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パネルセッション[A]

「産官学」それぞれの視点から考える、
新卒採用に関する課題と展望

坂本 里和氏 photo
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長 「ダイバーシティ経営企業100選」
「なでしこ銘柄」担当
坂本 里和氏(さかもと・りわ)
プロフィール:東京生まれ。1995年東京大学法学部卒業。98年から2年間、米国の法科大学院へ留学。2011年より現職。成長戦略としてのダイバーシティ経営を推進するため、女性を始め多様な人材の活躍を支援する企業を後押ししている。「ダイバーシティ経営戦略」(経済産業調査会、2013年)、「ダイバーシティ経営戦略2」(同、2014年)を刊行、「ホワイト企業」(文藝春秋、2013年)を監修。私生活では4女の母。

服部 泰宏氏 photo
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
服部 泰宏氏(はっとり・やすひろ)
プロフィール:1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、同准教授を経て、現在、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授。日本企業における組織と個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契 約)、経営学的な知識の普及の研究、シニア人材のマネジメント等、多数の研究活動に従事。主著に『日本企業の心理的契約: 組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)があり、同書は第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は,人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」に従事、同プロジェクトのリーダーを務める。

岡崎 仁美氏 photo
株式会社リクルートキャリア 就職みらい研究所所長
岡崎 仁美氏(おかざき・ひとみ)
プロフィール:1993年株式会社リクルートに新卒入社。以来一貫して人材関連事業に従事。営業担当として中堅・中小企業を中心に約2000社の人材採用・育成 に携わった後、転職情報誌『B-ing関東版』編集企画マネージャー、同誌副編集長、転職サイト『リクナビNEXT』編集長を経て、2007年より『リク ナビ』編集長。2013年3月、「働く」の第一歩である就職の“今”と“未来”を掴み、よりよい就職・採用の在り方を模索する『就職みらい研究所』を設立、所長に就任。

2016年卒の採用スケジュールは政府主導で、広報開始は3ヵ月後ろ倒しで3月へ、選考開始は4ヵ月後ろ倒しで8月へと変更される。そのため再び、企業の採用活動のあり方について注目が集まっている。また、つい表面的な変化に目がいきがちだが、新卒採用には、根本的にさまざまな課題があるとも言われる。果たして、企業はこれからの新卒採用活動を、どのように行っていけばいいのか。「産官学」という異なる立場の識者が、それぞれの視点から新卒採用について語った。

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服部泰宏氏によるプレゼンテーション:
「新卒採用を考える ~課題・ロジック・エビデンス~」

服部泰宏氏 Photo 服部氏は、新卒採用には膨大な課題・ロジック・エビデンスが存在すると語る。その中の課題として、日本における採用課題を三つ上げた。「一つ目は、曖昧にされる『期待』。お互いの期待というのは必ずしも明確になりません。二つ目は、曖昧で画一的な『能力』評価。企業はいろいろな条件を提示しますが、それが結果的に似通ってしまい均質化している。そこにややこしい動きとして入り込んでくるのが、三つ目の課題である活動の過熱化です。企業は採用活動で、学生に対して曖昧でポジティブな情報を打ち出します。それを受けて学生には、なんとなく入りやすいイメージがつくり出されてしまっている。そうすると、どうしても大量の母集団ができてしまうのです」

能力が曖昧化して画一化すると、過熱化をもたらす。ある会社が欲しいという人は、当然、他の会社でもほしくなるからだ。つまり、一部の優秀な人材に対して、多くの企業で採用合戦が起きているということだ。

「それに加えてややこしいのは、活動の過熱化が、『期待』や『能力』評価の課題を増幅させてしまっている点です。つまり、活動が過熱化して、人材のWar for Talent(人材育成競争)が加速化してくると、もっといい人材を集めなければいけない、となってしまう。そして、あまりに優等生な人材が集まると、本当に信用していいのかなと学生を疑い、別の評価基準を持ち出してきて、さらに基準が曖昧化してしまう。そんなメカニズムがあるのではないかと思います」

そして、企業には一つの仮説があると言われている。「大規模母集団は望ましい」という仮説だ。応募者が多ければ、優秀な人がその中にいる確率も高いのではないかと考え、これが人事の安心材料になる。それが採用の過熱化へとつながっていく。

