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これから採用はどうなるのか? どう変えればいいのか?
―― 採用活動の新たな指針「採用学」の視点から考える

  • 金井 壽宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
  • 服部 泰宏氏(横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授)
2016.12.21 掲載
Indeed Japan 株式会社講演写真

新卒採用のスケジュール変更が毎年のように行われ、独自の採用手法を打ち出す企業が増えるなど、近年は新卒採用に関するニュースがたびたび聞かれるようになった。果たして、これからの採用はどうなるのか。自社に合う人材と出会うにはどのような採用活動を行うべきなのか。「採用学」を提唱する横浜国立大学大学院准教授の服部泰宏氏と、神戸大学大学院教授の金井壽宏氏が、採用活動の現状と方向性についてディスカッションを行った。

プロフィール
金井 壽宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 教授)
金井 壽宏 プロフィール写真

(かない としひろ)1954年神戸市生まれ。78年京都大学教育学部卒業。80年神戸大学大学院経営学研究科修士課程を修了。89年MIT(マサチューセッツ工科 大学)でPh.D.(マネジメント)を取得。92年神戸大学で博士(経営学)を取得。変革型のリーダーシップ、創造性となじむマネジメント、働くひとのキャリア発達、次期経営幹部の育成、これからの人事部の役割、研究とつながる教育・研修のあり方(リサーチ・ベースト・エデュケーション)を主たるテーマとしている。これらにかかわる論文や著作が多数。『変革型ミドルの探求』(白桃書房、1991年)、『リーダーシップ入門』(日経文庫、2005年)、 『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版、2006年)、『「人勢塾」ポジティブ心理学が人と組織を変える』(小学館、2010年)、『組織エスノグラフィー』(有斐閣、共著、2010年)など、著書は50冊以上。


服部 泰宏氏( 横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授)
服部 泰宏 プロフィール写真

(はっとり やすひろ)1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、同准教授を経て、現在、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授。日本企業における組織と個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契約)、経営学的な知識の普及の研究、シニア人材のマネジメント等、多数の研究活動に従事。主著に『日本企業の心理的契約: 組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)があり、同書は第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は,人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」に従事、同プロジェクトのリーダーを務める。


服部氏によるプレゼンテーション:採用の革新を捉える/実証データに基づく考察

服部氏はまず、日本企業のこれまでの新卒採用スタンスについて語った。一般的に日本企業の新卒採用活動では、最初は曖昧だがポジティブな情報・魅力的なイメージを学生に伝え、応募を集める手法が中心。それに対し、アンチテーゼとしてWanous氏と金井壽宏氏が採用の新パラダイムを示している。

「リアリスティック リクルートメント(Realistic Recruitment)という考え方で、リアリティーの高い情報を伝えるものです。仕事や会社について、良いイメージだけでなく悪いイメージも事前に伝えておけば、入社前の過剰な期待を抑制し、現実的な期待を持った人を集めます。その結果、よい採用につながるというものです」

講演写真

ここ数年は企業で新たな採用に関する動きが見られるが、服部氏は五つのパターンに分かれると言う。

「一つ目は、エントリー要件の引き上げです。自社に本気で入りたい人に絞っています。二つ目は、多様な入り口の設定。例えば、文系の営業職の採用に五つもの入り口を設け、まったく異なる選考をする企業があります。三つ目は、採用のタイミングの変更です。優秀ならば大学1年生、2年生にも内定を出す企業もあります。四つ目は採用のエンターテインメント化。例えば面接をやめて、ゲームそのもので選考したり、脱出ゲームをやらせて、そこでの振る舞いや人間関係を人事が見たりします。そして、五つ目は「脱○○○○」という動きです。例えば、面接やめました、エントリーシートをやめました、ペーパーをやめて動画を募集しますなど、一般的な採用ツールをやめたり、変更したりする動きが目立ちます」

