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HRカンファレンストップ > イベントレポート一覧 > 日本の人事部「HRカンファレンス2017-春-」  > 特別セッション [SS-4] 新しい働き方が社員のキャリアを豊かに構築する ~「二枚目の名刺」…

新しい働き方が社員のキャリアを豊かに構築する~「2枚目の名刺」の人材育成効果とは~

  • 志水 静香氏(ギャップジャパン株式会社 人事部 シニア・ディレクター)
  • 廣 優樹氏(NPO法人二枚目の名刺 代表)
  • 石山 恒貴氏(法政大学大学院 政策創造研究科 教授)
2017.06.30 掲載
講演写真

「二枚目の名刺」を持つビジネスパーソンが増えている。本業を持ちながら、同時並行でNPOやプロボノなどの社外活動に取り組む「越境学習」という新しい潮流だ。社員に副業を勧める企業も増えるなど、その人材育成効果が注目されているが、具体的なメリットなど、その本質が広く理解され始めたのはごく最近のことだ。本セッションでは、それぞれ異なる立場から越境学習に関わっている三人のパネリストの考えを聞くとともに、参加者全員のディスカッションを通して、「キャリアを豊かにする新しい働き方」について考えた。

プロフィール
志水 静香氏( ギャップジャパン株式会社 人事部 シニア・ディレクター)
志水 静香 プロフィール写真

(しみず しずか)大学卒業後、日系ソフトウェア・サービス会社に入社。入社とともに米国オハイオ州シンシナティ市に勤務。その後、複数の外資系IT企業を経て、1995年に米系自動車メーカーに転職。人事部にて職務評価、報酬制度設計などの主要プロジェクト業務に従事。1999年ギャップジャパンに転じ、採用、研修、報酬管理などをはじめとする人事全般の管理業務をプロジェクトリーダーとして牽引するとともに人事制度基盤を確立。2013年よりGap本社および店舗部門人事を統括。2013年3月 法政大学大学院 政策創造研究科雇用政策専攻。修士課程修了時に最優秀論文賞を受賞。非正規社員の能力開発、キャリア展開など非正規社員を中心とする雇用政策を研究中。


廣 優樹氏( NPO法人二枚目の名刺 代表)
廣 優樹 プロフィール写真

(ひろ ゆうき)慶應義塾大学卒業、Oxford 大学Said Business School MBA。2002年、日本銀行に入行し、金融機関・金融市場モニタリング、経済調査などを担当。2005~2007年には経済産業省に出向し、金融制度設計に取り組む。2009年、二枚目の名刺を立上げ(2011年NPO法人化)、本業で持つ1枚目の名刺のほかに、社会を創ることに取組む個人名刺を“2枚目の名刺”と位置づけた。NPOと社会人をつなぎ、社会人の変化・成長を促すことで、ソーシャルセクター、企業の発展を同時に後押しするモデルを提唱。新しい働き方、人材育成のあり方として、企業、行政、アカデミアなど多方面から注目されている。2014年からは、商社にて食料部門の海外事業開発・投資を担当。3児の父。


石山 恒貴氏( 法政大学大学院 政策創造研究科 教授)
石山 恒貴 プロフィール写真

(いしやま のぶたか)一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境学習、キャリア、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事(2017年度より)、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長。主な論文:Role of knowledge brokers in communities of practice in Japan, Journal of Knowledge Management, Vol.20 Iss 6,2016. 主な著書:『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社、2015年)、 『組織内専門人材のキャリアと学習』(生産性労働情報センタ-、2013年)、他。


【廣氏によるプレゼンテーション】
会社という枠を一歩踏み出し始めた会社人たち

「二枚目の名刺は、単にお金をもらうためだけの副業ではありません。また、自分が楽しむだけの趣味とも違います。本業以外でも社会を創ることに取り組む活動であり、そういう人が増えたら素敵だよね、という思いで私たちは活動しています」