パネルセッションの様子 「この手法では、募集開始時期には母集団形成のための膨大なコストがかかります。それをES、履歴書、能力検査で採用予定数の2~15倍に絞り込みますが、そこにまた膨大なエ ネルギーと時間がかかる。面接が始まると“候補者×15~40分×2~5回の面接”を行いますが、ここでも多大なエネルギーと時間がかかります。このように日本企業が行う採用活動は、決して効率的なものばかりではありません。そこで私は科学にもとづき、企業に『採用力』を取り戻すお手伝いをしていきたいと考えています」

坂本里和氏によるプレゼンテーション:
成長戦略としてのダイバーシティ経営

日本経済にとって最大の制約要因は、人口問題と言われる。そんな中で、女性の活躍推進は成長戦略の中核と位置づけられ、海外からもその動きが注目されている。平成25年4月には、安倍総理から経済界への要請が行われた。「要請の一点目は、意思決定層への女性の登用促進です。2020年30%の政府目標の達成に向けて、全上場企業において積極的に役員・管理職に女性を登用。まずは役員に一人は女性を登用することを推進しています。また、二点目は女性が働き続けられる社会の構築(M字カーブ解消)です。子どもが3歳になるまで、育児休業や短時間勤務を取得したい男女が取得しやすいよう、職場環境の整備を要請しました」

そもそも、ダイバーシティ経営のメリットとは何だろうか。一つは多様な市場ニーズへの対応。もう一つは意思決定層に多様な視点を入れることで、リスクや変化に対して強い組織になること。市場が厳しくなると多様性のある集団のほうが強くなる。一方、現状において課題とされるのは、女性就労で量・質両面での問題だ。「量では、仕事と家庭の両立が困難で出産を機に約6割が離職しています。質では、マミーズトラックの問題などで、働き続けていてもキャリアアップにつながらないなどの問題があります」

坂本里和氏 Photoこのような現状に対し、経済産業省では、企業や女性たちに対してさまざまな広報活動、情報提供を行っている。平成24年度から「ダイバーシティ経営企業100選」という表彰制度を開始。これは、さまざまな人を雇用しているというだけでなく、人材活用の取り組みが現場レベルで実践されている実践性、従来とは異なる取り組みを行うなどの革新性・先進性を評価。また、経営トップの明確な意思が表明され、現場に浸透しているといったリーダーシップも評価ポイントとなっている。優れた企業は表彰され、ベストプラクティス集として広く広報される。

「他では、平成24年度から経済産業省と東証の共同プロジェクトとして、『なでしこ銘柄』にも取り組んでいます。女性活躍躍進に優れた上場企業を『中長期の企業価値向上』を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介するものです。また、女子大学生・高校生向けのキャリア教育イベントなどに参加し、直接、こうしたダイバーシティ企業についての広報も行っています」

最近では、就活サイトやOB・OG訪問を補完するものとして公開情報・データを活用し、就活リテラシーを高めることが大事、ということを呼びかけているという。「優秀な人材がダイバーシティ企業に集まることで、ダイバーシティ企業の業績が上がり、ダイバーシティに取り組む企業が増えるといった、好循環の創出を図っていきたいと考えています」

岡崎仁美氏によるプレゼンテーション:
「2015年卒採用 中間総括と2016年卒採用の展望」

岡崎氏はまず、2015年卒採用の動向について解説した。「12月広報解禁、4月選考解禁となって3年目。景気回復の実感もあって、昨年の秋口から採用活動の激化が予想されていました。採用意欲動向指数を見ると、15年卒大学生はここ6年で最大。また、採用活動が激化したことで、ルールが変わっていないながらも、面接選考や内定・内々定出しの開始時期は、15年卒で約2割の企業がさらにスピードアップする意向です。春に発表された大学生の求人倍率は1.61と、氷河期を脱したとされた2006年卒並みとなりました」

2015年卒の内定率は、前年よりもさらに高めに推移。昨年は就職希望者の半数が7月までに就職活動を終了したが、15年卒ではもっと早く終える人が増えると予想されている。

次は、注目の2016年卒採用の展望だ。スケジュール変更のポイントとしては、広報活動は3ヵ月後ろ倒しで3月へ。選考活動は4ヵ月後ろ倒しで8月となる。ここで一番の注目ポイントは選考解禁から内定解禁までの期間がたった2ヵ月となったことだ。これは学生にとっては、社会人として活躍するための準備期間が長くなったということでもある。

岡崎仁美氏 Photo「13年卒の変更では、採用の量・質低下が懸念されましたが、前年同水準の結果となりました。ただ、プロセスに変化があり、説明会・セミナーの回数は増やされ、それにより採用の量と質を担保した形です」

