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「モティベーション持論」を言語化する~やる気の自己調整を可能にするために~

  • 金井 壽宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
2017.07.14 掲載
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人が働く上で「ワーク・モティベーション(仕事意欲、日常語ではやる気)」が重要であることは、誰もが認識している。長期的なキャリアの充実も大事だが、日々のやる気、取り組んでいる瞬間ごとのやる気が、目前の仕事の質を決めるからだ。このやる気を自己管理するための基軸を、キャリアの中のある時期以降は持ちたいものである。やる気が下がれば自分に働きかけて再度回復させ、やる気が高まったら高い水準でできるだけ維持する「自己調整」が必要だが、そのためには自分なりのモティベーション持論を「言語化」しておく必要がある。「生きているということは、そもそも『元気度』に山あり、谷ありということであり、やる気、元気が下がることがあっても、また回復させる力、さらには以前よりも高いところにやる気を“超回復”させる力が重要です」と、モティベーション研究の第一人者である神戸大学大学院教授・金井壽宏氏は言う。では、具体的にどう言語化して、モティベーションを高く保っていけばいいのだろうか。金井氏からの問題提起と、参加者同士のディスカッションにより、やる気の自己調整のあり方について考えた。

プロフィール
金井 壽宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
金井 壽宏 プロフィール写真

(かない としひろ)1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エスノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。


モティベーションの四つの系統~「緊張系」「希望系」「関係系」「持論系」

モティベーションには、やる気をはじめ、動機づけ、意欲、熱意などの日本語訳があるが、そのままモティベーションと使われることが多い。また、子どもの頃の遊びへの熱中、学童期の学習意欲、受験勉強におけるやる気、スポーツや音楽などの趣味に対する熱意、ビジネスの世界での仕事意欲、仕事の山場での集中など、さまざまな場面で見ることができる。まず金井氏は、モティベーションについて、そもそもやる気はアップダウンするものという点から、それを自己調整する意義を強調した。

「モティベーションが高い状況とは、まさに人がイキイキとしている証拠、前進している証でもあります。ただ、どんな人でもずっとやる気満々でいることは難しい。いまは元気よく講演している私も、研究室でひとり落ち込むことがあるし、さえないときもあります。元気なときもあれば、元気のないときもある、それが生きているということです。アップダウンするのがモティベーションなのです。自力で盛り上げるだけでなく、周りが元気なので、また、リーダーが陽気でいい意味で調子がいいので、こちらまでエナジャイズ(この言葉は、 GEのジャック・ウェルチがよく使った言葉でもある)されることもあります。自分で自分のやる気を自己調整できるかどうかが大事なのです。また会社組織では、マネジャーになったら周囲の人たちのやる気の自己調整に影響を与えることが求められます」

金井氏は、モティベーションを大きく「緊張系」「希望系」「関係系」「持論系」の四つの系統に分類する。

「人には『自分はまだまだ』という気持ちがあるので、良い意味で緊張し、何かがまだ足りないという気持ちがあると、張り詰めた感覚で立ち上がることができます(緊張系)。そして、目指す方向に希望や夢を持つことができれば、努力を維持できます(希望系)。また、落ち込んだときには、この人と会うと元気を取り戻せて、前向きな気持ちを持てるといったことが少なくありません。周りの人がエネルギーに満ちていると、そのおかげで、エナジャイズされるということです(関係性)。このように、自分のやる気のアップダウンを左右する要因とは何か、自分はどのように動機づけられるのかについて、しっかりとした持論を持つことは、自分で自分のことを自己調整する道へとつながります(持論系)」

モティベーション理論に関する書籍は数多いが、その中に腹に落ちる理論、自分にフィットしたキーワードを見つけたら、まずはそれを参考にしながら自分なりの言葉で、やる気を自己調整するためのモティベーション持(自)論をアレンジしてみるといい、と金井氏は言う。他の人が何と言おうと、自分で選んだ言葉でうまくいくのなら、やる気がいったん落ち込んでも、それをまた回復させる、また元の水準を越す力を生み出す、確固たる「軸」になるからだ。

「やる気が落ち込んだとき、皆さんはどうしますか。会えばいつも元気になるようなタイプの友だちや先輩などに会う、あるいは電話をかける、歩けば爽快になる道を気分転換に散歩する、小さい仕事がいくつかたまっていたらそれらを片付けるなど、いろいろな方法があるでしょう。大切なのは、それでやる気を取り戻せること、自己調整ができることです。『やる気が失せたときにはまず、パソコンを立ち上げる』というのは至言で、手を動かさずに頭を使わないままでは、やる気が停滞します」

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ところが多くの人は、しばしばやる気が失せて、無気力になることがある。これは仕方のないことだと放置してしまうのだ。しかし、それは残念なことだと金井氏は言う。

