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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2016-秋-」講演レポート・動画 >  特別講演 [B-1] 人事がシステム活用に成功して成果を出すために、知っておくべきこと

人事がシステム活用に成功して成果を出すために、知っておくべきこと

  • 大島 由起子氏(インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長)
2016.12.21 掲載
インフォテクノスコンサルティング株式会社・株式会社T4C講演写真

2015年末頃から「タレントマネジメントシステムを導入したのに成果が出ない」という人事の声が聞かれている。インフォテクノスコンサルティングの大島由起子氏は、「そこには明確な理由がある。そのことを理解することが必要」と言う。タレントマネジメントシステム導入の失敗要因とは何なのか。人材データを管理・活用するポイントや成功企業に見られる共通点とは、どういうものか。大島氏が解説した。

プロフィール
大島 由起子氏( インフォテクノスコンサルティング株式会社 セールス・マーケティング事業部長)
大島 由起子 プロフィール写真

(おおしま ゆきこ)株式会社リクルート、Hewlett-Packard Australia Ltd.のAsia Pacific Contract Centreを経て、2004年より現職。企業の人材マネジメントにおけるIT活用推進の支援を行う。
著書:『破壊と創造の人事』(楠田祐・共著) ディスカヴァー・トゥエンティワン


成果のイメージを持っていないと、導入は失敗する

インフォテクノスコンサルティング株式会社は、ソフトウェアの開発会社としてスタート。2003年に、人事パッケージソリューション「Rosic(ロシック)人材マネジメントシステム」をリリースした。大島氏はまず人事がシステム活用に成功して成果を出すとはどういうことなのかを明確にすることが重要だと話した。

「人事に求められていることは、短・中・長期のビジネス目標を達成するために人材・組織の側面で支援することです。そして最終的には、ビジネスにどれだけ貢献できるのかが問われます。つまり、自社の課題を発見し、解決策を立案・実行し、マネジメントの質を上げていくためのシステムとはどういうものであるべきなのかを見極めることが重要になります」

講演写真

タレントマネジメントシステムは、日本では2011年頃から市場が動いたと言われが、2015年末頃から、「システム活用に失敗した」という人事担当者の声をよく聞くようになった。

「よく聞く失敗例として五つほど挙げることができます。一つ目は、管理できなかったデータ項目があった。どうにか管理できても、履歴までは管理できなかったというもの。二つ目は、システムが提供するプロセス管理が自社の運用に合わなかったこと。後継者選抜などがよく聞く例です。三つ目は、一歩踏み込んだ分析やレポート出力ができなかったこと。テンプレートはあるものの、経営層に「こんなデータがほしい」と言われたときには対応できないとよく聞きます。四つ目は、従業員サービスレベルにしか活用できず、人事部がプロフェッショナルとして経営に貢献するという効果が得られていないこと。五つ目は、データの連携や入力が困難で、最新の状態にアップデートしきれないこと。データを継続的に入れられずに失敗したという声は思いのほか少なくありません。これらの失敗は、何となく起きてしまっているわけではなく、システムを導入する際に何を押さえておくべきなのかを理解していなかったことに、明確な要因があるのです」

いまだに「体に汗をかく作業」が多い人事業務

講演写真

それでは、システム導入で人事が成果を出すために、押さえておくポイントとは何か。大島氏は「実現すべきことと、システムの相性を知る」「システムが生み出すべき価値を理解し、追求する」「プロセスや正解を示すキーワードに飛びつかない」の三点を上げる。この理解が甘いと使えないシステムになる可能性が大きい。一点目の「システムの相性」とはこういうことだ。まず、システムでサポートしていくべき「タレント・人材マネジメント」とは、「独自性」と「変化」を伴う戦略分野、つまり必ず各社毎に異なる部分があり、時代に合わせて変わっていく分野。一方サポートする側のパッケージシステムは、基本的にベストプラクティスの集合体であり、他社やベンダーの経験や知見の良い部分をまとめた、言わば最大公約数的な世界。

「つまり、人材・タレントマネジメントとパッケージシステムは、基本的には相性が悪い、ということです。もちろん、パッケージシステムで戦略をサポートできないと全否定しているわけではありません。しかし、ユーザーとしては、そもそも相性が悪いということを前提に、どこまで何ができるのかを、冷静に判断する必要がある、ということです。『パッケージシステムで貴社の戦略はすべてカバーできます』と聞いたとしても、冷静に判断してほしい。ここを勘違いしてしまうと、『管理できない項目がある』とか、『パッケージが提供するプロセスが合わない』という失敗に繋がるのです。」

二点目の「システムが生み出すべき価値を理解し、追求する」については、「人事の領域では、『体に汗をかく業務』が多すぎる。CSVにデータを落としてエクセルに変換し、関数やマクロを使って資料を作成している人事担当者が実に多い」と指摘した。

「人事担当者はもちろんのこと、後継者選抜や育成などでは、事業本部長レベルの方がエクセルで地道に資料を作っていたりします。時間当たりの人件費を考えると、大変高い資料です。人事を含め、マネジメントに関わる人は、このように『体に汗をかく作業』ではなく、『頭に汗をかく仕事』に取り組まなくては、真にビジネスに貢献することはできません。そのためにこそシステムを活用すべきですし、それを支援できるシステムを選ぶべきです」

