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特別講演[D-2]

マーケティング研修は新時代へ!
博報堂が知見を盛り込み開発した新しい方法論とは?

楠本和矢氏 photo
株式会社博報堂コンサルティング 執行役員 ビジネス開発部部長
楠本和矢氏(くすもと・かずや)
プロフィール:神戸大学経営学部卒。丸紅株式会社で、新規事業開発・育成業務を担当。外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。これまでコンサルティングプロジェクトの統括役として、クライアント企業に深くコミットするアプローチのもと、多岐にわたるプロジェクトを担当。現在は執行役員として、博報堂グループを横断した新規事業開発の運営、及び外部企業とのパートナーアライアンス業務に携わる。

高橋興史氏 photo
カレイドソリューションズ株式会社 代表取締役開発者 / Ludix Lab フェロー
高橋興史氏(たかはし・こうじ)
プロフィール:上場企業や研修会社を経て、「ビジネスゲームで研修内製化」を特徴とするカレイドソリューションズを創業。外注と内製の中間的位置づけや、ゲームを活用するサービスのユニークさは業界やメディアでも注目されている。ゲームやケーススタディ、教材の開発実績多数。大学での講演や研究でも精力的に活動。

昨今、特定部門のみならず全社的なテーマとして重要度が増している「マーケティング」。それを会得するための「座学型」「知識会得型」のマーケティング研修はいろいろとあるが、マーケティング視点で「戦略的に考える経験」を積むための研修は実は少ない。その最も重要な部分に着目し、参加者にその経験を効率よく積んでもらうための、ゲーム型マーケティング研修 "Marketing Jam"を、カレイドソリューションズと博報堂コンサルティングが共同開発し、2014年11月にリリースした。この新たな方法論を、博報堂コンサルティングの楠本和矢氏と、カレイドソリューションズの高橋興史氏が語った。

【本講演企業】
カレイドソリューションズ株式会社は講師派遣を主業務とする研修会社ではありません。貴社講師の“内製研修”を支援する“研修内製化支援”の専業会社です。研修内製化の支援を通じて、年次・業績・地域・業態による研修格差をなくすことを目指し、日々コンテンツを拡充しています。

ゲーム研修開発には、専門領域の熟達者と、ゲーム及び研修の専門家が必要

最初に登壇したのは、カレイドソリューションズの高橋氏。同社はビジネスゲームを活用して研修内製化を支援している。高橋氏は、ビジネスゲームの開発を解説した。その開発はどのように行われているのだろうか。

高橋氏 Photo「工程は、システム開発とほぼ同じです。まず何をつくりたいか要件定義を行い、プロトタイプをつくってテストし、バグを修正する作業を何度も繰り返します。最後に、研修として成立するか全体テストを行って、最後にデザインを作成します」

ビジネスゲームは、最もコストのかかる研修技法。技術面、開発環境、プレイヤー確保の困難さ、コストの高さから、効果が実証されながらも、開発できる事業者が極めて少ない。

ゲーム研修の開発で、最も重要なのは人材だ。開発には熟達者の専門的な知見と、研修開発者の知見が必要。研修開発者には、インストラクショナルデザイン、ワークショップデザイン、ゲーミフィケーションが必要で、今回は、マーケティング領域の熟達者の楠本氏と、研修とゲーム開発の実績が豊富な高橋氏の両者が組んだことで開発をなし得たという。

ゲーミフィケーションは、今後人材育成の必須スキルとなる

研修におけるゲーミフィケーションは、ゲームの知見を教育活動に組み込み、モチベーション高めるものだ。ゲーミフィケーションが研修開発に必要というと意外に思うかもしれない。ビジネススクールIMD教授である、シュロモ・ベンハー氏の書籍『企業内学習入門』には、『研究によって高い効果が実証され、学習のプロフェッショナルにとって、必須のスキルになる可能性が高いのがゲーミフィケーションである』と書かれている。高橋氏は「ゲーミフィケーションは、今後、人材育成の必須スキルとなるでしょう」と語る。