「神戸大学名誉教授の加護野忠男先生は、『どんな元気な人間も、いつも元気なわけではない』とよく言われます。加護野先生の主催で長い間開催されている、甲南大学における『APO研究会(APO=Activation of People and Organization,人のイキイキを考える会)』で、誰だって落ち込むことがある点について、よく議論しました。そこでは、生まれてからずっとイキイキしている人はいない。やる気が全く起きない時もある。だから、やる気を自分なりに高めるために、モティベーションの持論を持つ。そういったことを通じて、やる気に対する自己調整を行うのが大事だと確認し合いました」

働く人が自己調整のための持論を自分なりに考えるとき、モティベーションの理論のほか、山本五十六をはじめとした著名なリーダーが、どうすればリーダーとして部下のやる気やモティベーションを喚起できるかを述べているので、参考になる。

「たとえば、山本五十六が残した有名な言葉の『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』という、モティベーションの喚起にまつわる知恵の結晶のような言葉はよく知られているでしょう。トップという立場から、事業に対する思いや経営理念、ビジョンなども参考にしながら、その会社に働く人のモティベーションの調整やキャリアの進展にも、元気や勇気を与えるような働きかけができると、それは素晴らしいことです。

また、経営者や管理者自身が実践に使うつもりで、使用に耐えるいろいろな理論を学び続ける中で、それらを参考にしながら、自分の持論のレパートリーを増やしたり、内容を入れ替えたり、自分にとってよりしっくりとくるフレーズに磨いていったりすることも有効です。キャリアを積み重ねていく間に、自分の置かれた立場や求められる要件は変化していくので、やる気がアップダウンする要因も変化していくことが予想されるからです」

リーダーシップでも「持論」が大切

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ここで金井氏は、リーダーシップでも「持論」が大切だと述べた。人はリーダーになると、モティベーションの理論を自分に役立てるだけでは物足りなくなってくる。実際、職場のリーダーは、自分自身のやる気を充実させるとともに、部下のやる気にもうまく働きかけていかなければならない。別な言い方をすれば、リーダーシップの取り組みの中には、部下のモティベーションへの働きかけ、影響力が盛り込まれている、ということである。

「モティベーションとリーダーシップは、組織の中の人間行動を考える際の2大トピックです。部下の自発的に動機づけられた行動に影響を与えるプロセスが、まさにリーダーシップだからです。リーダーはまず自分自身がやる気になっていなければ、部下に対してリーダーシップを発揮することができません」

職場でリーダーシップを発揮したいと思っている上司は、部下のやる気に働きかけなければならない。しかし、部下にはさまざまなタイプの人がいるため、どのように働きかければ動機づけられるのかは、十人十色である。そのため、部下のやる気に働きかけようとするリーダーは、十人十色のモティベーション論を知っておいた方がいい、と金井氏は言う。

「特に、最近の若い人たちは“打たれ弱い”傾向にありますから、一人ひとりの特性やモティベーションの源泉をよく理解し、やり方や言葉をよく選んで、リーダーシップを発揮する必要があります。マネジメントを行うことは、このように部下のアップダウンをうまく調整していくこと、やる気の自己調整にほかなりません」

キャリアはモティベーションより長い時間軸を扱うもの

キャリアは、モティベーションよりもっと長い時間軸を扱うものである。今打ち込んでいることが、将来なりたい姿につながっているときに、人は大きな充実感を覚える。モティベーションの状態を見る期間は、1日でも、1週間でも、1ヵ月でも構わない。重要なのは、どんなときにモティベーションが上がったり下がったりするのか、変動する原因・要因を自分なりに見つけることだ。また、低くなった時にはそれをいかにして持ち上げるのかを自分なりに考え、具体的な行動に移していくこと。そして、高くなった時にはその状態をどう維持していくのかを考え、行動していくことである。

「実際にワークを行ってみると、やる気が失せてダウンした状態を思い出すことが多いせいか、落ち込む表情を見せる人が少なくありません。特に異動によって、仕事内容や上司、勤務地などがそれまでとは大きく変わった時(キャリアの節目)、その傾向が強いように思います。このようにアップダウンした時の状況を皆でシェアし、その時々の気持ちを確認し合う。すると、自分の気持ちを受け入れてもらったという安心感が生まれ、さらにそのような状況の中から他の人のケースを知ることによって、自分なりに対処する方法のヒントを得るケースがよくあります」

ここで、グループごとによる「持論エクササイズ」が行われた。

「どんなときに、どのようなことがあればやる気が出るのか、逆に何があるとやる気を失ってしまうのか、グループ内で話し合ってみてください。他の人が自分とは違ったときにやる気が出たり、失ったりするのを知ることを目的としたワークを、研修など職場の中で実施することは大変効果的です。できる限り具体的な出来事を思い出して、いったい何があったから、やる気が高まったのか、逆に一気に下がったのか、ストーリーを語り合うことが肝心です。飲み会の場でもいいのですが、常日頃からやる気について話す機会を持つことで、自分や他の人のやる気の源泉や落ち込んだ時の対処法を確認することができ、モティベーションの自己調整という点で有効なアプローチとなります。また、自分のモティベーションを語る言葉を増やすことにも大いに役立ちます」