「越境学習」について最初のプレゼンテーションを行った廣氏は、2009年に二枚目の名刺の活動を立ち上げ、2011年にNPO法人化。現在は、商社で事業開発・投資業務に携わりながら、NPOと社会人をつなぎ、その変化・成長を促す取り組みで多方面から注目されている。廣氏自身が本業で働きつつNPO法人の代表も務める、まさに「二枚目の名刺」を体現する存在だ。この日も本業の合間に、時間休を取得してセッションに参加していた。

最初に廣氏が示したのは、二枚目の名刺に代表される越境学習と、副業やボランティアとの違いだった。実際にNPO法人で活動している何人かの事例から、その特徴をまとめると以下のようになる。

  • 本業以外でも社会を創ることに取り組む
  • お手伝いではなく当事者として関わる
  • 組織や場を自ら立ち上げることもある
  • 活動によって得た自らの成長を本業に還元する意識を持つ

「私が二枚目の名刺の活動をスタートさせたのは、29歳のときです。現在もメンバーの中心は、25~35歳の若手ビジネスパーソン。その理由は、二つあります。第一に、この世代は学生時代から社会問題を常に意識してきたからです。金融システムの不全、少子高齢化、東日本大震災など、さまざまな問題を目の当たりにして、社会問題は逃げることができないものであり、その解決に関わりたい、という思いが強い。第二は、現在の企業の多くが過去の成功モデルに基づいて作られていて、その枠の中で新しいことをやれと言われても難しく、社内には閉塞感もあること。上が詰まっている感覚も、無視できません。しかし、外部ではまっさらなところから社会問題にアプローチできます。自由度があり、達成感や実感も得られやすいのです」

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ここからは、実際にNPO法人二枚目の名刺の具体的な活動が紹介された。それが「NPOサポートプロジェクト」だ。この日のパネリスト3名全員が関わっているプロジェクトだ。

「簡単に説明すると、運営上さまざまな手助けを必要としているNPOと、社外での活動に意欲を持つ社会人をマッチングし、プロジェクト終了まで伴走するというものです。社会人が5~6名でチームを組み、NPOの幅広い課題に取り組みます。期間は約3~4ヵ月で、その間、一人当たり週5~10時間の個人作業を行います」

では、どんなチームがあるのだろうか。廣氏はいくつかの事例を示しながら説明した。あるチームは「コンサル、会計士、公務員、生保、損保、テレビ局」にそれぞれ勤務するメンバーが一緒になって、NPOの中期計画策定に取り組んだ。廣氏が「普段の仕事で、こういう組み合わせはまずないでしょう」と言う通り、普段接する機会のない異業種の人とがっちり組んで仕事ができるのは、大きな魅力だろう。

こうしたチームは、「コモンルーム」という、NPOと社会人のお見合いの場で生まれる。NPO法人の代表は、自分たちの取り組みや手助けしてほしい課題について話し、その内容に興味を持った社会人が手をあげるシステムだ。一見すると社会貢献活動のようにも見えるが、狙いは違うところにある、と廣氏は言う。

「二枚目の名刺を持った人が社外で何かをやることで、生まれる価値があります。同時に、取り組んだ当事者は、自分の思考軸や価値観に向き合う機会になり、プロジェクトからの刺激と合わせて、本人が予想もしなかったような変化が生まれます。そして、それは本業の職場にも還元されていきます。そういうサイクルを、二枚目の名刺というアイテムを通じて生み出したいと考えています」

社外で学んだことを社内に持ち帰る、これこそが「越境学習」だ。では、越境学習にはどのような効果があるのか。廣氏があげたのは以下の四点だった。

(1)NPOのリーダーたちと仕事をすることで、パッションや価値観という普段の仕事では忘れがちなものを刺激される。

(2)社会問題の解決には明確な正解がない。そのため失敗を恐れず価値のある経験ができる。

(3)当事者として関わることで、座学の研修では得られない本気の学び、まずやってみるということを体験できる。

(4)一度会社の枠を超えた経験をすると、これまでの枠を超えることに積極的になれる。社内の他部門との連携にも積極的になれる。

「一歩社外に踏み出すと、会社の枠を外して自分の頭で考え実行します。そして会社の名前に頼ることなく、自分の名前で勝負します。社内にいたら経験できない挑戦と新たな学びのチャンスがあることに、気づいてほしいと考えています」

