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特別講演[D-5]

人を大切にする経営の実現へ
~中高年社員の活躍促進にむけた取り組み~

矢田真士氏 photo
トヨタファイナンス株式会社 人事部長
矢田 真士氏(やだ・まさし)
プロフィール:大手銀行を経て、2003年トヨタファイナンスに入社。総合企画部にて中期経営計画策定などに従事後、2008年より総務人事部にて人事制度改革、企業風土変革を推進。2013年より現職。

片岡裕司氏 photo
株式会社ジェイフィール コンサルタント
片岡 裕司氏(かたおか・ゆうじ)
プロフィール:アサヒビール株式会社を経て、ジェイフィールに設立から参画。組織開発やミドルマネジャー研修など数多くのプロジェクトを担当。多摩大学大学院博士課程前期修了(MBA)一般社団法人知識リーダーシップ綜合研究所 ディレクターを兼務。

多くの企業で社員のボリュームゾーンであるバブル入社世代が、中高年代になりつつある。2013年に65歳定年制も導入され、企業における中高年層の活性化、活躍促進は喫緊の課題となっている。今回の講演では、人と組織の変革を支援する株式会社ジェイフィールの片岡裕司氏と、トヨタファイナンス株式会社人事部長として社内の活性化に取り組む、矢田真士氏が登場。中高年層の意識改革における具体的な取り組みについて語った。

【本講演企業】
ジェイフィールは、人と人との「つながり」を再生し、良い感情の連鎖を起こすことで、人と組織の変革を支援していく教育研修・コンサルティング企業です。 自分が支えられている、必要とされているという実感が持てるからこそ、周囲のために顧客のために最高の仕事をすることができる。それが、組織の活力を生み、人と組織がともに成長する好循環を生み出す。そんな組織づくり、人づくりの応援をしたい、と考えています。 ミドルマネジャーが内省と対話を繰り返すことで行動変容を起こしていく、リフレクション・ ラウンドテーブル(2012年「HRアワード」最優秀賞受賞プログラム)や、サザンオールスターズらが所属するアミューズグループの企業という強みを活かし、映像や音楽といったツールを活用して大きなマインドチェンジを促すことを強みとしています。
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今、元気のない「中高年」に火をつけられるか

片岡裕司氏 講演photo組織・人事コンサルティング・研修事業を展開するジェイフィール。エンターテインメント企業、アミューズのグループ会社であり、人の心を動かすエンターテインメントのノウハウも活用し、「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好きだ」と本気で思える組織づくりを行っている。冒頭、片岡氏は次のような問題提起をした。「世の中ではバブル入社世代が中高年になりつつあり、多くの企業から中高年世代の活性化について相談をいただいています。しかし多くの企業が対症療法でこの問題に、まさに対症しています。しかし、今必要なのは本質的な問題解決です。本質的な問題解決とは、年齢に関係なくキャリアをイキイキと歩める会社に変わる必要があるということです。そのために中高年本人とそのマネジャーが本気になる必要があります。また中高年も含め、すべての社員が自分事でお互いの活躍を促進する関係性に生まれ変わる必要があります。まさに全社で取組むべき課題であって、決して不活性な中高年本人を責めても何の問題解決にもなりません。今日はこの問題に本気で取組んでいるトヨタファイナンスの事例から問題解決の鍵に迫りたいと思います」

ジェイフィールでは約4年間、トヨタファイナンスの風土変革に、同社の人事とともに取り組んでいる。ちなみにトヨタファイナンスは1988年の設立で、自動車販売金融事業、クレジットカード事業、コーポレート事業、住宅ローン事業を展開。従業員は2137名で平均年齢は全体38.1歳、男性41.7歳、女性33.2歳だ。2009年より「人を大切にする経営」を推し進め、中高年の活躍促進に取り組んでいる。

「人を大切にする」のスローガンに社内から反発の声

ここでトヨタファイナンス株式会社の人事部長、矢田氏が登壇。最初に、中高年活躍促進ワークショップ後の彼らの上司の部長陣のコメント映像が流された。
「たった2日間であれほどマインドが変わるとは思いませんでした」
「会合でも発言が増え、積極的に発言するようになりました」
「自分も中高年になるわけで、そのときにどうありたいかを考えました。自分のスタンスを明確にすることが大事だと気付かされました」

矢田真士氏 講演photo「4年前、企業文化変革に取り組み始めたころの部長たちはまったく逆。『中高年は研修しても変わらないのではないか』と消極的でした」と矢田氏は言う。トヨタファイナンスでは、2009年9月に人材マネジメントについて、新たな社内「憲法」を定めた。「人を大切にする」を人材マネジメントの基本方針とし、それを支える三つの柱が「フェアネスを貫く」「多様性を認め合う」「人を育てる」だ。

「私たちは設立25年目の若い会社です。まだまだ成長しなければなりません。しかし、社内を見渡すと人材が育っていないことに気付きました。このままでは、会社の将来を支える人材がいない。そこで企業文化の変革に着手しました。私達が考える「人を大切にする」と言う事は『社員一人ひとりの資質を最大限に活かす』こと。社員は『自分の活かし方を考え、自ら行動を起こす』。そしてマネジメント側は『メンバーをどう活かすかを考え実践する』。こういう会社にしようと言っています」

ただし、これらの言葉には社内で反発の声もあったという。これまで業務で結果を出す事を目標にしてきたマネジャーにすれば、緩い考え方と思えたからだ。「人を大切にするとは、人にやさしくすることではありません。メンバーは待つのではなく自ら行動し、上司はメンバーを活かすことを考える。人事はこのことを4年前から言い続けてきました」