的確な意思決定に必要となる「マーケティング的アプローチ」

次に博報堂コンサルティングの楠本氏が登壇。マーケティング・コンサルティングの現場でよく聞かれることを語った。

楠本氏 Photo「企業との関わりの中で、三つの組織課題をよく伺います。一つ目は、組織の壁が『思考の壁』につながっていること。新しい取り組みを始める際には、各部門が連携して進める場面が多く発生しますが、個々の組織や個人が全体最適ではなく、部分最適しか考えず、結果として成果が生まれないケースを多く目にします。二つ目は、外の世界を知らないことが多いこと。大手企業のマーケッターの方でも、競合の商品や取り組みをキャッチしていない印象をよく受けます。三つ目は、PDCAが実践されていないこと。概念は知っており、その必要性は認識しているものの、やりっぱなしなのがほとんどです。これを解決する方法があればよいと考え、この研修の開発に至りました」

では、マーケティングとは何か。同社では次のように定義している。「マーケティングとは、市場や競合、顧客、自社リソースなど、提供物に関わるさまざまな要素を、現在・過去・未来の視点で加味し、ステークホルダーに価値を創出し続けるための、戦略策定、戦術実行、及び検証・精緻化まで含めた一連の活動のことを指す」。また、楠本氏は、米国の経営学者コトラー氏の「マーケティングとは経営そのものである」という言葉を挙げ、その考え方が共通していることも説明した。

その上で楠本氏は、研修テーマとしてのマーケティングの位置付けを、「個々が部分最適に陥らず、常に全体最適を意識し、的確な意思決定ができる人材が求められている今般、「マーケティング」的なアプローチは、全部門必須の研修テーマの一つと言えます」と語った。

では、数多いマーケティング研修の中で、この研修の位置づけは、どのようなものか。「マーケティング研修と聞くと、3C分析や、マーケティングの4P、SWOT分析などのフレームワークを理解することと考えがちです。それも間違いではありませんが、決してそれだけではありません」

マーケティング研修を、「知識会得型とスキル向上型」「戦略寄りと戦術寄り」の二軸で分類すると、知識会得型で戦略寄りの位置に「マーケティングの基本知識・用語を学ぶ」ものが位置づけられる。しかし、楠本氏は、全社的に必要なものは、マーケティング視点で「戦略的に考える経験」を積むこととし、知識会得型の従来型の研修との位置付けの違いを説明した。「この部分をカバーする研修は、重要であるにもかかわらず、これまでは手薄でした」。これも、同社が「ゲーム型」マーケティング研修を開発した一つのきっかけになったと語った。

業務なら半年~1年かかることが、一日で学べる

次に楠本氏は、本研修の開発で重視した点を三つ挙げた。まず、マーケティング視点で考える経験を積める研修であること。全体像を把握した上で、意思決定の勘所をつかむ。次に、「効率よく」経験を積める仕組みであること。最後に、幅広く興味をもってもらえること。多くの方がやりたいと思えるものを目指した。以上から、必然的に「ビジネスゲーム」の採用に至った。

その結果、完成したのが、ゲーム型マーケティング研修"Marketing Jam"だ。参加者がある企業のマーケティングスタッフとなり、市場の動きや競合の動きをにらみつつ、所定の予算内で売上の最大化に向けた商品開発、広告宣伝などを行い、競合と戦う。想定される対象者は、ミドルマネジャー、中間管理職、若手の次世代リーダー層、マーケティング関連部門スタッフなどだ。

セッションの様子 Photo本研修は、ゲームバランスを調整し、現実のマーケティング活動の感覚にできるだけ近づけた。最初に市場動向や競合の動き、諸条件を加味し、自チームが勝つためのシナリオを検討。次に、戦略通りの勝ち方を実現する具体的な打ち手を決定。そして、競合のいる市場で自チームの打ち手を携え、競合と戦い、勝敗に見合った成果を獲得。その結果から策定した戦略、打ち手の有効性を検証し、戦略を修正する。

