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特別講演[D-1]

いま変わらないと手遅れになる!営業組織の人材育成と組織開発

田鍋 安弘氏
有限会社パフォーマンス・レバレッジ 代表取締役
田鍋 安弘氏(たなべ・やすひろ)
プロフィール:(株)野村総合研究所、エスプール総合研究所(現:(株)ワークハピネス)の研究開発責任者を経て、(有)パフォーマンス・レバレッジを設立。成果や組織課題の解決に直結する研修&コンサルティングを提供。人事研修担当者向けの情報交換&勉強会を2006年に立上げ、これまでに延べ1000名以上の担当者が参加している。

即効性のある特効薬や、多くの組織に効く万能薬はない

講演を始める前に、皆さまに意識してほしいことが二つあります。まず一つ目は、「とりあえずビール研修はやめる」ということです。営業で何かを変えていこうとすると、居酒屋でまずビールを注文するような感じで、あまり考えることもなく、ソリューション営業、プレゼンテーション、コミュニケーション、営業戦略といった研修を実施しようとします。本当にそれで、営業は変わるのでしょうか?「診断する前に処方するな」という言葉がありますが、こういった「とりあえずビール研修」の実施には疑いを持ってください。二つ目は、「No Magic Wand (魔法の杖はない)」です。即効性のある特効薬や多くの組織に効く万能薬はありません。場合によっては、副作用を伴うこともあります。他社・他国での失敗事例や成功事例を参考にするのは構いませんが、それと同じことをやっても、成果につながるわけではありません。自社の課題に向き合って、当たり前のことをどこまで当たり前にやれるか、どこまで深くやれるかということが重要です。

なぜ、営業は変われないのか?

なぜ、営業は変わることができないのでしょうか? なぜ、昔ながらの営業の延長上でしか仕事ができない営業組織が多いのでしょうか? 一般論としては、「本当の問題に気づいていない(認識の問題)」「自ら対応したくない(意欲の問題)」「どうしたらいいか分からない(能力の問題)」という三つの要因が挙げられます。

また、営業組織や営業パーソンには、特有の変わることができない三つの要因があります。一つ目は「営業パーソン特有の思考行動習慣」の問題です。営業という役割は常に成果が問われますが、オフィスにじっとしていても成果は出ません。まずは、行動する必要があります。そのため、営業を長く続けていると「深く考える前にまず動く」「答えをすぐ一つに絞ろうとする」「とりあえず目の前の課題からとりかかる」という傾向が強くなってきます。複数の選択肢があり、考え続けているようでは行動に集中できないためです。また、自分で成果をあげてきた自負から、「自らの成功経験を重視する」「自分にメリットがないことに対して見向きもしない」「他者や他部門からの介入を極端に嫌う」といった傾向も他部門以上に強くなってきます。

田鍋氏/講演 photo二つ目は、「営業組織特有の組織特性」による要因です。剣道の団体戦のように、一人ひとりが個別に戦って、トータルでどれくらい勝ったかという、単純な足し算の組織のマネジメントから脱却できていません。「チームや組織としての動き方そのものを誤解している」ケースが非常に多いのです。また「一度やってうまくいかなかったら、改善するのではなく、すぐに施策自体をやめてしまう」という傾向もあります。0か1かという発想が強いため、施策が長続きしません。また、「Plan‐Do‐Seeが、組織として回っていない」というケースも多く見かけます。「計画」という言葉の指しているイメージがそもそも違うのです。計画といいながら、その中身は、数値目標とスローガンのみ。具体的な行動計画がないため意味のある振返りが行えず、Plan‐Do‐Seeが組織として回っていない。そのため、自ら継続的に改善していくことができず、思いつきや行き当たりばったりの施策を繰り返しています。

三つ目は、「営業部門だけでは解決できない営業の課題があることに気づけていない」ことです。営業の動きは、実は見えないところで、開発や生産による影響を大きく受けています。営業の課題のように見えても、詳しく調べてみると、他部門や、他部門と営業との連携上の問題だったということがあります。全体プロセスの一部として営業プロセスがあるため、営業だけでは変えることができない課題も存在しています。

上記のような営業組織や営業パーソンが持つ傾向は非常にやっかいで、一朝一夕に変わるものではありません。したがって、こういう傾向があることを前提に、私たちは変革のためのソリューションを組んでいく必要があります。

どう営業を変えていくことができるのか?

それでは、こうした営業の現状をどのように変えていけばいいのでしょうか? 営業を変革していこうとする際に誰もが考えるのは、「訪問回数を増やす」「営業ツールを作る」「研修を行う」「システムを導入する」「制度を変える」などです。しかし、失敗するケースが後を絶ちません。冒頭でお伝えしたように、他社・他国の成功事例や流行の研修を、そのまま自社に活用しようするケースが多いからです。しかし、他社でうまくいったからといって、自社でうまくいくとは限りません。最初にやらなければいけないことは、こういった処方ではなく、きちんと診断することです。

それでは、何を診断すればいいのでしょうか? 変革していく上で重要になるのは「成果につながる行動をどう促進していくか?(実践性)」ということです。「何をもって成果とするか?」という、そもそもの成果のイメージが組織内でバラバラだったり、現状の成果の中身がきちんと分析されていなかったり、「成果を出している営業パーソンが具体的に何をやっているか?」という、成果につながる行動の分析が組織としてなされていなかったりします。まずは、これらを詳しく調べていく必要があります。

