議の効率化でした。ムダな会議時間を27%も削減することができたのです。他にもメールやムダな作業などの時間を整理し、4部門合計で年間3579時間を削減。これを従業員2000人で計算すると、残業時間換算で年7億円もの金額に該当します」

サービスを使い、仕事を見える化することで、漠然と抱えていた問題意識をはっきり認識することができる。最後に輪島氏は、「見える化によって課題のKPI化ができるようになり、それを解決することで社内の風土が変わりました」と語った。

講演写真

行動の選択肢が増えると、意見交換や情報共有の総量も増える

野田:輪島さんのお話を聞いていて思い出したのは、過去に日本の製造業において、工程を見える化し、現場からのボトムアップで改善していく手法が広く行われてきたことです。「MyAnalytics」を使えば、ホワイトカラーの世界でも、同様の業務改善が行えるということですね。

小柳津:これまでホワイトカラーの仕事は、なかなか可視化できませんでしたしかし、このサービスでは、人による入力作業が一切必要ありません。普通に過ごしたデータがログとしてたまり、それを分析できるので、革新的な結果が得られるようになります。近々、こういった分析を組織やチーム、プロジェクト単位で行えるサービスをリリーズ予定で、結果が出す集団がどのような行動をしていたか、ということが分析でわかるようになります。

野田:行動を可視化するには高度なデータ収集が必要だと思っていましたが、そこまで高度なデータでなくても、十分に活用できるということですね。

小柳津:可視化には、いろいろな段階があっていいと思っています。会議一つとっても、いろんなデータが取れます。そこからすべてに高度なパターンを見出さなくても、わかることは非常に多くあります。

野田:このようなシステムによる改善が可能なのは、職場の仲間との信頼感という前提があるからでしょうか。それとも、このような改善に向けた活動によって、信頼感が高まっていくのでしょうか。

小柳津:どちらか一極、ということではないと思います。会社にはいろいろな世代や立場の人がいますから、このようなサービスを使うと、さまざまなコミュニケーションの成り立ちが可能になります。行動の選択肢が増えると、結果として互いの意見交換や情報共有の総量は増えていきます。このことがビジネスを推進するうえで、大変重要な組織の能力になるのです。システムの導入においては、まずはプロジェクト単位で始めてみて、そこで経験則をためてから全社に広げる、といった手法が有効だと思います。

野田:各社ともまず、働き方改革への第一歩を踏み出して、そこから皆で情報を共有しながら、新しい働き方を見つけていってほしいと思います。今日はありがとうございました。

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~社員一人ひとりがもっと活躍できる場の提供へ~ 日本マイクロソフトは、ワークスタイル変革を全社を挙げて推進しています。カルチャー、制度、ICT等の統合的な取り組みを通じて、社員が一層活躍できる環境を提供。組織を超えた社員同士のコミュニケーションやコラボレーションの活性化、社員の創造性や業務効率性の向上を実現しています。

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