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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2016-秋-」講演レポート・動画 >  パネルセッション [C] イケア・ジャパン泉川玲香氏、ダイドードリンコ濱中昭一氏、三越伊勢…

“エンゲージメント”が組織力強化と業績向上を実現する
~社員と企業を共に成長させる人材マネジメントとは~

  • 泉川 玲香氏(イケア・ジャパン株式会社 人事本部長)
  • 濱中 昭一氏(ダイドードリンコ株式会社 執行役員 人事総務本部長)
  • 藤森 健至氏(株式会社 三越伊勢丹ホールディングス グループ人財本部 人事企画部長)
  • 小杉 俊哉氏(慶応義塾大学大学院理工学研究科 特任教授/立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 客員教授)
2016.12.21 掲載
日本アイ・ビー・エム株式会社講演写真

「エンゲージメント」とは、個人と組織が支え合い、成長に貢献し合う関係を意味する。エンゲージメント度が高い企業では、個人は力を発揮し、企業は業績が上がるという相関性が見られ、近年、その注目度が高まっている。イケア・ジャパン株式会社の泉川玲香氏、ダイドードリンコ株式会社の濱中昭一氏、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの藤森健至氏をパネリストに迎え、慶應義塾大学大学院の小杉俊哉氏が各社の取り組みを探った。

プロフィール
泉川 玲香氏( イケア・ジャパン株式会社 人事本部長)
泉川 玲香 プロフィール写真

(いずみかわ れいか)大学卒業後、アナウンサーとして放送局に入社。その後、教育ビジネスで海外の企業買収を手がける。英国で長男を出産。エンターテインメントビジネスに転職し、人事総務本部長を務めた。2004年、イケア・ジャパンに入社。船橋店(千葉県)の人事マネジャー、新三郷店(埼玉県)のストアマネジャーなどをへて、12年から現職。長男はいま大学生。余暇には絵画などの美術鑑賞や、家族3人と愛猫との温泉旅行を楽しんでいる。


濱中 昭一氏( ダイドードリンコ株式会社 執行役員 人事総務本部長)
濱中 昭一 プロフィール写真

(はまなか あきかず)大学卒業後、1987年ダイドードリンコ株式会社に入社。1994年より各営業所の所長を歴任後、2001年に営業管理課長に就任。2002年に人事部が発足した際、人事課長に就任。2011年に人事総務部長就任を経て、2013年より現職。


藤森 健至氏( 株式会社 三越伊勢丹ホールディングス グループ人財本部 人事企画部長)
藤森 健至 プロフィール写真

(ふじもり たけし)1992年大学卒業後、株式会社伊勢丹(現・三越伊勢丹)入社。新宿店ベビー子供用品部、MD統括部婦人ユニット部を経て、2006年人事部労務・人材サービスを担当。2011年より(株)三越伊勢丹ホールディングス 経営戦略本部 人事部人事キャリア担当部長として、三越、伊勢丹の事業会社統合後の採用・人材育成・異動を中心とした人事制度改革に従事。2016年よりグループ人財本部 人事企画部長(現職)として、グループ人事ビジョンである「従業員の力を最大限に引き出し伸ばしていける体制」の実現に向けた人事制度改革、人材育成フロー構築などに取り組む。


小杉 俊哉氏( 慶応義塾大学大学院理工学研究科 特任教授/立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 客員教授)
小杉 俊哉 プロフィール写真

(こすぎ としや)早稲田大学法学部卒業。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院修士課程修了。日本電気株式会社、マッキンゼー・アンド・カンパニー インク、ユニデン株式会社人事総務部長、アップルコンピュータ株式会社人事総務本部長を経て独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授を経て現職。専門は、人事・組織、キャリア・リーダーシップ開発。著書に、『職業としてのプロ経営者』、『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)、『リーダーシップ 3.0―カリスマから支援者へ』(祥伝社新書)など。


泉川氏によるプレゼンテーション:
個人のハピネスが会社の成長につながる

最初に、「個人のハピネスが、ビジネスに寄与できる原点となるのがエンゲージメントである」という泉川氏がイケア・ジャパンの取り組みについて語った。

「当社は、より快適な毎日をより多くの方々に、というビジョンを持つホームファニシングの会社です。真摯で前向きな人材に、プロフェッショナルとして、人間として、成長する機会を与え、お客さまのみならず自身もより快適な毎日を、と人事理念でうたっています。ビジョン、ビジネスアイデア、ヒューマンリソースアイデアの三つがうまく働いた時に当社のビジネスは成功し、個々の成長こそがその源になると考えます」

常に「Have To(=やらなくてはならない)」「Want To(=やりたい)」という意識を大切にしていると泉川氏は言う。全ての従業員が「Want To」という気持ちを持ち、それを引き出していくことがエンゲージメントにつながっていく。