人事の立場にいる人は、一定の人数を確保(サンプリング)し、社内的なサーベイとして行うのもいいだろう。結果を職種や部署、事業所単位で比較したときに一定の傾向値(要因)が出たら、あるいは共通して(普遍的に)見られるものがあれば、上司や関係者と相談した上で、何らかの対策を行うことができる。例えば営業部門と研究開発部門では、抱えている課題や目標が大きく異なる。当然、モティベーションもそれらに関係してくるので、働く人たちを鼓舞したり、やる気を自発的に微調整したりするためのキーワードはそれぞれ異なる。このことを、人事はもっと考えていかなければならない。

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学者の理論より、自分なりの「持論」が重要

モティベーションにおける普遍的な理論は重要だが、一人ひとりが自分にとってしっくりとくる持論を持つためには、パーソナルタッチな部分が必要だ。モティベーションは今や日常的な言葉だが、一般的に、学者による理論は抽象度が高く、概念的で、言葉として難しい表現が使われている。また、「自己実現」「達成動機」「承認欲求」など、元々は、学者なりの「持論」であることが多く、必ずしもモティベーションの源泉となるものを網羅しているわけではない。

「有名な学者の理論でも、人によっては、自分の感性や経験には合わないことがあるでしょう。たとえそれが、定評のある理論だったとしても。しかし少なくとも、良い持論を言語化するには、いろいろな良い見本や手本、たとえばジャック・ウェルチや小倉昌男さんクラスの持論から、身近な上司、先輩や仲間が語る持論まで学ぶことが大切です。まずはいろいろな学者や著名な実践家の理論と持論を知ることから始めて、腹落ちできるものの見方を見つけたら、自分なりに翻訳し直し、表現を変えて、行動に移せるモティベーション喚起の持論、まわりのやる気に影響を与えるリーダーシップの持論に高めていく(言語化する)必要があります」

名古屋市立大学にいた西田耕三氏は、古くから『ワーク・モティベーション研究』という名著につながる実証研究と理論研究を行ってきたことで知られるが、モティベーション測定のための3項目を以下のように示している。

【モティベーション測定のための3項目(西川耕三)】

(1)あなたは、自分自身が、仕事に対してどの程度の意欲を持っていると思いますか

(2)仕事中、時間が知らぬ間に過ぎていくという感じを持つことが、どの程度ありますか

(3)仕事上で困難な問題点・障害に出くわした場合、それらを克服していこうとするあなたの意志の強さはどの程度ですか

「私の大学院の大先輩で、大きな影響を受けましたが、具体の項目については、気になるところがないわけではありません。それぞれの項目を見ると、(1)は信頼性、望ましさ、(2)は妥当性(集中の面)、(3)も妥当性(意志力を測っている)に問題があります。モティベーションそのものは(1)ですが、(2)や(3)は資質や状態を聞いており、ダイナミック・プロセスとしてはとらえられません」

また、アメリカの有名な心理学者フレデリック・ハーズバーグの「二要因理論」では、「動機づけ要因」と「衛生要因」を以下のように整理している。

【ハーズバークの二要因理論】
動機づけ要因 達成、承認、仕事そのもの、責任、前進(昇進)
衛生要因 会社の方針、上司の知識不足、上司との相性、職場の人間関係、作業環境、福利厚生、給与

「動機づけ要因」は仕事そのもの(職務内容)に直結する要因であるのに対して、「衛生要因」は仕事を取り囲む諸々の要因(環境)だ。教科書などにもよく引用される理論だが、この分類には批判も少なくない。満足がそのまま、モティベーションにつながるわけではないからだ。

「給与を衛生要因としていますが、日本企業はモティベーションという点で再検討した方がいいと思います。デフレ経済が続く日本では、グローバル企業だけにとどまらず、アジア企業と比較しても給与水準のアドバンテージが低いからです」

大事なのは、どの要因が自分のモティベーションのアップダウンを左右しているのかを知り、自分なりの言葉・表現で言語化することだ。

「そのための参考として、学者の理論を知るべきなのです。しかし一方で、偉大な学者の理論にあまり縛り付けられないことが重要です。理論の中から、「マイセオリー(私の持論)」「マイオウンセオリー(私独自の持論)」を見つけ出す、きちんと言語化することがより重要であり、その方が自己調整という点から考えても、大いに役立ちます」と「持論」を持つことの重要性を改めて強調し、金井氏は講演を締めくくった。

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