これらが明確になってきたら、次は、その「成果につながる行動」を「どう組織全体に広げていくか?(浸透性)」ということや、「成果につながる行動をどう組織に定着させていくか?(定着性)」を考えていきます。また、一度考えたものでも、時代の変化とともに過去の成功体験になってしまうため、常に見直され、改善していく仕組みを取り入れていくことを、あわせて考えていくことも必要です(改善性)。

担当者の皆さまが考える必要があるのは「どんな研修がいいのか?」ではなく、自社の中での「成果につながる行動」を具体的に特定し、その行動を組織全体に浸透・定着させていくためには何をすべきか?を考えることです。研修や仕組みやシステムや制度は、そのための手段にしか過ぎず、変革時は、それらのすべてを連動させていく必要があります。

営業の何を、変えていけばいいのか?

では次に、営業の何を変えていけばいいのでしょうか? 大きく二つあります。一つ目は「走るべきルールを変える(構造を変える)」ことです。営業プロセスや企業全体のビジネスプロセス、状況によってはビジネスモデルを変える必要もあります。走るべきレールそのものが、的外れや不効率だった場合、営業パーソンがどんなに頑張っても成果につながりにくくなります。二つ目は「レールの走り方を変える(効率を変える)」ことです。個々の営業パーソンとしての動き方を変える部分です。弊社では、現状分析の結果を共有した後に、今回はどのレベルでの変革を望まれているのか?を確認させていただくことが多いです。理想論を言えば、当然、根本的に変えた方がいいのですが、営業では求められている短期的な成果を重視することも同じくらい重要なため、その両者のバランスを見極めながら変革を進めていく必要があります。

実際に、今、各企業様が営業に関してどのような変革課題を考えているかというと、大きくわけて三つあります。一つ目は、「営業リーダーに対する課題解決・部下育成の支援」「営業ノウハウの体系化による中堅営業社員の底上げ」「入社3年目までの体系的な育成」「支店・営業所間の営業格差の平準化」といった主に変革する層に焦点をあてた変革課題です。二つ目は、「行動改善のための営業データ分析の仕組み化」「営業プロセス・営業手法の見える化による共有化」「他者事例の活用を促進する仕組みの構築」といった主に仕組みや制度に焦点をあてた変革課題です。そして、三つ目は、「営業戦略の策定方法の標準化」「社員の行動変化を促進する人事処遇制度の再構築」「営業部門と他部門との部門間連携の改善」といった営業組織や企業全体に関連する変革課題です。

田鍋氏/講演 photo例えば、「支店・営業所間の営業格差の平準化」はよくある変革課題の一つですが、そもそもなぜ、支店営業所間で大きな差が生まれているかが正確に分析されていないケースは多いので、そこから始める必要があります。実際に分析しようとすると、分析のためのデータが散在していたり、最終結果の数値だけで活動を分析するためのデータがなかったり、どう分析したらいいのかの枠組みがなかったりと、分析フェーズだけでも多くの問題がでてきて、かなりの時間が必要になります。弊社では、クライアントの営業企画部門や経営企画部門とタッグを組み、数ヵ月かけて、分析のための枠組みと分析に必要なデータを事前に準備します。その後、各支店長や営業所長を集め、ワークショップの中で、自分で自分の組織の分析を行ってもらい、個々の取り組むべき課題とアクションを具体化させます。さらに、数週間や数ヵ月後に再度、ワークショップを開き、その取組みの進捗と成果を共有し、また次のワークショップに向けて、他者のアドバイスも受けながら、次の期間に取り組むべき課題と行動を具体的にしていきます。中にはこのような取組みを、数年以上、一緒に継続して行っている企業様もあります。

どのような営業変革を行う際も重要になる共通の五つのポイントを、ここで挙げておきます。まず一つ目は、繰り返しになりますが、「処方から入らない。処方する前に診断する」ということ。二つ目は、「期待成果を具体的に設定する」ということ。最終的には売上利益を上げることが目的なのですが、その中でも、特に「どの数字を、研修や人材育成や組織的な取組みによって上げたいのか?」をできるだけ明確にしておいてください。明確になっている分だけ、変革の成功確率が上がります。三つ目は、「一般論ではなく、目の前の課題や事例を題材にする」ということ。営業パーソンは、自分の興味やメリットがなければ、本気でやろうとしませんし、彼らが日々直面している課題に直接関係しない話には耳を貸しません。変革を進めるかなり初期の段階で、自らで自らの課題に気づかせる機会を作ってあげることが必要です。

四つ目は、「営業トップと握るか、全部門の管理職を巻き込む」ということ。変革を進めていく上で何らかの問題がでてきた際、営業トップの後押しがないと変革が頓挫してしまうことは多いものです。営業トップが乗り気ではないときはまず、全社が抱える問題の一つとして、営業の課題を全部門の管理職を巻き込んで検討し、課題を顕在化させた後に、営業部門で具体的に検討してもらうのも一つの手です。五つ目は、「組織としての動き方&仕組みも、あわせて変える」ということ。研修でいくら新しいやり方を営業パーソンに教えても、組織としての動き方が従来からのままだと、結果的に何も変わりません。組織全体の動き方が変わるように、業務の流れや仕組みもあわせて変えていく必要があります。

本講演はこれで終了ですが、ここで学ばれたことを、次のステップへと結び付けていただければ幸いです。ありがとうございました。

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