「越境学習」の効用がわかりやすく語られた、廣氏のプレゼンテーションだった。

【志水氏によるプレゼンテーション】
枠を超えたら世界が変わる
~Comfort zoneから飛び出して見えたもの~

「NPOサポートプロジェクト」に企業単位で参加した、ギャップジャパン。志水氏のプレゼンテーションは、実際に参加することで何が得られたのかを、具体的に示してくれるものとなった。

志水氏は、日系企業、外資系企業などを経て、1999年にギャップジャパンに入社。豊富な人事キャリアを生かして人事全般の管理業務をプロジェクトリーダーとしてけん引している。また、法政大学大学院政策創造研究科で雇用政策を研究し、非正規社員を中心とした能力開発、キャリア開発に関する提言も積極的に行っている。「越境学習」の持つ効果に注目している、第一線の人事キーパーソンの一人だ。

最初に、ギャップジャパンが「NPOサポートプロジェクト」に着目した理由が説明された。ギャップはグローバル展開している企業だけに、人材育成を重視し、さまざまなリーダーシップやスキルを磨くための研修プログラムを実施している。しかし、志水氏にはやや物足りなく見えたという。

「特にトレーニングに参加した後、それを自分の職場に持ち帰って仕事に生かせているか、還元できているか、自分自身の行動を変化させるようなところで効いているのか、という疑問がありました。そこで、2016年冒頭に、『みんなでカンファタブルゾーン(居心地のいい環境)から飛び出そう。経験したことのない場所に行って新しいことを始めよう。ギャップジャパンを学び続ける組織にしよう』と宣言しました」

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そのための研修が「NPOサポートプロジェクト」だった。志水氏が同プロジェクトが効果的だと考えたのは次の三つのポイントからだという。

(1)同じメンバーで仕事をしていると業務を進めやすい反面、新しい発想が生まれにくく、既存の方法や概念に固執してしまう傾向がある。自分とは異なる価値観やバックグランドのメンバーと働くことで、自分の経験や知識と新しく得られた新たな知を生み出すことができる。

(2)自分らしいスタイルでリーダーシップを築いていく、オーセンティックリーダーシップという考え方が世界的に注目されている。自己認識を高めるためには自分と向かい合い、自身の成長のために他者からのフィードバックを常に求める姿勢が必要。社外メンバーと仕事をすることで自分ですら気づいていなかった強みや課題が明確になる。また知らないメンバーと信頼関係を構築し、人を動かす必要がある。まさに真のリーダーシップが求められる。

(3)グローバルで導入されたリーダーシップ・コンピテンシーの中で特に重要な三つは洞察力、好奇心、胆力。二枚目の名刺のプロジェクトでは、時間とリソースが制約された中、あいまいで地理間のない領域において決断し、物事を進めていかなくてならない。このプロジェクトを通じて会社が求める重要なリーダーシップスキルが鍛えられる。

では、実際にどのようなスケジュール感で取り組んでいったのか。これはセッション参加者にとっても、「もし自社でやるなら」という観点から、関心の高い部分だったのではないだろうか。図表を使って説明する志水氏の言葉に熱心に聞き入っていた。

「9月マッチングセッション、10月キックオフ、1月最終報告、という約4ヵ月にわたるプロジェクトです。参加者を募る前には、石山先生に『パラレルキャリア(越境学習)とは何か』と題した説明会をお願いし、社員の理解が深まるようにしました。プロジェクト期間中も人事が常に参加者をサポートし、自分自身を内省する時間を確保するようにしました」

