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基調講演[D]

「先行き不透明な成熟社会で、
人事部が行なうべきリーダー育成とは」

藤原 和博氏 photo
東京学芸大学客員教授/元大阪府知事特別顧問/杉並区立和田中学校・前校長/
元リクルート社フェロー
藤原 和博氏(ふじはら・かずひろ)
プロフィール:1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年、橋下大阪府知事の特別顧問に。著書は「人生の教科書[よのなかのルール]」「人生の教科書 [人間関係]」(ちくま文庫)など人生の教科書シリーズのほか、「リクルートという奇跡」「つなげる力」(文春文庫)など多数。近著には、「35歳の教科書」「35歳の幸福論」(幻冬舎)、「はじめて哲学する本」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
よのなかnet

「情報処理力のパターン認識」から自由になれるか

今日は、現在のビジネスマンに一番足りない力、そして教育の世界でもほとんど教えられていない力についてお話します。最初に結論から言ってしまうと、それは「情報編集力」です。やさしく言うと「つなげる力」です。これは、すぐに正解を出せるような「情報処理力」とはまったく違います。例えば、人を採用するときには、どこを見るべきだと思いますか。それが情報編集力です。その人がどれくらい伸びそうかを見るのです。そこに人材の伸びしろがあります。

藤原 和博氏/講演 photo今日は、いくつかのワークショップにより、私が和田中学校で行っていた[よのなか]科を模擬体験していただきます。最初に行うのは、付加価値を考える授業です。今日はゴムに付加価値をつける思考実験です。ではまず、皆さんが使われている製品で、ゴムを使っているものを、「せーの」と言ったら一斉に叫んでください。例えば、輪ゴムとか……。はい、これでこの言葉は言えなくなりましたね(笑)。輪ゴムを言おうと思っていた人、手を挙げて。実はこの人たちは考えていません。反射で答えています。この人たちは頭の回転が速い人ですよ。パターン認識と言いますが、脳のCPUを動かすことなく答えています。頭を使っていないのです。実はこれは子どもがDSやPSPでゲームをしているときと同じ。ゲームでは1秒間に8回もボタンを押したりしていますが、あれは反射であって頭では考えていないのです。

輪ゴムがダメだと言ったときから、それを言おうと思っていた人は、頭の中で関連情報を集め始めていますね。過去の知識、技術、経験のかけらが集まってきて、それがつながってきているわけです。そして、どの答えを残すかという作業を行っています。これが「情報編集力」の脳です。今日は情報処理力のパターン認識を外して考えてほしいと思います。では、あと四つほど消してしまいましょうか。靴の裏のゴム、ダメね。パンツのゴム、髪留めのゴム、ペンの滑り止めグリップのゴムもダメ。さあ、困った人もいるのではないですか。では皆で一斉に、ゴムを使った製品を叫んでみましょう。せーの!

<参加者から回答>

藤原 和博氏/講演 photoタイヤが多かったかな。では今度はタイヤに付加価値を付けてもらいましょう。今までになかったタイヤを生み出してください。コストや技術、開発期間などは気にしなくていいですよ。

今の質問については、「情報処理力」と「情報編集力」それぞれの方法で問いかけてみますね。そのときの自分の反応を体感してください。まず、「情報処理力」の問いかけをします。タイヤに付加価値を付けてください。はいっ、わかる人!……いないの?どう、このしらっとした感じ(笑)。なぜ皆さんから反応がないのでしょうか。学校の教室でもこれと同じ反応が起きていますね。実はこの問いかけをして手が挙がらないのは日本だけです。海外ではこんなことはありません。なぜかというと、「わかる人はいるか」と聞かれると、日本人は正解主義に流されて、明らかに正解と思うものがなければ答えないのです。

海外では手を挙げることの捉え方がまったく違っていて、意見なんて中間報告ですから、まず発言してしまうのです。最初はすごくバカな案が出たりします。食べられるタイヤとかね。でも自分で意見を言っていると、人の意見も聞けるようになるのです。そして、自分の意見も進化させていく。そして授業の最後にレポートを出させると、もっと進化しそうなことを書いてきます。これが日本人だと必死に正解を探して、点数稼ぎのために手を挙げたりして、レポートも全然おもしろくない。どちらが育てるべき人材ですか。はっきりしていますね。正解が浮かぶまで考えるようではダメなのです。まず言ってみる、そして人の意見を聞いて修正していく。そんな人材が求められているのではないですか。

探すのは「正解」でなく、他者も納得する「納得解」

では、もう一方の「情報編集力」の手法でいきましょう。これからタイヤの付加価値について、ブレインストーミングをやります。しかし、多くの企業で行われているのは、正解主義のブレストではないですか。これは最悪のケースです。例えば、マーケティング部長が、「お年寄りは1400兆円ものお金を持っている。これを利用してうちの商品ラインナップを増やしたい」と言い出して、会議を開こうと会議室を用意します。もうここから間違っていますね。会議室に入ったとたん、正解主義モードに入っていきます。会議室はそんなムードを持っているのです。部屋に入ると、すぐに部長が「例えばこういう案が考えられるな」とまともな例を最初に言ってしまったりもします。するともう、この会議は終わりですね(笑)