もちろん、これらはまだ一部であり、多数ではない。しかし、気になるのはこのような採用イノベーションが発生する理由だ。どのような条件が整えば、このような革新が起こるのか。

「統計からわかった一つ目の条件は、採用担当者に裁量権が与えられていることです。募集する人材像や人材要件には曖昧なものが多いのですが、どういう人を採りたいか、そのためにはどんなデバイスが正しいかなど、そこで意見できる裁量権があることがポイントになります」

もう一つの要件は、採用担当者が社内でどんな情報源を持っているか。例えば、1年当たりの社内での研修や勉強会への参加回数は、革新のしやすさに影響している。

「この数字は、社内の人に会って、どれだけネットワークを築けているかということを意味します。この質問と同時に、人事にどんな基準で採用を手助けしてくれる人を選んでいるかを聞いたのですが、断トツ1位は『頼みやすい人』でした。意外にも『現場のエース』や『現場で輝いている人』は下位です。それよりも、同期の人や自分と関わりが深い人などに人脈があり、その人たちに採用の手助けをお願いできる人ほど、革新的なことにトライしています」

これとは逆に、革新を起こさない傾向を呼ぶ要因も見つかっている。それは1ヵ月当たりの上司との相談回数が多い人だ。要するに、何でも細かく上司のチェックが入ったり、上司が新しいアイデアに消極的だったりすると、その採用担当者は革新を生まなくなる。このように採用の研究はまだ始まって間がないだけに、さまざまな発見があるのだ。

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ディスカッション:よい採用を生み出す人事の条件とは

金井:採用で企業が良いところばかり見せていたら、学生は悪いところを見たくなりますよね。私が言ってきたリアリスティック リクルートメントは、ただ「悪いところを見せろ」というのではなく、「この点は問題があるが、将来はこう改善したい」などと方向性を伝えることに意味があると思っています。ここで服部さんにお聞きしたいのは、なぜ採用を研究しようと思ったのか。採用とその後のキャリアに、何か関連があると思われたことがあったのでしょうか。

服部:私が研究テーマを選ぶときに、考えたことが三つありました。一つ目は、入り口です。会社と人が出会うというフェーズ。二つ目はミドルの問題で、三つ目は定年延長や再雇用という問題でした。結果、入り口を選んだわけですが、その理由の一つは私がいま30代で、この年齢で語るべきではないかと思ったこと。そして、採用時にボタンの掛け違いが起きているのではないか、という疑問でした。私の博士論文のテーマは、企業に入った人の育成は何歳までが会社の責任で、どこからが個人の責任なのか、というものでした。実は、この問題にボタンの掛け違いが大きく影響しています。これは育成の問題ですが、実は入社したときに「何歳まで会社が面倒を見る」というコミュニケーションにズレが起きているからこそ、社員は後に不満を持つことになるのです。

金井:採用後にはこんなことをしたほうがいいといった、人事のベンチマークになる事例はありますか。

服部:これはサイバーエージェントの例ですが、同社では企業で適応できない人が出るのはネガティブなことではなく、ごく普通のことと捉えています。そのため、そういう人を発見すると、すぐに異動させる制度があります。すると、異動先で活躍する人が出てきたりする。採用時に人をしっかり見ることも大事ですが、配置は一過性なものです。見直しがあって当然と考えることは、人を採用する上でも大事だと思います。また、いろいろな研究から、企業で人が育つ上では最初の上司の存在が重要だと明らかになりました。この二つを合わせて考えると、ミスマッチがあっても、そこでの可能性は一過性だからと、切り替える発想を持つことが大事ではないかと思います。

金井:奇抜な手法はよくないかもしれませんが、人事以外の分野と組んだら採用にこんな味付けができるとか、あえて人事部ではなく別の人が採用にいったほうがよいとか、人事があまり気付いていない採用戦略はあるのでしょうか。