その結果、研修としては非常に高い満足度、成果を得ることができたそうだ。プロジェクト終了後の調査では、「自分の成長につながる学びがあった」「業務に還元できた」「企業の理念・ビジョンを体現するために役立った」「これこそリーダーシップ研修だと感じた」などのコメントが寄せられたという。

この成果を社内外で共有していこうと考えた志水氏が企画したのが、外部の人も招いての「最終報告会」だ。プロジェクト参加メンバーによるパネルディスカッションや石山氏の講演を行い、参加した人の満足度はほぼ100%という非常に高いものとなった。

「すごくいい議論ができて、メンバーの表情や発言も4ヵ月のプロジェクトで変わったな、と実感できるものでした。また、目に見える成果としては参加者の半数が今春、社内で昇進しました。その他のメンバーも、現場のリーダーから『あの人、最近変わったよね』と評価されるなど、本当にやってよかったと思えるプロジェクトになりました」

プレゼンテーションの最後に志水氏が見せてくれたのは、プロジェクトに取り組む社員の様子をドキュメンタリー風にまとめた約5分の動画。おそらくこの動画も社内・社外で共有されることで、「自分もやってみたい」という気持ちを刺激するツールとしての役割を果たしているのだろう。パッションが感じられる映像が終わると、この日のセッション参加者全員から大きな拍手が起こっていた。

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【石山氏によるプレゼンテーション】
二枚目の名刺の人材育成効果とは?

最後にプレゼンテーションを行ったのは、セッションの司会進行役も務めた、法政大学教授の石山氏。日系企業、外資系企業などでの勤務を経て、現職では越境学習、キャリア、人的資源管理などを専門領域として研究を行っている。廣氏・志水氏のプレゼンテーションでも触れられた「NPOサポートプロジェクト」にも深く関わってきたわが国における越境学習の水先案内人とでもいうべき存在だ。

石山氏のプレゼンの導入部は、「二枚目の名刺」に近い概念である「パラレルキャリア」について。比較的新しい考え方のように思われているが、実は30年近く前にドラッカーが「知識労働者」について述べた文章の中に登場しているという。その後、本業で培った専門性を生かすプロボノやボランティアなど、さまざまな兼業、副業のパターンが登場する。そのすそ野も広がっている現状を、わかりやすく説明してくれた。

「パラレルキャリアというと難しいこと、すごい人にしかできないことと思われがちですが、本来は何でもありで誰にでもできることです。基本は『働きながらもう一つの活動をすること』と、シンプルに考えればいいのです」

では、パラレルキャリアにはどんな人材育成効果があるのか。ここで石山氏は、「NPOサポートプロジェクト」に参加した人たちにインタビューした中で、まとめた考えを披露した。

(1)シェアード・リーダーシップ(垂直型ではない):サポートプロジェクトは五人程度のチームで進めるがリーダーは置かない。そのため一人一人が当事者として考え、それぞれのリーダーシップが育まれる。

(2)多様性と曖昧さに慣れる:まったく違う環境から参加している人たちがチームを組むことで、異質な考え方に慣れる効果がある。

(3)ゼロベースで実験を繰り返す、失敗を歓迎する(デザイン思考):企業と違って社会課題には明確な正解がなく、失敗からも貴重な経験を得ることができる。

(4)自分の暗黙の前提を常に見直す(視野の拡大):NPOや社外の人と接触することで、自分たちの社内用語や業界知識がローカルなものだと再認識できる。視野の拡大がある。

「こうしたパラレルキャリアの効用が企業に認められ、導入する企業も増えています。たとえば、ロート製薬が副業解禁に踏み切ったのは、ボランティア活動などの異なる経験が本業に有効だったという社員の方々の体験がベースになっているそうです。先ほど述べた効果の中では『視野の拡大』を狙ったものと言えます。また、IT企業のさくらインターネットでは、地方の実家に住んで、本業をリモートワークでこなしつつ、副業で農業に従事するという、空間的な二拠点パラレルを実現する取り組みを行っています。これらは、いわゆる社会活動とは異なる『副業』『兼業』ですが、着実に企業も変わりつつあることを示しています」