楠本氏はここで、ゲームの効果の高さを語った。「この一連の流れを、業務で経験しようとすると、戦略の策定から、結果が出て、PDCAを回すまでに、長い時間が必要です。しかし、ゲームなら一日で最大7周もの経験が積めます。最初はなかなか慣れないチームもあるのですが、3、4周目からは『競合はこう見ればいい』『市場はこう評価すればいい』と勝ち筋が見え、経験を積んでいると実感できます」

この研修で参加者が学べる点は、「戦略を策定することの重要性」「短期視点と中長期視点の重要性」「効果検証→改善サイクルの重要性」「的確かつスピーディーな合意形成の方法」「他者のマーケティングの考え方」「自分に足りなかった発想や視点」。中でも、他者のマーケティングの考え方を学べる点は、ゲームのよさだと楠本氏は語る。

「座学では他の人が何を考えているかわかりませんが、ゲームでは普段の仲間が『こんな考えをしていたのか』と気づくことができ、他チームがまったく違う勝ち方をすると、『そんな勝ち方があったのか』と新たな気づきも生まれます」

この研修と座学の違いをまとめると、以下の三点に集約される。一つ目は、マーケティングコンサルタントが開発した、リアルな内容であること。二つ目は、単なる座学研修では得られない「深い思考」と「熱狂」があること。三つ目は、組織としてのマーケティングスキルに関する課題を導き出せることだ。

「研修は大変盛り上がりますが、勝敗があるので悔しい思いもします。この“気持ちが動く”のが座学研修と異なる点です。私もゲームでコテンパンに負け、悔しい思いをしたことがあります。でもその悔しさと反省が、学びとセットになると、後々まで影響するような”粘りのある”学びにつながります。」

「深い思考」と「熱狂」そして「ナラティブな体験」が
参加者の幸福・楽しさ・学びを促す

高橋氏が再度登壇。ゲーム研修の効果とその測定を解説した。楠本氏の話を踏まえ、ゲーム研修が「深い思考」と「熱狂」を生む理由を解説した。「Learning by doingという言葉を残したデューイは、体験=経験ではなく、体験し反省することで初めて経験になるとしています。効果検証と改善のサイクルを回すことは経験そのもの。体験を経験にする中で深い思考に至るのです」

一般の研修とゲーム研修は設計思想が違う

もう一点、なぜ「熱狂」するのか。それは一般の研修とゲーム研修での設計思想の違いがある。「ゲームは、ポジティブ心理学の知見を応用し、参加者の満足など、いかに前向きな気持ちを引き出すかを考えて作ります。みなさんは、研修を作ったり、登壇したりする際に、参加者がいかに楽しむかを考えているでしょうか。この設計思想の違いがアウトプットにも違いを生みます。例えば、フロー理論では、集中度が高まるには、課題にも適度な難しさが必要だと言われます。ゲーム研修はグループフローの条件をほぼ満たし、それが熱狂を生んでいます。また、ゲームでは全員が勝者にはなれません。負ければ悔しさが残り、もっと勉強したくなる。また、ゲーム研修は、講師が決めたストーリー通りに進まず、自分が主人公になる『ナラティブ』な研修です。そこでした経験を他者に話したいという欲求も生まれ、職場に学びが波及する効果も狙えます」

ゲーム研修の効果は測定できる

最後に高橋氏は、ゲーム研修の二つの効果と効果測定を語った。一つ目は、熟達者の思考の追体験を通じた認知的学習ができること。研修により熟達者の思考がアタマに入り、同じように問題を捉えられるようになる。二つ目は、悔しいから勉強する意欲につながり、後続学習が期待できること。また、本研修の実施結果を、動的内容を測定するのに向く方法で効果測定し、その要点を説明し、効果測定しにくいと思われがちなゲーム研修の効果測定ができると語った。

ゲームを使った研修形式の可能性が熱く語られた今回の講演。「本日の講演を体験から経験に変えるために振り返りをしましょう」と行ったアウトプットを見ると、参加された方たちにとって、「熟達者の10年は貴重な資源、その思考を追体験できるゲームは有効だ」「楽しませる視点で研修を考えたことはなかった」「研修に足らないのは熱狂だ」など、新たな問題意識も芽生えたようだ。

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