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服部:採用担当者が単独で動いてもよい採用にならないわけで、現場のヘルプは必要です。先ほどのデータにもありましたが、社内に人脈をつくっておくことは採用で生きてきます。一つ例があって、面白法人カヤックという会社では「ぜんいん人事部化計画」を行いました。人事部でなくても人を紹介しよう、社員みんなが採用を担当しよう、というものです。ある研究によれば、全社体制で人を探している会社は良い会社だというデータがあります。もう一つ、これはヤフーの例ですが、人事とデータアナリストのコラボレーションです。エントリーシートの内容を分析し、どんな内容を書いた学生が選考通過率が高いのかを分析しています。要するに社内で採用に使えるリソースは、人事が持つものだけではないということです。

ディスカッション:リアリズムを取り入れた採用戦略とは

金井:今後、採用の分野でいろいろな研究が出てくると思いますが、この先の見通しとしてはどんなことが考えられますか。

服部:採用は感覚値と思われがちですが、データがあれば、そこから検証が可能なものです。例えば私から「面接結果が数年後の評定に結びついていない」という事実を現場の人事の方に伝えると、そこからいろんな仮説が出ます。「面接で見ようとした要件がズレていたのではないか」「面接での判定が感覚的になっていたのではないか」など。このような感覚は、人事ではない私には見つけられません。人事データの分析は人事やビジネスパーソンに解釈してもらうことで、見えてくるものがあるとわかりました。また、ある会社では、人事が学生のコミュニケーション力を見ようとしていましたが、その判断基準を面接者に聞くと、実は各人でバラバラだったということがありました。ある人はたくさん話す人を評価し、ある人はたくさん話す人のことを「場に合わせて話すから能力がない」と考えていました。このような違いをなくすには、すり合わせも必要です。

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金井:採用学で、人の選び方や基準に関してアドバイスしていることはありますか。

服部:人を見る目を持っている面接官の場合、面接の訓練などをしてしまうと他の面接官と見方が揃って、その人のよい部分を消してしまうことがあります。しかし、人を見る経験が少ない面接官の場合は、ある程度条件を揃えないと判断ができないので訓練をしたほうがいい。そんなアドバイスをしたことがありました。また、世に出ている適性検査も設計思想の影響から、見分ける人のタイプに得意・不得意があります。その点を考えて使うことが大事ですね。

金井:では学生への接し方など、この会場にいる人事の方に何かアドバイスはありますか。

服部:今では学生も以前と違って、多様な情報を持つようになっています。例えばインターンシップでは他大学の学生と接し、自分の大学になかった情報を得ています。どこにどんな情報があるのかといったことは、学生のほうが詳しいと思っていたほうがいいですね。

金井:学生が欲しい情報を考えると、リアリズムでの対話が可能なら、先に入社している人に本音の話が聞ければ大変参考になりますね。憧れの会社にいる先輩に対して、「自分はこの問題について聞きたい」と言えば、おそらく良い話が聞ける。もし採用ツールにいい形でのリアリズムのある内容が書かれていれば、「入社後のショックが緩和された」とか、「いい意味でリアルな覚悟を持って入社できた」という感想をもらうことは十分にあると思います。人事と学生が本音ですり合わせすれば、よい就職をサポート体制はつくれますよね。

服部:ただ、リアルな話を伝え過ぎて失敗した例もあります。未来を明確にし過ぎることへの落とし穴もあるんです。ある会社はキャリアステップをこと細かく説明してくれるのですが、学生の反応はもう一つ。人は目の前が見えすぎると楽しくなくなるし、期待感が薄れるんですね。だから話のどこかに、未知の部分をバランスよく入れることも大事だと思います。

金井:人事は会社案内だけでは伝わりにくいことがあるから、学生に会って目の前で話をしているわけで、そこから「入社前に話が聞けてよかった」という結果になれば、学生はたぶん感謝してくれますよね。皆さんも、今まで採用がうまくいった年のことを思い出して、そこでどんなアプローチをしたかを考えてみるといいのではないでしょうか。参考になることが、きっとあると思います。

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