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ここからは、後半のパネルディスカッションに向けての問題提起となった。石山氏はパラレルキャリアは基本的に良いものだが、実際に企業で導入しようとすると、多くの課題にも直面すると言う。

「中小企業庁などは、パラレルキャリアにイノベーションや人材育成効果を期待しているようです。しかし、企業の約8割は副業のメリットを認識していないという調査もあります。本業に支障が出る、情報漏えいや安全管理面の心配がある、といった声は多い。企業側のメリットも、よく理解されていません。個人にとっても現実的に忙しくなる、という問題もあります」

興味を持って「やってみたい」という企業でも、「NPOとのつきあい方がよくわからない」「ボランティアは一度始めるとなかなか辞められないのではないか」といった心配をするケースがあるという。実際、この日の参加者の中には、この話にうなずく人も見られた。

【ディスカッション&質疑応答】
企業と社会にとっての「越境学習」「パラレルキャリア」の意味とは?

セッションはこのあと、「企業と社会にとっての越境学習、パラレルキャリアの意味」を考えるパネルディスカッションへと移行していった。その一部を抜粋してみよう。

石山:ここまで二枚目の名刺を持つことの良さについて話してきましたが、まだ取り組めている企業も個人も少ない。いろいろ課題もある中で、それでもやる意味は何でしょうか。

廣:大企業(従業員1000名以上)の人事と社員に、アンケートをとった結果をご紹介します。まず社員は「副業を認めない企業には魅力を感じない」という人が多い。今すぐ副業をする気持ちのない人でも、37%がそう回答しています。少ないように思うかもしれませんが、1000人社員がいたら400人近くがそう思っているわけですから、無視できないでしょう。会社側が社員に社外での活動をさせたくない気持ちもわかりますが、優秀な人材の確保という面からも、考えなおした方がいいかもしれません。また、社外での経験・知識を戦略的に持ち帰ってもらうことの効果も、すでに多くの人事が認めていることが調査でも見えています。

志水:グローバル化やテクノロジーの進歩がある中で、イノベーションが求められているにもかかわらず、日本企業ではうまくいっていないと聞きます。イノベーションは、知と知の組み合わせで生まれるもの。パラレルキャリアや越境学習は、個人を成長させると同時に、自分が外で得た知や経験を組織に持ち帰り組織にポジティブな変化をもたらす効果もあります。そこから生まれたオープン・イノベーションが企業の成長につながっていく効果は、大きいと思っています。

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さらに、志水氏からは、「NPOサポートプロジェクト」でメンバーがどう変わったか、なぜ変わったのかについても説明された。セッションにはギャップジャパンの人事担当も参加者としており、直接具体的な話が聞ける場面もあった。

パネルディスカッションの後半では、「越境学習導入を実際にやってみたら起きた問題」が話し合われた。廣氏が強調したのが「人事の熱量が大事」ということ。導入に際しては、まだ「前例」が少ないことがネックになる。志水氏は、「まず私自身がやりたいという思いが強く、周囲に価値観を広めていった」という経験談を語った。また、実施後は、人事が「効果があります」と言うよりも、実際に参加したメンバーに「プロジェクトの目的や参加する意義、自分が何を得たか」などを話してもらう方が効果的だと分析した。

最後に話し合われたのは越境学習で経験した学びの「風化対策」だった。廣氏は「プロジェクト経験者に次のプロジェクトの企画者になってもらう」というやり方が有効と考えているそうだ。志水氏もほぼ同意見で、「次のプロジェクトのメンター、アドバイザーになってもらう。それを通じて何らかの接点を持ち続けてもらうことで、風化を防いでいきたい」と語った。

続いて、質疑応答が行われた。主なものを紹介しよう。

質問1:プロジェクトの参加者を決める選抜は行われたのか。

ギャップジャパンでの第一回のプロジェクトでは選抜は行わなかったようだ。志水氏は「手をあげてくれた人の熱意を大事にしたい」という方針だった。ただ、次回以降は次世代リーダー候補と考えている人材に優先的に声がけをしていくとのことだ。