私が以前いたリクルートという会社では、会議室から生まれた新規事業は一つもありません。はじめは顧客が考え、営業が顧客から意見を吸い上げていったのです。そこから事業を小さく始めて、声を聞きながら、どんどん修正していく。100回会議を重ねて、ありもしない正解を追い求めるよりも、まず始めてしまってから100回修正した方がいいものができるに決まっていますよね。ですから、ここでは正解主義モードを崩していこうと思います。では3人でチームをつくってください。ルールは「バカな案しか言ってはいけない」です。まともなことを言ったら負けですよ。もう一つ、相手の意見をつぶしてはダメ。全部ほめましょう。では、スタートしてください。

<参加者によるブレスト>

藤原 和博氏/講演 photoどうですか、やってみると5秒前に考えてもいなかったアイデアが出てきたのではないですか。これが思考する、発想するということです。20分ほど考えたから、思考できたわけではないのです。今3人で意見を出し合っていましたね。ここで何が起きたのかというと脳がつながったのです。これをネットワーク脳といいます。皆さんにとっては、この状況を社内でプロデュースできるかどうかが勝負ですよ。今は社会が複雑ですから、一人で解決できることなんてありません。だから、つながる力が大事なのです。

今、皆さんの頭の中にあるのは「正解」ではなく、自分が納得し、他者が納得できる解ではないですか。それが「納得解」です。今の世の中に正解はありません。皆が一つのパターンでは動いていませんから。ビジネスでも、顧客が納得できる手でないと打てませんよね。しかし、今のビジネスマンには納得解を出す技術が足りません。ちなみに、常識を疑う、前例を疑う「クリティカルシンキング」は、情報処理力と情報編集力の二つの力の間にあるものだと思っておいてください。

インパクトのある自己紹介で、情報編集力が高まる

では、ここからは皆さんの職場でもすぐにできる、情報編集力を高める練習をしましょう。簡単に言うと自己紹介です。二人で組んで、いかに自分のキャッチフレーズで相手の意識をつかめるかという練習です。どうやって名刺を出さずに、自分のキャラを編集して相手にプレゼンするか。自分プレゼン術ですね。

プレゼンとエクスプラネーション(説明)はまったく違います。自分の頭の中にあるものを説明するのは、あくまでも説明であってプレゼンではありません。プレゼンとは、相手の脳の中にこちらが好ましい像を結ぶ行為をいいます。だから、相手の頭の中にあるさまざまな回路、好ましいものや知っているもの、世界観などを徹底的にインタビューしなければ、プレゼンは成立しないのです。だから相手へのヒアリングが重要なのです。

自分プレゼンでは、印象に残るものなら、有名人に似ていれば顔も使えますし、特徴があれば名前も使えます。だいたい最初の15秒で勝負をつけないといけないですよ。では、始めてください。

<参加者同士の自己紹介>

どうでしたか。これは練習するとうまくなります。日本人は練習が足りな過ぎます。どうすれば相手が笑ってくれるか。そして、情報処理されずに記憶に残してもらうか。これまでで私が一番印象深い自己紹介は、「今、離婚調停中の●●です」と紹介した女性です。ものすごいインパクトですね(笑)。なぜ名刺を出すとダメなのかというと、出した瞬間に相手の頭の中で処理されてしまうからです。処理されると記憶に残らない。だから相手に情報編集させることが必要なのです。

「共通点を探し出す力」が人をつないでいく

次は先ほどのお相手と、質問役と回答者役になりましょう。そして、質問する人は相手との共通点をたくさん探してください。できれば、その共通点の中身も、ちょっと感動があるくらいの内容を探してほしいですね。それでは、お願いします。

<参加者同士の質問>

どうでしたか。今皆さんにやっていただいた、相手との共通点を見つける行為、これこそがコミュニケーションの本質です。コミュニケーションの語源は、ラテン語のコミュナスです。この意味は何だと思われますか。実は「伝達」といった意味ではないのです。「共有する」とか「共通点を見つける」といった意味です。

藤原 和博氏/講演 photo最近、皆さんの会社に入ってくる新入社員は皆、ケータイのメールはやり放題なくらいにやっているでしょう。そのケータイメールの中身について聞くと、彼らはコミュニケーションと言いますね。でも、その中身は全然違います。ほとんどは、自分がどうなのかといった独り言の応酬ですよ。これでは相手と絆が深まるはずがないですね。自分が相手と結びついたなと思えるのは、そこに共通点が見つかったときです。その小さな感動をどれくらい相手と共有できたかです。だから、皆さんの会社でも、新人には、情報編集力の練習をすぐにやらせるべきです。これからは人事の皆さんが、社員の「つなげる力」を高めていってほしいと思っています。

(文責:『日本の人事部』編集部)

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