「2012年から“A GREAT PLACE TO WORK”という、全てのコワーカーにとって最高の職場になると同時に、ビジネスの成長・成功を視野に入れた活動に取り組んでいます。これには三つの柱として、『多様な人材の受容と活用』『長期的な関係構築の保障』『平等な雇用の機会創出』があります。例えば、無期雇用への転換と同一労働同一賃金を実施し、マネジャーに女性が占める割合は47%となりました。これから2020年までを想定して、まずはコワーカーのハピネス・コンピタンス・コンフィデンスの構築、次にそれをどうビジネスに向けて動かしていくか、という施策を行いました」

全てのコワーカーに最高の職場ができれば、個々が成長し、強いリレーションシップが生まれる。そこで自分の才能が発揮でき、ビジョンである「より快適な毎日をより多くの方々に」に結びつく。すると、新たなビジネスの成長に向けた動きへとつながる。

「実際に行ったことは、タレントマネジメント、同一労働同一賃金、ダイバーシティアンドインクルージョン、有期雇用から無期雇用への転換、フラットオーガナイゼーションなどです。短時間勤務の人に対しても、夢を成し遂げることと当社で働くことの接点を話し合うディベロップメントトークを行いました。ライフパズルやキャリア設計は自分自身で描くことを勧めたり、社内公募制を設けたりと、個々がオーナーシップを持てるような仕掛けを行っています。ライフステージに合わせて、自分の“Want To”を知っている人が動いていく、それを享受できるインフラの整備が会社の役割だと思います」

講演写真

濱中氏によるプレゼンテーション:
チャレンジできる風土を作り続ける

次に、「業績向上につながるエンゲージメントを、常にチャレンジに置き換えている」という濱中氏が、ダイドードリンコの具体的な施策を紹介した。

「当社の大きなターニングポイントは、リーマンショックでした。収益構造の変化により2010年に大きく組織を改変し、2014年の社長交代を機に経営理念を一新。ダイナミックにチャレンジすることを掲げてスタートを切りました。当社では、中期経営計画や持続的成長を含めた業績向上のエンゲージメントを、チャレンジという言葉に置き換えています。チャレンジすることで、常にエンゲージメントが上がって、売上も伸びていくイメージです」

そのために、チャレンジする社員を評価し称えるという、自主的成長を促す制度を作った。失敗できる文化、風土が背景にあることもあり、若手も失敗を恐れずにどんどん突き進めるようになったという。できる限りボトムアップで環境整備や仕組みを作るプロジェクトに若手をアサインし、チャレンジの機会を与えることも行っている。それによって若手に、全体の成長をけん引してほしいとする狙いもある。

「具体的な活動としては、組織風土改革プロジェクトが挙げられます。これは、若手を中心に何をしたいのか話し合い、チャレンジを実行するというものです。例えば、会社を支えている家族の方々に向けた家族報は、若手が企画して作っています。オフサイトミーティングでは、社員たちとビジョンを共有するために、社長が自ら現場に出向き、月1回のミーティング(飲みの場)を持っています」

設立40周年の際には、「お客さまと共に」「社会と共に」「次代と共に」「人と共に」という四つのビジョンに合った企画チャレンジを社内で募った。結果、1550名から659件の施策が提案され、それは逐次実行されている。子供110番、インバウンド自販機の他に、子どもに自販機の仕組みを教える自販機体験授業も実施。レンタルアンブレラは、飲料を買わなくても自動販売機で傘が借りられる仕組みで、テレビ番組でも紹介された。

「このような企画への参加は社会貢献にも通じますし、自ら考えて施策が実施できるという経験は、社員のエンゲージメント向上にも、業績向上にもつながっていくものだと思います。他にも、社員が自主的に立ち上げたビジネス勉強会が毎月開催されており、また、会社のイメージアップを考える企画も進行中です。今の若手が10年後20年後に会社を支える人材になっていくことを思い描きながら、さまざまなことを進めています」

講演写真

藤森氏によるプレゼンテーション:
人事が一人ひとりと面談を続けていく

最後に、「オーソドックスなエンゲージメントへの取り組みを地道に続けている」と語る藤森氏が、実情を交えて三越伊勢丹ホールディングスの戦略を紹介した。

「当社は三越が343周年、伊勢丹が130周年という、共に長い伝統のある企業が2011年に本格的に統合しました。近年、百貨店はECに引き離され、今後は世の中的にAIに販売の一部を握られてしまう危機感もあり、人が行う販売には非常に高い質が求められると感じています。当社では販売員をスタイリストと呼びますが、お客さまにとってはベテランであっても新人であってももムラのないおもてなしを提供したいと思っています」

そこで人事で打ち出したテーマが、一人ひとりの力を最大化し、販売サービスと生産性を向上させることだ。そこで1万2000名超に及ぶ従業員一人ひとりと向き合う面談を実施するという結論に至った。

「実施したのは、年間1000人以上と直接面談するという『1000人キャリア面談』です。部長職から時給制契約社員まで、一人あたり45分から1時間をかけて、5年間で6000人超の面談を人事全員で実施しました。上司に言えない悩みや今後のキャリアに対するイメージをヒアリングし、こちらからもアドバイスしています」