質問2:次世代リーダー候補のような人材は普段から忙しく、業務に支障は出ないのか。

ここでの志水氏の回答は、多くの参加者を驚かせた。ギャップジャパンでは「だらだら長時間働くのではなく短い時間で効率よく働き、自身のプライベートを大切にする。同時に優れた成果を出す強いチームをつくる。チームを率いるリーダーとして自らそれを実践しているか」という点も評価軸に入れてリーダー候補を選んでいるのだという。言われてみればその通りなのだが、石山氏も「なるほどと思うけど、なかなかできない会社もまだ多いでしょう。ここだけでも深堀りできそうなテーマですね」と感心していた。

質問3:やりたくても実現しないケースは何が壁になったのか。

廣氏の経験では、「これは業務の一部である研修なのか? それとも業務外の自己研鑽なのか?」ということが論点になるケースが多いという。また、社外活動で魅力的な場を見つけてしまい、それが退職につながるのではないかという危惧もよく聞かれるとのことだ。ただ、人材は縛りつけておけるものではない。懐の深さを見せていくことで会社の魅力度を上げる方向に割り切ることも一つの考え方だろう。また、志水氏は「再雇用制度」の導入によって、退職した人との関りを切らない工夫をすでにしていることを紹介していた。

質問4:現状で長時間勤務を強いられている人は、パラレルキャリアの土俵に立てないのか。

廣氏が「二枚目の名刺」を立ち上げたのは、本業で激務をこなしている時期だったという。それでも自分の価値観を表現したいという強い思いがあったからできたそうだ。「好きなことをやっている、例えば土日にサーフィンに行くのと同じ感覚」。志水氏も「ワークとライフは対立構造ではない。その人がどんな人生を送りたいかだと思う」と答えていた。「一人一人が生きたい人生を生きるには能力を伸ばさないといけない。パラレルキャリアで能力開発をして生産性を上げていくことは一つの解決策だ」という言葉を参加者の多くが印象的に聞いたのではないだろうか。

最後に、参加者がグループに分かれてディスカッションが行われた。「越境学習を自分の組織で実践する場合、どんな課題があるか。どうすれば、その課題を解決できるか」をテーマに、自由に発展させた議論が行われた。終了後には、グループの代表が、どんな論点が出たのかを簡単に発表した。以下は、その一部だ。

  • 高度成長時代のキャリアモデルが揺らいできた現在、より本質的な人間の幸福を追求することが求められています。その意味で、パラレルキャリアは単にビジネスの話ではありません。一見、企業にとっての損得とは関係ない話のようですが、そこまで考えている企業だという評価が得られれば、最終的には企業収益にもつながっていくと思います。
  • このセッションに参加した理由を聞いたところ、自社に越境学習を導入したいからというよりも、個人的な興味という人が多かった。この「個人の興味」という動機は、非常にパワーがあるのではないでしょうか。そういう人が増えているなら、それに応えていくのが人事の仕事だと思います。
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最後にパネリストそれぞれから、まとめの一言があった。

廣:何かやろうとして難しさがあるのは、人事部門も事業部門も同じ。経営の中枢を担う人事の皆さんが枠を超える姿を見せることで、メッセージが伝わると思います。積極的に変化を仕掛けていきましょう。

志水:ディスカッションに参加して、枠を超えて変わりたい、一歩踏み出したいと考えている人が多いことにわくわくしました。人事は従業員がわくわくしながら働ける環境を創るのも大事な仕事。一歩踏み出す時にできない理由ではなく、どうすればできるかを一緒に考えていく必要がある。それが人事の役割だと思います。

石山:「個人的興味で参加した人が多かった」という発表が意外でもあり、同時に頼もしさ、力強さも感じました。

「個人としての思い」が重要だということは、三人のパネリストがセッションの中で何度も強調していたことでもある。パネリストと参加者の気持ちが一つになった、素晴らしいセッションだった。

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