講演写真

大島氏は、システム選びのポイントのヒントして、人材データの一元化の難しさについて語った。実は一元化は考えている以上にハードルが高い。そこには六つの困難があるという。

「一つ目は、個別・非同期に起きる、さまざまな種類の履歴データを管理する必要がある点です。その人がこれまでに何をしてきたか、そのデータを全部見られるようにしたいというのが人事の希望です。二つ目は、期間で管理しなくてはならないデータが複数あること。これはいわゆる滞留、経年と言われるデータです。三つ目は、そうした複雑な履歴情報を基準日できれいに輪切りにできる必要があること。基準日時点の情報をうまく取り出すことができずに苦労した人事の方は少なくないのではないでしょうか。四つ目は、扱いたいデータの種類の幅が広く、また将来に向けて変化があること。五つ目は、システム間連携が求められること。これは通常のパッケージは苦手な作業です。六つ目は、きめ細かなセキュリティが求められる点です」

また、今流行しているSaaSは、その性質をよく理解する必要があると指摘する。

「使用料を支払って活用できるSaaSは魅力的な選択肢の一つです。ただ、資産ではないということは自分たちのものではないということですから、それなりの制限事項があると考えた方がいいでしょう。その点の確認が甘く、思ったようには使いきれていないというケースがあることは知っておいてください」

それでは人事が頭に汗をかく作業ができるようになるには、どんなシステムが必要か。

「これまで行ってきたことを改善する、新しい挑戦をするといったときには、必要なデータを『抽出』し、それらを『比較』『分析』し、『シミュレーション』を行うといった思考活動をするはずです。こうした活動を行う際に、できるだけExcelなどを介した手作業を排して、自分たちが思う形に対応することができるシステムが必要とされています」

「HR Tech」「人事のAI」の流行は、人事が働き方を見直すサイン

三点目の「プロセスや正解を示すキーワードに飛びつかない」については、それまでのまとめとして、「『タレントマネジメントシステム』という言葉に惑わされないで、人事が成果を出せるシステムを選ぶという考え方をしてほしい」ということに加えて、「HR Tech」「人事のAI」といったキーワードにも言及した。

「こうした言葉が出てきたということは、人事が働き方を見直すべき時期が来たというサインです。人事にはデータ集めや資料作りに時間を費やすのではなく、戦略的な活動を通じて価値を生み出すことが明確に求められてきているということ。この流れをうまく活用すれば、人事のシステムへの投資に理解が深まる可能性が高い。その点はチャンスと捉えてほしい」

講演写真

ただ、人事の世界には「正解」はない。現段階でシステムやAIができることは、「正解」に近づくための提案であろう。それを無批判に受け入れて、人事が何もしなくてもいい成果が出せるようになるわけではない、と指摘する。

「データに基づいた精緻な提案が出てくるからこそ、自社の人材をしっかり把握して、実効性のある対策を立てられるか否かが厳しく問われることになるでしょう。自社の人材データの一元化と可視化の実現が、ますます急務になっていくのではないでしょうか」

人事が、確実に経営に貢献する「染み込むような結果」を出せるか

大島氏は、タレントマネジメントシステムの導入に成功している企業事例について話をした。システムを有効に活用している企業では、導入して4年間、役員たちもシステムを普通に使いこなし、海外のデータも投入しながら、さまざまな仮説検証を行い続けているという。

「4年目にして『自社に本当に必要なデータがようやく見えてきました』とおっしゃっています。それほどに、真の成果を上げていくことは地味で地道な挑戦です」

ここで大島氏は、自身の経験から感じた導入に成功する企業の四つの共通点について語った。

「一つ目は、経営が求める人事課題を解決することをタスクとして明確に意識し、それに向けて行動していることです。他社がやっているからやるのではなく、『自社には○○の課題があるから』『課題を明確にしないと正しい方向に向かえないから』といった思いからスタートしています。二つ目は、省力化すべき作業と、頭に汗をかくべき作業の区分けができている。付加価値を生み出さない人的作業はできるだけシステム化し、仮説検証が必要、自社の独自性が大事な部分については、システムに過剰に頼らず、ある程度工数をかけることをいとわない姿勢を持っています。三つ目は、現在ある情報を整理し、それを最大限に活用していること。人事には思っている以上にさまざまな情報があります。単に活用できるように一元化されていないだけであり、成功している企業は今あるデータは何かと調べ、それを地道に一元化しています。四つ目は、仮説を立て、実際に動いて、自社にとっての正解に近づく作業を繰り返し行っていること。自社にとってのベストプラクティスを探すという軸をぶらさず、地道に活動を続けています」

最後に大島氏はユーザー事例を紹介した後、次の言葉で講演を締めくくった。

「人材・タレントマネジメントのシステム化で一瞬にして成功が得られるということはありません。成功している企業は、確実に経営に貢献させるのだという『染み込むような結果』を目指して努力しています。この地道さこそが近道となります」

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本講演企業

人事の分野でもシステムを活用して欲しいという思いから、Rosic人材マネジメントシステムシリーズの開発・導入支援を行っています。 日本企業の「人材・タレントマネジメント」をITで支援するためにはどのようなシステムが必要なのか。日々お客様の声を聞きながら、「人材マネジメントに関わる全ての人が経営戦略の実現に貢献すること」を目指し、システムを成長させています。

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