「スタイリストのモチベーションは、お客さまにすぐに察知されてしまう」と藤森氏は言う。モチベーションを高めるために、特にパートタイムの時給制社員に関しては「話を全面的に受け止めよう」「誠実に聞こう」というスタンスでの面談を心掛けた。面談後のアンケートでは、「時給制の我々に対して面談してくれたことがありがたかった」「話を聴いてくれるだけでうれしい」といった声が多く寄せられたという。

「その結果、時給制社員の面談希望者のうち、限定正社員へのキャリアアップに関する相談をしたいという理由で申し込む割合が約2割から約7割まで増加しました。そして、そういった方の背中を押し、アドバイスする機会が増えてきました。人事の言葉として『あなたの強みはこういうことでは』『今度選考試験を受ける時はこういうところに気をつけてみては』などと語ることは、一人ひとりにとっても重みがあることではないかと感じています。また、面談をする中で、育児をしながら勤務している方の考えや意見を吸い上げて、それを元に、さまざまな「フルタイム勤務支援制度」を設計してきました。面接は、予測されるさまざまな課題に対する仮説検証の場であり、非常に有効的に活用できる施策になっています」

講演写真

ディスカッション:施策の効果、エンゲージメントの高め方

ここで事前に寄せられた質問を中心に、小杉氏を交えてのセッションが開かれた。

小杉:エンゲージメントの施策に関して、どのように効果を検証しているのか、という質問がありました。

泉川:当社では毎年、従業員満足度という形でエンゲージメントを測っています。個人の自分の仕事に対するエンゲージメントと、会社に対するエンゲージメントの二つを、多くの指標で測っています。同時に顧客満足度調査も合わせて、この三つをデータとしてまとめて精査しています。

藤森:当社も同じです。具体的には、従業員満足度調査の中に「今よりも質の高いレベルアップした仕事にチャレンジしたい」という、モチベーションの状況を見る設問を入れ込み、経年変化を見ています。

濱中:当社では3年に一度のサーベイの他に、自己申告書という形で毎年「職場の環境はどうですか」「上司、同僚とうまくいっていますか」という質問を投げて、その結果を部署ごとに見ています。そこには「自分がやりたい仕事」や「いまこんな勉強をしている」といった内容が書けるようになっており、直接人事に個人の意向が届く仕組みも設けています。

講演写真

小杉:エンゲージメント施策の費用対効果については、どう考えていますか。

濱中:人材に対する投資なので、ここは削ってはいけません。

藤森:トップが「人材が全てだ」という並々ならぬ信念を持っていますので、コストという意識ではありません。

泉川:コストではなく、インベストメント(投資)であるという考え方ですね。そうでないと将来的には何もリターンが得られません。

小杉:モチベーションの落ちている社員や主体性のない社員のエンゲージメントを高めるには、どうしたらいいでしょうか。

泉川:ダイアログを増やす、コワーカーと向き合って時間を過ごす、ということだと思います。マネジャーとしてしっかり向き合ってサポートをし、チャレンジして答えを一緒に見つけていく姿勢も大事です。

濱中:主体性を持たない人には、できるだけチャレンジに関わってもらう、チームに入ってもらう、ということを行っています。どんどん関わっていくことは非常に大事で、そのきっかけを人事が作るのです。

藤森:当社では販売のあり方を全て明文化しました。すると、今自分がどういったレベルにいるかが分かり、目指すところがはっきりと視認できます。レベルアップのためのOJT例も示し、例えばお客さまとのいい話にまつわる「1分間スピーチ」を朝礼で行い、お互いに学び合いながら緩やかな競争意識を持つなど、好循環が見られています。

小杉:最後に、皆さまにアドバイスをいただけますか。

泉川:今日一番お伝えしたかったのは、自分の「Want To」は何なのか、これを常に考えながら、仕事に、人生に、生きていくことができればいい、ということです。

濱中:年齢が高くなるほど守りに入ってしまうものですから、全社員がチャレンジできる風土を作るためにも、上から率先垂範していくことが大事だと思います。

藤森:いま、社内の百貨にわたるさまざまな「達人」の授業形式で行う朝活・夜活を人事主導で仕組化しています。「すごい人がウチにはいるんだ」と刺激を受け、会社に誇りを感じてもらえるこの取り組みは、どの企業でも可能ではないでしょうか。

小杉:今日のお話を聞いて、会社側が一方的に主導していくのではなく、いかに社員一人ひとりが自律的、主体的に動けるように導くのかが重要だと感じました。三社の話を参考にしながら、皆さまにも積極的に取り組んでいただきたいと思います。

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IBMは、世界175ヵ国以上で情報システムに関わる製品やサービスを提供し、特に「 IBM Watson」に代表されるコグニティブ・ソリューションやクラウド・プラットフ ォームに注力しています。また、人事向けクラウド・ソリューション「IBM Kenexa 」を提供し、お客様の採用や人材管理、従業員エンゲージメント調査などをご支援 します。

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