2016年卒のスケジュール変更は政府主導でありながらも、法律というわけではなく、結局、皆がそれに従うか従わないのかという点に高い関心がある。ここで、岡崎氏は2016年卒採用への企業アンケートについて解説した。

「実際に内定出しのスケジュールを変えますかという質問では、『変えない』という回答が22.2%。それで全体がどう動くかをシミュレートしてみました。15年卒のスケジュール(予定)では4月に内々定出しを開始するピークが来ています。16年卒では全体の約40%のピークが8月になると思われます。ごく小さな山が4月にありますが、ここは全体の5%程度。また、現状で8月以降に開始すると答える企業も、この環境を踏まえ、8月に前倒しをする可能性はあると思います」

また、これは内定出し終了時期見込みのデータだが、10月に内定出しを終える企業が6割程度にとどまる可能性がある。「これは自社の思い通りに採用活動が進まない場合ですが、全体効率が高まらなければ、大学卒業までに間に合わないという企業も10%程度出るのではないかと予測されています」

ディスカッション:
「万能細胞のような人材」を求めがちな企業に対峙する学生たち

岡崎:16年卒から新たなスケジュールとなりますが、そこでどんな影響が出るか。またどんな工夫をすべきかについて、ご意見をお聞かせください。

服部:二つの動きがあるのではないかと思います。一つ目は、優秀層へのアンダーグラウンドな形での採用です。ナビを介さない採用が加速すると思います。二つ目は、一般層に対して、期待や能力といったフィーリングに寄ったマッチングが見られるのではないかということ。通常は互いが事前にマッチングさせておくべきところではないところで、お互いが評価し合う。具体的なコミュニケーションがなされないままに、採用が進行してしまうことがあるのではないかと思います。

坂本:採用期間が短縮されたときに、影響力を増すのではないかと思うのは、企業のブランド戦略です。最近は「ダイバーシティ」について特に社会的な機運が盛り上がり、メディアでの扱いも大きくなっています。「ダイバーシティを推進している会社」として認知度が高まれば、学生を募集する上でも有利に働くのではないでしょうか。もう一つは、キャリア教育セミナー。企業がそこにロールモデルを派遣することも、イメージ戦略としては有効ではないかと思います。

岡崎:いずれも情報開示がキーワードになるかと思いますが、企業は「仕事はきつい」といったネガティブ情報について、見劣りするからとあまり伝えたがりません。でも、結局は情報を開示したほうが企業も得になるのだと、経営者を説得するにはどうすればいいでしょうか。

服部:情報を開示するとエントリーは減るが、質は高まると言われます。質とはエントリーの段階で、その会社で働く上で何が期待できて、何が期待できないかを確認できているという上での質なのですね。だからこそ、期待というところにフォーカスして、コミュニケーションを積極的に取ることは重要だと思います。

岡崎:次に、これから管理職などで女性比率を高めたい企業においては、今の数字を出すことはためらいもあるかと思います。坂本さんはどのようにアドバイスされていますか。

坂本:確かにそのような声は多いですね。その点は、学生側に情報を解釈する力、リテラシーを付けることも重要です。仮に現状がそれほど立派なものでなくても、情報開示をしっかり行っていること自体、その企業の積極的な姿勢を示すものとして評価すべきです。また、企業の側も「今の取り組みの成果は将来に出ます」ときちんと説明を行えばよいのです。

岡崎:よく日本の企業は採用基準を明確にしていないと言われますね。それに対し、企業側はきちんとホームページにも書いているし、明確ですよと答える。服部先生、このすれ違いはどうして起きるのでしょうか。

服部:企業はしっかり定義されていると思います。ただ、問題はその定義が各社揃ってきている点と、採用プロセスにおいて不明瞭になる点です。これは学生側がよく対策を行って、差がつかなくなっている影響もあります。それによって、企業の思惑が採用段階でスライドしていくことが不明瞭となる背景にあると思います。

パネルセッションの様子岡崎:私が企業と接していて感じるのは、企業で活躍している先輩について聞くと、本当に各社各様です。しかし、募集に際しての求める要件をお聞きすると、どの企業も同じような項目にチェックが付いてしまう。しかも、各社とも基礎能力が高く、適応性が極めて高い人、例えるならば万能細胞のような人材を各社が求めてしまう傾向があるのです。今後、企業は採用してからの配属や育成も含めて、求めるマスト要件を見直す必要があるのではないかと思います。皆さま、本日はどうもありがとうございました。

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