社員構成が不変なら自身で「マインド」を変えるしかない

早速、2010年にマネジメント層の徹底強化が行われる。役員が最初に変わるべきと「役員オフサイトミーティング」を開催。ここで重視されたのは「対話」だった。「立場や役割を取っ払い、半日から1泊2日で徹底して話し合いました。計10回開催しています」。最初は戸惑った役員も徐々に変化。10回という回数にその本気度も伝わり、最後は自分たちも何か行動を起こそうと約束して終わった。そして、対話によるミーティングは職場にも下ろされ、繰り返し行われた。

企業文化変革のために、2010年には部長層、課長層を対象にマネジメントの徹底強化、2011年には役割が大きく変わった地域総合職への支援、2012年には一般職の貢献マインドの醸成に取り組んだ。そしていよいよ2013年、難しいといわれた中高年層に着手した。トヨタファイナンスの中高年層には基幹職としてマネジメントを行うL職、マネジメントは行わないスペシャリストのS職がある。「4年前にS職の制度改定を行いました。能力を発揮し、より高い成果を創出していくことで最上位資格を目指せる道をつくったのです。もちろん、SからLになることも可能。SとLでは行き来も活発にあります」

中高年層の変革を行ったことには切迫した理由がある。現在はSとLの割合がほぼ半々だが、2022年の予測ではLが30%、Sが70%となるからだ。「社員構成は変えられるものではありません。その中で活躍してもらうには、自身でマインドや価値観を変えてもらわないと始まらない。そこで徹底して自分に向き合ってもらうことを行っていくことになりました」

事前に部長へS職の活性化について話を聞くと、「今さら言っても変わらない」「これ以上の成長はない」といった言葉ばかり。マネジメントから逃避している事実もわかった。そして、S職社員側にも「課長や部長にならなければ評価されない」という過去の価値観が根強くあることがわかった。双方の価値観を変えることが、矢田氏を始めとする人事の仕事となる。

自分の「壁」にたどり着くまで、何度も何度も話し合う

ジェイフィールも参加し、S職の活躍促進に向けた取り組みを始めた同社。主な取り組みは「部長・課長・中高年社員による三者面談」と「パワーアップWS(二日間)」、そして「職場でのパワーアップ面談」だ。ただ、当のS職社員たちはこれらの取り組みを懐疑的にみていた。WSではきちんと説明していながらも「これは黄昏研修か」「私たちは排除されたのではないか」と嫌々参加した人が少なからずいた。

「私たちはWSで『自分を律し、さらに成長する意思を持とう!』と働きかけました。『まだまだ成長できる。あきらめないで』と。年齢が上がるほど問題解決能力は高まるといった科学的データも紹介したのです。自分らしさと持ち味を最大限に活かして、組織における大きな課題の解決につながる仕事を担ってほしいと訴えました」

もう一つのカギはマネジャーだ。ここでも意識変革を迫る。まさに根くらべだった。「『本気で成長させる意思を持ってください』と言い続けました。難しいとは思うがやってくれと。これはもう強い信念に基づいたチャレンジでした」

講演の様子パワーアップWSでは、マネジャーとS職との徹底した対話、また、内発的動機を尊重するためにフィードバックシートが活用された。マネジャーは期待することを、S職社員は期待されていると思っていることを書き出し、それをWSや職場の面談の場で付き合わせる。その期待のギャップを明確にし、S職社員の前に立ちはだかる「壁」(=自分の本当の課題)を浮き立たせていった。

「内面を掘り下げることは正直辛い作業ですが、やってもらいました。なかなか壁にたどり着こうとしない人もたくさんいましたが、それでもたどり着くまで何度も何度も繰り返し行うようにマネジャーに依頼しました。結果、『初めて上司とこんなに話せた』『言えなかったことが吐き出せた』との感想も聞かれるなど、マインドが変わった社員がたくさん生まれました」

例えば、あるマネジャーとS職社員のケースでは、複数回の面談、計20時間近くの話し合いを行った。当人は「頑張っているのに認めてもらえない」と感じ、マネジャーは「もっと視点を引き上げ、仕組みづくりなど職場に貢献してほしい」と思っていた。当初なかなか話し合いに臨もうとしなかったが、徐々に利己的な視点から利他的な視点に転換。考え方が大きく変わっていった。

「自分に向き合う中高年」と「本気で活かしたい上司」の両輪が成功を生む

トヨタファイナンスの中高年層の変革の姿は、統計データでも明らかになった。高いマインドのS職の割合は、2012年10月・35%→2013年9月・50%と増加。マネジメント層の行動(対話、環境整備、育成)も変化し、壁に到達できたS職の割合は、WS直後・10~20%→2013年9月・60%と過半数を超えた。

「SからLに戻った人もいます。4年間でマネジャーは半分以上が代わりました。マネジャーには、こうした価値観の共有を徹底して求めています。この活動以降は社内で助け合いや互いの良さを認め合う動きが見られています。正のスパイラルに入った職場も増加。今後は、成功事例の見える化や評価への転換、制度や仕組みの改定に取り組みたいと考えています」

最後にジェイフィールの片岡氏が、トヨタファイナンスの変革成功のポイントを語った。「カギは二つ。一つ目はマネジメントの課題に着目し、本気でマネジャーの考えを変えにいったこと。二つ目は、中高年社員の内発的動機と本質的な自分の課題を見つけるため、深い部分まで徹底して話し合ったことです。本当に厳しく自分に向き合おうとする中高年と、それを本気で活かそうとするマネジャー。そして、徹底的に現場に入り込み問題解決をサポートする人事。この三つがうまくかみ合ったことが成功につながりました。皆さまも今回のケースを自社に当てはめ、中高年の変革について考えていただければと思います」

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